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インターネットの内部 アクセス回線とプロバイダ5項

前回は、ハブやスイッチ、ルーターなどのネットワーク機器の働きについてまとめた。ここでは、インターネットの内部であるアクセス回線とプロバイダについて説明する。

1 ADSL技術を用いたアクセス回線の構造と動作

インターネットの基本は家庭や社内のLANと同じ

インターネットの全体像は以下の通り。インターネットの内部には数万台以上のルーターがある。それが宛先IPアドレスを基にして中継先を判断し、パケットを中継する。多数のルーターが順に中継することでパケットは目的地に届く。

反面、家庭や社内のLANと違う面も2つある。1つは中継装置間の距離で、数キロ以上になる。もう1つは、ルーターにおけるパケットの中継先の統制で、経路情報を登録する方法が異なる。

 

ユーザーとインターネットを結ぶアクセス回線

アクセス回線とは、インターネットと家庭の会社のLANを結ぶ通信回線のこと。一般的に一般家庭だと、ADSL、FTTH、CATV、電話回線、ISDNなどを用いる。会社だとこれに専用線などが加わる。ここではADSLを取り上げる。

 

ADSLモデムでパケットをセルに分割

ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)とは、電柱に敷設された電話用の金属製ケーブルを用いて高速通信する技術の一種で、ユーザーからインターネットに向かう上り方向と、インターネットからユーザーに向かう下り方向で通信速度が異なるものをさす。

インターネット接続用ルーターは、MACヘッダー、PPPoEヘッダー、PPPヘッダーの3つをつけて、ADSLモデムにパケットを送付する(PPPoEの場合)。PPP(Point-to-Point Protocol)とは、電話回線やISDNなどの通信回線を使って通信するときに使うしくみで、本人確認、設定値通知、データ圧縮、暗号化などいろいろな機能を組み合わせて使うことができる。

パケットがADSLモデムに届くと、ADSLモデムはパケットをセルに分割し、電気信号に変えてスプリッタに送信する。セルとは、先頭部分にヘッダー(5バイト)を持ち、その後ろにデータ(48バイト)が続く小さなデジタル・データの塊で、ATMという通信技術で使うもの。ATM(Asynchronous Transfer Mode)とは、電話回線の考え方に基づいた従来型の電話技術の延長上にある通信方式。

 

ADSLは「変調方式」でセルを信号化

変調技術とは、なだらかな波形(正弦波)を合成した信号に0と1のビット値を対応づける技術のこと。雑音を統制するために使われる。ADSLでは、振幅変調(ASK)という方式と、位相変調(PSK)という方式を組み合わせた直交振幅変調(QAM)という方式を使う。

振幅変調(ASK:Amplitude Shift Keying)とは、信号の強さである信号の振幅の大小に0と1を対応づける方法である。位相変調(PSK:Phase Shift Keying)とは、信号の位相(角度)に0と1とを対応させる方法である。直交振幅変調(QAM:Quadrature Amplitude Modulation)とは、ASKとPSKを組み合わせたもので、1つの波に対応づけるビット数を増やして速度を上げたものである。

 

ADSLは波を多数使い高速化を実現

信号を単一周波数の波に限定する必要はない。周波数の異なる波を混ぜ合わせれば波は合成できるし、特定の周波数の波だけ通すフィルタ回路を使えば、周波数ごとに波を分離することもできる。ADSLはこの性質を使って、多数の波にビット値を対応づけて高速化を図っている。具体的には、4.3125kHzずつ周波数をずらした波を数百個使い、それぞれの波に直交振幅変調によってビット値を対応づけている。

 

スプリッタの役割

スプリッタは、電話回線から信号が流れ込んだとき、電話とADSLの信号を分ける役割を果たす。入ってきた信号を分離して、電話機側にADSLの信号が流れていかないようにしている。電話機側に流れる高い周波数の信号をカットすることで、電話機とADSL側双方へ与える影響を防いでいる。

 

電話局までの道のり

スプリッタの先には、電話ケーブルを差し込むモジュラ・コネクタがある。その後、電話の屋内配線を通り抜けると、IDF(Intermediate Distribution Frame:中間配線盤)やMDF(Main Distribution Frame:主配線盤)というものがある(ビルなどの場合)。次に保安器がある。保安器とは、落雷があったときなど、外の電話線から過大な電流が流れ込まないように保護するためのもので、内部にはヒューズなどが入っている。

さらに、信号は電柱の電話ケーブルに入っていく。このケーブルはユーザーの近くでは電柱に敷設されているが、途中で電柱の脇にくくりつけられた金属のパイプの中に入り、そこから地下に入っていく(き線点)。そして、ある程度電話局に近づいたところで地下にケーブルを埋設する。このケーブルを集めて埋設する地下道をとう道という。とう道を通って電話局に入っていったケーブルは、電話局のMDFに1本1本つなぎ込まれる。

 

雑音の影響

この電話ケーブルの中を信号が通るとき、様々な雑音の影響を受ける。例えば、電車の線路脇などでは速度が低下する可能性がある。

 

DSLAMを通過してBASに届く

電話ケーブルを通って電話局にたどり着いた信号は、配線盤、スプリッタを通過してDSLAMに届く。DSLAM(DSL Access Multiplexer)とは、電話局用のADSL集合モデムで、多数のADSLモデムを1つの筐体(機器類を入れる箱)に収めた機器のこと。DSLAMはATMインタフェースを持ち、パケットを分割したセルの形のまま後方のルーターとやり取りする。

DSLAMを出たセルは、BAS(Broadband Access Server)と呼ぶパケット中継装置に届く。BASは、ATMセルをパケットに戻してインターネット内部に中継する。

 

2 光ファイバを用いたアクセス回線(FTTH)

光ファイバの基本

FTTH(Fiber To The Home)とは、光ファイバを用いたアクセス回線で、一般家庭まで光ファイバを引き込むことをさす。光ファイバは、二重構造の繊維状の透明な材質(ガラスやプラスチック)でできており、内側にあるコア部分の中に光の信号を流してデジタル・データを伝える。灯りが点いた明るい状態がデジタル・データの1を表し、暗い状態が0を表す。

光の信号は2段階を経て作られる。デジタル・データを電気信号に変換してから、その電気信号を光の信号に変換する。光通信の原理は、光の明暗で情報を伝えるものである。1)デジタル・データを電圧や電流に直し、それをLEDやレーザ・ダイオードで作られた光源に入力する。2)電圧や電流の強さに応じて光源が発光し、光の明暗になる(データ送信)。3)光に感応するフォト・ダイオードで光を受けると、光の明暗に応じて電圧や電流を生じる。4)それをデジタル信号に直す(データ受信)。

 

シングルモードとマルチモードの違い

光ファイバは、コア(中心部分)とクラッド(コアの周辺部分)からできている。光源から出た光はまんべんなく散らばるため、コア部分にはいろいろな角度の光が入っていく。しかし、入る角度(入射角)が大きいものは、コアとクラッドの境界面で屈折して外に出てしまう。入射角の小さい光だけが境界面で全反射して、コアの中を進んでいく。また、位相がずれた波は打ち消し合うことも特徴である。

こういった特徴を持つため、コアの直径によって光ファイバの性質は大きく異なる。コアの直径には数種類あるが、大別するとシングルモードと呼ぶ細いもの(8〜10μm程度)とマルチモードと呼ぶ太いもの(50μmまたは62.5μm)の2つに分類できる。シングルモードの特徴は、位相がそろう角度の中で一番小さい角度の光だけが全反射してコアの中を進むもので、マルチモードは反射角の大きい方が通過する距離が長くなるものである。

光ファイバの最大ケーブル長は、この性質によって決まる。つまり、シングルモードの方が信号の変形が少ないため、マルチモードよりもケーブル長を長くできる。そのため、マルチモード光ファイバは主に1つの建物の中を結ぶ用途に使い、シングルモード光ファイバは離れた場所にある建物の間を結ぶときに使う(FTTH)。

 

光ファイバを分岐させることで費用を低減

ADSLの代わりに、光ファイバを使ってユーザー側のインターネット接続用ルーターとインターネット側のBASを接続するのがFTTHアクセス回線である。その形態には大別して2つある。

1つは、1本の光ファイバでユーザー側と最寄りの電話局側を接続するタイプである。もう1つは、ユーザー近くの電柱に光スプリッタと呼ぶ分岐器を設置し、そこで光ファイバを分岐させて、複数のユーザーをつなぐタイプである。前者は、メディア・コンバータ(イーサネットの電気信号を光信号に変換するための装置)を使い、1本の光ファイバを使って波長の異なる複数の光信号を流す(波長多重)のが特徴である。後者は、ONU(Optical Network Unit)という装置をユーザー側に設置して、そこでイーサネットの信号を光信号に変換する。その信号がBASの手前にあるOLT(Optical Line Terminal)という装置に流れていく。両方とも光信号の流れ方が違うだけで、光ファイバの中を流れるパケットに変わりはない。

 

3 アクセス回線で用いるPPPとトンネリング

本人確認と設定情報通知

BASにおいてまず行われるのが、本人確認設定値通知である。ADSLやFTTHのアクセス回線は、最初にユーザー名とパスワードを入力してログイン動作を実行しないと、インターネットにアクセスできない。BASはそのログイン動作の窓口役になる。BASはこの役割を実現するためにPPPoEというしくみを使う。PPPoEは、普通お電話回線を用いたダイヤルアップ接続で用いるPPPというしくみを発展させたものである。

PPPを用いたダイアルアップ接続の動作とは以下の通りである。1)プロバイダのアクセス・ポイントに電話をかけ、電話がつながったらユーザー名とパスワードを入力してログイン操作を行う。2)このユーザー名とパスワードは、RADIUS(Remote Authentication Dial-In User Service)というプロトコルを使ってRAS(Remote Access Server)から本人確認用サーバー(認証サーバー)に転送され、正しいかどうか検査を受ける。3)パスワードが正しいと確認できたら、認証サーバーからIPアドレスなどの設定情報が返送されるので、それをユーザー側に転送する。4)ユーザーのパソコンはその情報に従ってIPアドレスなどを設定し、TCP/IPのパケットを送受信する準備が整ったことになる。

 

イーサネットでPPPメッセージをやり取りするPPPoE

PPPoEはPPPメッセージをイーサネットのパケットに入れてやり取りしている。PPPメッセージは、入れ物としてHDLC(High-level Data Link Control)というプロトコルの仕様を借用しているが、イーサネットとのギャップを埋める仕様をPPPoEと呼ぶ。

 

トンネリング機能によってプロバイダにパケットを届ける

BASには、トンネリングという考え方を使ってパケットを運ぶ機能もある。トンネリングとは、一方のトンネリングの出入口からヘッダーを含むパケット全体を入れると、それがヘッダーを含めてそのままの形でもう一方の出入口に届くというものである。ソケットとソケットの間をつなぐTCPコネクションの考え方と同じである。

トンネリングを実現する方式はいくつかあるが、ここでは2つ取り上げる。1つはTCPのコネクションを使って実現する方法である。もう1つは、カプセル化という方法を使ってトンネリングを実現する方法である。カプセル化とは、ヘッダーも含めたパケット全体を別のパケットの中に格納して、トンネルのもう一方の出入口まで運ぶものである。

 

アクセス回線全体の動き

1)インターネット接続用ルーターはPPPoEのDiscoveryというしくみに従って、BASのMACアドレスを探し出す。2)本人確認や設定値通知を実行する(CHAP、PAP)。3)BASから送られてきたTCP/IP設定値はインターネット接続用ルーターのBAS側ポートに設定される。これでインターネット接続用ルーターの準備は完了である。4)BASはインターネット接続用ルーターから送られてきたパケットを受け取り、MACヘッダーとPPPoEヘッダーを取り除いた後、トンネリングのしくみを使ってプロバイダのルーターに向けて送信する。

 

IPアドレスを割り当てないアンナンバード

アンナンバードとは、1対1の形態で接続されたポートにはIPアドレスを割り当てなくてもよいという特例である。グローバル・アドレスが不足してきたときに設けられた。

 

インターネット接続用ルーターでプライベート・アドレスからグローバル・アドレスに変換

インターネット接続用ルーターを使うと、BASが通知した設置情報をルーターが受け取ってしまい、グローバル・アドレスはルーターに割り当てられてしまう。その場合、パソコンにはプライベート・アドレスを割り当て、パソコンが送ったパケットはインターネット接続用ルーターでアドレス変換してからインターネットに中継される。

 

PPPoE以外の方式

PPPoA(Point-to-Point Protocol over ATM)は、MACヘッダーとPPPoEヘッダーをつけずに、パケットをそのままセルに格納する方式である。メリットは、MTUが短くなることがなく効率低下が起こらないこと。デメリットは、アドレス変換で問題が生じた場合に対策がとれないこと。

DHCPとは、PPPを使わずにイーサネットのパケットをそのままADSLの信号を変換して、DSLAMに送信する方式である。メリットは、MTUが短くならないことやADSLモデムとルーターを分離することができること(コスト削減)。デメリットは、ユーザー名によってプロバイダを切り替えることができないこと。

 

4 プロバイダの内部

POPとNOC

インターネットの実体は、1つの組織が運営管理する単一のネットワークではなく、多数のプロバイダのネットワークを相互に接続したものである。そして、アクセス回線を通過したパケットは、プロバイダのPOP(Point of Presence)に設置したルーターに到着する。POPの概要(ユーザー側、幹線側)は以下の通り。1)ユーザーから延びるアクセス回線を接続するルーター。接続する回線の数が多いので、多数のポートを備えたルーターを用いる。幹線側のルーターより処理能力は低くてもよい。2)幹線ネットワークへ接続するルーター。高い処理能力が必要。

NOC(Network Operation Center)とは、プロバイダの中核となる設備で、POPから入ってきたパケットがそこに集まってくる。そこから目的地の近くにあるPOP、あるいは他のプロバイダへとパケットが流れていく。POPの大規模なものがNOCといえる。

 

建物の外は通信回線などで接続

通信回線とは、電話やインターネットといった事業で提供するサービスのこと。光ファイバを持っていないプロバイダは、通信回線を使って離れた場所にあるNOCヤPOPを結ぶ。多数ある通信回線の中から状況に適したものを選択して借りるのである。

 

5 プロバイダをまたがって流れるパケット

プロバイダ同士の接続

インターネット内のルーターには、最終目的地が同一プロバイダか他プロバイダかにかかわらず、すべての経路が登録されている。そのため、経路表で次の中継先を探してそこにパケットを送るという動作を繰り返せば、そのうちWebサーバー側のPOPにたどり着くのである。

 

プロバイダ同士で経路情報を交換

イーサネット内部では、BGPというしくみを使ってプロバイダ間で経路情報を交換する。BGP(Border Gateway Protocol)における経路情報交換は、2つに大別される。接続相手に全経路を通知するトランジットと、自分に直接接続されているネットワークへの経路情報だけ相手に通知する非トランジットピア)である。

 

社内ネットワークの自動登録との違い

インターネットには通信回線の費用負担を公平にする(ただ乗りされない)ために、意図しない相手からのパケットを止めるようなしくみを持っている。また、1つの目的地に対して複数の経路がある場合に、優先度を設定できる。

 

IXの必要性

IX(Internet eXchange)とは、通信回線の数を抑えるために中心となる設備を設け、そこを経由して接続する方法である。IXに接続するだけで全インターネット接続事業者とパケットを交換できる。日本国内の例には、JPIX(JaPan Internet eXchange)、NSPIXP-2(Network Service Provider Internet eXchange Point-2)、JPNAP(JaPan Network Access Point)などがある。

 

IXでプロバイダ同士を接続する様子

IXの実体は高性能なスイッチングハブであり、その中心には高速なLANのインタフェースを多数装備したレイヤー2スイッチがある。レイヤー2スイッチとは、データセンターなど、トラフィックが集まるところに設けたIXの出先である。そこに設置したスイッチとIX本体のスイッチを通信回線などで接続することで、IX本体のスイッチに接続するのと同様に、プロバイダ間でパケットを交換できる。

 

最後に

インターネットの入口には、アクセス回線という通信回線がある。アクセス回線は契約しているプロバイダにつながっており、そこにPOPという設備がある。POPの実体はプロバイダ向けに作られたルーターである。その先がインターネットの中核である。そこには多数のプロバイダがあり、膨大な数のルーターが設置されている。そのルーターは巨大で高速なルーターであり、ルーターの間をつなぐ部分も様々な技術が使われている。技術開発の最先端がこの部分に凝縮されているといえる。

次回は、サーバー側のLANの仕組みについてまとめる。

ネットワークはなぜつながるのか 第2版 知っておきたいTCP/IP、LAN、光ファイバの基礎知識


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