「夏の野外スポーツ観戦やコンサート鑑賞は暑くて不快な経験になることが多いですよね。でももうその心配はありません」ケッスリングは語りかける。ここでは、55万ビューを超える Wolfgang Kessling のTED講演を訳し、野外スタジアムを空調する方法について理解する。
要約
夏の暑い季節の野外でのスポーツ観戦やコンサートの鑑賞は、太陽に照りつけられ、とても不快な経験となることも珍しくありません。しかし、もうその心配はありません。ドーハで開催されたTED×Summitで、物理学者のヴォルフガング・ケッスリングが観客を頭上から、そして足下から冷やすだけではなく、太陽エネルギーの貯蓄もできる持続可能で革新的なデザインをご紹介します。
Wolfgang Kessling and his team at Transsolar designed the solar cooling and comfort concepts that helped Qatar win the bid for the 2022 football World Cup.
1 100%太陽エネルギー駆動の空調設備を備えた野外スタジアム
こんばんは。私達は今夜 この開放的な 素晴らしい円形の劇場で 涼しい夜を楽しんでいるわけですが 10年後の2022年にカタールで サッカーワールドカップが 開催されるのは 太陽が照りつけ 暑さのとても厳しい 6月と7月のことです。開催地がカタールに 決定すると 世界中で ある疑問が浮上しました。選手達はこの砂漠の気候の中で フィールドを駆け回り 素晴らしい プレーをすることができるだろうか? 観客は灼熱の中 野外スタジアムに座って 楽しく試合を観戦できるだろうか?我々トランスソーラー社のエンジニアは アルバート・シュペーア&パートナーの 建築家と共同で 100%太陽エネルギー駆動の 空調設備を備えた野外スタジアムの 建設に取り組んできました。
2 温度快適性と雰囲気温度の混同
さて最初にお話するのは 快適さについてです。多くの人はよく分からずに 温度快適性と雰囲気温度を 混同しているようです。この図を見て下さい。赤い部分は6月と7月の気温を表しています。お気づきの通り 45度を越える日もあって 事実 とっても暑いんです。しかし 快適さを左右する 気候の要素は気温だけではありません。ここで 同僚が世界中で ワールドカップやオリンピックを対象にした 快適さについての調査結果を お見せしましょう。快適さの度合いに注目し そこから人々が感じた快適さを 分析したものです。メキシコから見てみましょう。
3 野外で感じた全ての快適さの記録
メキシコの気温は 15度から30度の間で みなさん快適に 観戦を楽しんだようです。メキシコシティでの試合は とても気持ちよかったようですね。オーランドの同じような 野外スタジアムでは この日の午後は 日差しが強く 湿度もとても高かったため 快適とは言えず 試合を楽しむことができなかったようです。気温はさほど高くなかったのに 快適ではなかったようです。ソウルはどうでしょう? 放映権の関係で試合は全て 午後遅くに行われました。太陽が沈んだ後の 試合だったので 快適だったとの 回答が帰ってきました。アテネはどうでしょう?気候は地中海性ですが 太陽が照りつけて 快適ではなかったようです。スペインはしばしば 「太陽と影」と表現されます。日陰の席の値段は 日向の席のチケットよりも 高いんです。快適な環境で 試合を観戦できるからです。北京では? こちらも日中 日差しが強く 湿気も高かったので快適ではありませんでした。これらの結果を重ねて比較してみると 全ての場所で気温は概ね 25度から35度だと分かりますね。次に30度のところを 上から下に見てみると 野外で感じた全ての快適さが 記録されていることがわかります。「非常に快適」から「とても不快」まで様々です。
4 温度快適性は温度以外の要素も影響している
なぜでしょう? 温度快適性には 温度以外の要素も 影響しているからです。太陽は直射光や 拡散光になり 風はと言うと 強風に そよ風そして私達の 周囲の放射温度を左右している 湿気の存在もあります。もちろん気温もあります。全ての要素が身体の感じる快適さに影響を与えます。全ての要素が身体の感じる快適さに影響を与えます。そこで科学者は体感温度という変数を設けました。この変数のおかげで スタジアムの設計者にとって どんな要素が快適さと不快さの 原因となっているのかを 突き止めることが容易になりました。また体感温度とも関係しています。更にこれらの気候要素は 私達の代謝とも関係があるんです。
5 人間は代謝のおかげで熱を生み出している
私達 人間は代謝のおかげで 熱を生み出しています。私が熱を上げて話をしている間にも 150ワット程の熱を生み出しています。席についている 皆さんは一人当たり 100ワット程の熱を 産出していることでしょう。この熱は身体から逃がさなくてはいけません。私達の身体は快適さが 低い状態の時には この熱の放出が 上手くできなくなります。この熱を発散できなければ もちろん 死んでしまいます。これらのデータと2022年のワールドカップを 重ね合わせてみましょう。どうなるかといいますと もちろん 気温はとても高くなるでしょう。しかし 試合は午後に 予定されているので 快適さは他の会場と同じになるでしょう。つまりは快適ではないんです。
6 摂氏32度という気温は快適指数が非常に高くなる
そこで目標を掲げて チームを組みました。「野外での快適な 体感温度を目指そうじゃないか」 この下の青い丸のところです。すなわち摂氏32度という気温は 快適指数が非常に高くなる気温なんです。人は野外環境にいると 気持ちがよくなるものなんです。これはどういうことでしょう? 先ほどの結果を考えてみましょう。気温がとても高い環境では 優れた建築デザインと 気候工学を駆使しても 状況はあまり改善できません。もっと能動的な対策が必要です。例えば 放射冷却技術に 優しい空調技術を 組み合わせることができます。
7 放射冷却と乾燥した空気によって快適さを高める
内部はどうなっているのでしょう? スタジアムの内部には 外の快適さを生み出す 要素が隠されてます。まずは影です。温度が高く 強く吹き付ける風から 観客を守るための大切な要素です。それだけではありません。能動的なシステムを 採用する必要があります。スタジアム内に寒々しい 突風を吹き付けるのではなくて 放射冷却技術を使えばいいんです。床暖房と同じ原理で 床下にパイプが埋められており パイプ内に冷たい水を流すことで 日中にスタジアム内に 吸収された熱を逃がせます。こうして快適な状況を作るだけでなく冷たい空調ではなく 乾いた空気を加えることで 観客も選手達もそれぞれの居場所や 熱バランスに応じて体温調整することで 快適さが得られるんです。個人がそれぞれにあった 快適さへと調整ができるんです。おそらく 12のスタジアムがこのシステムを採用するでしょう。しかし それぞれの国に 練習用グラウンドが ひとつずつあり全部では32個あります。そこでも同じコンセプトを用いて 練習場に影を造り 風よけを設置して 芝生を植えました。水やりのされた天然芝の優れた 冷却効果で温度を安定化させます。また乾燥した空気も 快適さを高めます。
8 100%ソーラーエネルギー駆動の冷却システム
しかし優れたデザインでも受動的なものには限界があります。能動的なシステムが必要です。そこで100%ソーラーエネルギー駆動の冷却システムを思いつきました。これはスタジアムの屋根を 太陽光発電システムで 覆ってしまうというアイディアを基にしたものです。こうすれば化石燃料に頼らなくて済みます。つまりは隣国への エネルギー依存も なくなるわけです。屋根や練習グラウンドに 設置された柔らかく大きな太陽光発電膜から 集めたエネルギーを 利用しているんです。数年後には可能性としては日光を遮りながら同時に発電ができる 太陽光発電膜を実現する産業も でてくることでしょう。
9 太陽エネルギーは 年間を通して回収されており、蓄電も可能
現在 太陽エネルギーは 年間を通して回収されており 従来の化石燃料に 取って代ろうとしています。蓄電が可能ですから 太陽熱冷房のために 蓄えていた太陽エネルギーを必要に応じて 蓄電設備から取り出して 従来の冷房設備に使用することができます。貯蓄は1年目から可能で 向こう 10~20年でバランス良く 使っていくことができます。つまり現在カタールのグリッドに 蓄電されているエネルギーが 20年後のカタールワールドカップの 空調には必要になるんです。
10 野外空間や道路など多くの場所でも活用できる
つまり(拍手)ありがとうございます(拍手)スタジアムだけでなく 他の野外空間や道路など 活用できるところは多くあるんです。更に我々はアラブ首長国連邦の 未来都市「マスダール」の開発を行ってきました。私は中心の商業地域の開発に携われたことを 嬉しく思います。ここでも 心地よい屋外空間を作り出す システムを導入しました。空調で冷えた施設よりも この屋外空間を好む人もでてきました。私達が目指したのは 午後とか夏の暑い日にも 人々が出てきてくれて 家族と一緒に楽しい時を 過ごすことができる 外部環境を作り出すことでした (拍手)
11 受動的なデザインはもちろん、能動的なエネルギー利用も必要
同様にして 日光や風の遮断 そして身近で回収できる太陽エネルギーの利点を 最大限活用できるように 取り組んできました。こちらのパラソルもその一つです。皆さんも温度快適正について熱環境について 今夜でも明日にでも考えて見て下さい。温度環境についてもっと詳しく知りたい方は 私達のウェブサイトをご覧下さい。屋外の快適さを調べられるちょっとした 体感温度計もありますよ エンジニアやデザイナーがこういった気候要素を 全て有効に活用できるようなアイディアがあれば ぜひ 共有して頂きたいと思います。本当に快適な野外空間を 造ることができるようになりますし 私達の屋外空間での快適な 温度に対しての概念を 変えることにも繋がります。それには受動的なデザインはもちろんですが 能動的なエネルギー利用も必要です。カタールではそれが太陽エネルギーなんです(拍手)ありがとうございました(拍手) ありがとうございました(アラビア語)(拍手)
最後に
温度快適性と雰囲気温度は混同されがち。放射冷却と乾燥した空気で快適さは高められる。100%ソーラーエネルギー駆動の冷却システム。受動的なデザインと能動的なエネルギー利用は両立できる。
和訳してくださった Akari Takenishi 氏、レビューしてくださった Takahiro Shimpo 氏に感謝する(2012年4月)。