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ALM手法と標準的な財務手法を用いリスクを管理せよ ALMの基本

前回は、金利自由化が銀行経営管理手法を変えた 資産負債総合管理 ALMについてまとめた。ここでは、ALM手法と標準的な財務手法を用いリスクを管理せよ ALMの基本について解説する。

1 金融を取り巻くリスク

リスクとは何か

リスクとは、一般的には「危険。危ないこと。危害または損失の生じる恐れがあること(広辞苑)」と考えられる。英語の「RISK」もややマイナスなイメージである。しかし、金融の世界ではリスクとリターンという言葉があるように、必ずしも避けるべきものではない。

 

純粋リスクと投機リスク

リスクは、伝統的には損失の可能性のみがあって利得の可能性のない純粋なもの(pure risk)と、損失の可能性と利得の可能性もある投機的なもの(speculative risk)の2つに分類することができる

前者の純粋リスクは、信用リスク、経営管理リスク、法務リスクなどに分けられる。信用リスクは与信先の倒産等により債権が回収できないことなどである。経営管理リスクは組織・内部検査体制や関連会社政策などに関する経営リスク、現金管理・対顧客関係・異例取引処理などの事務リスク、防犯・防災対策などのEDPリスク、大規模決済・大口資金異動などに関するシステムリスクから成り立つ。法務リスクは取引の法律関係に不確実性があることによる諸リスクである。

後者の投機リスクは、市場リスク流動性リスクに分けられる。市場リスクは金利変動による運用・調達の期間ミスマッチなどの金利リスク、市場価格の変動による資産価値の増減などの価格変動リスク、為替の変動による外貨資産・負債の増減などの為替リスクから成り立っている。流動性リスクは取引決済などの資金手当が困難になる資金繰りリスク、市場の混乱などにより仕事が困難になる市場流動性リスクがある。

これらのリスクはそれぞれの金融機関経営において重要だが、リスク管理と利得の関係においては、特に信用リスク、市場リスク、流動性リスクが重要である。

 

ALMで管理するリスク

ALM(Asset Liability Management;資産負債総合管理)は、資産と負債を総合的に管理することにより、リスクと収益の関係を把握して可能な限りリスクを最小化し収益を最大化する手法である。ALMで管理するリスクは、理想をいえば、信用リスク、市場リスク、流動性リスク、経営管理リスクその他を統一的に網羅することだが、経営管理リスクその他を信用リスクなどと同一に論じることは困難だろう。また、信用リスクにおいては、計量化ができれば市場リスクや流動性リスクと統一的な立場から管理することが可能である。

そのため、ここではALMの対象を市場リスクと流動性リスクに絞って言及していく。

 

2 リスク管理の必要性

市場リスク

市場リスクとは、金融・資本市場における金利・株価や為替市場における為替レートなどの市場の変動に起因する諸指標が変動することにより、金融機関の期間収益や純資産価値、または個々の金融商品の時価が変動するリスクをいう。金利変動に対する市場リスクを金利リスク、為替変動に対する市場リスクを為替リスク、株価変動に対する市場リスクを株価リスクという。

ここでいう金利とは、期間に応じた金利体系(イールドカーブ)のことで、金利変動とはイールドカーブの形状の変化である。金利自由化以後、長短金利の逆転(逆イールドカーブ)もよく見られる現象となり、期間概念抜きの金利はもはや考えられなくなった。

イールドカーブがどのように決まるか(利回りの期間構造;Term Structure)は、期待利子率仮説と流動性プレミアム仮説が有力である。期待利子率仮説は、将来金利が上昇すると期待される場合にはイールドカーブが右上がりになり、低下すると期待される場合には右下がりになるというものである。流動性プレミアム仮説は、流動性の違いから長期金利ほど金利にプレミアムがつくというものである。

ただし、これらは期間5年以内の金利の動きをよく説明するが、5年超の世界では流動性プレミアム仮説は妥当するものの、期待利子率仮説は妥当しないという意見も有力である。最近では、金利、為替、株価の間で相関することが明らかであれば、それを考慮してまとめて市場リスクとして管理する考え方も有力になっている。

 

流動性リスク

流動性リスクは、伝統的な資金繰りリスク市場流動性リスクの2つを指すことが多い。伝統的な資金繰りリスクとは、取引決済などの資金手当が困難になることで、市場流動性リスクとは、市場の混乱などにより仕事が困難になることである。

伝統的な資金繰りリスクの管理は、運用部門と調達部門が緊密な連絡を取り、将来の運用・調達のキャッシュフローのイン・アウトを日々ベースで正確に予測する必要がある。

市場流動性リスクの管理は、市場リスク管理の中で行うことも多い。例えば、商品別のポジション枠や市場リスクの限度額を決める際には、その商品の市場の厚み(オファーとビットのスプレッド)やその商品のポジションを手仕舞うために要する日数等を考慮して決める。

いずれの場合も、平常時、格付低下時、全般的信用危機時に分け、想定される事態に備えた準備を行うことが重要である。

 

3 ALM手法

ALMとは何か

ALMとは、金融環境の変化に伴い発生する種々のリスクやその場合に得られる収益を計測して、リスクと収益の関係を明確に把握して経営判断を行うための手法である。その歴史は金利自由化が銀行経営管理手法を変えた 資産負債総合管理 ALMでも述べたように、資金配分法(asset allocation method)、資金プール法(pool of funds method)・資金コンバージョン法を経て、金利リスク管理の必要性からALMが提唱された。その後、ギャップ法、デュレーション法、シミュレーション法、VAR(value at risk)法といった方法が開発された(下記表参照)。

ALMの歴史

時期 名称 管理対象 分析 管理情報
ストック キャッシ
ュフロー
イールド
カーブ
現在
価値
1950年代 資金配分法 資産—流動性リスク 定性的
60年代 資金プール法 負債—調達コスト・
流動性リスク
定性的
80年代 ギャップ法 資産・負債ー金利リスク・
流動性リスク
定性的
デュレーショ
ン法
資産・負債—金利リスク 定量的
シミュレーシ
ョン法
資産・負債—収益 定量的
90年代 VAR法 市場性資産—市場リスク 定量的

金利リスクは、一定期間における資産と負債の金利更改の機会と時期によって決まる。例えば、6ヶ月の負債(調達)と1年の資産(運用)のみの場合、今後1年間で金利変動があると、資産は影響を受けないが負債は影響がある。資産が6→7%、負債が4→6%とすれば、1年の前半の6ヶ月では純利ざやが2%となるが、後半の6ヶ月ではゼロとなる。つまり、資産と負債の期間(金利更改時期までの期間)を見れば、金利変動に対する収益変化の度合い(金利リスク)をかなり把握することができる。

ALM管理手法は、資産と負債を総合管理するという原理を拡張する形でシステム化され発展してきている。例えば、以下の8つの拡張が行われている。

  1. 統合的管理:1本の資産・負債でなく多数多様な資産・負債に適用
  2. 利子対象:帳簿上の元本のみならず将来利子まで拡張
  3. 定量化:経営判断が容易になるように可能な限り定量化する
  4. パラレルシフト修正:金利は期間ごとに異なるなど現実に多種多様であるのでそうした現状に即したものに改良する
  5. 新規分対象:現在の資産・負債だけでなく将来の資産・負債の見込みを加味する
  6. 市場リスク:金利リスク以外の為替リスクや価格変動リスクをも計測する
  7. 過去データ:過去における金利変動など経済環境の変化を考慮したリスクを計測
  8. オフバランス対象:オフバランス(簿外)取引まで対象とする

なお、日本の民間金融機関においては、ALM手法としてギャップ法とシミュレーション法が採用されているところが多い。デュレーション法が採用されない理由は、キャッシュフロー管理が困難、資産・負債が5年以内なためイールドカーブの動きが複雑、5年を超えるような長期資産・負債が少ないことが挙げられる。

 

ギャップ法

ギャップ法とは、一定期間内における金利更新される資産と負債の額の差に着目して金利リスクを計測するものである。これによって拡張1.の統合的管理が達成されている。

具体的には、資産と負債について金利更新時ごとに分類して並べて、一定残存期間の金利更新額を調べ、資産サイドをRSA(rate sensitive asset;金利感応的資産)、負債サイドをRSL(rate sensitive liability;金利感応的負債)と呼び、その差額(または比率)を判断材料に金利リスクを管理する。これを満期ごと(日次、週次、月次)で作成すれば、ほとんど資金繰り表になる。

 

ギャップ法のクセ

ギャップ法には以下の4点のクセがあり、基本的には定性的な分析にとどまる。そのため、シミュレーション法など他の方法と併用して利用されることが多い。

  • 金利変動が収益などに与える影響を定量的に把握しにくい
  • 各資産・負債の間での金利体系の差異を無視しやすい
  • 将来の資産と負債が考慮されていない
  • オフバランス分析ができない

 

デュレーション法

デュレーション法とは、資産と負債のデュレーションの差(デュレーション・ギャップ)に基づき、金利リスク管理(金利感応度の計測)を行うものである。デュレーションは、資産または負債の次の金利更新時までの平均残存期間である。もともと、デュレーションは債権投資分析の分野で、金利変動と債券価格との関係を示すものとして利用されてきたので、利子も対象となりストック分析としても定量的である。このため、拡張1.統合的管理、2.利子対象、3.定量化が達成できている。

具体的には、資産・負債の将来キャッシュフロー(元金や利子の流列)を算出し、それらの市場金利に基づく現在価値をウェイトとして、それぞれの期間を加重平均して資産・負債のデュレーションを算出する。いわば、すべての資産・負債の元本・利子をゼロクーポン債(外貨建て割引債)と考え、それらをまとめて考えているのだ。

 

デュレーション法の特色

デュレーション法は、金利変動に対する純資産価値の変動と期間収益の変動を定量的に把握することができる。純資産価値の変化率は、金利の変化率に資産のデュレーションと負債のデュレーションの差を乗じたものとほぼ同じになる。また、一定期間内における資産・負債のキャッシュフローから当該期間内に満期が到来する資産・負債のデュレーションがわかると、金利変動に対する期間収益の変動がわかる。

デュレーション法は平均的な資産・負債の残存期間が算出されているので、定量的に明確であり、長期が中心の債券分野でよく使われている。さらに、金融技術の発展や時価会計の主流化が進む中で、デュレーション法はますます有用になっている。

 

デュレーション法のクセ

デュレーション法には以下の3点のクセがあり、当初の過大な評価から最近の過小な評価と大きく揺れている。金融機関経営が、資産サイドのリスク自己資本を対応させるなど自己資本の有効活用を考えて、リスク管理が純資産価値に焦点を当てるようになれば、デュレーション法が正当な評価を受けるようになるだろう。

  • 時価で売買できない資産・負債にデュレーションを利用する(真の実力把握)
  • 将来の資産と負債が考慮されていない
  • キャッシュフローのデータ整備が実務上困難

 

シミュレーション法

シミュレーション法とは、将来における資産・負債の増減や金利の推移を予測し、それを現在の資産・負債の状況とを組み合わせて将来の収益の変動額を計算する手法である。これによって、デュレーション法の拡張機能に加え、5.新規分対象、6.市場リスクへの対応も可能になっている。

 

シミュレーション法の特色

シミュレーション法は、他の方法と併用することで理論的手法の検証や実務への適用の可能性などを試算できる便利なツールである。また、各金融機関の実状や現実に利用可能なデータなどに応じて、多種多様なモデルを構築でき、またそれを随時改良できるという柔軟さを備えている。

 

シミュレーション法のモデル

シミュレーション法のモデルの基本構造は、個別の預金・融資取引の明細を使って累積マチュリティーラダー(既存分の平均残高の推移)を作成し、その月次ベースの利回りの推移を計算した後に、今後予想される預金・融資の新規分を重ね、予想平残=既存分平残+新規分平残とその利回りの推移を計算するものである。

例えば、負債サイドの預金の例では、新規預入金利が上がると収益が悪化し、下がると好転する。反対に、資産サイドの融資では、新規貸出金利が上がると収益が好転し、下がると悪化する。これらを合わせて考慮した金利リスクとは、金利上昇(下降)による収益の悪化(改善)の可能性のことである。特に、既存資産と新規負債の部分が重要である。

 

シミュレーション法のクセ

  • 収支分析になりがち
  • 金融機関の現状と密接に連動している必要がある
  • 中長期的な支店からの経営判断が欠けがち

 

BPV法とVAR法

VAR法やその変形であるBPV法は、デュレーション法やシミュレーション法のそれぞれの長所を生かしたものである。両者の拡張機能に加え、6.市場リスク、7.過去データ、8.オフバランス対象への対応が行われている。

 

BPV法

BPV(basis point value)法は、ある金融商品について、例えば金利が1ベイシス・ポイント(0.01%)上昇(下降)した場合、時価がどう変化するかを、金融商品の将来キャッシュフローから算出した現在価値の金利感応度から割り出す手法である。価格設定が理論で割り切れないような複雑な商品や金利以外の為替や株価の感応度も考えることができる。

具体的には、シミュレーション法と同様に現実に即したモデルを作成し、外的経済変数である金利、為替、株価などを一定ポイント変更させた場合と変更させない場合を比較して、経済環境に対する感応度を計測することが一般的である。

 

VAR法

VAR(value at risk)法は、BPV法を改良したもので、将来の金利などのリスク要因の変動に関するシナリオを、過去のデータを統計的に解析し、通常起こりうるようなリスク要因の変動に対して最大損失可能額を算出している

具体的には、①分散・共分散法、②モンテカルロ・シミュレーション法などがあるが、いずれも過去におけるリスク要因を統計的に解析して、その確率分布の特徴をつかみ、将来のシナリオをその確率分布から客観的に算出しているところは同じである。

VAR法の特徴は、以下の3点である。第一に、異なったリスク要因の変動に対して共通の基準でリスクの算定が可能となっている。第二に、市場部門においてリスクと収益の関係を把握して明確な戦略がとれる。第三に、通常の市場環境間の下での最大損失の可能性を測定するものなので、想定外の場面に対するストレス・テストや危機管理体制の確立が必要である。

 

ALMの構築

ALMの手法

ALMは、手法面と組織面に分けて考えることができる。手法面では、前述のような方法論があり、リスク量の計測やリスク・コントロールを目的としている。実際の民間金融機関の現場におけるリスク量の計測については、①市場関係部門や調査部門などが中心となって将来金利を予想し、複数の金利シナリオを作成する。②資産・負債科目・約定期間などに応じて今後の平残推移を予想し、資金シナリオ(短期化・長期化)を作成する。③複数の金利シナリオ・資金シナリオに応じて、将来収益を計算するという手順で実践される。

また、リスクへの対応策では、以下の3つのヘッジ取引を中心として行われている。

  1. 変動金利化:融資の変動金利化は資産と負債の期間ミスマッチの調整に役立つ
  2. 円/円スワップ:例えば変動受・固定出であれば、一定期間変動金利に基づくキャッシュフロー・インがある代わりに、固定金利に基づくキャッシュフロー・アウトがあるという取引である。変動出・固定受では、負債の変動金利化も行うことができる
  3. ユーロ円金利先物・債券先物・金利オプション

ALMの運営においては、①金利予測に過度に重点を置かないこと、②収益の変動幅を変化させることが中心役割、③期間収支ベースかどうかなど収益概念のベースを明確にすること、④リスク・コントロール手法との整合性などについて、留意する必要がある。

 

スプレッド管理とALM

ALM手法として、金融機関全体のリスク計測とリスク・コントロール以外に本支店間の収益管理と関連づける考え方もある。その代表例が、スプレッド収益管理方式である。スプレッド収益管理とは、一件一件の与信・受信取引に対して、すべて個別に基準レート(営業店では本支店レート)とのスプレッドを計算して収益管理する方法である。

スプレッド収益管理のメリットは、営業店レベルの金利リスクは本部、信用リスクは営業店というように、リスクをアンバンドリング(分解)できることである。一方、デメリットは、営業店においては収益のみが目標とされることから、金利環境等によっては銀行全体の収益に何ら貢献しない金利リスクを増大させる恐れがあることである。

 

国際業務と総合的なリスク管理

ALM手法について、当局の検査やライバルの金融機関との横並び意識などから、実際に必要とするレベル以上のものを求めようとする傾向がある。特に、国際業務部門に関して、ドルなど円以外の通貨建てのALMを行っているのに対して、無理に国内業務部門の円貨建てALMと統合する必要性は必ずしもない。

 

ALMの組織

一般的な金融機関では、国内部門と国際部門に対応して、円貨ALMと外貨ALMがつくられていることが多いだろう。円貨ALM体制については、頭取または副頭取を委員長とするALM委員会が四半期ごとに開催され、その下部機関として担当役員を部会長とする金利予測部会・収益管理部会が毎月開催されている、というのが多い。また、外貨ALMについては、個別商品ごとの期日管理・ギャップにより金利リスクの管理が行われていることが多い。

こうした状況において、まず重要なのは、経営トップのALMへの理解である。少なくとも、ALMについて経営トップ、ALM担当部署、各部門責任者が毎月一回以上定期的に議論する場を設ける必要がある。また、その場では市場リスクに限定するほうが効果的であることが多い。さらに、例えば円/円スワップ取引の専担者の育成など、ALMによる金利リスクの管理体制の拡充に努めるべきである。

 

4 標準的な財務手法

財務手法の分析

ここでは、企業や金融機関がユーロ市場を中心に用いている標準的な財務手法を紹介する。最近の財務手法の発展は、企業の資金調達の変化に支えられてきた。世界的な金融緩和を背景として、相対的に金利が低い直接金融の比重が高まりつつある。そこで、資金調達の企業サイドは、低利の調達と金利リスクや為替リスクのコントロールが課題となっている。一方、金融機関はその要請に応えられるような技術の開発に取り組んでいる。

財務手法を大きく分類すると、以下の3つに分けられる。

  1. 株式・債券の高度化:株式、債券、ファシリティ(与信枠)
  2. オフバランス化:資産・負債の分離。財務比率の向上等が目的
  3. デリバティブ取引:スワップ、先物、オプション、その他。市場リスクのヘッジ等が目的

 

株式・債券の高度化

ユーロ市場では長期の安定的な資金調達でありながら、利払いはかつての短期金利並みとなるような資金調達手段(変動利付優先株など)や、債券の発行でありながら株式と同様に自己資本としても財務上認められるような資金調達手段(劣後債など)が財務戦略の中心を占めている。そのため、従来のような株式と社債といった区分も次第に不明確になってきている

 

株式の高度化

  1. 変動利付優先株:元本償還のない株式だが、配当が短期市場金利に連動して決まる優先株式
  2. マネーマーケットプリファードストック:変動利付優先株の配当レート決定について入札を行い、投資家の企業評価が反映されるようにして、投資家の意思に委ねた優先株式

 

債券の高度化

債券形態での資金調達手段はユーロ市場で主流となっている。株式への転換ができるもの(転換社債、分離型ワラント債など)とできないもの(アニュイティ債、変動利付債、ゼロクーポン債、デュアルカレンシー債など)に分けられるが、最近は両者を組み合わせたものが多数発行されている。

  1. ワラント債:一般的に普通社債に一定率の新株引受権がついている債券。発行体の株価に上昇期待感があれば、普通社債より低利の発行が可能になる。株式への転換が可能なものとして、新株引受権を分離させ流通することができる分離型ワラント債や、現地法人が親会社発行の既発ワラント債を保有して流通価格の低下をヘッジするために発行するカバーとワラント債がある。また、株式への転換権の代わりに一定期間後に再度発行される社債の引受権が付けられたデットワラント債や、債券の発行払込金を分割できる分割払込債もある
  2. アニュイティ債:元本と利子を同時に分割返済していくもの
  3. 変動利付債(FRN):一般にLIBOR(ロンドン銀行間調達レート)等の短期金利に一定のマージンを上乗せした形でクーポンが決定され、クーポンは利払い期ごとに異なる水準となる。高利の銀行借入の返済のため発行されるケースが多い。ミニマックスFRN(金利の変動幅の上下限をあらかじめ約定)、ミスマッチFRN(順イールドを前提)、オプションFRN(固定利付債や特定通貨建てへの転換が可能)、フリップスロップFRN(発行の一定期間経過後に投資家が償還を早める権利を有する)、永久債(利子だけ払い続けるが元本償還はない)などがある
  4. マルチプライヤー債:投資家に金利受け取りを現金で行うか、同条件の債券で行うかの選択権が用意されているもの
  5. ゼロクーポン債:クーポンのない割引債方式で発行される債券。投資家には満期時点で得られる償還差益がキャピタルゲインで得られる税務上のメリットがあり、発行者は割安な発行と内部留保の充実が可能
  6. デュアル・カレンシー債(二重通貨建債):償還金や利金を、発行時とは異なる通貨で支払うことが可能な債券。発行時とは異なる通貨で償還金を支払う(利金は発行通貨)債券をカレンシー・コンバージョン債という

 

ファシリティ

ファシリティ(与信枠)とは、発行者がユーロノート(ユーロ債)・CPなどの短期証券を発行する際に、金融機関が一定期間・一定金額の信用供与枠を設定し、その枠内で随時発行された短期証券は金融機関が必ず引き受けるという契約である。当座貸越契約に似ている。

代表的なものとしてNIF(Note Issuance Facility;証券発行信用供与枠)がある。発行者が短期証券を繰り返し発行するもので、若干の金利リスクはあるが実質的な中長期資金調達が可能になる。一方、金融機関にとっては、信用供与料として枠の総額に対し年率0.05〜0.25%程度の安定収入が確保できる上、短期貸し付けを行うことと同じ効果であるので金利リスクを回避することが容易となる。

 

オフバランス化

オフバランス化とは、金融機関や企業が総資産利益率等の財務比率を向上させるために、現行の資産あるいは負債を金融機関や企業本体から切り離してしまう財務手法である。

 

資産側の分離によるオフバランス化

資産側の分離によるオフバランス化の目的は資金調達である。資産を分離してバランスシートを軽くする方法としては、昔から所有不動産等の直接売却が行われてきたが、最近ではアセット・バック証券の発行や不動産投資信託(リート)など、様々な手法が開発されてきている。

  1. アセット・バック証券(ABS):企業が経常的に保有する小口の売掛金債券等をまとめて企業本体から切り離し、パス・スルー証券と呼ばれる一種の信託証書を発行することにより直接資金調達を図る手法。パス・スルー証券とは、債権プールの所有権は投資家に移るものの、ローンの元利金が原債権保有会社を通過して投資家に支払われることからそう呼ばれる。こうした動きは、モーゲージ(抵当権)の証券化などローンの証券化(セキュリタイゼーション)といわれている
  2. サブ・パーティシペーション:金融機関がローン債権の全部または一部を他の金融機関に譲渡する財務手法。アセット・バック証券との違いは、ローン債権を購入する金融機関に対する元利金支払保証がないこと
  3. 不動産投資信託(リート):1960年にアメリカで不動産投資促進のためつくられたもので、一般投資家の小口資金を集めて大型の不動産投資を行う仕組み
  4. レバレッジド・リース:投資家が借入を行い、リース債権の譲渡を受け、借入金利とリース物権の償却負担により課税所得の圧縮を図る。この課税上のメリットをリース会社、投資家、リースユーザー(企業)で分け合う仕組み。各種の資金運用・調達ニーズを持った企業を効率的に結びつける必要があるため、金融機関が仲介するケースが多い
  5. レバレッジド・バイアウト:アメリカで企業買収に用いられる資金調達方法。買収企業と被買収企業との間で買収について合意に達し、被買収企業の株式の買入あるいはパートナーシップの譲渡に必要な資金の調達を、被買収企業の資産価値を担保として行うもの

 

負債側の分離によるオフバランス化

負債側の分離によるオフバランス化の目的は支払い金利の軽減である。

  1. デフィーザンス(債務破棄):社債などの特定債務を持つ企業が金利水準の低下局面を捉えて、原債務を低利な新債務に乗り換えると同時に、オフバランス化を図る財務手法。仕組みは、社債など特定の負債の利払いおよび償還の原資として財務省証券を購入し、これを信託することにより当該信託財産および当該負債を両建てでオフバランス化し、当該負債が繰上げ償還されたのと同様の効果を上げる。制約はあるが財務・税務的にメリットがある
  2. デット・アサンプション(債務継承):デフィーザンス取引に為替変動・金利変動を絡ませることにより、過去に発行した外債を事実上繰り上げ償還し、為替差益を捻出する取引(財務諸表への注記は必要)

 

デリバティブ取引(スワップ取引)

スワップ取引

スワップとは、将来の一定期間にわたりキャッシュフローの交換を約束することにより、両者とも利益を享受できる仕組みである。交換されるキャッシュフローが同一通貨の場合は金利スワップ、異種通貨の場合は通貨スワップという。

 

金利スワップ

金利スワップとは、同一通貨間のキャッシュフローの交換である。固定金利の債務者(A社)と同じ通貨建ての変動金利の債務者(B社)とが、A社がB社に変動金利相当分のキャッシュフロー(例えばLIBOR-1/8%)を支払い、B社がA社に固定金利相当分のキャッシュフロー(例えば6%)を支払うように互いに相手の利払い部分を交換する契約を締結することにより、元の債権、債務関係には影響されず実質的に債務を交換できる。

スワップ取引参加者は、市場環境によっては、それぞれが相対的に有利に調達できる市場で資金調達を行い、両者の金利支払債務を交換することにより相互にメリットを享受できる。また、金利環境によって、資産や負債の金利感応度を変えたいと望む者にとって、金利スワップは便利である。さらに、変動金利と交換される固定金利の水準は、一般的な金利水準とりわけ国債金利と裁定があるので、金利スワップは債権ディーリングと同様の経済効果がある。

金利スワップ取引は、交換するキャッシュフローを現在価値で見ると等しくなる取引である。多くのキャッシュフローは、ゼロクーポン債の集合として表すことができるので、それらに代替する金融商品や金利情報があれば、複雑なキャッシュフローを構築することができる。例えば、元本部分についてはアモチゼーション・スワップ(期中に低減)やドローダウン・スワップ(期中に増額)、金利部分についてはゼロクーポン・スワップやベーシス・スワップなどがある。さらに、スワップを途中で解約することができる権利が付されているもの(キャンセラブル・スワップ)などもある。

 

通貨スワップ

通貨スワップとは、異種通貨間のキャッシュフローの交換である。一方の当事者が銀行である場合、外貨建て固定金利債務を持つ一般の企業にとっては、事実上長期先物為替予約を締結するのと同じ効果を持つ。長期先物為替予約との違いはヘッジが可能である点で、金利スワップとの違いは元本部分も交換されることになる点である。

 

先物取引

一般的に、先物取引とは、将来のある時点で一定の価格で売買することを現時点で契約する取引である。契約対象となる金融商品によって、金利先物、通貨先物、債券先物、株価指数先物などがある。先物取引の特徴は、以下の5点である。

  • 取引所取引であるため、相手方の信用リスクなどの調査・管理が不要
  • 取引商品・単位、受渡期日などの取引条件が定型化されているため流動性が高く、取引時間内であればいつでも取引が可能
  • 少額の証拠金で大きな取引ができ、レバレッジ効果が高い
  • ほとんど反対取引による差金決済があり、実際の受渡の必要がない
  • オフバランス取引

 

金利先物取引

金利先物取引とは、預金金利など金利を、将来のある時点で一定の価格で売買することを現時点で契約する取引である。資産と負債との間にミスマッチがあり、金利リスクがある場合、そのヘッジ手段として有効である。例えば、望ましいと考える水準より資産が100億円上回っていた場合、金利低下時のリスクがある。このリスクは、金利先物市場で100億円のギャップに見合う金利先物を買い建て、1ヶ月後に売り建て差金決済すれば1ヶ月分ヘッジで切る。

 

通貨先物取引など

通貨先物取引とは、特定の通貨の一定金額を、将来のある時点で一定の価格で売買することを現時点で契約する取引である。通貨先物取引の誕生のきっかけはニクソンショック(変動相場制への移行)である。通貨先物取引の機能は、為替先物予約と同様に、為替リスクのヘッジである。また、株価や商品価格についての先物取引もある。

 

オプション取引

オプション取引は、ある商品について、特定期日に(または特定期日までに)あらかじめ定められた価格で、買う(または売る)権利の取引である。買う権利の取引をコールオプション、売る権利の取引をプットオプションという。オプション取引は取引所取引に限らず、店頭取引もある。

オプション取引は「権利」の取引なので、スワップや先物取引のように双方の契約者が義務を負うわけではない。また、オプションの保有者が一方的に権利を持つため、その対価(プレミアム)を発行者に支払う必要がある。

 

金利オプション取引

金利オプション取引とは、金利についての選択権取引であり、金利オプションの購入者は、将来において一定の金利水準(上限=キャップ、下限=フロアー)で調達または運用できる権利を取得し、売付者はそれに応じる義務が生じるものである。

具体的には、キャップでは購入者が売付者にプレミアム(キャップ料、例えば想定元本の0.3%)を支払う代わりに、キャップ期間の各期日において対象金利が一定の水準(キャップ、例えばLIBOR=5%)より高い場合に、それらの金利差分を売付者から受け取ることができる(金利上昇のリスク軽減)。反対に、フロアーは金利低下のリスクを軽減することができる。

金利オプションに似たものとして、債券オプションがある。債券オプションとは、ある債券について、特定の期日(または特定の期日まで)にあらかじめ定められた価格(行使価格)で、買う(または売る)権利の取引である。日本では、一般的な有価証券の店頭取引に一定の条件を加味して、オプション取引の効果を生み出している(選択権付債券売買取引)。

債券オプションの取引手法として、単純売買から複合戦略(単純売買の組み合わせ)、さらに現物債券取引と関係させたカバード・コール(売買予定価格を行使価格とするコールを売ること)やターゲット・バイイング(売買予定価格を行使価格とするプットを売ること)などがある。

また、金利オプションは複数の金利オプションの集合といえる。前述の標準的なキャップやフロアーは、行使価格が同一で行使価格が同一で行使期間の異なる複数のオプションの集合体と考えられる。すなわち、金利オプションは対象金利の変更(短プラ・キャップ、長プラ・フロート・キャップ)、オプションの交換・変更(スワップションとの組み合わせ、アジャスタブル・キャップ、ノックアウト・キャップ)、選択権の付与(キャンセラブル・キャップ)によって変形することができる。

 

通貨オプションなど

通貨オプション取引とは、為替取引についての選択権取引であり、通貨オプションの購入者は、将来において、一定の為替水準で為替取引できる権利を取得し、売付者はそれに応じる義務が生じるものである。

例えば、ドルコールの買いとは「ドルを一定時期(1ヶ月)後に一定価格(1ドル=100円など)で買う権利」を買うことである。これは、輸入業者が、一定期間後に支払わなければならないドル建て輸入代金について、ヘッジするときに利用される。逆に、ドルコールの売りは、一定期間後に支払わなければならないドル建ての輸入代金を用意している輸入企業が、為替リスクを持つものの有利運用に利用できる。

 

最後に

リスクには純粋リスクと投機リスクがあるが、ALMの対象は特に後者の市場リスクと流動性リスクである。ALM手法(ギャップ法、デュレーション法、シミュレーション法、VAR法など)の目的は、金融機関全体のリスク計測、リスク・コントロール、本支店間の収益管理である。標準的な財務手法は、株式・債券の高度化(株式、債券、ファシリティ)、オフバランス化(資産・負債の分離)、デリバティブ取引(スワップ、先物、オプション)の3つである。金融技術の目的はリスク管理と相互利得

次回は、5つのデータと5つの分析でリスクを制御せよ ALMシステムの構築についてまとめる。


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