前回は、シンプルなオプション・プレミアム計算法 ブラック=ショールズ式についてまとめた。ここでは、場所、構成、受渡日、受渡確率の違いの利用 サヤ取りのタイプと条件について解説する。
資産運用の効率は高まるか?
金融工学の発展で資産運用の効率が高まるかは疑問である。実際に、ヘッジ・ファンドの資産運用の成果を見ても、収益率を高めるにはリスクを大きく取るしかないのは明らかである。たしかにポートフォリオ理論の活用で低収益でリスクの大きいものは避けることはできるかもしれないが、むしろそれ徹底されると株価変動パターンが一緒になるためリスクが分散されにくくなるのだ。
サヤ取りこそ金融工学の本質
サヤ取りこそが金融工学の本質であることは、本質は収益のバラツキとリスクを小さくすること ポートフォリオ理論やシンプルなオプション・プレミアム計算法 ブラック=ショールズ式で指摘した。しかし、このサヤ取りを徹底したLTCMというヘッジ・ファンドは巨額の損失を出して破綻した。
サヤ取りは以下の4つの項目の違いを利用したものに分けられる。①場所、②構成、③受渡日、④受渡確率である。①は場所を移動させればいいし、②は構成を変えてコピーを作ればよい(ポートフォリオ)。③は資金を貸し借りしてコピーを作ればいいし(現物取引と先物取引)、④は確率に合わせて売買してコピーを作ればよい(オプション取引)。
また、サヤ取りのメリットは、株価が上がっても下がっても儲けられることである。ただし、サヤ取りの成否は、①本物とコピーの価値に今は差があり(金融市場の間違い)、②その差がやがて縮まる(他の人が気づく)という条件が必要である。
金融技術開発競争のコストと利益
金融工学の発展を金儲けに結びつけるためには、常に他人よりも一歩先に進んでいる必要がある。つまり、金融技術開発競争を永遠に行う必要があり、そのコストと利益のバランスを見極めなければならないのだ。
「厚底サンダル」のジレンマ
金融工学の発展も、もはやコストが利益を上回る開発競争の段階に入っている可能性がある。この例として「厚底サンダル」のジレンマがある。厚底サンダルは、ある程度の高さまでならスタイルがよく見えるなどのメリットが大きい。しかし、底が高くなればなるほど転倒の危険性などのデメリット(コスト)が大きくなってしまう。しかも、多くの人が厚底サンダルを履くようになると目立たなくなり、それほどメリットがなくなってしまうのだ。金融工学にも当てはまる話ではないだろうか。
最後に
サヤ取りは、①場所、②構成、③受渡日、④受渡確率の違いを利用した4つのタイプがある。サヤ取りの成否は、①本物とコピーの価値に今は差があり、②その差がやがて縮まるという条件が必要。金融工学の発展は厚底サンダルのジレンマに似ている。
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