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エマ・ティーリング コウモリゲノムに隠された秘密

「コウモリの生態によって私たちの遺伝情報に関する新たな知見が得られます」エマは語りかける。ここでは、35万ビューを超える Emma Teeling のTED講演を訳し、コウモリゲノムに隠された秘密について理解する。

要約

西洋社会ではコウモリは気味悪く、邪悪だとすら見なされています。動物学者エマ・ティーリングはコウモリに対する態度を見直すよう勧め、コウモリの独特かつ魅力的な生態により我々自身の遺伝情報に関する新たな知見が得られると説きます。(TEDxDublinにて録画)

Emma Teeling, Director of the Centre for Irish Bat Research, thinks we have a lot to learn from the biology of bats.

 

1 生態系、視聴覚への知見、若さの秘訣を秘めたコウモリ

皆さん 私がこれからお話しする哺乳動物を想像してみてください。この哺乳動物についてまず言えるのは 我々の生態系が 正しく機能するのに不可欠だということです。生態系からこの動物を排除すると 機能しなくなってしまいます。それが1つ目です。2つ目は この動物の感覚能力は独特なため この動物を研究すれば 盲目や難聴のような視聴覚の病気について 大きな知見が得られるということです。3つ目 この動物は面白いことに 私の持論ですが 永遠の若さの秘訣が DNAに深く刻み込まれていることです。お分かりですか? すばらしい生物でしょう? コウモリだと分かった方は おられますか? 半分ですね。残り半分の方を説得するために頑張らないといけませんね。

 

2 哺乳類の5分の1はコウモリ

私は幸いなことに過去20年間 このすばらしく 美しい動物を研究してきました。哺乳類の5分の1はコウモリであり とても独特な特性を持っています。分かっている限り コウモリは約6400万年にもわたり 地球上に存在しています。コウモリの特徴の1つは 哺乳類なのに飛ぶことです。飛行は本来難しいことです 脊椎動物の飛行が進化したのは3回しかありません。コウモリで1回 鳥類で1回 そしてプテロダクティルスで1回です。飛行は多大なエネルギーを必要とします。コウモリはこれを解決する方法を学び 進化しました。

 

3 周囲の環境を認識するために音を使える

しかしコウモリの特徴的な点は 周囲の環境を認識するために 音を使えることです。響定位を行っているのです。ここで言う反響定位とは 喉から口や鼻を経由して音を出すことを指します。この音波は周囲にある物体に反射し コウモリの元へ返ります。コウモリはその反射音を聴き取り 情報を聴覚像へと変換します。こうすることで コウモリは真っ暗闇にも適応できるのです。たしかにコウモリの見た目は奇妙です。我々は人間であり 視覚により周囲を認識します。コウモリが夜間にも音を用いて 飛び 方向を認識し 動いていると 研究者が発見した時も我々はそれを信じませんでした。コウモリはそのようにしているという根拠があるのに 我々は100年間にもわたってそれを信じようとはしませんでした。

 

4 コウモリの生存に音は非常に大切

このコウモリを見ると 異様な印象を受けます。有名な哲学者トマス・ネーゲルはかつてこう言いました 「地球上で異星の生命体を実際に経験するには 真っ暗闇の中で超音波を出して飛び回るコウモリと 部屋に閉じこもってみればよい」 このキクガシラコウモリの 顔立ちに注目すると 音を出したり知覚したりするための 特徴が多数あることに気がつくことでしょう。耳はとても大きく 鼻には奇妙な葉のようなものを持つのに対し 目はとても小さいです。やはり このコウモリを見ると このコウモリの生存に音が非常に大切だとわかります。

 

5 コウモリ同士でも感覚器官の能力に大きな違いがある

ほとんどのコウモリはこの様な外見をしています。しかし 反響定位を行わない種も存在します。そのような種は周囲を認識するのに音を用いません。オオコウモリです。オーストラリアに行ったことがあるなら シドニー王立植物園でオオコウモリを見たことかと思いますが オオコウモリの顔に目をやると 目はずっと大きく 耳はずっと小さいことが分かります。コウモリ同士でも感覚器官の能力に 大きな違いがあるのです。これは後にお話しする事に対して 大きな意味を持ちます。

 

6 西洋文化においてはコウモリは悪魔の象徴

コウモリが頭上を飛び回るのを考えると怖いとおっしゃるかもしれませんし またコウモリの大きな画像を見て 気持ち悪くなった方もおられるかと思いますが それほど驚くことではありません。なぜなら西洋文化においては コウモリは 悪魔の象徴とされてきたからです。ダブリン北部出身のブラム・ストーカーが書いた かの有名な本「ドラキュラ」も イメージ形成にもちろん一役買っています。しかし同時に コウモリは夜に活動するため 我々が生態を知らないことにも起因すると思います。我々は自分たちとは違う方法で世界を認識する生物に 少しおびえているのです。コウモリは不吉な出来事の同義語としてよく使われます。有名な「ナイトウィング」のような ホラー映画の悪者などです。また考えてみると 悪魔はいつも コウモリの翼を持っている一方で 天使は鳥のような翼を持っています。

 

7 中国ではコウモリは幸運をもたらす生き物

西洋社会はこのような現状ですが今晩はみなさんに 伝統的な中国文化を受け入れて頂ければと思います。中国ではコウモリは幸運をもたらす生き物とされ 中国家屋に足を踏み入れれば こんな像を見かけることもあるかもしれません。これは5つの恩恵とされています 「コウモリ」という意味の中国語の言葉は 「幸福」のように聞こえ 中国人の間では コウモリは富 健康 長寿 美徳 平穏をもたらすと信じられています。この像には 5匹のコウモリに囲まれた 長寿の絵が描かれています。これらの恩恵のうち少なくとも3つは 間違いなくコウモリに象徴され コウモリを研究することでこれらの恩恵に近付くことができると 今夜皆さんにお話したいと思います。

 

8 熱帯に生息するコウモリは多くの植物の授粉に重要

まず富です。コウモリがどうして富をもたらすことができるのでしょう? 先ほど申し上げた通りコウモリは我々の生態系が 正しく機能するのに不可欠ですがなぜでしょう? 熱帯に生息するコウモリは多くの植物の授粉に重要です。また 果実も食べそれらの種子を拡散させます。コウモリはテキーラの原料となる植物に授粉する役割を持ち メキシコでは何百万ドルもの産業を形成しています。このように確かに我々の生態系が 正しく機能するにはコウモリが必要なのです。コウモリがいなければ 問題が生じます。ほとんどのコウモリは大食いで大量の昆虫を補食します。アメリカではオオクビワコウモリの ごく小さなコロニーが 年間100万匹以上の昆虫を食べていると推定されています。現在アメリカでは コウモリは白い鼻症候群という病気の脅威に晒されています。この病気は徐々にアメリカ全体に広がり コウモリに集団感染しつつあり コウモリの減少により年間1300トンの昆虫が 生態系の中で生き残っていると 科学者は推定しています。アメリカではコウモリは 風車への吸引にも脅かされています繰り返しますが コウモリは現在問題に直面しています。アメリカ国内だけでも コウモリは危機に瀕しているのです。

 

9 コウモリがいないと殺虫剤の費用がかかる

ではこれがどう役立つのでしょう? 方程式からコウモリを除外したとすると 農作物を食べてしまう有害な虫を駆除するために 殺虫剤を使用しなければなりません。コウモリがいないとアメリカだけでも1年間に 220億ドルかかる計算になります。つまりコウモリはそれだけの富をもたらしてくれているのです。コウモリは我々の生態系を安定させるだけでなく お金も節約してくれるのです。繰り返しますがこれが1つ目の恩恵です。コウモリは我々の生態系にとって重要なのです。

 

10 DNAの300塩基対ごとに違いがある

2つ目についてはどうでしょう? 健康については? 体内の全ての細胞にはゲノムが含まれています。ゲノムは 生命を機能・相互作用させ 生命たらしめるタンパク質を暗号化する DNAで構成されます。最近の分子技術の発展により 今では驚く程 短時間・低コストで 自分のゲノム配列を解読することができます。多数のゲノム配列を解読しているうちに ゲノムに個体差があることに気がつきました。側の人を見てみてください。チラッとでいいんです。ここで大切なのは DNAの300塩基対ごとに違いがあるということです。現代の分子医学における大きな課題の1つは 個体差が病気にかかりやすくさせるのか それとも単に違いを生んでいるだけなのかを 見極めることです。ここでそれはどのような意味を持つのでしょう? 個体差は何を意味するのでしょうか? 数年内にオンラインで新たに利用可能になる分子データや個人のゲノム情報全てを 利用しようとするなら この2つの違いを明らかにしなければなりません。どうすればよいでしょうか?

 

11 違いが微妙な動物同士を比較するとさらに有効

自然界の実験に注目すればよいと考えます。タンパク質の機能を破壊するような 突然変異や個体差は 時間とともに自然淘汰されます。進化はふるいのように振る舞います。悪い個体差をふるい落とすのです。そのため 進化学的にも生態学的にも 全く異なる哺乳類を多数集めて それらの動物のゲノムの同じ領域に注目してみると その部位においてどのような進化が起きたのか つまりその動物の生命機能や生存に重要なのかが より深く理解できます。重要な配列は 異なる部族 種 群にわたって 保存されているはずです。そのため 我々がすべきことは それらの動物に対して 同一のゲノム領域の配列を解読し 配列が等しいのか異なっているのか確かめることです。もし同じであれば その部位はある機能に対して重要であり 病気を引き起こす変異はこの部位に存在するはずだということが示されます。ここでの場合 対象とする全ての動物が その部位で黄色型ゲノムを持つなら おそらく紫は悪いということを示します。違いが微妙な動物同士を比較すると さらに有効となります。例えば 私が注目していたゲノム領域は 視覚に対して重要であるような領域でした。コウモリのように 視覚が発達していない動物の その領域に注目し 視覚が発達していないコウモリは 紫型ゲノムを持つことが分かれば それが病気の原因であろうことが分かります。

 

12 3億4000万人が視覚障害を持ち、そのうち4500万人が盲目

私のラボでは 2つの感覚に関する病気に注目するために コウモリを用いてきました。我々は盲目に注目しています。なぜですかって? 3億4000万人が視覚障害を持ちそのうち4500万人が盲目です。盲目は大きな問題であり 視覚障害の多くは遺伝病に由来するので 遺伝子のどんな変異がその病気を 引き起こしているのかを解明したいと考えています。また我々は聴覚障害にも注目しています。新生児の1000人に1人は聴覚障害を持ち 80歳になる頃にはそれが2人に1人の割合にまで高まります。繰り返しになりますが この原因の多くは遺伝子にあります。我々はラボで 独特な感覚器官のスペシャリストであるコウモリに注目し 視覚障害や聴覚障害の原因遺伝子に 注目してきました。今ではどの部位が病気を引き起こし得るのか予測できます。コウモリは我々の健康に対しても重要であり ゲノムがどのように機能するかを理解する助けになります。

 

13 人類は老化を避けようと努力してきた

これが現在の段階ですが 将来についてはどうでしょう? 長寿については? この様な研究も進めて行きたいのです。永遠の若さの秘訣は コウモリのゲノムに存在すると 私は強く信じています。そもそも我々はなぜ老化に興味を持つのでしょう? これは1500年代に描かれた若返りの泉の絵です。老化は 生物の見地の中で 最も馴染みがありながら理解されていないものの 1つとして見なされ 文明の発生以来 人類は老化を避けようと努力してきました。しかしまだもっと深く理解する必要があるようです。2050年までにヨーロッパだけでも 65歳以上の人は70%増え 80歳以上の人は170%増えると予測されています。年を取り 衰弱するにつれ 社会問題が引き起こされます。そのためこれを解決しなければなりません。

 

14 プラントホオヒゲコウモリは最大42年も生きた

永遠の若さの秘訣はどのようにコウモリゲノムに 隠されているのでしょうか? どなたかコウモリがどのくらい長生きするか想像がつきますか? 挙手をお願いします。2年だと思う方? いませんか?1人10年だと思う方? 数人でしょうか30年だと思う方? 40年だと思う方?はい 様々な答えが返ってきました。このコウモリはプラントホオヒゲコウモリです。最も長生きするコウモリです。最大42年も生きました。現在も野生に存在しています。しかしこのコウモリの何が驚きなんでしょうか?

 

15 哺乳動物は通常体長と代謝率と寿命に相関が見られるが…

哺乳動物では通常 体長と代謝率と寿命に 相関が見られ 体長が分かれば だいたいの寿命が予測できます。通常 小さな哺乳動物の成長は速く若くして死にます。ネズミが良い例です。しかしコウモリは全く違います。このグラフの青い点は コウモリ以外の哺乳類ですが コウモリは代謝率がとても高いわりに 予測の9倍も長生きしますがここである疑問が浮かびます。コウモリはどうやってそんなに長生きできるのでしょう? 体長に基づく予測よりも 長生きする哺乳類は19種いますが そのうち18種はコウモリです。そのため コウモリはDNAの中に特に飛行による代謝ストレスの処理を可能にする 何かを持っているに違いありません。コウモリは同じ体長の哺乳動物の3倍ものエネルギーを消費しているのですが その影響があるようには見えません。現在私のラボでは 外に出て長生きしているコウモリを捕まえて来て 最先端のコウモリのフィールド生物学と 最先端の分子技術を融合し コウモリが老化を止めるために何をしているか より深く理解しようと試みています。これから5年でそれについてのTEDトークができれば と思います。人類にとって老化は大きな問題ですが コウモリを研究することにより 哺乳動物に信じられないほどの長寿を実現させる 分子機構を解明できると信じています。それが分かれば おそらく遺伝子治療を通じて 我々も同じことができるようになります。もしかすると 我々も老化を止めたり逆に若返ったりできるようになるかもしれません。どんな世界か想像してみてください。

 

16 コウモリはスーパーヒーローである

コウモリは暗黒に飛び回る悪魔ではなく スーパーヒーローであると考えるべきです。現実として 適切に見さえすればコウモリはたくさんの恩恵をもたらしてくれます。生態系のバランスを保ち ゲノムが機能する仕組みを理解する手助けをしてくれ 永遠の若さの秘訣を持っている可能性があります。今夜この会場から出て夜空を見上げたときに この美しい空飛ぶ哺乳動物を見かけたら 皆さんに微笑んで頂きたいです。ありがとうございました (拍手)

 

最後に

生態系、視聴覚への知見、若さの秘訣を秘めたコウモリ。哺乳類の5分の1はコウモリ。周囲の環境を認識するために音を使える。コウモリは西洋文化では悪魔の象徴だが、中国では幸運をもたらす生き物。熱帯に生息するコウモリは多くの植物の授粉に重要。3億4000万人が視覚障害を持ち、そのうち4500万人が盲目。新生児の1000人に1人は聴覚障害を持ち、80歳になる頃にはそれが2人に1人の割合にまで高まる。哺乳動物は通常体長と代謝率と寿命に相関が見られるが、コウモリは予測の9倍も長生きする。コウモリはスーパーヒーロー

和訳してくださった Tomoshige Ohno 氏、レビューしてくださった Jun Kaneko 氏に感謝する(2012年9月)。

コウモリの謎: 哺乳類が空を飛んだ理由


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