前回は、特別会計には資産負債差額がある 「埋蔵金」とは何かについてまとめた。ここでは、日本の純債務は300兆円にすぎない 日本の資産と負債について解説する。
資産も負債も金メダル
「日本の借金は1000兆円、日本人一人当たり800万円」という数字がよく使われる。たしかにウソではない。しかし、借金(負債)が1000兆円ある一方で、資産も700兆円ある。つまり、資産負債差額(純債務)は300兆円ほどで、GDP比60%程度である。
金融資産500兆円の内訳
資産の範囲をどこまで見るかによって、国際比較する際に注意が必要である。700兆円というのは実物資産まで含めているが、金融資産だけで見ても500兆円くらいにはなる。
固定資産は約200兆円、貸付金と出資金も合わせて200兆円、有価証券が300兆円である。有価証券の中で主なものは、外国為替130兆円のうちの100兆円(有価証券)と、年金140兆円のうちの130兆円(運用預託金)である。固定資産は建物の一部の証券化、年金は巨額の責任準備金の一部だけでも十分である。
貸付金と出資金の200兆円は特殊法人を整理(民営化)すればよい。民業(営利追求)にそぐわないとされているが、現在の特殊法人はみな巨額の内部留保を抱えている。つまり、儲けているため、民営化できないはずがないのである。
外貨準備金で円キャリー取引?
130兆円の外国為替は外貨準備である。本来の外貨準備は、金融当局が対外債務の返済や輸入代金の決済など、国債取引を円滑にするために準備するものである。しかし、以前触れた財務省の外為特会に積まれているのは、急激な円高など為替レートの急変動を防ぐための介入資金である。
しかもこれはほとんどがアメリカ国債なので、実は100兆円の借金をして外債投資をしているのと同じである。これは円キャリー取引であり、低利の円を借りて一定期間外国の資産を保有し、それを売却して利ざやを稼ぐ取引のことである。外国為替証拠金取引(FX)はこうした取引を個人に解禁したとして注目されているが、実体は単なるギャンブルである。
変動相場制の国が為替介入をする矛盾
変動相場制とは、為替市場というマーケットで、刻々と通貨の交換レートが変わるシステムである。以前は日本は1ドル=360円の固定相場制だったが、現在は変動相場制をとっている。
現代の経済理論には「国際金融のトリレンマ」という命題がある。トリレンマとは、3つの条件が同時には実現できないことをさす。それは、固定相場制、自由な資本移動、自由な金融政策である。
どの国にとっても為替は安定している(固定相場制)ほうが望ましいが、円滑な商取引のためには資本移動の自由は欠かせず、そのためには常に為替レートに実体経済が反映されなければならないので、変動相場制をとらざるを得ないのである。
日本は不公正な国?
日本は変動相場制を採りながら政府が巨額の外貨準備を持ち、為替市場に介入するという市場の機能を損なわせることを行っている。自由主義経済を掲げ、自由貿易の恩恵を最大限に受けているのだから、不公正な為替介入のために巨額の外貨準備を持つ必要がない。中国は固定相場制を選択しているが、本質的には共産党の一党独裁による社会主義国であるため、日本と比較するのはおかしい。
こうした外貨準備をやめるのは簡単である。借金をしてつくった100兆円のお金で買っているのは主に5年もののアメリカ国債なため、5年間何もしなければこの債務はなくなるのだ。
円高是正には為替介入しかないのか?
円高是正は金融政策で行うのが本筋である。多くの日本人は為替介入しか手段がないと思い込まされているが、アベノミクスの効果を見ればわかるように金融政策によって円高是正をすることができる。次回はこの金融政策についてバランスシートの観点から見ていく。
最後に
日本の借金が1000兆円と煽る一方で、100兆円の借金をしてギャンブル(外債投資)をしている。200兆円ある貸付金と出資金を戻そうとしない。固定資産200兆円の一部の証券化といった方法も行っていない。収入(資産)が増えないなら支出(債務)を減らせばいい。
次回は、デフレの原因は人口減少なのか? バランスシートと金融政策についてまとめる。
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