前回は、払うのか取られるのか、税金についてまとめた。ここでは、なにがアメリカをそうさせるとしてアメリカ経済について解説する。
1 「世界の公共財」としてのアメリカ
アメリカには世界の秩序や平和を維持するという「世界の警察」としての使命感があるといわれる。それはアメリカという国自身の成り立ちが関係していると考えられる。今までの共同体(特にイギリス)と異なるもの「ニューワールド」を作るんだ、という認識である。
カトリックとプロテスタントという2つの宗教の対立というしがらみの中から、プロテスタントたちは自由の地を求めてアメリカに渡った。他の国が犯している過ちを正すためにこの国はあるという「世界の公共財」だという認識がある。ただし、湾岸戦争での反対運動もあるなど、その意識は薄れてきている。
しかし、アメリカは世界に影響力を行使したいという本音もある。湾岸戦争のときにクルド人がイラクの中で独立しようとした。敵国であるイラクの正規軍から迫害を受けていたクルド族が独立しようとしたのだから、アメリカの立場からいうと助けるのが当然である。中国でのチベット人たちの独立についても介入していない。それは、アメリカが多民族国家であり、大国であることを維持したいからである。その意味で大国とはどこも二枚舌だといえる。
また、アメリカは国内政治の中に既に外交の要素が入っている。州がそれぞれの憲法を持っているため、州と州の間で日米間で見られるようなトラブルが多くあった。そのため、それをいかに統合して共通のルールを作るかといったことを19世紀から行っているのである。
さらに、アメリカには最近まで開拓をしていた歴史を持つ。そのため、早い者勝ちといった競争の理念が刷り込まれている。歴史学者ターナーの「アメリカ社会におけるフロンティアの意義」という論文に書かれているように、フロンティアがあるときのインセンティブの作り方がアメリカはとてもうまいのである。
2 アメリカがスピード優先の国になった理由
先にやったもの勝ちという考え方をデファクト・スタンダード(事実上の標準)という。これはどちらが優れているかという競争ではなく、どちらが先に市場を制したかの競争である。例えば、VHSとベータの争いはレンタルビデオ店の本数がVHSの方が多かった(市場を制した)ことで、VHSに軍配が上がった。ウィンドウズとマックの競争も同じである。
3 フロンティアの喪失と再生
フロンティアは人口密度で測られる。そのため人口密度が低いところがいなくなったという意味で、現在のアメリカにはフロンティアはなくなったといわれる。そのフロンティアを象徴するものがトランスパシフィック鉄道(大陸横断鉄道)だった。
1900年代の最初の20年間を「変革の時代」と呼んでいる。原始的な資本主義が行き詰まり、都市の荒廃などが進んだからである。その対策として、ルーズベルトやウィルソンが労働者の最低賃金の保証や独占禁止法を作り出した。そして、ケネディの時代から共産主義の拡大を防ぐという目的で、フロンティアを世界に求め始めた。
また、1970年代のオイルショックの影響も大きかった。自動車産業が打撃を受けたが、それに対応するために航空業の規制緩和などを行い、90年代に効果が出ている。
アメリカで経済を語るときは、人間を欲望の塊として想定する。ホモ・エコノミクスと言われ、感情も愛情も何もない損得のみを考えるものとして議論を精緻化してきた。
反面その反省として複雑系という考え方が出てきた。人間を全体としてとらえるもので、物事を複雑なものとして捉えるのである。これは論理学における「人間が考えることは抽象化することである」に対するアンチテーゼである。
4 アメリカに「産業」という言葉はない!?
アメリカには「産業」という言葉はない。あるのはマーケットと企業だけである。貿易や商業という概念はあるが、産業(インダストリー)と名のつく役所はない。
これは「競争力」という概念にも対応する。すなわち、日本だと競争力をつけさせようと思ったら、政府は補助を与えて強くする。しかし、アメリカで競争力をつけさせる方法は、競争させるだけである。
また、「業界団体」もアメリカにはほとんどない。業界という言葉は大部分が国家総動員法によって作られており、その目的は統制することである。つまり、業界とは競争と相容れない概念である。
さらに、「構造」という概念もアメリカにはあまりない。日本の場合、「構造改革」といった政府が規制緩和とか1つの社会の構造を作っているからこれを改革しよう、という概念がある。日本は内に対しておせっかいなのである。
5 アメリカは本当に使い捨ての国か
アメリカには多くの民族がいるため、どんな言語でも対応できるようなピクトグラフなどのシンボルが発達している。また、文房具屋には多種多様な商品が並べられているが、それでも国内に多くの消費者がいるため採算が合う。
アメリカは大量生産・大量消費というイメージがあるが、耐久消費財などはとても大切に使う。テレビや家具は徹底して修理して使うか、中古市場に出すのである。
6 アメリカを構成する3つのDNA
アメリカを構成する3つのDNAは、ニューワールド、多様性、フロンティアといえる。アメリカがニューワールドであったために、移民の受け入れや労働力としての奴隷の受け入れが活発に行われてきた。また、競争によって多様なサービスを生み出してきた。フロンティアを国内外に積極的に見つけ出すことで、さらなる発展を続けているのである。
最後に
アメリカを象徴するキーワードは、ニューワールド、多様性、フロンティアの3つである。これらを最大限に活用することで、現在に至る発展を続けている。歴史を学ぶことは国の本質を理解すること。国の未来を推測し、感じ取る力をつけるためにも、各国の歴史について学ぶことが必要である。
次回は、お金が国境をなくすとして円・ドル・ユーロについて解説する。
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