「じゃあご褒美とお仕置きを考えて」「15分のオーバーリアクションがリミットで、それを越えたら1分につき腕立て伏せ1回」ファイラーは子どもたちとのやりとりを公開する。ここでは、50万ビューを超える Bruce Feiler のTED講演を訳し、機敏さを家庭に取り入れる有効性を理解する。
要約
ブルース・ファイラーは、革命的なアイディアを持っています:近代の家庭生活におけるストレスに対処するには「アジャイル(=機敏さ)」が大切だと。ソフトウェア開発における「アジャイルソフトウェアプログラミング」に発想を得たファイラーは、フレキシビリティ(柔軟性)、アイディアのボトムアップ、絶え間ないフィードバック、責任感を持つことを、家庭で実践し、その体験をみなさんにご紹介します。見どころは、「子ども達が自分でお仕置きを決める」ところです。今までにない、斬新なアイディアをお楽しみください。
Bruce Feiler is the author of “The Secrets of Happy Families,” and the writer/presenter of the PBS miniseries “Walking the Bible.”
1 10人に8人は自分が育った家族以上に今の家族の絆の方が強いと答える
家族について良いニュースです。家族とは何か―その意味はこの50年で革命的に変わりました。異父母兄弟が混ざったり養子がいたり みんなが別々に住む核家族や 離婚した夫婦が同じ家に暮らしていたり それでも家族の絆は強まっています。10人に8人は 自分が育った家族以上に今の家族の絆の方が強いと答えます。
2 子どもたちは親達がお手上げだと感づいている
ここで悪いニュースです。ほとんど誰もが家庭生活のカオスに完全に参っています。自分を含む 全ての親が 常に予防線を張っているような気分です。歯が生えたと思ったら癇癪を起こすし 風呂に入れるのを卒業したら 次はネットストーカーやイジメの問題。
更にみなさんへ最悪のニュース。子ども達は親達がお手上げだと感づいています。FWI の エレン・ガリンスキーが1000人の子ども達に聞きました 「親にひとつお願いをするなら何?」って 「親ともっと沢山の時間を過ごしたい」そう答えると思うでしょう でも違うんです。子どもの一番の願いとは? 「親の疲れやストレスが もっと減ってほしい」
3 「幸せな家族」はどう上手くやっているのか
さぁ この差をどう埋めましょうか。なんとかストレスを減らし家族の距離感を無くし 皆で子ども達を世界へ送り出す準備をする確実な方法があるでしょうか。
過去数年間 この答えを出そうとしてきました。あちこちを巡って 様々な家族に会い学者たちと話し合い 和平交渉のエリートからウォーレン・バフェットの銀行家からグリーンベレーまで 「幸せな家族」が どう上手くやっているのか私は模索しました。自分の家族を より幸せにするために彼らから何を学べるだろうかと。
4 「うちは完全なカオスよ」
ある家族の例を紹介します。何かヒントが得られると思います。日曜の午後7時アイダホ州のヒドゥンスプリングス 6人家族のスターさん一家の週一回の 家族会議の様子です。スター家は一般的な家族でアメリカの家族が持つ一般的な問題を抱えています。デイビッドはソフトウェアエンジニアで、エレアノアが10~15歳の4人の子どもの世話をします。1人は町の反対側で算数の家庭教師、1人は近所でラクロス、1人はアスペルガーでもう1人はADHDです。エレアノアは言います「うちは完全なカオスよ」
5 「アジャイル」を家庭に取り入れた
スター家が次に取った行動は驚くべきものでした。友人や親戚を頼る代わりにデイビッドの職場に目を向けたのです。「アジャイル開発」という斬新な手法に目をつけたのです。これは日本のメーカーからシリコンバレーのベンチャー企業にまで広まったものです。「アジャイル」では メンバーを小さなチームに分けて短期間のタスクを進めます。上層部から指示を発するのではなく その小チームが各々の判断で動く訳です。常にフィードバックがあり毎日情報のアップデートが行われます。毎週レビューを行うので常に変化があるのです。デイビッドはこの仕組みを家庭に取り入れたところ 特に家族会議によってコミュニケーションが増え ストレスが減り皆が家族の一員としてより幸せになったのだとか。私が妻とこのような家族会議や他の手法を 当時5歳の双子の娘の生活に 取り入れたところ 娘たちが生まれて初めてとも言える大変化が起こったのです。20分もかからないミーティングで効果が現れて来るんです。
6 初期段階で成功か失敗か判断できる
ではこの「アジャイル」が 企業とは全く異質の―家庭などで どう役立つのでしょう? 1983年 ニューイングランドの金融機関の技術者だったジェフ・サザーランドは ソフトウェアの設計について大きな不満を抱いていました。会社のやり方はウォーターフォール形式、つまり― 滝のように 上層部で決めた方針が順々に下りてきて そして一番下がプログラマー 彼らの意見を聞く人など誰もいない。83%ものプロジェクトが失敗に終わりました。完成時には肥大しすぎていたり 時代遅れだったり。サザーランドが目指した仕組みは アイディアが上から流れてくるのではなく下からアイディアを上げていって リアルタイムに変化させられるものでした。彼は30年分のハーバード・ビジネス・レビューを読み1986年の ある論文に出くわします。『The New New Product Development Game』(新しい新商品開発手法) 「ビジネスのペースが速まっている」と書かれています。1986年当時ですよ。「特に成功している企業はフレキシブルである」と記した上で トヨタとキヤノンの名前が挙げられ 柔軟かつ緊密な組織はラグビーのスクラムに例えられています。その論文に出くわした時 サザーランドは「これだ!」と思ったそうです。サザーランドの方式では会社は2年もかかるような 大規模なプロジェクトは行いません。より小さな単位で行います。最長で2週間、つまり「その穴ぐらに閉じこもって ケータイかSNSを作り上げてこい」と言う代わりに 「何か部品を1個見つけて 持ち帰ってきてくれ。それで話し合って 組み込もう」 初期段階で成功か失敗か 判断できます。最近では「アジャイル」は多くの国で取り入れられ マネージメント方法として浸透しています。必然的に これらの手法を家庭へ持ち込む人が現れます。ブログもあればマニュアルも出版されています。サザーランド家でさえこんなことをしたとか 「アジャイル感謝祭」 あるグループは料理を 他のグループはテーブルをまたは招待客の案内 過去最高の感謝祭になったんだとか。
7 アジャイルが力を発揮する鍵は「責任」
ここで家族の問題を1つ例に取ります。 慌ただしい朝「アジャイル」がどう力を発揮するか。鍵となるのは「責任」です。会社でチームは大型ディスプレイを使います。誰もが見ることの出来る大きなボードです。なのでスター家はこれを家に持ち込み朝やる事のチェックリストを作りました。子どもたちが家事を各自こなせるように。ある朝 訪ねたところエレアノアが下りてきて 自分のコーヒーを注いでリクライニングチェアに座りました。そこに座ったまま 階段を下りてくる子ども達ににこやかに 話しかけ 子ども達はチェックリストを見て自分で朝ごはんを作り リストを見て食洗機に食器を入れ またリストを見てペットのエサやりなどそれぞれの家事をこなし もう一度リストを見て自分の持ち物を確かめて スクールバスのバス停へと向かいました。それは今まで見たこともないような驚くべき家族の力でした。
これは うちでは絶対にムリだ僕は強く主張しました。うちの子達は全部見てやらなきゃいけない と。エレアノアが私を見て言いました。「私もそう思ったのよ。デイビッド 仕事を家庭に持ち込まないで って言ったの。でも私が間違ってたわ」それでデイビットに聞いたんです「なんで上手くいくんだい?」って。すると彼は「このパワーを見くびっちゃいけないよ」 とチェックマークを描き 言いました。「職場でも大人はこれが大好きだけど― 子どもたちにとっては至福なんだよ」 と。
8 上手くいったことは?上手くいかなかったことは?上手くいくために来週みんなでどうする?
この朝のチェックリストをうちでも取り入れてみると 親の怒り声が半減したんです (笑)。でも本当の変化は家族会議をする時に訪れたんです。「アジャイル」のモデルに従って3つ 問いかけます。今週 うちで上手くいったことは何? 何が上手くいかなかった?上手くいくために 来週みんなでどうする? みんなが提案をします。そして その中から2つ選んで実行します。ある時 驚くような言葉が突如 娘たちから出てきたのです。今週 うちで上手くいったことは何かな? 「自転車に乗るのが怖くなくなった」「ベッドメイキング」 上手くいかなかったことは?「算数の計算問題と… お客さんが来た時の受け答えとか」 ほとんどの親が自分の子どもは魔の海域みたいなものだと思っています。思考は入っては行くけれど二度と出てこない と 明かされているもの以外はね。これは私たちに突如思考の深部へのアクセスをくれたんです。最も驚いたのは来週どう問題を解決するか に焦点を向けた時 「アジャイル」の鍵はチームが自力でマネージメントすること。ソフトウェアの開発同様子どもにも効果的だと判明したんです。私の子ども達はこの作業が大好きなんです。だから色んなアイディアが出てきます。「来週は5人のお客さんを出迎える」「寝る前に10分読書をする」「誰かをキックしたらデザート1か月抜き」 あ ちなみに私の娘達は独裁者ばりに無茶を言うので 常に彼女らを引き戻し落ち着かせる必要はあります。自然な事ですが 会議で立てた作戦と実際の行動にはギャップがある。でも正直 それは問題ではないんです。今巡らせている地下の電線が 彼女らの人生を明るく照らすのは何年も先だろう といった感じ。
3年経ち じき娘たちは8歳ですがこの家族会議は続けています。妻は母親として これを最も価値ある時間だと言います。
9 「アジャイル家族宣言」として3項目提案する
ここから何を学んだか。「アジャイル」と言う言葉は2001年に辞書に載りました。ジェフ・サザーランドとデザイナー達がユタ州で会合を開き 「アジャイルソフトウェア開発宣言」を書いた年です。そろそろ「アジャイル家族宣言」ができても良い頃では? スター家や 他の様々な家庭からアイディアを得て 3項目 提案します。
10 項目1:常に順応する
私が親になった時に 気づいたんです。いくつかルールを決めて それを守る と それは 親が 起こりうる問題がいつも想定内であると期待する事 無理です。それが「アジャイル」の素晴らしい点で 変化の上に成り立つのでどんな変化にも順応できます。インターネットの世界ではこう言います: 半年前と同じ事をしてたら今やってることは間違いだと。親はこのことから多くを学べます。私にとって「常に順応する」とはもっと深いことも意味します。私たちは 親を束縛している堅い考え方を破りたい。家庭で唯一試せるのは 自己啓発論者や家庭カウンセラーなどの教えに限るといった考えです。正直 彼らのアイディアは古い。世界にはチームを効果的に動かす新しいアイディアがこんなにあるのに。
11 家族の時間を夕食からずらす、これが順応性
いくつか例を挙げてみましょう。家族の大問題のひとつ:夕飯の時間 皆 家族と夕飯を共にする事が大切だと言うことはわかっています。しかし 我々のほとんどがそれを実践できていません。以前ニューオーリーンズのセレブシェフでこう言った人がいました。「あぁ 問題ないよ 家族の時間をずらすから。家にいないから夕食を作れない? じゃあ朝食を家族の時間にしたりそれか 夜食でもいい。その分日曜のご飯はもっと大切にする」 事実 最新の研究結果で彼の言った事が正しいと判明しました。家族の食事で 本当に意味のある時間は10分程度だそうです。残りの時間は「肘を下しなさい」「ケチャップ取って」とかです。その10分を 1日のどこかに移せば同様の効果を得られます。家族の時間を夕食からずら、これが順応性です。
環境心理学者が言いました 「堅い椅子に座っていると心も頑なになる。クッションの利いた椅子に座ればもっとオープンになる」 また「子どもをしつける時 親は― 背中がまっすぐで柔らかい椅子に座ると会話が上手くいくはず」 妻と私が深刻な会話をする時席を移動します。私が「権力者の位置」にいるから。席を移動するこれも順応性です。
要点は 新しいアイディアがこんなに溢れていると言う事 これを親たちに教えてあげたいのです。これが項目の1番目「常に順応する」 フレキシブルに 心を開いてベストアイディアを取り入れましょう。
12 項目2:子どもに委ねる
親の本能としてあれこれ命令しがちです。簡単だし まあ たいてい正しいし 滝のように上から下への構造は家庭において もっともな理由があるから。しかし 1つ大きく学んだことは この水の流れをできるだけ逆にしようということです。子どもを 自らの成長に 参加させること。つい昨日の家族会議のことですが 議題は「オーバーリアクションについて」 「じゃあご褒美とお仕置きを考えて」と言うと 娘の1人が 「1週間で5分間のオーバーリアクションをしていい」 なんかそれいいな と思って。でも もう1人の娘が仕組みを活用して言いました。「5分を1回だけなの?それとも30秒を10回でもいいの?」 それいいね!好きなように分割していいよ。じゃあ次はお仕置きは? 「15分のオーバーリアクションがリミットで それを越えたら1分につき 腕立て伏せ1回」 ほら成立してるでしょ。甘やかしでもないんです。多くの場合 何事に関しても親が判断を下しがちですが 私達は彼女らに自立の練習をさせてるんです。もちろんそれが最終目標です。ここに来る直前に 娘の1人が叫び始めました。するともう一人が「オーバーリアクション!オーバーリアクション!」 それで数え始めたんです。そしたら10秒で止んだのです。表彰モノの「アジャイルミラクル」です!(笑)(拍手) 更に これも研究に裏付けられています。自分でゴールを決めて週間予定を作り 自己評価を行う子ども達は前頭皮質が育ち 自分の人生をコントロール出来るようになる。要点は 子ども達に彼らなりの成功を味わわせること。もちろん たまには失敗しながら。ウォーレンバフェットの銀行家と話した時 「お小遣いでの失敗」をさせていないことを彼に叱られました。でも私は「もしあの子達がつまづいたら?」 「6ドルのお小遣いで 一度つまづいておいた方が、6万ドルの年俸や60万ドルの遺産で失敗するよりマシだ」これが「子どもに委ねる」と言うこと。
13 項目3:自分の話をする
順応性も大事ですが 基盤も大事です。『ビジョナリーカンパニー2』(原題:Good To Great) の著者… ジム・コリンズが言っていました。成功する組織には 2つの共通点がある。軸を維持すること進歩を褒めること。「アジャイル」は進歩を促します。でも 軸を維持する大切さも度々耳にします。どうやって? コリンズは企業でやっていることを教えてくれました。自分のミッションを明確にし、その価値を見出すということ。彼は家族のミッションを見出す方法を教えてくれました。社員旅行の家族版をやってみたんです。パジャマパーティーです。ポップコーンを作って焦がしたので もう1個作って 妻はフリップボードを用意 素晴らしい対話をしたのです。私たちに大切なことは何か。優先すべき価値は何か。10ヶ条ができました。「旅人であり 観光客ではない」 とか 「ジレンマは嫌で 解決策を望む」 とか。ある研究では 親達は自分の失敗を悔やむ時間を減らし 自分の正しい行いを重視して うまくいかない時の心配を減らし良い時間を作り出すべきだと言います。この家族のミッションを約束事としてきちんと文にすることで 何が正しい行いかを定められます。
14 子どもたちのルーツを話すこと
数週間後 学校からの電話で娘の1人がケンカをしたと うちの子は意地悪なのかと心配になりました。僕らはどうして良いか分からず、彼女を僕の書斎に呼びました。家族のミッションが壁に貼ってあり 妻が聞きました「ここに当てはまるものはある?」 娘はリストを眺めて言いました 「人と協調する?」 突然 会話の糸口が見つかったんです。
「自分の話をする」 他の例は子ども達のルーツを話すことです。エモリー大学の研究者は子ども達に簡単な「何を知ってる?」テストをします。「おじいちゃんおばあちゃんがどこで生まれたか 知ってる?」 「両親が どの高校に行ったか 知ってる?」 「家族の誰かが 病気とか辛い事に遭った時どう乗り越えたか 知ってる?」。この「知ってる?」テストで高得点を得た子は 強い自尊心を持ち自分は人生をコントロール出来ると確信します。この「知ってる?」テストは 心の健康と幸福度を調べる 最良の診断法なんです。この研究の著者が言いました。この物語の一部である と実感できる子はより強い自信を持つことができると。これが最後の項目 「自分の話をする」 です。家族の良い思い出話を繰り返し語ってあげてください。そして どうやって辛い時期を乗り越えたかを。この幸せな物語を贈ることで子ども達は自らを幸せに導くための糧を得ます。
15 幸福とは見つけるものではなく作り出すもの
『アンナ・カレーニナ』 を 初めて読んだのは 10代でしたが 有名な書き出しで始まります。「幸せな家族はどれもみな同じようにみえるが、不幸な家族にはそれぞれの不幸の形がある」 初めて読んだ時「この文は馬鹿げてる。幸せな家族がどれも似ている訳がない」 このプロジェクトに関わってからその考えが変わり始めました。近年の研究によって 初めて 成功している家庭が持つ要素が明らかになってきました。今日ここで 3項目挙げました 「常に順応する」 「子どもに委ねる」 「自分の話をする」。こんなに時が経って トルストイはやっぱり正しかった なんてありなのか。答えは「イエス」だと信じます。
レフ・トルストイが5歳の時兄のニコライがやってきて 言いました「全世界が幸せになる秘密を 小さい緑の棒に刻んで敷地内の渓谷に隠した」と。もしその棒が見つかれば全人類が幸せになれる。トルストイはその棒を必死に探したけど 見つからなかった。事実彼は その棒があると信じた渓谷に埋葬してもらったのです。彼は今もそこに眠っています緑の草に覆われて。この物語は私の学んだことを完璧に捉えています: 幸福とは見つけるものではなく 作り出すものだと言うこと。良い組織を見たことがある人は皆大体同じ結論に達します。偉大さは 状況や環境の問題ではなく選択の問題なのだと。壮大な企画や滝のようなトップダウンも必要ないんです。ただ小さいステップで 小さい勝利を積み重ね 緑の棒を 求め続けることです。最後になりますがこれが今日のポイントになります。幸せな家庭への秘訣?―やってみることです(拍手)
最後に
「常に順応する」「子どもに委ねる」「自分の話をする」そして、子どもたちのルーツを話すこと。幸福とは見つけるものではなく、作り出すもの。できなかったら変えればいいじゃん。
和訳してくださった Shiho Ottomo 氏、レビューしてくださった Natsuhiko Mizutani 氏に感謝する(2013年2月)。
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