astrophysics

アニル・アナンサスワーミー 極限の環境での天体物理学

「現在の物理学の理論は宇宙の4%しか説明していません。残りの96%を知るために、科学者たちはシベリアや砂漠、そして南極などで研究を行っています」アニルは語りかける。ここでは、45万ビューを超える Anil Ananthaswamy のTED講演を訳し、極限の環境での天体物理学について理解する。

要約

地球のあらゆる場所で、巨大な望遠鏡や探知機が、宇宙の働きの手がかりを捕らえようと観測を続けています。INKカンファレンスで、サイエンス・ライターのアニル・アナンサスワーミーが、地球上で最も隔絶されひっそりとした場所にある驚きの観測施設についての話をします。

Anil Ananthaswamy is the author of “The Edge of Physics.” A former software engineer, he was inspired to become a science writer by his passionate curiosity about the world.

 

1 宇宙とその中での人類の歩みを理解する探求

これから皆さんに 人類が乗り出した 最大の冒険の1つである 宇宙と その中での我々の歩みを 理解しようとする探求についてお話しします。私がこのテーマに惹かれ 情熱を抱くようになったのは 偶然でした 「相対論はいかにしてつくられたか」という 中古のペーパーバックを 以前 シアトルの古本屋で買いました。数年後 バンガロールで ある晩 寝つけなくて この本を読めば10分で眠れるだろうと 手に取りました。でも実際には 真夜中から朝5時まで一気に読み通しました。そこから私が強く感じたのは 宇宙と 宇宙を可能な限り理解しようとする 人間の能力に対する 畏敬と高揚感でした。その思いは今も抱いています。

 

2 隔絶された危険な場所で働きながら、宇宙からのかすかな信号を集めようとする人々

その思いに突き動かされ 私はキャリアを変えました – ソフトウェア・エンジニアからサイエンス・ライターへ – 科学がもたらす喜びと それを人々に伝える喜びに 関わりたかったのです。その思いはまた 私を巡礼の旅へと導きました。地の果てを訪れ 宇宙をより精細に観測するために 建造された あるいは建設中の 望遠鏡や探知機を 訪ねる旅です。訪れたのは チリのアタカマ砂漠や シベリア 日本アルプスや北米の 地下鉱山 そして南極大陸 果ては南極点にまで行きました。今日は皆さんに その旅からの写真や物語をお話ししたいと思います。私はこの数年間 途方もなく勇敢な人々の挑戦を 記録してきました。宇宙を理解するために 時には 文字通り命をかけて 隔絶された危険な場所で働きながら 宇宙からのかすかな信号を集めようとする 人々のことです。

 

3 現在の物理学の理論は宇宙の4%しか説明していない

まず この円グラフを見て下さい。私の話の中で 出てくるグラフはこれだけです。私たちの宇宙に対する理解度がわかります。現在の物理学の理論は 私たち自身もその一部である 通常の物質についてはよく説明しています。でもそれは宇宙の4%でしかありません。天文学者や宇宙学者 物理学者たちは 宇宙にはダークマターというものがあり それが宇宙の23%を構成し そして ダークエネルギーと呼ばれるものが 時空を満たし 残りの73%を占めている と考えています。円グラフで説明すると 宇宙の96%は 現代の私たちにとって 全く あるいはほとんど わかっていないのです。私が見に行った実験や望遠鏡の多くは 何らかの形で ダークマターとダークエネルギーという 2つの謎に取り組んでいます。

 

4 ダークマターを見つけるための地下鉱山での研究

まずはミネソタ州の北部にある 地下鉱山から見て行きましょう。研究者たちが ダークマターを探しています。ここでは ダークマターの粒子が探知機にぶつかる 痕跡を見つけようとしています。地下を利用するのには理由があります。地上で実験すると 同じ実験でも 宇宙線や電波などに 妨害されてしまいます。信じられないかもしれませんが 人体でさえ 実験を台無しにするだけの放射能を帯びています。だから鉱山の奥深くに分け入り ダークマターの粒子が探知機にぶつかるのを 検出できるような 静かな環境を探すのです。そんな実験の1つを見に行きました。実際には 完全に真っ暗なので ほとんど見ることができませんが この洞窟は1960年に閉鎖された 鉱山です。1980年代から 物理学者が使っています。20世紀初頭の鉱夫たちは ロウソクの光で働いていました。今では地下800mにある鉱山の内部を 見ることができます。ここは世界最大級の地下研究所です。第一の目的はダークマターを見つけることです。

5 ニュートリノでダークマターを間接的に検出するには大量の水が必要

ダークマターの探査には別の方法もあります。間接的な検出です。この宇宙にダークマターが 存在するならば その粒子がぶつかり合って 私たちも知っている別の粒子を作るはずです。その1つがニュートリノです。ニュートリノは 水分子にぶつかる際の痕跡を 検出することができます。ニュートリノが水分子にぶつかると 青い光を放ちます。一瞬青く光るのです。その青い光を探すことで ニュートリノについて知ることができ そのニュートリノを作ったかもしれないダークマターのことも 間接的に知ることができます。でも そうするためには 非常に大量の水が必要です。こうしてニュートリノを検出するためには 何千万トン、もしくは10億トン近い水が 必要になるでしょう。世界のどこにそんな水があるのでしょうか?

 

6 ロシア人たちは自国にバイカル湖という水槽を持っている

ロシア人たちは自国に水槽を持っています。バイカル湖です。世界最大の貯水量を持つ湖で 長さが600キロ 幅は大体40-50キロ そして深さが1-2キロあります。ロシア人は ここに探知機を作り 水面下1キロほどのところに沈めて 青い光を検出しようとしています。私が訪れた時の写真です シベリアにあるバイカル湖の 真冬の光景です。湖は完全に凍っています。後ろに見える 黒い点のつながりが 物理学者が働いている氷のキャンプです 冬に研究を行うのは 春や夏に活動する資金がないからです。冬以外の季節だと 船や潜水艇が必要になります。それで 冬に湖が完全に凍るのを待って 1メートルの厚さの氷を使い 研究を行う氷のキャンプの土台を作ります。

 

7 シベリアの真冬の中、氷の上で働いている

ロシア人たちはシベリアの真冬の中 氷の上で働いているのです。彼らは 氷に穴をあけ 冷たい水の中を潜ります。装置を引き揚げて 必要な修理や手入れを行い 氷が解ける前に それを水中に戻して立ち退かなければなりません。氷が安定しているのは2ヶ月しかなく あちこちにひびがあります。海のように巨大な湖が 下の方で動いているのを 想像してみて下さい。信じられないことに 胸をはだけて作業している ロシア人の男性もいました。それだけ重労働だということなのでしょう。少数の人々は 存在するかどうかわからない粒子を探して 20年間 研究を続けています。人生を捧げているのです。ちなみに 彼らが使ったのは20年で18億円程度です。非常に厳しい状況です。わずかな予算で働いています。トイレは地面に掘った穴を 木の小屋で覆っています。こんな状況での研究を 毎年行っています。

 

8 宇宙の膨張の経年変化について調べる超大型望遠鏡

シベリアの次は チリのアタカマ砂漠にある 超大型望遠鏡の話をしましょう。この望遠鏡は 天文学者の仕事にはありがちなのですが 想像力に欠ける名前がつけられています。事実としてお伝えしますが 次に計画されているのは「極大望遠鏡」と呼ばれています (笑) そして 信じられないでしょうが その次は「圧倒的巨大望遠鏡」です。それはともかく この望遠鏡は工学の粋を集めて作られました 口径8.2mの望遠鏡が4台あります。この望遠鏡の最大の目的は 宇宙の膨張が 時の経過とともに どのように変化するのかを調べることです。その理解が深まれば 宇宙を構成する ダークエネルギーについての理解も深まるでしょう。

 

9 望遠鏡に使われている4枚の鏡は精密に研磨されている

この望遠鏡についてお伝えしたい 工学的な特徴は その鏡です。4枚ある鏡はいずれも 1枚のガラス素材でできています。高度な技術を要する巨大なセラミックガラスで とても精密に研磨されています。どれほど精密かと言うと 例えばパリには いろいろな建物やエッフェル塔がありますが もしパリを同じ精密さで研磨したならば 1ミリの高さの突起しか残らないでしょう。超巨大望遠鏡の鏡はそれ程精密に研磨されています。驚くべき望遠鏡です。見方を変えてみましょう。この望遠鏡を アタカマ砂漠のような場所に 作らなければならなかったのは アタカマ砂漠が高所にあるからです。乾燥した空気は観測に適していますし 雲は山の頂上よりも下の方にできます。だからこの場所は 年に300日程度は好天に恵まれます。

 

10 南極は宇宙論の最後のフロンティア

では最後に 南極にお連れしましょう。南極のことにたくさん時間を使いたいのです。南極は宇宙論の最後のフロンティアです。最もすごい実験や 最も驚くべき実験の一部は 南極で行われています。長期間気球飛行という実験を見に行きました。望遠鏡と観測器具を 地上40キロほどの 上部成層圏に持って行き そこで実験を行って 気球と観測機器を回収します。ロス棚氷に上陸しているところです。アメリカのC-17輸送機が ニュージーランドから 南極のマクマードまで運んでくれました。そこからバスに乗ります。文字が読めるかどうかわかりませんが 「イワン雷帝バス」と書いてあります。そしてマクマード基地に行きます。基地の入り口の様子です。この小屋が何か きっとおわかりではないでしょう。これはスコットが最初に南極に来た時に 南極点に向けた第1回目の探検の途上で 建てられた小屋です。あまりに寒いので 小屋の中はスコット隊が残したままになっています。最後の料理の食べ残しもそのままです。驚くべき場所です。マクマード基地では 夏には1,000人ほど そして 夜が半年続く冬には 200人ほどが働いています。

 

11 気球を使って2トンの機材を40キロの高さまで持ち上げる

私は この特殊な機材の打ち上げを見るために ここを訪れました。高度40キロの上部成層圏まで 打ち上げて行われる 宇宙線の実験です。想像してみて下さい。この機材は2トンの重さがあります。気球を使って 2トンの機材を 40キロの高さまで持ち上げるのです。工学者や技術者 物理学者たちが ロス棚氷の上で組み立て作業を行います。理由については述べませんが 気球の打ち上げに最も適した場所なのです。天候を除いては おわかりだと思いますが 季節は夏 高さ60メートルの氷の上です。後方には火山があり 頂上は氷河になっています。ここでの作業は 気球全体 – 布地 パラシュートなど全て – を 氷上で組み立て ヘリウムを入れます。2時間ぐらいかかります。

 

12 酷寒の中、靴を脱いで裸足で布を箱に押し込む作業を行う

組み立てを行っている間に天気が変わることもあります。ここでは 気球の布地を地面に横たえ ヘリウムを注入しようとしています。後方にある2台のトラックに タンク12本分の圧縮ヘリウムが積まれています。打ち上げの前に天気が変わった場合は 全てを箱に戻し マクマード基地に持ち帰らねばなりません。この特別な気球は 2トンの重さの機材を運ぶので とてつもない大きさになっています。布地だけで2トンあります。出来る限り軽くするため布地はサンドイッチの ラップと同じぐらい薄くなっています。布地をしまい直すには 箱に戻して 中に収まるよう上から踏まなくてはなりません。最初にそれをした時は テキサスだったので問題ありませんでしたが 南極では 防寒用の靴を履いていると踏めません。だから 酷寒の中、靴を脱いで 裸足で箱に押し込むという 作業を行います。南極で働く人たちはそれほど献身的なのです。

 

13 天文学者や宇宙学者は、常にある種の静けさを探している

気球がヘリウムで膨らんでいるところです。美しい景色ですね。この場面では 気球と積み荷が反対側に見えます。左側の気球にヘリウムが注入され 布地は真ん中まで続いており そこには電子機器と爆薬が パラシュートにつながれていて パラシュートが実験器具に結ばれています。こうした接続は 氷点下の寒さの中 人の手で行われています。15キロほどの重さがある服を着ていますが 作業時には手袋を外します。では 打ち上げの模様を見てみましょう(映像)無線:いいぞ 気球を放して 気球を放して アニル: 最後に写真を2枚お見せします。インドのラダックにあるヒマラヤ山中の観測所です 右側を見て下さい。望遠鏡があります。そして左側 遙か向こうにあるのは 400年前に建てられた仏教の修道院です。こちらは修道院を近くで撮った写真です。人間が持つ2つの巨大な領域が 並んで存在していることに衝撃を受けました。1つは外界である宇宙を探査し もう1つは 自己の内面を探るものですが どちらも ある種の静けさを必要とします。私が心打たれたのは 巨大望遠鏡をめぐる旅の中で 天文学者や宇宙学者が常に ある種の静けさを探していたことです。それは 電波からの静けさであったり 光からの静けさであったりします。こうした静かな場所を破壊してしまうと 宇宙から来る信号を理解することが 出来なくなり 私たちは 外の世界を見ることができなくなってしまうでしょう。ありがとう(拍手)

最後に

現在の物理学の理論は宇宙の4%しか説明していない。ニュートリノでダークマターを間接的に検出しているシベリアのバイカル湖での研究。宇宙の膨張の経年変化について調べているチリのアタカマ砂漠の超大型望遠鏡。気球を使って2トンの機材を40キロの高さまで持ち上げて研究を行う南極。隔絶された危険な場所で働きながら、宇宙からのかすかな信号を集めようとする人々の物語

和訳してくださった Wataru Narita 氏、レビューしてくださった Kyizom Lily Yichen Shi 氏に感謝する(2010年12月)。

ニュートリノ天体物理学入門 : 知られざる宇宙の姿を透視する (ブルーバックス)


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>