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デボラ・ゴードン 脳や癌細胞とインターネット アリ達が教えてくれる事

「アリ同士のやりとりは環境の違いで異なった使われ方になります。しかもそれは集中制御システムなしで行われているのです」ゴードンは語りかける。ここでは、95万ビューを超える Deborah Gordon のTED講演を訳し、アリの生態が私たちの病気や脳、テクノロジーについて教えてくれることについて理解する。

要約

生態学者のデボラ・ゴードンは砂漠や熱帯地方や彼女のキッチンなど、いたる所でアリを観察しています。この魅力的なトークの中で彼女は、私達のほとんどが何も考えずに追い払っている昆虫について、彼女が取りつかれている訳を説明してくれます。彼女は、アリの生態が私達の病気やテクノロジー、人間の脳についても学ぶ事があるのだと主張します。

By studying how ant colonies work without any one leader, Deborah Gordon has identified striking similarities in how ant colonies, brains, cells and computer networks regulate themselves.

 

1 アリ同士のやりとりは環境の違いで異なった使われ方になる

私はアリを研究しています。砂漠や 熱帯林の中のアリや 我が家のキッチンや 私の住むシリコンバレー周辺の丘でも アリを調べています。最近 私は ある事に気がつきました。アリ同士の「やりとり」は環境の違いで 異なった使われ方になるということです。また この事から 他のシステムについて 学ぶ事があるのではと考えました。例えば 脳の仕組みや 私達が設計するデータネットワークや― 癌についてでさえもです。

 

2 アリにとって重要なのは他のアリに出会う頻度

これら全てのシステムには 中央司令塔はないのです。アリのコロニーは 生殖機能が無いメスの働きアリ ― 皆さんが歩いている所を 見かけるアリと 最低1匹の生殖を行うメスで 成り立っています。このメスはひたすら卵を産むだけで 誰にも指示を与えません。「女王アリ」という名にもかかわらず― なんら命令を出すわけではありません。つまり コロニーに リーダーはおらず この類の集中制御機能の無い システムは全て とても簡単な「やりとり」によって 制御されています。アリ同士のやりとりには 匂いが使われます。触角でにおいを感じ取り 触角でコミュニケーションを取り合います。アリ同士は触角を お互いに触れ合う事で 相手が同じ巣の仲間なのか 確認したり 相手の行動を知ることができます。これは研究用アリーナです。沢山のアリが動き回り 相互に関わっています。他の2つのアリーナと チューブで つながっています。アリ同士が接触する際には 相手が誰かに関わらず 複雑な信号や メッセージのやりとりは 全く行っていません。アリにとって重要なのは 他のアリに出会う頻度なんです。そして このような出会いを総合して ネットワークを 構成しています。これが アリの出会いの 相互作用が創る アリーナの内部のネットワークです。この絶えず変化するネットワークは コロニー全体の行動となって現れます。全てのアリが巣内に籠もるとか 何匹が 収穫に出るかなどを 決めているのです。実は 脳も同じように機能していますが アリの良いところは ネットワーク全体をリアルタイムで 観察出来る事です。

 

3 収穫に向かうアリは戻ってくるアリとのやりとりが十分でなければ巣から出ない

アリはあらゆる環境下に生息し 12,000種にものぼります。それぞれの異なった 環境の問題に対応する為に― 「やりとり」を様々な形で利用しています。まず どのシステムもが直面する 環境上の課題は システムの維持に必要な 「運転コスト」です。もう1つの環境上の 課題は「資源」です。「資源」を見つけ出し 集めるという事です。砂漠では 水が乏しい為 システム運用コストは 高くなります。私が砂漠で観察した 植物の種を食べるアリは 水を得るために 水を消費しなければなりません。巣の外で収穫活動をしているアリは 灼熱の太陽に照らされている為に 体内の水分が蒸発してしまうからです。でも コロニーは種に含まれる 脂肪を代謝することにより 水を得ています。このような環境下では アリ間のやりとりが 収穫行動を促進させます。収穫に向かうアリは 戻ってくるアリとの やりとりが十分でなければ 巣から出ません。これは 収穫を終えたアリの隊列が 巣に戻るためにトンネルを 通過する様子ですが 収穫に向かうアリたちと 接触し合っています。これは理にかなっています。沢山の餌があれば あるほど それを見つける時間が短くなるので 出たアリがすぐに戻り より沢山のアリを 送り出す仕組みになっています。これは通常止まっていて 好条件下でのみ稼動するシステムです。

 

4 コロニーによってトレードオフの管理に差がある

アリ間のやりとりが 収穫活動を促進するのです。私達は このシステムの 進化についても研究しています。まず コロニーによる 微妙な違いに注目しました。乾燥時に収穫活動を 減らすコロニーもあります。つまり コロニーによって トレードオフの管理 つまり どれだけ 水分を消費して種を探し 見返りに種から水分を得るかの 管理に差があるのです。私たちは 収穫活動を減らす― コロニーが存在する訳を アリをニューロン(神経細胞)に見立てて 神経科学のモデルから 理解しようとしています。神経細胞が 外部からの刺激を加算して 発火するかを決めるように アリも 他のアリとの やりとりの量を加算して 収穫を行うか 決めています。ですので コロニーによる 微妙な違い― それぞれのアリが 収穫に向かうのに必要な― やりとりの量に差があって それが コロニーの収穫活動の減少に つながるのかを模索しています。これは 脳に対しても 同様な疑問を投げかけます。よく 脳について話をしますが もちろん それぞれの脳も微妙に違い それぞれの性質や それぞれの状況によって ニューロンの電気的特性等に 違いが生じ 発火に より多量の刺激が 必要になり その差が脳の機能の 違いに繋がるかもしれません。

 

5 子孫と親コロニーは収穫に出るか否かの判断が似ている

進化の過程を知る為には 繁殖に成功しているかどうか 知る必要があります。これは私が28年間 アリ数の追跡調査を行ってきた地域の 収穫アリのコロニーの地図です。この年数は コロニーの寿命とほぼ同じです。各シンボルは コロニー 大きさは 子孫の数を表しています。遺伝子の情報を利用して 親と子孫をマッチさせ どのコロニーが 2世代目女王アリによって― 設けられたのか 更には どの親コロニーの 出身なのか解明しました。そして長年の調査の末 驚きの事実が判明しました。例えば この154番のコロニーは 私が 長年調査しているのですが 第一世代の 親コロニーです。これが 娘のコロニーで これが 孫のコロニーです。そして これらは ひ孫世代のコロニーになります。この調査によって 解った事は 子孫と親コロニーは どのくらい暑ければ収穫に出ないかの 判断が似ています。この子孫のコロニーは 親コロニーとは 決して出会うことの無いほど 離れているので 子孫コロニーのアリは 親コロニーから この知識を教わったはずはありません。ですから 次のステップは この相似を生み出す 遺伝子の違いを探す事です。

 

6 自然な動物群の集団行動が進化する過程の追跡調査

そこから どのアリが 繁栄しているかを 探ることもできます。これまでの研究の中で 特にこの10年間は 南西部アメリカでは 厳しい干ばつに襲われていますが 水を節約するために 猛暑の日は 巣の中に留まり 最大限の収穫を犠牲にするコロニーが より’多くの子孫を残す事が解りました。それまで 154番のコロニーは 「負け組」だと考えていました。特に乾燥した日には収穫をほとんどせず その間 他のコロニーは収穫に出て 沢山の餌を手に入れていたからです。しかし 154番コロニーは 沢山の子孫を残しました。彼女は偉大な女王です。この場所で稀な 3世代のコロニーを築き上げました。私の知る限り 初めてではないでしょうか。自然な動物群の集団行動が 進化する過程を追跡調査して どの行動によって いちばん繁栄するのかを 明らかにしました。

 

7 収穫アリが餌集めに送り出す個体数を制御する仕組み「anternet」

インターネットは データの流れの制御に アルゴリズムを使用していますが この仕組みは 収穫アリが 餌集めに送り出す個体数を 制御する仕組みによく似ています。この類似を なんと呼んでいるか ご存知ですか? 「anternet (アンターネット)」です (拍手) データの伝送路容量が 十分に確保されているという 信号を受けるまで 発信元コンピュータはデータを 送出しません。インターネット初期は 運用コストは非常に高く データを紛失しない事が 極めて重要だったので システムは信号のやりとりによって データ送信を開始するように 設計されました。アリが使用するアルゴリズムと 近年発明されたシステムの酷似は 興味深いものがあります。しかし それは私達が知っている 一握りのアリのアルゴリズムの ほんの1つに過ぎません。一方 アリ達は1億3千万年の過程で 素晴らしいものを 数多く進化させてきました。ですから 他の12,000種の アルゴリズムの中には 私達が考え付かなかった データネットワークに関しての 役立つヒントが あるに違いありません。

 

8 運用コストが低い場合は不都合が発生しない限り止めない

では 運用コストが 低い場合はどうでしょう? 熱帯地方では 運用コストは下がります。なぜなら 多湿の為に 巣外での作業が アリの負担にならないからです。しかし 熱帯地方では アリの数が多く 種類も多く存在しますので 沢山の競争があります。ある種が使っている資源は 別の種のアリも同時に 狙っているかもしれません。ですので この環境では 「やりとり」は 逆の目的で使われます。これは常に「オン」のシステムで 不都合がある場合のみ ストップします。私が観察したアリの1種は 木の幹や枝に収穫アリが経路を形成し 巣と餌場との往復を 何回も繰り返します。不都合が発生しない限り — 例えば 他の種のアリと 出くわしたりしない限り やめません。アリのセキュリティの1例を お見せしましょう。中央部で 1匹のアリが 自らの頭で巣の入口を塞いでいますが これは他の種に出くわした結果です。相手は 腹部を上に曲げて 動き回っているアリです。脅威が去るとすぐに 入口は 開けられます。コンピュータのセキュリティでも 状況によって 運用コストが安い場合には 直面する脅威に対して 一時的に対応して 接続をブロックし 再度 接続を開始する方が 恒久的なファイアウォールや フォートレスを築くよりも 効率的かもしれません。

 

9 「資源」を見つけ、集めるための集団探索

さて もう1つの環境問題 全てのシステムにおいて 必要なのが 「資源」です。「資源」を見つけ 集める事です。アリは この問題の解決に 集団探索を行っています。この行為は 現在ロボット工学で 注目されている問題です。なぜなら 例えばですが 他の星の探査や 火災のビルの捜索などに 洗練された高価な ロボットを1台使用するより 最小限の情報を交換する 安価なロボットを複数使った方が 効率的だと考えられていますが これは まさにアリのやり方と同じなのです。侵略的な アルゼンチンアリは 拡張可能なサーチ網を形成します。このアリは 集団探索の重大な課題に 上手く対応しています。徹底的に探索するか 広い面積を探索するかの トレードオフの問題に対して このアリのやり方は 狭い面積に沢山のアリがいる場合 それぞれが 自分の周りを徹底的に探索します。なぜならその周辺は他のアリが すでに探索を行っているからです。しかし より大きな範囲で 数匹のアリしかいない場合は 遠くまで出向いて 捜索範囲を広げる必要があります。アリ同士はやりとりから 密度を評価していると思います。非常に密な状況では 仲間に頻繁に出会うので より 徹底的な捜索を行うのです。それぞれの種のアリに 様々なアルゴリズムがあるはずです。なぜなら どのアリも色々な環境に 対応しながら進化してきたからです。これを学ぶことは非常に役立つと考え アリに 極限の環境で 集団捜索の問題を 解いてもらうことにしました。国際宇宙ステーション内の 微小重力環境での実験です。最初に写真を見た時は 「うわっ アリの箱が垂直になっている!」 と思いましたが その後 「そうか 問題無いんだ」と 気付きました。実験の目的は アリ達は― 壁面や床面に あたる場所へ しがみつくのに必死で やりとりをする機会が減り アリの密度と アリ同士が接触する頻度の関係が めちゃくちゃになるか というものです。まだ データは分析中ですので 結果は解りませんが 地球上でも 異なった環境で 様々な種の問題の解決方法を 知ることは 興味深い事です。ですので 私達は 世界中の子どもたちに 色々な種のアリで この実験にトライしてもらう計画を 立てています。非常に簡単で― 安価な材料で実験ができるので 世界中のアリの集団捜索に関する アルゴリズム・マップも作成出来るかもしれません。侵略的な種で建物の中に 侵入するタイプのものには 素晴らしいアルゴリズムがあるでしょう。台所にまで入って来て 食糧や水をうまく探し出すのですから。

 

10 癌細胞が仲間を集める仕組みを解明できれば治療に役立つ

アリがよく集まってくるのが ピクニックです。これは まとまった資源です。果物を見つけたら そのすぐ側にも 果物があるはずですから まとまった食糧に 特化している種のアリは 「やりとり」を 仲間の召集に使います。ですから 他のアリや 地面に残された匂いに 出会った場合 アリは方向転換をして やりとりの方に向かいます。このようにして ピクニックの食べ物に アリの行列がやってくるわけです。この状況から癌について 何か学べるかもしれません。もちろん 癌予防のためには 私たちの体内で 癌の発生を促進する 有害物質の拡散や売買の禁止も 大切な事ですが これは アリから学ぶ事はできません。アリは自らコロニーを 有害物質で汚染しませんから。でも癌の治療法については 学ぶ事があるかもしれません。癌にも 沢山の種類があります。それぞれの癌は体内の 決まった場所で発生し その中のいくつかは 広がって 癌細胞が必要とする 資源を得られる細胞へ転移します。ですので 早期の 転移性がん細胞が 必要とする資源を 探し回っているとき まとまった資源をみつけたら 仲間を招集する やりとりをするかもしれません。もし 癌細胞が仲間を集める仕組みを 解明出来れば 罠を仕掛け― 癌細胞が定着する前に 捕えられるかもしれません

 

11 アリから「集中制御機能の無いシステム」について学ぼう

アリは 様々な環境の中 様々な方法で 「やりとり」を利用しています。私達はこれらの やりとりから 他の「集中制御機能の無いシステム」― についても学ぶ事が出来ます。単純なやりとりを利用するのみで アリのコロニーは驚くべき偉業を 1億3千万年以上成し遂げてきました。私達はアリからまだまだ学ぶ事があるのです。ありがとう(拍手)

最後に

アリ同士のやりとりは環境の違いで異なった使われ方になる。アリにとって重要なのは他のアリに出会う頻度。収穫に向かうアリは戻ってくるアリとのやりとりが十分でなければ巣から出ない。コロニーによってトレードオフの管理に差がある。子孫と親コロニーは収穫に出るか否かの判断が似ている。収穫アリが餌集めに送り出す個体数を制御する仕組み「anternet」。運用コストが低い場合は不都合が発生しない限り止めない。アリから「集中制御機能の無いシステム」について学ぼう

和訳してくださった Takeshi Maeda 氏、レビューしてくださった Akiko Hicks 氏に感謝する(2014年3月)。

アリはなぜ、ちゃんと働くのか―管理者なき行動パタンの不思議に迫る (新潮OH!文庫)


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