「私が建築設計で大切にするのは”つながり”です」ハビエルは語りかける。ここでは、75万ビューを超える Xavier Vilalta のTED講演を訳し、社会と環境の橋渡しをして自然と人々を結びつける建築について理解する。
要約
TEDフェローのハビエル・ビラルタは、アディスアベバの高層ショッピングモールの設計を依頼されたとき、うろたえました。例として見せられた建物は、彼が現代建築で嫌いなものすべてを体現したようなものでした―無駄が多く、ガラス張りのタワーでエネルギーを大量に消費し、デザインもアフリカと何の関係もありません。この魅力的なトークで、ビラルタはどんなアプローチを取ったかを紹介します。自然を生かし、伝統のデザインを取り入れ、そして、社会にあった美しい、近代的で街の象徴となるようなビルを作ったのです。
Barcelona-based architect Xavier Vilalta works in Europe, Africa and the Middle East. He adopts and updates traditional design principles to construct modern buildings that truly suit their environment.
1 私が建築設計で重視するのは“つながり”
私が建築設計で重視するのは“つながり”です。地域生活が環境の一部となり その環境で地域の状況や伝統をもとに 建築を生み出すことを考えています。今日 この例として 2つのプロジェクトをご紹介します。いずれも新興国におけるもので 1つはエチオピアもう1つはチュニジアです。共通しているのは 様々な観点から重ねた分析が 完成した建築物の基礎となっていることです。
2 エチオピアの高層ショッピングモールの設計
1つ目のプロジェクトはある依頼から始まりました。高層ショッピングモールの設計で 場所はエチオピアの首都アディスアベバでした。私たちはこの写真を見せられて “このようなビルを設計してほしい”と言われました。私が最初に思ったのは “逃げ出したい”ということ(笑)
3 豊かな文化や伝統とは関係ないビルばかりだった
市内には このようなビルが多かったのですが いくつか見ているうちに 3つのとても重大なことに気付きました。まず これらのビルはさびれています。立派な大型店が入っていますが みんな そんなに物を買う余裕はないのです。次に ビルを維持するのにかなりのエネルギーが必要です。外壁がガラス張りで ビル内が暑くなってしまうので かなりの空調が必要になるのです。この街ではそんなに空調は必要ないはずです。アディスアベバはとても温暖な気候で 一年中 気温も20~25度くらいですから。そして最後にビルの外観から来る印象は アフリカとも エチオピアとも結びつきません。せっかく豊かな文化や伝統があるのに残念なことです。
4 メルカートという屋外の公共スペースのようにしたい
エチオピアに初めて訪問したとき メルカートという昔からの市場に魅了されました。オープンエアになっていて 何千人もの人が日々行き来して 小さな露店から物を買っているのです。ここにあるのは活動を生み出す 屋外の公共スペースです。これこそ 私が設計したいものだと思いました。ショッピングモールではないんです。ただ問題なのは高層の近代的ビルを どうやってこれにマッチさせるかでした。
5 建設予定地は通り抜けができなかった
次の課題は建設予定地にありました。市内でも これから大きな成長をする地区で まだ さっき写真でご覧いただいたような ビルの姿はありませんでした。また その土地は並走する道路に挟まれているものの 何百メートルも通り抜けができなくなっています。
6 2つの道路をつなぐようにビルの入口を設置した
ですからまず最初にしたのは その2つの道路をつなぐことでした。ビルの入口をそのように設置したのです。これは 斜めに伸びる吹き抜けにつながり ビル内に オープンエアの空間を作ることにより 太陽と雨からビルを守る構造になっています。そして この吹き抜けのまわりを 小さなお店が集まったマーケットのようにしました。吹き抜けが斜めになっていることで各階にも変化ができました。
7 地元の気候条件にあった解決策は“織物”
どうやってビルを囲むかについても考え 解決策を見つけたいと思っていました。地元の気候条件にあった解決策です。そこで思いついたのが“織物”です。コンクリート製の外壁に 穴が開いていて空気や 光を適度に取り込めるようにしました。エチオピアの女性が着るドレスの美しい模様にもヒントを得ました。それは フラクタル幾何学のような形で 建物全体の外壁のデザイン設計に使いました。このビルを建てるにあたり こうした小さなプレハブの部材で 窓を作ってビル内に 空気や光を適度に入れるようにしました。ビルには小さな色彩ガラスもつけられており 夜になるとビル内部の光で ビルが照らし出されます。
8 開発者に構想を説得するのは簡単ではなかった
開発者にこの構想を説得するのは簡単ではありませんでした。彼らの反応はこうでした “これは 頼んだショッピングモールではない” でも 気付いたのはこのマーケットの構想は ショッピングモールよりもっと儲かるということでした。お店がたくさんあるからです。そして この外観はかなり安上がりでした。ガラスよりも素材が安いというだけではなく 空調を使う必要がなかったからです。お蔭で予算も浮かせたので その分で 私の思いを実現させました。
9 ビルをエネルギーの観点で自給自足できるようにすること
まず 最初に考えたのはこのビルを エネルギーの観点で自給自足できるようにすることです。ここでは ほぼ毎日停電がありますから 屋上にソーラパネルを設置しこれは 大きなメリットになりました。また ソーラーパネルの下を 人々が集い お酒も楽しめる新たな公共スペースとし このような都会のオアシスとしたのです。そして 屋上のポーチでは 雨水を集めて ビル内のトイレなどで再利用できるようにします。建設工事は5階まで進んでいるので来年初めには完成すると思います。
10 2千のアパート・施設を含むチュニスの都市基本計画
2つ目は チュニスの都市基本計画で2千のアパート・施設を含むものです。今までで最大のプロジェクトでこうした大規模なものに取り組むにあたり 私は チュニスの街を理解する必要がありました。街だけではなく周辺環境や伝統・文化もです。
11 城壁に囲まれた旧市街地で千年の歴史があるメディナに着目した
この分析をする過程で特に着目したのがメディナです。メディナは 城壁に囲まれた旧市街地で千年の歴史があります。12の門で外とつながりそれが ほぼ直線で結ばれています。建設予定現場でまず行った基本設計は 既存の道を延長して12の区画を作ることです。ちょうど バルセロナなどのヨーロッパの都市のような 中庭のある区画と同じ大きさや特徴にしました。さらに 先ほどの門にあたる戦略的な拠点をいくつか選び それらが直線で結ばれるようにしました。これによって最初のパターンが変更されました。
12 アパートの向きを南北方向に揃えた
そして 最後に考えたのが構成単位 アパートのような小さな構成単位です。基本計画の重要な部分です。そして アパートをどんな向きにすれば この地中海性気候を最も快適に過ごせるか考え 南北方向にすることにしました。家の両側で温度差ができ 自然と換気がされるからです。パターンを重ねてほとんどのアパートが 完全にその方向になるようにしました。
13 ヨーロッパの区画とアラブ都市を合わせた
これが その結果で ちょうど ヨーロッパの区画とアラブ都市があわさった感じです。中庭がある区画があり そして 一階には 歩行者用のこうした通りがあります。また これは地元の規則にも合っていて 上層階では高密度で下層階は低密度になっています。こちらも メディナの門をイメージしています。
14 建物で土地がなくなった分人々は屋上を使える
全体は このような形で 3種類の異なる型の部屋を結び付けて日陰を作り出しています。また とても密集した作りであっても一階に光を通します。中庭には ジムや幼稚園など様々な施設がありますし 近くには商業スペースもあり一階での活動も促します。このプロジェクトで一番好きなのが屋上ですが 建物で土地がなくなった分人々は屋上を使えるのです。近所の人たちは屋上で交流して 色んな活動ができます。例えば 朝の2キロ・ランや 別のビルへ飛び移ることもです。
15 共通しているのは設計プロセスでのアプローチ
2つの例を紹介しましたが 共通しているのは設計プロセスでのアプローチです。また これらは新興国でのプロジェクトで 文字通り都市は成長しています。これらの都市では 建築は今日 明日の人々の生活に影響を与え ビルが建つのと同じスピードで地元社会や経済を変えていきます。だからこそますます重要になると思うのが 建築で シンプルだが十分可能な解決策を見つけ 社会と環境の橋渡しをして 自然と人々を結びつけることなのです。ありがとうございました(拍手)
最後に
シンプルだが十分可能な解決策を見つけ、社会と環境の橋渡しをして自然と人々を結びつけることが建築に求められている。建築設計で大切にするのは「つながり」。
和訳してくださった Yuko Yoshida 氏、レビューしてくださった Tomoyuki Suzuki 氏に感謝する(2013年10月)。