前回は、マクロ経済の安定で構造改革は実現可能 インフレ目標と手段の独立性についてまとめた。ここでは、日銀に透明性と説明責任を導入せよ 外部機関の監視による日銀改革について解説する。
第6章までの要約
第6章までの内容を要約すると、以下の4つのことがいえる。
- 日銀を支配している人は「東京大学法学部卒」であり、現代の正統派経済学の金融政策の理論とは全く異なる「日銀理論」に基づく前例主義である
- 日銀にも正統派金融政策を学んだ人も少なくないが、結局は日銀理論に基づく金融政策を支持するために応用しがちである
- 日銀の目指す物価安定とはゼロ・インフレである
- 新日銀法は日銀に「目標設定の独立性」と「政策手段選択の独立性」の両方を与えたが、前者は認めるべきではない。したがって、日銀法の改正を含めた日銀改革が必要である
日銀の透明性と説明責任
日銀の透明性と説明責任の取り方として、①金融政策決定会合の議事要旨の公表と10年経過後の議事録の公表、②金融政策に関する報告書を、概ね6ヶ月に1回国会に提出して説明する、の2つをホームページに掲載している。しかし、これは妥当だろうか。
ニュージーランド中央銀行の説明責任の取り方
世界で最初にインフレ目標政策の導入に踏み切ったニュージーランド中央銀行の説明責任の取り方は、①総裁の個人的説明責任(罷免)、②政府と人々への定期的報告、③準備銀行理事会による評価(独立機関)、の3つの仕組みで確保している(1989年準備銀行法)。それ以前のニュージーランドでは、政府が総選挙の時期になると景気を良くしようとして金融緩和を指示していたため、大きく変動を繰り返す高インフレが続いていた。
準備銀行法によって、政府がインフレ目標を設定し、そのインフレ目標を達成する手段の選択は準備銀行が独立して決定することになった。また、当初は目標インフレ率を0-2%に設定していたが、1997年に0-3%とし、さらに2002年に1-3%にした。これは当時の日本がデフレに陥って長期的に経済停滞していたことを反面教師にしたからである。
イングランド銀行の説明責任の取り方
イングランド銀行の説明責任の取り方は、議事録の公開や議会での説明、四半期ごとのインフレーション報告書の発表、そして理事会による監視・評価である。総裁と副総裁の給与は理事会によって決定される。イギリスの目標インフレ率は2%である。
日銀の裁量性とは全く異なる
ニュージーランドやイギリスを始め、インフレ目標政策採用国の中央銀行は短期的にではなく、中期的(1年半程度)に目標インフレ率を達成することを義務付けられている。短期的には裁量性を認められているが、日銀の裁量性とは全く異なる。この意味で、日銀は永遠に責任を取る必要のない裁量性を持っている「権力者」といえる。
ガバナンスの存在しない日銀
日銀には外部から専門的に仕事を監視し、評価し、改善を求めたり責任を取ることを求めたりする統治機構が存在しない。第三者機関から監視・評価されることがなければ、金融政策の「透明性」も「説明責任」も確保することはできない。こうした独立機関を設置するとともに、日銀の金融研究所を分離独立させ、政策監視・評価委員会の下におくように組織再編する必要がある。
政府がインフレ目標を設定せよ
また、政府が日銀に2-3%程度のインフレ目標の達成を義務付けるべきである。そうすることで、日銀に逃れようのない達成目標を課すことができる。
日銀の正統派経済学軽視は消滅する
日銀にインフレ目標を設定することで、日銀の正統派経済学の軽視は消滅するだろう。なぜなら、経済・金融に弱い人では日銀に課せられたインフレ目標を達成することは難しいからである。また、経済・金融の調査を担当する調査統計局が企画局と同等の地位に上昇し、政策委員も高い識見を有するものから選ばれるようになるだろう。
日銀よ、改革を恐れることはない
こうした改革を行うことで、日銀の金融政策に対する人々の信頼も高まる。そうすれば、日銀の金融政策の成果も飛躍的に向上するだろう。インフレ目標採用国の目標達成度の高さは、「透明性」と「責任」の明確な金融政策の成功率の高さを表している。日銀よ、改革を恐れることはない。
最後に
日銀にもニュージーランド中央銀行やイングランド銀行のような説明責任の取り方を導入すべきである。そうすれば、日銀にもガバナンスが存在するようになり、金融政策の効果も飛躍的に高まるだろう。2014年1月現在、日銀副総裁である著者は説明責任についてはっきりと言及している。しかし、黒田東彦日銀総裁ははっきりしていない。早期に日銀法を改正し、外部機関の監視を取り入れよ。
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