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ポール・ルート・ウォルプ バイオエンジニアリングを問うべき時

「ハイブリッドペットや人間の耳をはやすマウスなどは現実に生み出せます。私たちは好きなように生物を操作・創造してもよいのでしょうか?」ウォルプは語りかける。ここでは、80万ビューを超える Paul Root Wolpe のTED講演を訳し、バイオエンジニアリングの倫理について考える。

要約

TEDxPeachtree において、生命倫理学者であるポール・ルート・ウォルプがハイブリッドペットから人間の耳を生やすマウスなど、最近の驚愕的なバイオエンジニアリングの実験について話します。彼は問いかけます。今こそ基本ルールを定めるときではないでしょうか?

Paul Root Wolpe examines the ethical implications of new science — genetic modification, neuroscience and other breakthroughs that stretch our current philosophy to the breaking point. He’s the chief bioethicist at NASA, among other appointments.

 

1 ダーウィン的・文明的・意図的進化の3つの大きな波がある

今日はデザインについてお話ししたいと思います。ただ 普段私たちが考えるデザインではありません。科学やバイオテクノロジーの分野で 今起こっていることをお話ししたいと思います。史上初めて私たちは 動物の体を そして人間の体を デザインする力を得ました。私たちの住む惑星では過去に三回 大きな進化の波が起きています。最初の進化の波は ダーウィン的進化です。ご存じの通り 特定の生態的ニッチや 特定の環境 またその環境下のプレッシャーが 種のランダムな変異を促し またどういった変異が 保たれていくかを選択します。その後人類は ダーウィン的な進化の流れから足を踏み出し 進化の第二の大きな波を作り出しました。私たちが自ら進化していく 環境を変えたのです。私たちは文明を作ることで 生態的ニッチを変えました。これが私たちの進化の 第二の大きな波で 15万~20万年前のことです。環境を変えることで 進化するための新たなプレッシャーを 私たちの体に与えたのです。農耕的文化や 現代医学を通じて 私たちは自らの進化を変化させてきました。そして今 私たちは第三の 大きな波へ突入するところです。これにはさまざまな呼び方があります。意図的進化 デザインによる進化 知能設計とは違いますよ。私たちはこの惑星の 生物の物理的形態を 意図的にデザインし、変容させています。

 

2 犬は意図的にデザインされた生物

この第三の進化に関して ざっとツアーのようなものをして 最後にそれらが種としての人類に そして文化に対してどのような影響があるか お話ししたいと思います。生物のデザインはこれまでも長い間行われてきました。私たちは何千年も前に 動物の選択的な飼育を始めました。例えば犬を思い浮かべてください。犬は意図的にデザインされた生物です。地球上に天然の犬は存在しません。犬は私たちが好む性質を 選択的に交配した結果なのです。昔は特定の外見の子どもを 選んで交配するという より難しい方法を取る必要がありました。もうその必要はありません。

 

3 通常の選択的交配を少し発展させた

こちらはビーファローです。バッファローと牛のハイブリッドです。彼らは現在開発中で 遠くないうちに お近くのスーパーで ビーファローのパティが発売されるでしょう。こちらはギープで 山羊と羊のハイブリッドです。この愛らしい生き物を作った科学者はその後 その子を殺して食べることになりました。確かチキンのような味だったと言っていました。こちらはキャマです。ラクダとラマのハイブリッドで ラクダのたくましさと ラマの持ついくつかの特性を 求めて作られました。現在キャマを利用している文化圏もあります。こちらはライガーです ライオンと虎のハイブリッドで 世界最大の猫です。虎より大きいんですよ。ライガーに関しては 野生の存在も確認されていますが ご覧のライガーは 選択的交配と遺伝子技術で作り出されたものです。最後にみんなの人気者 ゾースです。いずれもフォトショップ加工ではなく本物です。私たちが行ってきたことの一つは 遺伝子拡張 あるいは遺伝子操作を用いて 通常の選択的交配を 少し発展させたということです。これで終わりでしたら 興味深いで済んでいたでしょう。しかし現在 もっと大きなことが 起こっているのです。

 

4 暗闇で光る人類を生み出すことは理論的にも技術的にも可能

こちらは通常のほ乳類の細胞です。深海のクラゲから採取した 生物発光遺伝子を組み込みました。光を発する深海生物がいることは周知の通りです。さて その発光遺伝子を取り出し ほ乳類の細胞に組み込みます。こちらは通常の細胞です 暗い 特定の波長の光の下 これらの細胞が光るのが ご覧頂けます。細胞でできたなら生物にもできます。ですので科学者はマウスの赤ちゃんや 子猫でもやりました。ところで子猫がオレンジでマウスが緑なのは 一方の発光遺伝子が珊瑚のもので 他方はクラゲのものだからです。豚でも 子犬でも そして 猿でもやりました。猿でもできたのなら 遺伝子操作上大きな隔たりがあるのは 猿と類人猿の間ではありますが おそらく 類人猿でもできるようになり つまり人間でもできるようになるということです。言い換えると 遠くないうちに私たちは 暗闇で光る人類を生み出すことが 理論的にも技術的にも可能になるということです。夜でも見つけやすいですね。

 

5 アメリカのスーパーは既に遺伝子組み換え食品を売っている

また実際 現在多くの州で 生物発光するペットを購入することができます。このゼブラフィッシュの色は通常黒と銀です。ですが遺伝子操作によって 黄 緑 赤になっており 実際に購入できる州もあります。他の州では禁止されました。このような生物の扱い方は誰も知りません。EPA や FDA またそれ以外のどの部署も 遺伝子組み換えペットを扱っていません。そしてある州は許可し ある州は禁止しています。皆さんの中には 遺伝子組み換えサケに関する FDA の懸念を読んだ人もいるでしょう。上のサケは 遺伝子組み換えキングサーモンで キングサーモンと もう一種 私たちが食用にしている魚の 遺伝子を組み込み 少ない餌で早く成長します。現在 FDA はこのサケを 市場に出すか否かの 最終決定をするところです。そこまで心配するには及びません。ここアメリカでは スーパーにある食べ物の大部分は 既に遺伝子組み換え物を含んでいます。ですので私たちは心配しつつも ヨーロッパとは違い既に広く導入しています。規制もなく パッケージの表示すらありません。

 

6 初のクローン馬プロメテアはクローン技術の進歩を真に表す

こちらは全て それぞれの種で 初めて生み出されたクローンです。右下のは 初のクローン羊であるドリーです。現在はエディンバラ博物館に幸せに飾られています。初のクローンネズミ ラルフ 初のクローン猫 CC 初のクローン犬 スヌッピー ソウル大学校 (SNU) のパピー (puppy) でスヌッピーです。覚えている方もいるでしょうが 韓国でヒトの胚をクローンしたと 研究をでっち上げ 辞職することになったその人によって作られました。彼は高いゲノム塑性のため 非常に難しい犬のクローンに成功した 最初の人物でもあります。初のクローン馬 プロメテアです。イタリアでクローンされたハフリンガー種で クローン技術の進歩を真に表すものです。なぜなら重要なレースに勝つ馬の多くは 去勢馬だからです。つまり種馬として必要な物が 取り除かれているのです。ですがその馬をクローンできるとしたら 去勢馬をレースに出し かつ飼育場へ 同一の遺伝子を送り出すこともできます。こちらは初のクローン子牛と クローンハイイロオオカミです。そして最後に 初のクローン子豚たち アレクサ クリシー カレル ジェイニー ドットコムです(笑)

 

7 私たちが利用したい薬物などをその体内に作り出す

さらに私たちはクローン技術を用いて 絶滅危惧種の保護に乗り出しました。これが現在の動物の使い方です。私たちが利用したい薬物などを その体内に作り出すのです。遺伝子組み換えされたあの山羊の 体内にはアンチトロンビンがあります。ミルクの分子に ジェネティックステクノロジー社が望む アンチトロンビンの分子が含まれているのです。さらに韓国の国立畜産科学院の 遺伝子組み換えをした ノックアウトピッグは さまざまな薬物や 工業用化学物質を 工業的に作り出すのではなく その体内の 血液やミルクに 作ってもらおうとしています。

 

8 絶滅危惧種を救うために作り出された2つの種

こちらの二つの種は 絶滅危惧種を救うために 作り出されました。グアーは絶滅危惧種で 東南アジアの有蹄動物です。体から 体細胞を採取し 牛の卵子に懐胎させ グアーを出産させました。絶滅危惧種であるオオツノヒツジでも 同様のことが行われました。通常の羊に懐胎させたのですが 興味深い生物学的問題の提起に繋がりました。私たちは二種類の DNA を持っています。私たちが普段 DNA と呼んでいるのは 核 DNA です。この他に細胞のエネルギーパックである ミトコンドリア内にも DNA があります。こちらの DNA は母系から受け継ぐものです。ですので正確には これらはグアーでもオオツノヒツジでもなく 牛のミトコンドリアを持った つまりは 牛ミトコンドリア DNA を持つグアーと 羊のミトコンドリア DNA を持つ オオツノヒツジなのです。本当の意味でのハイブリッドで 純粋な動物ではありません。これはバイオテクノロジーの時代に種をどう定義するか どう種を定義するかという問題を提示します。私たちがまだどう解決したら良いか 分からない問題です。

 

9 左右前後への移動をコントロールできるゴキブリ

こちらの愛らしい生物は オキナワチャバネゴキブリです。これは何かというと 神経節と脳に電極を刺し 送信機を取り付け 大きなトラックボールの上にいるところです。これはジョイスティックを使って ラボ中を移動させることが できます。左右前後への移動を コントロールできるのです。昆虫ボットないしバグボットというものを 作り出したのです。さらに酷いもの — 凄いものもあります。こちらは DARPA — 防衛研究所のことですが そこの重要なプロジェクトの一つです。こちらのゴライアスオオクワガタは 羽にコンピュータチップを 取り付けられており ラボ中を飛び回らせることができます。左右への移動や飛び立つ指示を出せます 着地させることはできません。1 インチほどの高さに降ろしてから 機器を全部シャットダウンし ポロっと落とします。これが着地に一番近い方法です。

 

10 蛹から蛾として出てきたときには既に取り付けが完了している

この技術はかなり発達しました。こちらの生物は 蛾です。蛹期の蛾です。この時点で ワイヤーで コンピュータテクノロジーを組み込みます。ですので蛹から蛾として出てきたときには すでに取り付けが完了しているのです。ワイヤーは既に体内に入っているので あとはコンピュータにつなげれば 偵察に送り出せる バグボットのできあがりというわけです。小さなカメラを付けて そしていつか 軍需品などを 交戦地帯へと送るようになるかもしれません。

 

11 「これは倫理的にどうなのか?」

昆虫だけではありません。こちらはサニーダウンステイト医療センターのサンジヴ・タルワーによる ラットボットまたはロボラットです。同様のテクノロジーが用いられています。両脳半球へ電極を刺し 頭の上にカメラを乗せています。科学者はこの生物を 右へ左へと動かせます。迷路をコントロールして走り抜けさせました。彼らは今や有機体ロボットを作り出したのです。サンジヴ・タルワーのラボの 大学院生は言いました 「これは倫理的にどうなのか? 我々はこの動物の自律性を奪ったのだ」 これに関してはまた後ほどお話しします。

 

12 霊長類として史上初めて3つの独立した腕を持ったサル

サルでも同様の研究がなされました。こちらはデューク大学のミゲル・ニコレリスです。彼はヨザルに ワイヤーを取り付け 動いているときの脳を 特に右手の動きをコンピュータで見られるようにしました。サルが手をいろいろと動かすとき 脳が何をしているかをコンピュータで把握しました。それからこの写真にある 義肢を取り付け その腕を別の部屋に配置しました。それから間もなくコンピュータで サルの脳波を読み その義肢とサルの腕が 同じ動きをするようにできました。それから彼はサルの飼育小屋に モニタを置きました。別の部屋の義肢を映すと サルはそれに見入りました。サルは自分の腕とその義肢が同じ動きをすることを 理解したのです。サルは腕を動かし続けていましたが 最終的にはそれを止めて モニタを凝視し 別の部屋にある義手を 脳波だけで操作するようになりました。つまりそのサルは 霊長類として史上初めて 三つの独立した腕を持つものとなったのです。

 

13 ニューロンや生きているの脳も動物に組み込める

動物に組み込むのは テクノロジーだけではありません。こちらはフロリダ大学のトーマス・デマースです。彼は二万 そして六万の 分散したラットのニューロンを つまりただの独立したたくさんのニューロンを チップに取り付けました。それらは自己会合しネットワークとなり 集積回路となりました。彼はそれを IT の部品として使い フライトシミュレーターを走らせました。私たちは生きている自己会合ニューロンから作った 有機コンピュータチップを作り出したのです。最後に ノースウェスタン大学のムッサ・イヴァルディは 独立した完璧な状態の ヤツメウナギの脳を使いました。こちらがヤツメウナギの脳です。培養液内で 完璧な状態で生きています。電極を横から出し 脳には感光センサーを取り付け カートに組みました。これがカートで 中央に脳があります。この脳をカート唯一のプロセッサとして使います。光をこのカートに当てると カートは光の方へ動きます。光を消すと離れていきます 好光性です。私たちは今 完全に生きたヤツメウナギの脳を手に入れました。この培養液に浸された ヤツメウナギの脳は思考しているでしょうか? 分かりません。ただ事実として これは私たちの命令を受け付ける 完全に生きたままの脳です。

 

14 私たちは今、目的に応じた生物を作り出す段階にいる

さて 私たちは今 目的に応じた生物を 作り出す段階にいます。こちらのマウスはマサチューセッツ大学の チャールス・ヴァカンティによって作り出されました。彼はこのマウスを ヒトの肌に対して免疫反応を示さない肌と その肌の下に耳の高分子足場を持ち 後で切り取って 人間に移植できる耳を持つよう 遺伝子工学的に操作しました。遺伝子工学と 高分子生理テクノロジーと 異種移植術の組み合わせです。私たちはここまでする段階にきています。

 

15 「初の人工生命体とそれがもたらすものとは」

最後に それほど遠くない昔 クレイグ・ベンターが初の人工細胞を作り出しました。彼は細胞と 人工のゲノムを作る DNA シンセサイザーとで 新たな細胞を作りました。そのゲノムは彼が用いた細胞のものではなく そしてその細胞は 別の細胞として自己増殖しました。つまり これがコンピュータを親に持った つまり有機体を親に持たなかった 史上初めての生物なのです。そこでエコノミスト誌は問いかけます 「初の人工生命体とそれがもたらすものとは」みなさんは 生命の創造とは このようなものになると思ったかもしれません (笑) しかし実際は フランケンシュタインのラボはこうではありません。このような感じでしょう。こちらは DNA シンセサイザーで 下にあるのは A T C G のボトルです。私たちの DNA の鎖を作る 四つの化学物質です。

 

16 私たちは好きなように生物を操作・創造して良いのか?

私たちは自身に問いかけなければなりません。この惑星で史上初めて 私たちは直接生命をデザインできるようになりました。かつてない力でもって 生命の原形質を操作できます。その力は私たちに責任を与えます。全てが許されるのでしょうか? 私たちは好きなように 生物を操作・創造して良いのでしょうか? 私たちに動物をデザインする 際限ない支配権があるのでしょうか? いつの日かペットショップで このようなことを言うようになるでしょうか? 「ダックスフンドの頭と レトリバーの体と ピンクの毛があって 暗闇で光る犬がほしいな」 産業は ミルク 血液 唾液などの液体に 私たちにとって望ましい 薬物や工業の分子を持つ 生物を作り それを有機的製造機械として 保管するようになって良いのでしょうか? 動物の自律性を奪い 私たちのただのおもちゃとなる 有機ロボットを作るようになって良いのでしょうか?

 

17 私たちは今、自身の進化を管理している

これらの最終段階として 動物でこのテクノロジーを極め 人類に対して用いるようになったら そのとき私たちが則る 倫理指針は何になるでしょう? 以上は既に現実のものです。サイエンスフィクションではありません。動物でこのテクノロジーを使っているだけでなく そのいくつかは既に 私たち自身の体に使い始めているのです。私たちは今 自身の進化を管理しています。この惑星の種の未来を 直接デザインしています。それは私たちに 多大な責任を委ねるもので それを扱っている科学者や 倫理学者だけの責任ではありません。全ての人の責任なのです。なぜならそれはこの先私たちが どんな体でどんな星に住むかを決定するものだからです。ありがとうございます(拍手)

 

最後に

進化にはダーウィン的・文明的・意図的進化の3つの大きな波がある。暗闇で光る人類を生み出すことは理論的にも技術的にも可能。アメリカのスーパーは既に遺伝子組み換え食品を売っている。左右前後への移動をコントロールできるゴキブリ。霊長類として史上初めて3つの独立した腕を持ったサル。ニューロンや生きている脳も動物に組み込める。私たちは今、自身の進化を管理している

和訳してくださった Keiichi Kudo 氏、レビューしてくださった Tatsuaki Iriya 氏に感謝する(2010年11月)。

工業材料: エンジニアリングからバイオテクノロジーまで (シリーズ新しい工学)


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