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サラ=ジェイン・ブレイクモア 「青年期の脳の不思議」

「脳は幼いころに全て完成するのではなく、青年期そして20代30代と、発達し続けることが明らかになったのです」ブレイクモアは豊富な研究をもとに語る。ここでは、50万ビューに及ぶSarah-Jayne BlakemoreのTED講演を訳し、青年期の脳の不思議について学ぶ。

要約

大人に比べて、ティーンエージャーはなぜこうも衝動的で自覚が低いのだろう?認知神経科学者のサラ=ジェイン・ブレイクモアが、青年期と成人期における脳の前頭前皮質を比較することで、典型的ティーンエージャーの行動の原因は成長途上の脳にあることを明らかにします。

Sarah-Jayne Blakemore studies the social brain — the network of brain regions involved in understanding other people — and how it develops in adolescents.

 

1 脳は発達し続ける

15年前の人々の間では 脳は誕生後わずか数年で 発達するものだと考えられていました。そのころは 生きた人間の 脳の中身を見て 脳が発達していく経過を 観察するなんてことはできませんでした。でもここ数十年のこと MRIなどの 脳画像技術が進歩したため、脳科学者達は 幅広い年齢の脳を観て、歳をとると共に 人の脳の構造と働きが どう変化するのか研究し始めました。構造的MRIを使えば ものすごく高画質な 脳のスナップ写真を撮ることができ、灰白質は脳のどれくらいを占めるのか その比率は歳と共にどう変わるのか など 様々な謎を解明しだしました。そして機能的MRI いわゆるfMRIを使えば 実験参加者の脳のビデオを撮って 考えたり 感じたりしている脳を 観察することができるのです。

世界中で このような研究が行われている今、生きた人間の脳の実体と発達について 非常に多くのことが分かってきました。そのため 科学者たちの 脳の発達についての考え方も一新しました。 脳は幼いころに全て完成するのではなく 青年期 そして20代 30代と 発達し続けることが明らかになったのです

 

2 青年期とは社会的に自立したとき終了する

さて青年期とは 人の生物的な面 ホルモンや肉体の 思春期における変化とともに始まり、社会的に自立したとき終了する 期間だと考えられています(笑)。長いこと青年期に留まっている人もいます(笑)。青年期に最も劇的に変化するのは 脳の前頭前皮質という部分でしょう。これは人の脳の模型です。正面の この部分が 前頭前皮質です。脳の中でも面白い部分です。人の前頭前皮質は 他の生物に比べ 脳の中でより大きな比率を占め 様々な知性的機能を果たします。例えば意思決定や計画?明日 来週 あるいは来年 何をするか計画する、あるいは不適当な行動の抑制 つまり 失礼なことを口にしたり ばかげたことを しないように自己を抑える機能 人との交流にも必要です。例えば 他人への理解 そして自己認識。

 

3 青年期には前頭前皮質が劇的に発達する

MRIを利用して脳のこの部分の発達を追う 研究をすることで、前頭前皮質は青年期に 本当に劇的に発達することが明らかにされました。例えば 4歳から22歳の灰白質を見てみると その容積は子どもの頃に増え始めます。このグラフを見てください。前頭前皮質の容積は 青年期のはじめ ピークに達します。矢印は前頭前皮質中の灰白質容積の ピークを示しています。このピークが訪れるのは 男の子の方が 女の子より2年ほど遅れています。これは 男の子は女の子より2年ほど遅れて 思春期を迎えるからでしょう。そして青年期の間に前頭前皮質の 灰白質の容積はぐんと小さくなります。これは悪いことに聞こえるかもしれませんが、実は脳の発達にとって大変重要なことなのです。灰白質にはたくさんの細胞体や 細胞同士をつなぐシナプスがあり、灰白質の容積が小さくなると共に 余分なシナプスが除去されると 考えられています。これは非常に大切な過程で ある程度 その生き物の生活環境にも影響されます。頻繁に使用されるシナプスはより強化され、その環境で生活する上で 必要でないシナプスは除去されます。バラの木のように やわな枝を除去することで 残りの生存に重要な枝がより丈夫になる。この過程が青年期の間に 効果的に その生き物特有の環境に最も適した 脳をつくりあげます。前頭前皮質を含めて 脳の様々な部分で調整が行われるのです。

 

4 青年期の脳の変化を記録する

さて 青年期の脳の変化を記録するために fMRIを利用して、 歳と共に人の脳の動きが どう変化するか研究したりもしています。例として私の研究室での 実験を紹介しましょう。私達は脳の社会的な部分に興味があります。つまり周りの人を理解して 交流するために重要な 脳の部分です。この社会的な脳には2つの側面があります。ここにあるサッカーの試合の写真を見てください。サッカーの試合の一場面ですが(笑) ゴールをミスしたマイケル・オーウェンが グラウンドに崩れ落ちたとこです。この写真から 社会的な脳の一面 つまり 社会的で感情的な反応を示す面が見て取れます。オーウェンがゴールをミスした その瞬間に 皆 腕と顔で同じことをする。同じ動作 同じ表情 グラウンドに倒れている オーウェンも きっと同じ表情をしていることでしょう。例外となるものは 後ろの方にいる 黄色の服を着た彼らだけでしょう(笑)。彼らはスタジアムの反対側にいるべきでしょう。彼らは別の社会的感情的反応を示しています。これが社会的な脳のもう一つの側面です。この写真を見れば とてもよく分かリます。私達は周囲のふるまい 行動 しぐさ 表情を見て その人の感情と心理を非常に上手く 読みとる能力を持っているのです。だから彼らが今どんなことを 考え 感じているか 直接彼らに 問う必要は全くないのです。

 

5 他人について考える部位がより活発に動いている

私の研究室の関心はそういうことです。研究室に青年期と成人期の人をそれぞれ集め 脳の映像をとります。そして ある課題を与えることで 他人の 思考 心理 感情について考えてもらいます。世界中で こんな研究を通してあることが 解明されました。前頭前皮質の内側部 このスライドで見ると青の部分で 前頭前皮質のど真ん中 ちょうど頭の中間に位置する部分です。他人について考えている青年期の脳の前頭前皮質内側部は、大人に比べより活発に動いているのです。世界中の9つの研究室の結果を集めた メタアナリシスの結果を見ると 同じ傾向を見て取ることができます。前頭前皮質の内側部は 青年期を頂点に しだいに小さくなっていくのです。これは 社会的な意思決定をするとき 若者と大人では 違ったアプローチで 思考するためだと考えられています。この違いを観察するために 人を研究室に集め 行動科学実験の課題を与えます。私の研究室で行っている実験を もう一つ例として紹介しましょう。

 

6 本棚を使った事件

この実験の参加者として 実験室に来て コンピュータで こんな課題を見せられたと想像してみてください。この課題は 本棚を使います。さて 棚のところどころに物が置かれていて 反対側に男の人がいるのが見えますね。彼には全ての物は見えないようになっています。いくつかの物は この人には見えないよう グレーの板によって隠されているのです。これが 反対側に立っている男に見える棚です。彼の方から見える物は限られています。逆に あなたの方からは ずっと多くの物が見えます。あなたの課題は 棚の物を動かすことです。棚の反対側の男は ディレクタとして 何を動かすかべきか指示します。ただ 彼が見えない物について 指示することはない ということを 忘れないでくださいね。面白いことに この設定では あなたとディレクタの 観点が微妙に異なり 衝突するのです。例えば 一番上のトラックを左に動かすよう指示されたとします。トラックは3つありますが 直感的に 自分から見て一番上にある 白いトラックに 手を伸ばすでしょう。ここで思い出さなければいけません 「そうだ 彼にはこのトラックは見えないんだから 彼の方から見て一番上の青いのトラックのことを 言ってるんだ 驚くことに あなた方のような 何の障害もない 頭のいい大人でも 50%の確率で間違うのです。青いトラックでなく 白いのを動かしてしまいます。青年期と成人期の人に それぞれこんな作業をしてもらうわけです。対照実験では ディレクターなしで 代わりにルールを決めます。全く同じことをするのですが 今回は反対側にディレクタはいません。ルールは 後ろに濃いグレーの板がある物は無視するということです。全く同じ設定ですね。ただ ディレクタなしの場合は 何だか恣意的な ルールを与えられて、ディレクタがいる設定では 彼の視点について考えることを忘れずに 次の動きを決めなければいけません。

 

7 他人の観点を理解する能力は青年期以降に発達する

私の実験室で行った 大規模な発達の研究における 間違いの割合をお見せしましょう。参加者は7歳児から大人までいました。両方の設定における 大人たちの間違う割合を見てみましょう。グレーはディレクタ有りの設定です。賢い大人が 50%の確率で間違っていますね。でも グレーの板の前の物は無視するという ディレクタ無しの設定では 間違える確率がぐんと低い ということが明らかです。この2つの設定で必要となる能力は 全く同じように 発達します。児童期の終わりから 青年期の半ばにかけて 両方の設定で 間違う確率は減っていきます。どっちの設定を見てみても。でも右端の 青年期半ばと大人のグループを 比較すると とても興味深いことが 明らかになってきます。ここからは ディレクタ無しの設定では 進歩が見られません。つまり ルールを忘れずにその通りに行動するために 必要な能力は もう青年期半ばに 完全に発達しているようです。反対に 最後の2つグレーの棒を見ると ディレクタ有りの設定では青年期半ばから成人期にかけて ぐんと成績が上がります。つまり 他人の観点を理解しながら 次の動きを決めるために必要な能力、生きていく上で 日々 絶えず必要になるこの能力は、青年期の後半には まだ発達中なのです。だからティーンエージャーの息子や娘が ちゃんと他人の観点を気にして 行動するのが下手なのには 理由があるのです。

 

8 父親が人前で歌うだなんて…

ティーンエージャーって面白いですよね。メディアは 典型的なティーンエージャーの振る舞いを パロディ化したり ときには悪魔のように扱います。リスキーなことをする 気分屋 そして異常に自意識過剰。友達から聞いた とてもいい話があります。彼の娘達が思春期を迎えたとき その前と後での 最もはっきりとした違いは、父親といる時の彼女達の当惑ぶりだそうです。思春期前の彼女達が お店でふざけていたら 「君たちの大好きな歌を歌ってあげるからふざけるのは やめなさい」と言えば 娘たちはすぐにふざけるのをやめ、喜んで彼の歌を聞くものだったそうです。思春期を越えた彼女達にとって これは脅しとなりました (笑) 父親が人前で歌うなんて考えただけで おりこうにする気になったのです

 

9 シェイクスピアによる青年期描写

こう疑問を持つ人もいます。「青年期って比較的新しい現象なのかな? 最近 西洋の人々がつくり出した概念なのかしら?」 おそらく そんなことはないでしょう。昔の人も 今日の私達と同じように 青年期を描写していました。

よく知られた引用ですが シェイクスピアは「冬物語」で 青年期について こんなことを書いています。「13と20の間の年齢がなくなるか その間ずっと 眠っていてくれたら どんなに素晴らしいだろう。この時期といったら 娘を妊娠させる 年寄りに悪さする 盗む そして喧嘩する以外に何もないのだから」(笑) さらにこう続きます「そうは言っても 19や22の煮え立つ脳以外に こんな天気の中 狩りに出る者があるだろうか」(笑)約400年前のシェイクスピアは 今日の私達と 同じような感じで青年期を描いていたわけです。でも私たちは 青年期の若者の脳が どう変化しているか知ることで、彼らの行動について 理解を深めようとしているのです。

例えばリスクへの対応。彼らはリスキーなことをしたがる 傾向がありますね。本当に 彼らは子どもや大人に比べて リスキーなことをよくします。特に周りに友達がいるとき これは青年期に 親から自立して 友達を関心させるために 重要な衝動です。青年期ついて理解を深めるために 今度は大脳辺縁系という部分の発達を見てみましょう。私の後ろにあるスライドや この模型で 赤い部分が 大脳辺縁系です。大脳辺縁系は脳の深いところにあり、感情を整理したり やりがいを感じたりする部分です。面白いこと 例えばリスキーなことをした時に 高揚を感じるのはこの部分です。リスキーな行動に伴うスリルもこの部分からきています。そして大脳辺縁系のこの部分は、大人に比べて 青年期にリスキーなことをしたときに感じる 高揚に対してより敏感なのです。同時に 前頭前皮質 このスライドでは青い部分 過剰にリスキーなことをしないようにするこの部分が 青年期ではまだ未成熟なのです。

 

10 青年期は学習と創造に最適な機会

脳科学者たちは研究を通して 脳は青年期に ものすごい発達を経ることを明らかにしました。この発見は 教育やリハビリなどの介入に 重要な意味があります。教育も含めて 周囲の環境は 青年期の脳の発達に影響を及ぼすものです。しかし西洋の国々で ティーンエージャーに 広く教育を与えるようになったのは 比較的最近です。例えば 私の祖父母は4人とも 青年期の初めの頃に 学校をやめました。他に選択肢はなかったのです。今でもそういうティーンエージャーは世界中に たくさんいます。ティーンエージャーの40%は 中学や高校に行けません。しかし この期間は人生で脳の 順応性が最も優れている期間です。 学習と創造に最適な機会です。だから青年期の若者の問題として見られがちな 振る舞いを 非難すべきではありません。リスキーな行動 衝動的な行動 自意識過剰な態度、そういった行動は 実は脳にとって 学習と 社会性の発達に最高な機会を反映しているのです。どうもありがとう。

 

最後に

リスキーな行動、衝動的な行動、自意識過剰な態度は、学習と社会性の発達に最高な機会を提供している。学習と発達を言い訳にして、どんどん試そう。(最低限)他人の観点も理解しながらね。

和訳してくださった Natsu Fukui 氏、レビューしてくださった  Yasushi Aoki 氏に感謝する。

脳の学習力――子育てと教育へのアドバイス (岩波現代文庫)


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