「居酒屋で頭の良い友達に何か難しい事を説明してもらって解るようになる、そんな授業を目指しています」ピーターは語りかける。ここでは、58万ビューを超える Peter Norvig のTED講演を訳し、10万人が相互交流できる教室の作り方を学ぶ。
要約
2011年の秋、ピーター・ノーヴィグはセバスチャン・スランと共にスタンフォード大学で人工知能の授業を教えました。175人の学生が通常の教室で講義を受けた他、 10万人以上がインタラクティブなウェブキャストで受講しました。全世界に広がる教室で教えた体験から彼が学んだ事を語ります。
Peter Norvig is a leading American computer scientist, expert on artificial intelligence and the Director of Research at Google Inc.
1 人は皆 学び手でもあれば教え手でもある
人は皆 学び手でもあれば 教え手でもあります。これは私が教わっているところ 私の最初の先生は 母でした。これは私の 人工知能の授業で スタンフォード大学で 200人の 学生に教えているところです。楽しい 授業でしたが 進歩的でモダンな 授業内容に対し 教室で使う 技術は 古いことに気付きました。実際 私が使うのは 基本的に この14世紀の教室で 使われていた技術と同じです。ご覧のように 教科書があり 教壇に賢者がいて 後ろの方で 居眠り している学生がいます。何も変わっていません(笑)
2 無料のオンライン授業に209カ国から16万人の学生が集まった
一緒に授業を教えている セバスチャン・スランと私は もっと良い方法があるはずだと考えたのです。ひとつの挑戦として スタンフォード大と同じか それ以上の質の講義を 世界中の誰もが無料で 受講できるような オンライン授業をやることにしました。7月29日に授業の告知をしたところ 2週間後には5万人もの人が 授業に登録しました。最終的には209カ国から 16万人の学生が集まりました。こんなにも大きな反響に ワクワクする一方で まだ授業の準備が整っていなかったことに ちょっと焦りました (笑)
3 録画の仕方を工夫して個別指導のようにした
早速 仕事にとりかかりました。他のプログラムを研究し どこを真似し どこを改善できるか考えました。ベンジャミン・ブルームは 一対一の個別指導が 最も効果的だと証明しています。その考えを取り入れることにしました。私と母がしたようなものですね もちろんこの場合 一対何千となりますが これはビデオカメラで上から撮して 話しながら紙に書くのを 録画しているところです。「この授業は居酒屋で頭の良い友達に 何か難しい事を説明してもらって 解るようになるのに似ている」 とある学生が 言っていましたが それはまさに私たちの目指していたことでした。
4 典型的なビデオは2分で、途中に小テストをはさんだ
カーン・アカデミーの例から 短い10分のビデオの方が 1時間の講義の録画を 小さな画面で見せるより 効果的であることを学びました。我々は さらに短く、よりインタラクティブな ものにしようと決めました。典型的なビデオは2分で さらに短いものもあり 6分以上のビデオはありません。ビデオの途中に小テストがあり 一対一で教わっている雰囲気を与えます。ここではコンピューターが どうやって 英語の文法を使い 文の解析をするのか説明しているところです。ここで一時停止し 学んだことを振り返り 理解して 正しい箱をチェックしたら 次へ進みます。
5 世界を違った目で見られるようになってほしい
自分で問題を解くのが 学習の一番の方法です。積極的に参加して曖昧な点をはっきりさせ 自分で要点を再構成できるように させるのが狙いです 「この式で X が2のとき Y の値は何でしょう」 みたいな 質問はせず むしろ自由回答式の質問をしました。
「至る所にベイジアンネットワーク(因果関係を確率により記述する確率推論モデル)やゲーム理論(「相互作用を及ぼしあう複数または単独の主体の振る舞い」に関して研究する応用数学の一分野)があることに 気付くようになりました」と 感想を書いた学生がいました。そういう反応は とてもよいと思います。私たちの望んでいたものです。単に公式を暗記するのではなく 世界を違った目で見られるように なってほしいのです。我々は成功しました というより 学生たちが成功したわけです。
6 いつでも見られると結局見ずに終わることになりがち
すこし皮肉なのですが 従来の教育と全く違う物を目指したはずが 結果的に我々の オンライン授業は 他のプログラムに比べ はるかに 従来の大学の授業に似たものになりました。通常のオンラインコースはいつでも見られます。つまり好きなときに見ればよいわけです。でも いつでも見られるということは 明日でも良いということで 明日でも良いということになると 結局見ずに終わることに なりがちです(笑)
7 「締め切り」というアイデアを復活させた
そこで 我々は「締め切り」という革新的な アイデアを復活させることにしました(笑)。ビデオは一週間の間 いつ見ても構いません。しかしその週の終わりには 宿題を提出しなければなりません。これは学生のやる気を持続させます。またクラスの皆が同時に 同じものに取り組んでいるので ディスカッション フォーラムに参加すれば 仲間から即座に助けてもらえます。幾つかのフォーラムをお見せしましょう。ほとんどは 学生たちが運営していたものです。
8 仲間は時に一番良い先生となる
ダフニー・コラーやアンドリュー・ンからは 「授業の反転」というアイデアを学びました。学生は各自ビデオを見た後 集ってその内容を 話し合うのです。エリック・マズーアからは 学生同士の教え合いについて学びました。仲間は時に一番良い先生となるものです。解らないということを 身をもって理解しているからです。セバスチャンや私は時々そういうことを忘れています。もちろん講義中に何万人という学生と ディスカッションを行う ことはできません。ですから この様なネット上のフォーラムを奨励し 見守ってきました。
9 情報だけでなく、それ以上に動機や決意も大切
最後に ティーチ・フォー・アメリカから学んだのが 授業に大切なのは 情報だけでなく 動機や決意も それ以上に大切だということです。私たちが一生懸命だと 学生に知ってもらうこと 彼らが互いに助け合うことが肝心です。授業は10週間に渡り 16万人の学生の半分は 少なくとも 毎週一本ビデオを見ていました。2万人以上が50から100時間費やして 宿題を全て提出し 修了証書が授与されました。
10 どんどん新しい授業が出てくる面白い時代
この経験から私達が得たものは何でしょう? 古いアイデアや新しいアイデアを いろいろ試しましたが まだ他にも試すことがあります。セバスチャンは今 新しい授業を教えていて 私も秋にまたやろうと思っています。スタンフォード Coursera Udacity MITx その他からも 新しい授業が出てくるでしょう。面白い時代です。
11 集まってくるデータの活用が一番面白い
でも私にとって一番面白いのは 集ってくるデータです。1人の学生が1つの授業を通して 何百何千という情報の交換をします。学生全体では何億にもなります。それを分析することによって 何かを学び取り 実験していく中で 本当の変化が現れるでしょう。その結果は そこから育つ素晴らしい 学生達に 見ることができるはずです (拍手)
最後に
209カ国から16万人の学生が集まった。録画の仕方の工夫で個別指導のようにしたり、締め切りを復活させたり、学生同士で教え合える仕組みを作った。人は皆、学び手であり教え手。
TED公式和訳をしてくださった Akiko Hicks 氏、レビューしてくださった Yasushi Aoki 氏に感謝する(2012年6月)。
![]() |