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資産形成は3つの変数で決まる 収入、支出、運用見回り

前回は、給与明細から見る自由の思想 サラリーマンのための税・社会保障制度についてまとめた。ここでは、資産形成は3つの変数で決まる 収入、支出、運用見回りについて解説する。

4 億万長者の法則

資産形成の方程式

資産形成は、①収入、②支出、③資産の運用利回り、の3つの変数によって決まる関数である。つまり「資産形成=(収入—支出)+(資産×運用利回り)」と表せる。この方程式の前項は、企業の財務諸表でいえばPL(損益計算書)で表される純利益に相当する。後項は、BS(バランスシート)の領域である。

こうした事実を物語形式で紹介したベストセラーが、ロバート・キヨサキ氏の『金持ち父さん貧乏父さん』である。その内容は、以下の5つにまとめられる。

  1. 収入を増やせ
  2. 支出を減らせ
  3. リスクを取れ
  4. 税金を払うな
  5. 家計のBSを作って資産と負債を管理せよ

 

働けば収入は増える

上記の方程式から、資産形成の成功の条件が3つ挙げられる。まずは、労働時間を増やす、働く人の人数を増やすことから始めることである。

  1. より多くの収入を稼ぎ、
  2. より少ない支出で生活し、
  3. より高い利回りで資産を運用する

 

支出を減らせばお金は貯まる

支出を減らすには、住居費や食費を削るのが簡単だろう。社会学者の山田昌弘氏が発見した「パラサイト・シングル」は、物価も賃金も高い日本において、ある意味効率のいい生活の仕方である(『パラサイト・シングルの時代』(ちくま新書))。

 

未来は誰にも予測できない

「より高い利回りで資産を運用する」戦略は、運による面が大きい。ある程度のことは予測できるものの、天変地異や戦争などがいつ起こるかまでは誰にも予測できないからである。

 

5 人生における大きな買い物

自由なサラリーマンはいつでも辞表を出す

資産運用における当面の目標は「経済的独立」である。経済的独立とは「お金を他人に依存せず、働かなくても生きていける立場になること」である(『世界にひとつしかない「黄金の人生設計」』)。ただし、仕事を辞めることとは違い、何をしてもいいという「自由」を手に入れるということである。

 

戦略なき節約は無意味

「支出を抑える(節約する)」という方法は、資産形成に有効である。しかし、「スーパーのチラシを見て1円単位で安いものを買う」ということをしている一方で、不動産や保険といった大きな買い物のときにはそこまで手間をかけていないということが多いようである。

 

人生最大の買い物としての子育て(教育)

人生を過ごす中で大きな支出を迫られる時期は3つある。1つ目は不動産で、いつ、いくらで、どれだけのローンを組んで購入するのか、あるいは賃貸にするのかということは、人生設計に大きな影響を与える。

2つ目は生命保険で、仮に30歳から60歳までの30年間、年50万円(月額約4万円)の保険料を払い続けると、掛金総額は1500万円である。このお金を年5%で運用できたとすると、約3300万円になる。

3つ目は子どもの教育費である。現在の日本では、幼稚園から大学まですべて国公立で通ったとしても750万円、すべて私立で通ったとすると2088万円の教育費がかかる。塾や家庭教師をつけたり、大学で一人暮らしをさせるとなると、より大きな出費になるだろう(経済的独立を教育費と少子化問題から考える 人生設計の基礎知識参照)。

 

車を買うか?リースするか?(自動車)

自動車が必要な立地に住むとなると、買うかリースするかによっても支出額が変わってくる。例えば、180万円程度の普通自動車の場合で比較すると、リースのほうが購入(分割払い)に比べて、毎月の支払額が約4000円(5年)〜1万5000円(3年)安くなる。

 

法人ならばリースがお得

法人や個人事業主の場合は、会計上リースのほうが大きなメリットを持っている。法人(個人事業主)が自動車を購入すると、それはいったん資産(課税対象)として計上され、翌年以降、減価償却することになる。それに対してリースは資産にならないため、リース料は全額経費処理することが可能なのである。

このことは不動産にも当てはまり、法人(個人事業主)が自宅をオフィスにした場合、賃貸であれば家賃の半額〜3分の2を経費算入し、利益から差し引くことができる。一方、不動産を購入して法人所有にすると、初年度に不動産価格の50%近い法人税を支払わなければならない。

 

車は究極の贅沢品

また、維持・管理コストを考えた場合、車は究極の贅沢品のひとつといえる。車を買えば駐車場代、車検費用、自動車損害保険費用などの付帯費用がかかる。仕事などでどうしても必要という場合を除けば、レンタカーで済ませたほうが合理的である。

 

マイホームは不動産投資(不動産)

持ち家(購入)と賃貸(リース)の違いはリスクの所在にある。前者は購入した時点で市場リスク(価格の増減)も負うことになるが、後者は支払額があらかじめ確定している。

 

家を買うリスク

不動産を保有することのリスクには以下の4つが挙げられる。

  1. 流動性リスク:売買に手間とコストがかかる
  2. 金利変動リスク:金利上昇で返済額が増える。変動金利はもちろん固定金利でも最長10年(民間金融機関の場合)で変わる
  3. 価格変動リスク:地価下落で価値が下がる。建物(上物)部分は経年劣化する
  4. その他のリスク:賃貸に回せば資金回収リスクや物件の毀損リスクなどが発生

 

ワンルームマンション投資のリスク

ワンルームマンション投資判断は、リスクプレミアム(リスク商品を保有することへの報酬)によって決まる。「賃貸料=住宅ローン金利+リスクプレミアム」という式で表されるように、賃貸料は住宅ローン金利にリスクプレミアム(不動産の実質利回り—借入金利)を加えた料金で貸し出すことになる。つまり、不動産広告などで利回りが高く設定されている場合には、そのリスクが高く設定されているのである。

 

「持ち家優位論」は俗説

「持ち家vs.賃貸」に関する俗説は、以下の4つが代表的である。

  1. 高齢者になると家が借りにくくなるから、若いときに家を買わないと年をとってから住むところがなくなる
  2. 家を買えば不動産を所有できるけど、賃貸では毎月の家賃がムダになる
  3. 不動産には資産としての価値がある
  4. 賃貸用には家族で暮らせるような広い物件がない

これらに対する回答は以下の通り。

  1. 家が借りにくいなら低額の中古物件を現金で買えばいい。定期借家契約や高齢者向け賃貸物件も活用せよ
  2. 借地借家法により家賃さえ払っていれば死ぬまで住み続けることができる。これは所有に等しい
  3. 株式や債券など不動産以外の資産もたくさんある
  4. 広い家が必要なのは人生の中で10年程度。徐々に家族用賃貸物件も出てきている

 

生命保険の仕組みは死の宝くじ(生命保険)

生命保険の仕組みは宝くじと同じである。保険料を支払って保険会社が発行する宝くじを購入し、死亡したり病気になったり交通事故に遭ったりすると「保険金」という名の賞金を受け取るというものである(保険の原理は死の宝くじ 生命保険の仕組み参照)。

終身保険などの貯蓄型生命保険の仕組みは、保険料の内訳が、①経費、②保険(宝くじ)、③貯蓄(運用)部分に分かれているだけである。よく誤解されるのが、生保の予定利率というのは保険料全額を元金とするわけではなく、③の貯蓄部分のみを運用してくれるというものである。

この終身保険から②の宝くじ部分を減らし、③の運用部分を拡大すると「養老保険」になり、逆に③の運用部分を減らして、②の宝くじ部分を拡大すると定期保険(死亡保険)や医療保険になる。終身保険の解約返戻金を一括で受け取らず、分割払いにしたものが個人年金保険である。

保険のコストは以下の3つの要素から成り立っている。

  1. 営業コスト:金融商品における手数料部分。少ないほどよい保険
  2. 保険料(宝くじ):保険金(賞金)部分。ノンスモーカー割引などを使うと保険料が安くなる。保険数理人(アクチュアリー)が設定
  3. 運用利回り:予定利率。高いほどよい保険

このように、保険はいくつかの要素がからんでいるためややこしい。そのため、シンプルに保険は②保険(宝くじ)部分と、③運用部分に分け、保険部分はネット生保や共済を利用し、運用は株式ファンドや公社債投信などの手数料率(コスト)の安い金融商品で行うのが最も合理的である(義理・人情・プレゼントから合理的思考へ 保険会社の仕組み参照)。

 

生命保険はいらない

日本人で保険に加入する必要があるのは、20歳以下の子どもがいて、資産の蓄積が十分ではなく、なおかつ賃貸生活している人である。独身や結婚していても子どもがいない(あるいは子どもが独立している)場合や、子どもがいても住宅ローンを組んでいれば、本人が死ねば残ったローンを保険会社が代わりに支払ってくれるため、それ以上の保険は必要ない。

また、サラリーマンの場合は、明日突然死んでも会社から死亡退職金が出るし、遺族には厚生年金から遺族年金が支給される(国民年金でも同じ)。さらに、子どもを連れて実家に戻れば住居費もかからないだろう。こうした公的・私的な様々な援助を考えると、最低限必要な死亡保険は3000万円もあれば十分だろう。

 

6 インフレとデフレ

借金が有利か、貯金が有利か

インフレは借金が有利、デフレは貯金が有利である。インフレはお金の価値が下がる(モノの値段が上がる)ことで、デフレはお金の価値が上がる(モノの値段が下がる)ことである。そのため、借金(投資)をする人から見ると、将来返すお金の価値が下がるインフレは有利になる。反対にデフレは、お金を使わなければ使わないほど将来のお金の価値が上がるため、貯金が有利になる。例えば、住宅ローン(借金)を組む場合には、インフレの場合は実質的な借金が目減りしていくが、デフレの場合は借金が増えていってしまうのである。つまり、インフレはリスクをとる人が有利であり、デフレはリスクをとらない人が有利ともいえる。

 

90年代最高の資産運用手段は郵貯だった

アベノミクス以前の日本経済は、実質的には年率1〜2%のデフレが続いており、「貯金は有利、借金は不利」という状況だった。「実質金利=名目金利—インフレ率(あるいは名目金利+デフレ率)」で表されるように、金利は常にインフレ率を勘案しなければならない。つまり、デフレ時には実質金利が上がっていたため、1990年代最高の資産運用手段は郵貯だったのである。

しかし、アベノミクスの第1の矢である「金融政策」によってインフレ目標が設定された結果、円安株高が続いている。国債金利が一時的に乱高下するのは、単に期待利回りの高い株式の組み込みが増えているからに過ぎず、市場の反応を見ながら国債の買いオペを行うという日銀の方針が変わらない限り国債暴落といったことは起こらないであろう。

 

PT=MV

「PT=MV」とは、P(Price:物価)×T(Transaction:取引量)は、M(Money:通貨供給量)×V(Velocity:通貨の流通速度)と等しいという意味である。PT(物価×取引量)はGDP(国内総生産)のことでもある。したがって、先の恒等式は「GDP=MV」と言い換えられる。

この式を「P=MV/T」と書き直すと、ハイパー・インフレが引き起こされる3条件がわかる。

  1. T(モノの取引量)が少なくなる
  2. M(通貨供給量)が増える
  3. V(通貨の流通速度)が速くなる:例えば、銀行ー八百屋ー消費者など

 

インフレリスクのヘッジ方法

インフレはモノの価値が上がってお金の価値が下がる現象なため、その対策には以下の4つが考えられる。

  1. 預貯金を取り崩して資産価値のあるモノ(金など)を買う
  2. 預貯金を取り崩して株式を買う
  3. 円預金を取り崩してドル預金する
  4. 借金をする(住宅・教育・信用取引など)

 

インフレに備える3つのポイント

2013年5月現在、アベノミクスによってインフレが進行しているが、それに備えるポイントは以下の3つである。

  1. 過剰なインフレ対策をする必要はない:慣性の法則が働くから
  2. 流動性の高い資産(株式など)を利用する
  3. 貯蓄性の生命保険を利用しない:インフレに無力だから

 

7 経済的独立に必要なお金

1億円あれば経済的独立は可能

1億円の金融資産を年5%で運用すれば、500万円の現金(税込)が手に入る。これで持ち家があれば、生活にはまず困らないだろう。もしくは、金融資産や不動産資産を少しずつ取り崩していって、死ぬときにちょうど資産がゼロになればいいと考えることもできる。

 

定年時に必要なのは最低1500万円

経済的な独立に必要な資金は「f(年間生活費、運用利回り、余命)」という関数で求めることができる。例えば、インフレ率0%のもと、年間生活費500万円(月約42万円)、年5%で運用、余命50年と仮定した場合、約9000万円あればよい。また、年金制度も考慮に入れて、65歳から夫婦で月20万円(年240万円)の厚生年金が受け取れると仮定すると、約8000万円になる。さらに、年間生活費を360万円(月30万円)と仮定すると、65歳時に1600万円あればよい。こうしたシミュレーションから、退職時には持ち家+1500万円程度の貯蓄が必要とされているのである。

このように、私たちが投資や金融市場について学ぶ大きな理由は、来るべき独立後に、資産を有効活用して安定したキャッシュフローを生み出すためなのである。

 

使わないカネには意味がない

「ひとりの人間が使えるお金の量には限界がある。不要なカネを持っていてもしかたないから社会に寄付するのが当然」こうした考え方がアメリカの根幹にある。ゼロからスタートして大金をつかんだ人間だけが「ヒーロー」として尊敬される社会なので、二世経営者がほとんどいないのもこうした理由なのだろう。

 

脱サラして農業を始めるには

1987年に脱サラし、現在は徳島県で野菜を中心とした有機農業を営む今関知良氏の『それでも百姓になりたい!―脱サラ生活の経済学』(飛鳥新社)によると、田舎での半自給自足生活でも、1ヶ月に20万円(年240万円)程度の生活費がかかることがわかる。

それに対して、リタイヤ後の今関氏の収入は1年目が5万円。徳島に移り、有機野菜の直売が成功してからでも月12〜24万円。経費(約35%)を差し引くと、年間の手取り収入は約150万円なため、90万円の赤字である。しかも、これは成功した例であり、農業者一人あたりの収入は全国平均年90万円(兼業農家含む)である。このことを踏まえると、手持ち資金が2000万円程度あるか、年金生活者でないと厳しいのだろう。

 

人生の目標

お金は単なる道具であり、それ自体が幸福をもたらしてくれるわけではない。友人や恋人、家族など、お金で買えないものはもちろんある。それでも、お金持ちが幸福になれる可能性は、貧乏人が幸福になれる可能性よりもずっと高いという現実がある。結局、資産形成や運用の前提には「あなたにとって、人生をよく生きるとはどういうことか?」という問いが控えているのである。

 

最後に

投資や金融市場について学ぶ大きな理由は、来るべき独立後に、資産を有効活用して安定したキャッシュフローを生み出すため。経済的独立後に必要な資金は「f(年間生活費、運用利回り、余命)」という関数で求められる。「あなたはお金の問題から離れられたら、誰と何をして過ごしますか?」。備えあれば憂いなし

次回は、知っていると役に立つ金融市場の知識 金融、信用、金利についてまとめる。

「黄金の羽根」を手に入れる自由と奴隷の人生設計 (講談社プラスアルファ文庫)


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