前回は、援助関係と相談者・援助者双方を取り巻く環境への理解 家族支援と連携についてまとめた。ここでは、アスペルガー症候群への援助の実際と解決志向のかかわり 発達障害と家族について解説する。
10 発達障害と家族
発達障害とは、先天的な様々な要因によって主に乳児期から幼児期にかけてその特性が現れ始める発達遅延である。具体的には、注意欠陥多動性障害(ADHD)や学習障害(LD)、アスペルガー症候群などのことである。近年では、公教育の領域でも特別支援教育としてその対応が図られてきている。
しかし、現実には発達障害への理解と支援は十分とはいえない。ここでは特に、物へのこだわりが強く、興味関心の範囲が偏っており、場の空気や他の人の感情が理解できず、対応の難しいパニックを起こすことがあるアスペルガー症候群について取り上げる。
アスペルガー症候群とコミュニケーション
アスペルガー症候群の人とのコミュニケーションでは、文脈よりも内容を重視した対応が求められる。つまり、その場の雰囲気や話し方(いつ、どこで、誰と誰が、どのように)よりも、話の中身(何を)を重視して対応することが重要となる(価値観の多様化と時代の変化への対応 現代家族が抱える問題と特徴参照)。家族支援においても、援助者のコミュニケーション・パターンを内容重視のものに変えていけばいいのである。
アスペルガー症候群への援助の実際
発達障害の援助の基本は、日常教育活動の中に治療教育的援助をいかに包含していくかという視点である。つまり、臨床心理士などに求められる役割は、日常的に治療教育的援助を行っている親や学級担任への援助を重視する方向に力点を移すことが求められている。具体的には、①親や教師の不安や悩みの軽減と動機づけ、②親や本人、教師への障害の説明、③具体的な対応の共有、という3段階を通じて、親や教師を共同援助者としていく必要がある。
親や教師の不安や悩みの軽減と動機づけ
第一に、親や教師の不安や悩みを受け止め、その軽減を図ることが必要となる。この段階では「受容的・共感的」な対応が求められる。そうしたカウンセリングと並行して、親や教師の共同援助者としての動機づけを高めていくための心理教育が必要となる。ここで、親や教師の子どもの状態の理解と、発達障害についての正確な知識や情報の援助者との共有を行うことで、その動機づけが高まる。
親や本人、教師への障害の説明
著者は、親や本人、教師への障害の説明を以下のように行っている。これは、障害について説明する作業が、あまり標準化されていないからである。
- 保護者(親)への説明:面接の初期に行う。就学前に行うことが最も効果的。発達の偏りが問題であり、親のかかわり方がよくなかったのではないことを伝える
- 教師などへの説明:保護者の同意を得て、教師などの援助者への説明を行う。多くは入園や入学時に行うが、教師などが対応に苦慮したときに行うと、説明が入りやすい。また、学級経営の一環として周囲の子どもたちに伝えてもよい
- 本人への説明:二次障害(不登校や非行)の予防につながる。思春期に行うのがよい
障害の本人への説明が必要な理由は、職業選択や配偶者選択などにも影響するからである。つまり、就労意欲はあるものの意欲と能力の間でミスマッチが起こり、引きこもりなどの状況になってしまうことや、交友関係に齟齬が生じやすいのである。
具体的な対応の共有
アスペルガー症候群の人とのかかわりは、感情への焦点化や情動を揺さぶらないようにすることである。具体的には、行動療法の技法の1つであるトークン・エコノミー法を用いて個別に援助目標を決め、最終的には自己コントロールを可能にしていくようにするものである。
コラム10:発達障害
発達障害者支援法における発達障害とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他、これに類する脳機能の障害と定義されている。明確な原因は明らかになっていないが、脳の働き(機能面)の偏りが原因ではないかと考えられている。
これらの障害を治すことは困難だが、適切な指導や教育を行うことで行動面の改善は充分に可能である。これまで述べてきたように、日常的に子どもたちに接している親や教師を援助者として育成していくことが、最も効果的な支援となるのだ。
11 家族問題の解決に向けて
ここでは、家族療法の基本的な考え方を示した上で、「ソリューション・フォーカスド・アプローチ」について概説する。
面接の主体性について
家族療法では、面接の主体性はセラピスト側にあるとしている。これは相談者を尊重しないということではなく、面接における「責任」を常にセラピストが持つという意味である。例えば、家族成員の誰と誰を面接場面に呼ぶかをセラピストが決めるというだけではなく、その参加を促す責任もセラピストが持つと考えるのである。
家族成員の構造と関係性の把握
面接場面に家族成員全員が参加すると、家族成員の構造と関係性が表明される。例えば、座る位置や距離に家族の構造が示されたり、面接中のコミュニケーションのあり方から親子関係や夫婦関係の様子が明らかになる。さらに、家族の「偽解決」のパターンも容易に観察することができる(援助関係と相談者・援助者を取り巻く環境への理解 家族支援と連携参照)。
解決に向けてのかかわり
解決に向けてのかかわりとは、うまくできているところに焦点を当て、そのことを膨らますことで新たな解決を構築することである。ソリューション・フォーカスド・アプローチでは、解決は問題から全く離れたところにあり、問題と解決は別のものであると考える。つまり、「人は問題を持ちながらもその人なりにうまくできているところを常に持ち続けているが、問題に目を奪われているためにそのうまくできているところに気づかずにいる」と考えるのである。
ソリューション・トーク
ソリューション・トークとは、うまくできているところに気づかせ、解決を構築していく質問の仕方である。具体的には、コーピング・クエスチョン、膨らます質問、前提を用いた質問、ミラクル・クエスチョン、スケーリング・クエスチョン、具体的行動化の質問などで構成されている。ただし、ソリューション・トークに入るタイミングは、①クライエントが悩みをある程度語った後で、セラピスト側に解決策を尋ねてきたとき、②クライエントが悩みを語りながら沈黙やため息などが出てきたとき、③クライエントの語りが堂々巡りとなったとき、である。主に以下のような流れがある。
- かかわり行動
- コーピング・クエスチョン:「そんな大変な状況で、どうやって毎日がんばってきたの?」
- 膨らます質問:「へー」「なるほど」「他には」「それから」「他の人は」
- 前提を用いた質問:「ほんの少しでもましだったのはいつ?」
- ミラクル・クエスチョン:奇跡が起きたら、何からそのことに気づく?」
- スケーリング・クエスチョン:「現在の状態は10点満点で何点?」「どうしてマイナスじゃないの?」
- 具体的行動化の質問:「そのときは具体的にどんなことをしてる?」(小さなこと)
ソリューション・フォーカスド・アプローチは、セラピストが最後に出す助言もクライエントが既に行っている解決努力であり、クライエントにとっても負担が少なく、副作用が全くないという点がメリットである。
コラム11:説得話法
社会心理学で研究されてきた説得話法として、「フット・イン・ザ・ドア・テクニック」「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック」「ロー・ボール・テクニック」などがある。
フット・イン・ザ・ドア・テクニックとは、はじめに相手が受け入れやすい提案や要求をして、その後により難しいと思われる要求を承諾してもらう方法である。一方、ドア・イン・ザ・フェイス・テクニックとは、要求を一度断らせてから本来の要求を受け入れさせてしまうやり方である。さらに、ロー・ボール・テクニックとは、魅力的な要求を承諾させた後に様々な条件をつけて、結果的にはあまり受け入れたくない条件も飲ませてしまうものである。
最後に
10「発達障害と家族」では、
![]() |