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アラナ・シェイク 「私はいかにしてアルツハイマー病になる準備をしているか」

「私の父はアルツハイマー病です」シェイクは淡々と語りかける。現在世界には認知症を抱えた人が3500万人おり、2030年には7000万人になる予測だ。ここでは35万ビューを超えるAlanna ShaikhのTEDでの講演を訳し、アルツハイマー病になる準備を学ぶ。

要約

自分の親がアルツハイマー病を患う姿を目の当たりにすると、私たちの多くは「自分だけは別」という否定か、過剰な予防のための努力という反応を示します。しかし、世界保健の専門家でTEDフェローのアラナ・シェイクはこの問題を別の視点から見ています。彼女は自分が(やがては訪れる)アルツハイマー病になったときに備えて、3つの具体的な準備をしています。

Global development expert Alanna Shaikh takes on the toughest of health issues—from the ones affecting the globe at large to the ones hurting her own family.

 

1 私の父はアルツハイマー病です

私の父について話したいと思います。父はアルツハイマー病です。症状は12年位前に表れ 2005年に正式にアルツハイマー病と診断されました。現在 父の病状はだいぶ悪化しています。食事や着替えに介助を要し自分がどこにいて 今何時か分かりません。それはひどくつらいことです。父は私にとってヒーローであり、人生の助言者でもありました。過去10年間 私はそんな父の面影が消えていくのを見守ってきました。

 

2 認知症に対する3つの反応

父だけではありません。世界には認知症を抱えた人が3500万人います。2030年にはその数は倍の7000万人になると予測されています。大変な数です。私たちは認知症を恐れています。症状である困惑した表情や手の震え ― 増える患者数に 私たちは恐怖感を抱きます。その恐怖心ゆえに私たちは認知症に対して次のいずれかの反応を示しがちです。一つは否定です。「私には関係ないそんなことが自分に起こるはずがない」。もう一つの反応は予防です。「あらゆる予防策をとっているから自分はアルツハイマー病にはならないはずだ」。私は第三の道を行こうとしています。「アルツハイマー病になる準備を 今からしておこう」

 

3 100%予防する方法はない

予防自体は良いことです。私自身も予防のために色々なことをしています。適切な食事 適度な運動物事に対して前向きであること ― 研究の結果 予防策として勧められていることです。ただ100%予防する方法がないことも研究から明らかです。アルツハイマー病に狙われたら逃げる術はないのです。父に起こったことがまさにそれでした。父は2カ国語を話す大学教授で 趣味はチェス ブリッジ 新聞にコラムを書くことでした (笑)。それでも 父は認知症になりました。この怪物に狙われたら逃げられないのです。私は特に逃れられません。この病は遺伝する傾向があるためです。という訳でアルツハイマー病になる準備を始めたのです。

 

4 趣味を変えること

父の介護や認知症と共に生きるとは ― どういうことか調査することを通して3つの準備をすることにしました。趣味を変えること 体力をつけること ― そして 難しいことですが より良い人間になることです。まず趣味から話しましょう認知症になると次第に楽しみが減ります。古い友人のことも分からなくなるので、彼らと長い時間話すことも難しくなります。テレビを見ても混乱するだけで、しばしば恐怖すら伴います。 読書にいたっては全く不可能です。認知症の介護をする人に向けた訓練では ― 慣れ親しんだ 継続できる手作業を患者に与えることを学びます。父の場合 書類作成がそのような手作業でした。父は州立大学の教授だったので書類仕事がどんなものか知っています。だから下線を見れば全て署名し、ボックスには全部チェックを付け ― 必要と思う所に番号を振るのです。そんな父を見て思いました。私を介護する人はどうするだろう? 娘の私も 国際保健学について大いに読み 書き 考えてきました。だから 余白に書き込めるように学術誌でもくれるのでしょうか?それとも塗り絵ができるようグラフや図表をくれるのでしょうか?そういう訳にもいかないでしょうから、手を使う作業をするよう努めています。元々絵を描くのが好きなので下手くそですが 沢山描くようにしています。折り紙もやってます。きれいな箱をつくることもできるんです。編み物も独学でやってます。まだ毛糸の塊のようなものしか編めませんが(笑)

 

5 体力をつけること

ただ 重要なのは上手かどうかよりも手がやり方を覚えているかどうかです。手が覚えていることが沢山あれば 脳の働きが衰えても楽しんで熱中できるのです。何かすることがある人はハッピーで ー そうした人のケアはより容易で病気の進行も遅いと言われています。これは大変重要なことのように思えます。私はできるだけ長い間ハッピーでありたいと願っています。アルツハイマー病には認知的症状だけでなく 身体症状があることを多くの人は知りません。平衡感覚を失い 筋肉が震える結果動きが少なくなります。歩き回ることや動くことが怖くなるのです。だから私は平衡感覚を鍛える運動をしています。平衡感覚が多少衰えても動くことができるように ヨガや太極拳をやっています。また 少し筋力が落ちても動けるように、自分の体重を負荷とする運動もやっています。

 

6 よりよい人間になること

最後に第3の点です。私はより良い人間になろうと努めています。父は親切で 誰からも愛される人物です。病気になる前からずっと変わりません。私は父が知性 ユーモア 言語能力を失うのを見てきましたが、同時に ― 父が 私や私の息子たち私の兄弟 母 介護してくれる人達を 変わらず愛してくれることも見てきました。その愛情こそが 現在の非常に困難な状況においても私たちを父の周りに ー 繋ぎ止めているものなのです。この世で学んだ全てを奪い去られても 父の心の輝きが消えることはありません。私は父ほど人に優しくもないし愛される人間でもありませんでした。しかし今 私は父のようにありたいと強く感じています。認知症によって飾りが奪われてもなお 輝きを失わない美しい心を持ちたいと強く願っています。

 

7 怪物に狙われても私には準備ができている

アルツハイマー病になりたいわけではありません。私に間に合うように 20年以内に治療薬が開発されればと思います。ただ この怪物に狙われても私には準備ができているのです。ありがとうございました。

 

最後に

筆者の祖母も認知症だ。老人保健施設に入所しており、母がほぼ毎日付き添いに行っている。同じ話を繰り返すのはもちろん、調子が悪いときには「寒い寒い」と繰り返すだけのときもある。それでも、親戚・知り合いが協力して、支えている。月曜日の連想—情報の濃さ、認知症介護、そして遺書でも書いたように、身内の介護は感情が揺さぶられる。母がいなかったら、親戚が助け合っていなかったら、どうなっていたんだろう。ある程度のお金の余裕がなければ、どうなっていたんだろう。今後は私自身が、支え合うしくみを作っていかなければならない。

祖父はまだ認知症とは言えない。しかし、足腰は確実に衰えてきている。すり足のように歩いており、家の少しの段差でも転びそうだ。趣味の料理も難しくなってきており、畑仕事も以前のようにはできていない。それでも、毎日欠かさずチェックしていることがある。株価だ。老眼鏡と虫眼鏡を駆使して、新聞の細かな株価の数字を懸命に見ている。正直「今はネットでPER(株価収益率)でもROA(総資産利益率)でも簡単に見れるよ」と言いたくなる。でも、言わない。たぶんそれが祖父の生きがいになっているからだ。自分のお金でやってるんだから、借金してやってるわけじゃないんだから、あれこれ口を挟みたくない。そこに損得はない。

人生は短い。改めて思う。腹を括ると、大切なこと、大切な人、大切なものは、とても少なくなる。情熱を持って打ち込めること(仕事)をし、誠実に生きること。パートナー、家族、友人、同志。そして、最低限の衣食住。これらがあれば、何も怖くない。@May_Roma女史の言う「傭兵」になるために、来年も精進するのみ。

和訳してくださったNobuya Fukugawa氏、レビューしてくださったKazunori Akashi氏に感謝する。

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