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デビッド・バーン いかにして建築が音楽を進化させたか

「会場が音楽を作るのでしょうか?」デビッドは語りかける。ここでは、100万ビューを超える David Byrne のTED講演を訳し、いかにして建築が音楽を進化させたかを理解する。

要約

CBGBからカーネギー・ホールまで―キャリアの広がりにつれデビッド・バーンはさまざまな場所で演奏してきました。会場が音楽を作るのでしょうか?野外ドラムからワグナーオペラ、アリーナロックまで、いかに音楽のおかれた環境が音楽自体を進化させていったかを探っていきます。

David Byrne builds an idiosyncratic world of music, art, writing and film.

 

1 若い頃自作の曲を初めて演奏した場所

このライブハウスは 私が若い頃 自作の曲を 初めて演奏した場所です。とても音響効果の いい会場でした。壁は全部デコボコで ゴミだらけなんだけど 音は非常に良かったです。この曲は そこで録られたものです (音楽) まあこの写真はトーキング・ヘッズ じゃないんだけど (曲:クリーンブレイク 作:トーキング・ヘッズ) あの場所では 言葉が良く聞き取れて 歌詞もよく理解してもらえた。サウンドシステムもそこそこで 残響音もあまりなかった。なのでリズムも ちゃんと正確に聴こえ きっちり演奏できました。他の地域にも似たような場所があります。これはナッシュビルのトゥッティーズです。違うタイプの音楽を扱ってましたが 建物の構造や形は よく似ていました。クラブ常連の行動も似たようなもので トゥッティーズや CBGBで演奏するとき バンドは暴れたり叫んだり 好き勝手なことをする観客に 目一杯音量を上げて 対抗してましたね。

 

2 私の作品は空間を意識していたか

その後私は もう少し高級な会場で 演奏するようになりました。ここLAのディズニーホールや カーネギーホールといった場所です。すごくエキサイティングでしたが そのとき気づいたんです。その当時や過去に作った 音楽はこういったホールでは それほどいい音に 聴こえないということに。何とかやってみましたが ホールではどうも当時の私の作品が しっくり聴こえて こないんです。なので自問しました。私の作品は 空間を意識していたか。場所や会場のことを考え 曲を書いていただろうか。これは創作のひとつの方法ではないのか。私達は何かモノを創るとき 場所や背景のことを考えているのかと。

 

3 建築が音楽を引き立たせている

さて アフリカ音楽です (曲:ウェンレンガ / オムニバス) ポピュラーミュージックのルーツの大部分が 西アフリカを起源とすることはご存知ですね。アフリカの音楽は そう 楽器も 複雑なリズムも 演奏法も 情景や背景も すべてが完璧なんです。その環境にぴったり合っている 大きな会場が 反響してリズムを狂わせることもないです。楽器には十分な音量があるので アンプやその他がなくても聴こえます。機材トラブルもなし アフリカの環境に対し完璧なのです。でも 次のような状況には 合わないでしょう。ゴシック式の大聖堂です (曲:御身よりほかにわれは 作:トマス・タリス) ゴシック式大聖堂にはこういう音楽が合います。音階の変更はせず 音色は長く伸ばされます。リズムもほとんどありません。建築が音楽を引き立たせています。実際に音質を向上させるのです。この空間でバッハは 作曲していました。これがオルガンです。大聖堂のように大きくないので 複雑な音楽を書くことが出来ました。大きな不協和音のリスクなく キーを変えるという 革新をすることが出来たんです (曲:幻想曲「イエスわが喜び」 作:バッハ)。

 

4 ワグナー以前のオペラハウスの観客は歓声をあげるのが普通

これはその少し後 こういう場所でモーツァルトは曲を書いてました。確か1770年あたりだったと思います。空間が小さくなり反響音も少ないので 本当に装飾的な音楽が書けました。複雑ですが うまくいってます (曲:ピアノソナタ第13番 作:モーツァルト) 空間にぴったり合っている これはスカラ座です。ほぼ同時期の建物です。1776年に建てられたと思います。これらのオペラハウスが建てられた頃の観客は 歓声をあげるのが普通でした。飲食をしながらステージに向かって歓声を送りました。CBGBとかでみんながやるようにね。アリアが好きだと思ったら 大声をあげて アンコールを促しました。終演後だけじゃなく ショーの途中でも突然ね (笑) でも それがオペラってものだったんですよ。これはワグナーが自分の為に建てたオペラハウスです。そんなに大きな空間じゃなくて ここよりも小さいぐらいかな。でもね ワグナーは革新を起こました。もっと大きな楽団が欲しかった。豪勢に見せたかったんですね。オーケストラ・ピットを大きくすることで ローエンドの楽器を加えることができた (曲:『ローエングリン』第3幕への前奏曲 作:ワグナー)

 

5 カーネギーホールはスカラ座より音が反響する

さて これはカーネギーホールです。ご存知のようにこの手のホールが主流になりました。サイズは大きくなり カーネギーは特に 他のシンフォニーホールよりも大きいですね。こういった場所はスカラ座より よく音が反響します。この頃ニューヨーカーに 執筆中だったアレックス・ロス曰く 観客はショーの間 静かにして 食事 飲酒 歓声や ひそひそ話などをしないことが ルールになってきたと いうことです。会場は静かになりました。ホールの反響と静けさにより 今までとは違う種類の音楽が そこにぴったりと来るようになりました。この種の音楽に今までなかったような 極端な強弱法が 使用できるようになったのです。今まで世間話や歓声によって 掻き消されていた静かなパートが 聞こえるようになりました。反響音があったせいで カーネギーホールのような場所では 音楽はややリズムを抑え、構成的に ならざるを得ませんでした (曲:交響曲第8番変ホ長調 作:マーラー) これはマーラーです。ボブ・ディランに見えるけど マーラーです。写真はボブの最新作だね(笑)

 

6 ジャズなどポピュラー音楽の出現

この頃ポピュラー音楽が出現しました。これはジャズバンドですね。スコット・ジョップリンによると バンドは リバーボートやクラブで演奏していた。またもや 騒がしい場所だね。ダンスの伴奏をしてたのだけど その中に ダンサー達のお気に入りの箇所があった。で 「今のとこもう一回」って言われる ダンサーの為に何回も 同じ箇所ばかり演奏させられると しまいに飽きて バンドが即興でメロディーを作るようになった 新しい音楽が生まれた瞬間でした (曲:ロイヤル・ガーデン・ブルース 作:ハンディ/ウォーターズ) ジャズが演奏されたのは小さな会場ばかりで みんな踊り 声を上げ 酒を飲んでいた。だからそれより大きな音で演奏しないと ちゃんと聴こえなかったんです。これは20世紀の初めでしたが 同じことは この世紀全体のポピュラー音楽にも言えます。ロックとかラテンミュージックといったね ライブ音楽に関してあまり変化はないです。

 

7 マイクも音楽を進化させる一要因

20世紀も三分の一を過ぎる頃には変化が起こり ラジオが 音源の主流になり マイクが音楽を 進化させる一要因となったのです。マイクの存在がミュージシャンや作曲家 そして特に歌手たちに 全く違ったタイプの曲を書く事を 可能にさせたのです。ラジオで掛けられる曲の多くは生演奏でしたが フランク・シナトラのようなシンガーには マイクなしでは 絶対出来なかったようなことが 出来るようになりました。シナトラ後のシンガー達には 変化はさらに顕著でした (曲:マイ・ファニー・バレンタイン 作:チェット・ベイカー) チェット・ベイカーです。こういう風に歌うことは マイクなしでは不可能でした。録音技術なしにも不可能だったでしょう。彼の歌声は右側から聞こえてきます。彼のささやきが耳に入ってきます。この効果はマイクによるものです。まるであなたの横に座っているかのように ささやきが聞こえてきます。

 

8 ライブとレコーディングへの分岐

そしてこの時点で 音楽は二つに分かれます。ライブ・ミュージックと レコーディング・ミュージックです。もう双方が全く同じである必要はないのです。そして今 この写真のような会場もあります。ディスコですね。バーにはジュークボックスがあって そこではバンドはもう必要ありません。生バンドの演奏の類は もはや必要ないのです。音響システムはいいですね。そしてディスコや音響システムに 特別に合わせた 音楽が創られ始めました。また ジャズのように ダンサー達は曲のある一部分を 他の箇所より気に入ってました。初期ヒップホップが曲の一部を繰り返すようになった所以です (曲:ラッパーズ・ディライト 作:シュガーヒル・ギャング) ジャズ・ミュージシャンが即興演奏したように MCも即興でラップするようになりました。またここで 新しい音楽が生まれたのです。

 

9 スタジアム、車の中、MP3プレイヤー

ライブが人気を博すようになると キャパ的理由から 音響的に地上最悪の スタジアムやバスケットボールアリーナ ホッケーアリーナなどで 演奏する羽目になります。そうなったミュージシャン達は全力を尽くしました。今ではアリーナロックと呼ばれる ミディアムバラードを書き始めたのです (曲:終りなき旅 作:U2) 彼らは曲作りに 最善を尽くそうとしたのですね。ミディアムテンポで壮大に聞こえる曲です。 これは音楽的状況からというより 社会的状況に迫られたものです。こういった会場のために書かれた曲は 彼らの状況にも ぴったりなわけです。

そしてさらに新しい空間が出来ました。車の中もその一つですね 私はカーラジオと一緒に育ちました。しかし今はラジオも進化しました。車はライブ会場そのものですね (曲:フーユーウィズ 作:リル・ジョン&ザ・イースト・サイド・ボーイズ ) 私は この音楽は 車向けに作られたと言いたい バッチリはまってますよね。家の中で聞きたいとは思わないかもしれないけど 車の中で聞くにはすごくいい。周波数スペクトラムが広範囲で 大きなベース音とハイエンド ボーカルはミドルレンジで留まってる 車で聞く音楽は友達とシェアできますからね。

その他の新しい音楽の聞き方として MP3プレイヤーがあります。おそらく このプレイヤーはクリスチャン専用でしょうね (笑) 音のひとつひとつがよく聞こえるので カーネギーホールとか 観客が静かにしている 場所で音楽を聴くようなものですね。別の言い方をすれば 西アフリカの音楽にも似ています。MP3プレイヤーの音楽が静かになったとき 音量を上げますね。すると次の瞬間 大音量の一節が流れ出し 鼓膜が破れそうになる これはあまりよくありません。特に最近の ポップミュージックにおいて ある程度はMP3プレイヤーを念頭に 曲が書かれているので ものすごく細部まで聞き取れるんですが 音のダイナミズムが余りないんです。

 

10 環境に合わせることは創作方法の1つ

そこで自問しました。私達が 環境に合わせることは 創作のひとつの方法だろうか。他の場所でも起こっているのだろうか。デービッド・アッテンボローや他の人も言ってますが 鳥も同じだそうです。あの木の枝にいる鳥は 葉っぱが密集している所では 鳴き声が高くなって 短く繰り返しがちになる傾向があります。地面に立っている時の鳴き声は 低い音になる傾向があるため 森の地面から飛び立つ時は 声の響きが増幅されにくいです。サバンナスパロウという鳥は ブンブンと鳴く傾向が (サウンドクリップ: サバンナスパロウ) あります。こういう鳴き方は 草原やサバンナで 仲間に呼びかける時に 最も実用的で エネルギー効率のいい 方法だということが分かっています。他に この風琴鳥という鳥のように 同じ種なのに別の鳴き方をする鳥もいます。風琴鳥はアメリカ東海岸の 少し深い森の中では こういう鳴き方をしますが 反対の西海岸では (サウンドクリップ: 赤風琴鳥) 違った鳴き方をします (サウンドクリップ: 赤風琴鳥) 鳥も環境に適応しています。

 

11 情熱を注ぎ込む場所はもう決まっている

そこで考えました。これは創作のひとつの形だろうか 大まかな形でもいい 環境を頭に入れて曲を 書くのだろうか 美術館の壁に似合うアートを作るのか ソフトウェアを現存のOSに合わせて作れば 上手くいくのか。そう、革新的なことだと思います。環境順応です。しかし 楽しみや情熱 喜びは 失われません。これは伝統的でロマンチックな 考え方とは真逆の考え方です。ロマンチックな考え方では まず情熱があり 次に感情を流し込み それから詳細な形がつくられていきます。この理論は まず型があって 最初に本能と直感で まず形を作り 後から情熱をそこに 注ぎ込んでいくという やり方です。情熱を注ぎ込む場所はもう決まっているのです。まあ こういう考え方の違いも面白いですね。

 

12 情熱と喜びは相容れないものではない

作家の トーマス・フランクは どうして有権者が 時として自らの支持と反した 投票をしてしまうのかという 説明をしています。私達のような多くの有権者は 誠実そうな言葉を 信頼できる 心からの 情熱からのものだと 思い込みがちです。だから投票するのです。もし誰か誠実さを装ったり 情熱を装うことが出来たら そういった方法で当選する チャンスも高くなるのです。少し危険ですよね。情熱と喜びは お互いに 相容れないものではないんです。

今 私達も鳥達のようなものだと 気づく必要があるのでしょう。環境に適応し 歌う 環境に合わせて自分たちを変えても 鳥と同じく 私達も喜びを変わらず 持ち続けています。ありがとうございました(拍手)

 

最後に

建築が音楽を引き立たせている。ワグナー以前のオペラハウスの観客は歓声をあげるのが普通。カーネギーホールはスカラ座より音が反響する。マイクも音楽を進化させる一要因。ライブとレコーディングへの分岐。スタジアム、車の中、MP3プレイヤーと音楽は広がる。情熱と喜びは相容れないものではない。環境に合わせることも創作方法の1つ

和訳してくださった Osamu Kumamoto 氏、レビューしてくださった Junko Fundeis 氏に感謝する(2010年2月)。

建築と音楽 (叢書 コムニス)


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