bioreactor

モリー・スティーブンス 新しい骨再生法

「まとまった量の骨を再生するのに何が必要なのでしょうか」スティーブンスは語りかける。ここでは、100万ビューを超える Molly Stevens のTED講演を訳し、痛みを伴わずに骨組織を再生する方法「生体バイオリアクター」について紹介する。

要約

まとまった量の骨を再生するのに、何が必要なのでしょうか。典型的な骨の再生法では、患者の腰から採骨し、損傷した所に埋め込むのですが、限界もあり、手術後2、3年でかなりの痛みが生じうるのです。情報を豊かに織り込み、モリー・スティーブンスは、骨生来の能力を使い、痛みを伴わず骨組織の再生をする新しい幹細胞応用法を紹介します。

Molly Stevens studies and creates new biomaterials that could be used to detect disease and repair bones and human tissue.

 

1 最初のブルートゥース技術

誰もが 健康を改善したり 肉体的苦しみを最小限に留め 我が身に起る事が 癌 糖尿病 心臓病または骨折と それが何であろうと 良くなりたいと思うものです。私は生体材料研究所の所長ですが 過去 様々な材料が 独創的な方法で人体に 使われてきたということに とても感心させられます。

例えば この貝の青い真珠層をご覧下さい。これはマヤ族が歯のインプラントに 実際 使っていました。その理由はよく分かりませんが 硬く長持ちし 他にもとても良い特質があります。顎に入れると 顎骨と融合するのです。高度画像技術で 分かっている 融合の理由は この材料の 用途によく合ったデザイン そして素晴らしい化学的性質と 構造にありました。あらゆる意味で マヤ族の青い真珠層を持つ貝の使い道は まさしく最初の ブルートゥース技術だ なんて思ったりします(笑)

 

2 眼内レンズの素材PMMAの由来

先に進んで 歴史を通して 人類が体に様々な種類の材料を 使ってきたことを考えてみると 創意工夫をしてきたのは 医師の場合が多く 彼らが様々な発明をしてきました。その中でも 私のお気に入りは サー・ハロルド・リドリーのものです。彼は有名な眼科医で ― 少なくとも そうなったのですが ― 第2次世界大戦中 彼は 戦線から戻って来たパイロットを見て 彼らの目の中に 小さな異物のかけらが 入っているのに気がつきました。興味深いことに その物質は炎症反応を 全く引き起こしていなかったのでした。調べて分かったことは その物質は 小さなプラスチックのかけらで スピットファイア戦闘機の天蓋から 来る物でした。それで彼はこの物質を 新しい眼内レンズの素材 として提唱したのです。PMMAと呼ばれるもので 毎年 何百万人の人の目に 白内障を防ぐ為に使われています。

 

3 幹細胞はあらゆる組織に分化できる

この例は 昔は機械的機能をさせる為に よく生体不活性材料が 選ばれ 使われていた ということを 示しています。生体不活性材料を体に入れても 拒絶反応はありません。しかし ここで私が述べたい事は 再生医療は 生体不活性材料から 全く離れたということです。我々が積極的に探している材料は 生体と作用する 生体活性材料で 生体内に入れられると そこで機能し 時が経つにつれ 生体内に吸収されるものです。

このチャートをご覧下さい。これが示しているのは 細胞組織工学の 典型的アプローチです。普通患者から細胞を取り それを材料に入れ 非常に複雑なものに することもでき ― 実験室で増殖するか 患者の体に直接 戻すか どちらでもできます。これが世界中で そして 我々の実験室でも 行われている方法です。

幹細胞について 本当に大切なことの1つは 幹細胞は あらゆる組織に分化でき 又 そうなる傾向にあるので 幹細胞を入れる環境に 我々が必要な情報を 確実に組み込むと 目的の特定の組織に なるという事です。世界中の実験室で 再生が試みられている 組織のタイプは 殆ど考え得る全ての組織 と言っていい程です。そんな組織の構造は かなり多様で 患者の他の 隠れた病気とか健康問題が 組織の再生法や 材料の使用法や 生化学的性質、 機能 その他多くの特質に影響し それにより 我々の対処法も大きく変わってきます。

 

4 組織はそれぞれ異なる再生能力がある

組織はそれぞれ 異なる再生能力があります。ここで思い出すのが 可哀想なプロメテウス 危なっかしい決断をした彼は ギリシャの神々に罰せられ 岩に縛り付けられ 鷲が毎日 彼の肝臓をついばみに来ます。彼の肝臓は毎日再生し そうやって来る日も来る日も 永遠に神々に罰せられるのです。肝臓はこのように 再生されることになるでしょうが 他の組織 例えば軟骨は どんな些細な欠損でも 再生するのは とても難しいのです。この様に組織により 違いが非常に大きく、骨の再生能力はその中間です。

骨は我々の実験室で よく扱われる組織の1つで 自己修復能力は 実は かなり高いのです。そうでなければ困ります。たぶん我々はみな 骨折を経験しているでしょうし 骨折治療の1つの方法は 「腸骨採取」と呼ばれる手法で 外科医が 腸骨から骨を採取し ここにありますが ― 体の他の部分にそれを移植します。これは本当にうまく行くのです。本人の骨なので うまく血管新生化し 血液の流れが とても良くなるのですが 問題は採骨できる量に 限界があるという事です。その上 手術後 採骨した場所が 2年経っても 非常に痛む可能性があるのです。

 

5 生体内で骨を再生して移植する「生体バイオリアクター」

それで我々が考えた事は 勿論 骨修復の需要は 非常に大きいのですが ― 腸骨タイプのアプローチでは 限界があまりにあるので 必要に応じ 生体内で 骨を再生し 移植したらどうだろう。それにより腸骨採取後のような 極度の痛みが伴わない移植が 出来るのではないだろうか? ということです。

その我々のやり方は 典型的な細胞組織工学の アプローチに戻ったのですが かなり違った観点を取りました。随分 簡素化して かなりステップを省きました。患者からの 細胞採取の必要性 あらゆる高価な 化学薬品の必要性 そして研究室で担体を 培養する必要性を なくしました。我々が本当に 焦点を置いているのは 材料系と それを簡素化する事ですが よく考えられた方法で使用したので このアプローチによって 膨大な量の骨を 再生できたのです。それで我々は生体を 骨を大量に作る為の 媒体として使いました。そのアプローチを 「生体バイオリアクター」と呼び このやり方で とてつもない量の骨を 再生できるのです。分かり易く説明するとこうです。

生体には幹細胞の層が 長骨の外側にあり 「骨膜」とよばれ 普段とても しっかりと その下の骨に密着していて 幹細胞を含んでいます。この幹細胞は 胎芽の成長にとても重要で 骨折すると 骨を修復しようと活性化します。我々はその骨膜に目をつけ その下に液体を 注入する方法を開発しました。その液体は注入後30秒内で 固形のゲルになり 骨から骨膜を持ち上げる事ができ 人工の空洞が 骨と幹細胞豊かな骨膜の間にできます。微小な切り口から入るので 生体の他の細胞は入れません。人工的に作られた空洞 バイオリアクター・スペースが 幹細胞の増殖に繋がり 多くの新しい組織を作り 時が経つと組織を採取し 人体の他の場所に移植できます。

 

6 骨再生量はゲルの注入量次第で調節できる

これがそのプロセスで見られる 組織構造のスライドです。我々が見ているのは 非常に大量の骨です。この写真では足の中の中央部 ― 骨髄が右端に見え 次に本来の骨があり その骨が終わった所の 丁度左に新生骨が バイオリアクター・スペース内で 再生しています。もっと大きくもできます。本来の骨と新生骨との 境界部分は ほんの少しだけですが弱い所で ここが外科医の出番です。新生骨を採取し 骨膜が再生します。初めっから手術など しなかったような状態の 足が戻ってきます。それで術後の痛みは 腸骨採集後と比べれば とても軽いのです。骨再生量は ゲルの注入量次第なので 必要に応じて調節できます

我々が これを公表した時 メディアの注目を浴びました。新しい骨再生の 実にいい方法だからです。これを使いたいと言う 様々な人々から問い合わせが来ました。実のところ 全くおかしなものもありました。思ってもなかったような とっても面白いもの と言ったらいいでしょう。その1つは 米国のフットボール選手からで 自分たちの頭蓋骨の厚みを 2倍にしたいというものでした。こんな問い合わせは 本当にあるのです。フランスで育った イギリス人の私は ちょっと辛口な傾向があり 彼らにこう説明しました 「あなた達の様な特殊ケースでは たぶんその中にはあまり 守るものなんて ないんじゃないの」って(笑)(拍手)

 

7 様々な分野からの専門家チームが必要

これが我々のアプローチでした。単純な材料ですが 入念に計画しました。生体や胎芽の幹細胞が 成長すると ある異なる組織の 軟骨になるのが分かっているので 少し化学的性質の違うゲルを開発し それを注入し軟骨を100% 再生できました。これはあらかじめ計画されると とてもうまく行くやり方で 前もって計画しなければ ならないものです。他の手術では 他の担体を基礎とした アプローチが確かに必要です。他の担体を開発する時は 様々な分野からの 専門家チームが必要です。我々のチームには化学者 細胞生物学者 外科医 そして物理学者さえもが加わり 皆で一体となり 材料の開発に懸命に 取り組んでいます。

 

8 生体組織構造の理解を深めること

特定の細胞機能をさせるよう また実用化に向け複雑にならないよう 材料には 十分な情報を 備えて欲しいのです。我々の仕事の1つは 生体組織構造の理解を 深める事です。骨について考えると 私が関心を持つ組織ですが ― ズームインしてみると 皆さんが骨組織の事は よく知らなくても 本当に素晴らしく 組織化されていると分かります。そこには血管が張り巡っています。更にズームインすると ナノスケール繊維の 3D基質が細胞を囲み 細胞に多くの情報を与えています。更にズームインすると 骨の場合 細胞周辺の基質は美しく ナノスケールで纏まり 混成された 有機・無機質のハイブリッドです。ここで全く新しい分野 ハイブリッド的な構造を持った 材料の開発分野に移り その例を2つだけお見せします。ハイブリッド的構造を持った 調整可能な材料を作りました。ここにブヨブヨした物が見えますが これもハイブリッド的材料で 驚く程強く 壊れ易くありません。無機質の材料は通常とても脆く このような丈夫さや強さはありません。

もう1つだけちょっと 触れておきたい事は 我々が作る担体の多くは そこに血管が通り 育つように多孔質です。穴のサイズは 細胞より大きく 3Dではありますが 細胞には少しカーブした表面のように 見えるかもしれませんね。少々不自然です。ですから 考えないといけないのは 担体を少し違う次元で 3Dで細胞を包み もう少し情報を 細胞に与えるように作る事です。これらの領域では 色々な研究がなされています。

 

9 細胞は心臓に移植されると死んでしまうことが多い

最後に少しだけ これを心血管疾患に応用する事 についてお話します。実に大きな臨床上の問題だからです。分かっている事の1つは 残念ながら 心臓発作を起こしたら 組織は活動停止し始めるため 見通しは 時と共に 悪くなって行くかもしれません。我々が 組織の壊死を 阻止するか 再生を促すか どちらか出来るなら どんなにか素晴らしいことでしょう。今 世界中で行われている 幹細胞を使った臨床試験では あるゆるタイプの 細胞を使っていますが 表面化してきた共通の課題は 細胞は心臓に移植されると 死んでしまう事が多い ということです。細胞を心臓か 血液システムに 入れる事はできますが どちらにしろ 十分な数の細胞を 正しい場所に入れ 思わしい臨床結果が得られる 細胞再生ができないようなのです。

 

10 適切な細胞を囲む方法が必要

我々とこの分野の人々は その問題を解決する為の材料を 開発する事を考えています。しかし1つ違いがあります。その為には我々は 化学的技術的な向上 参考となるトポグラフィー画像 適切な細胞を囲む方法がまだ必要です。細胞はまた 伝導体のような働きを するようになるでしょう。なぜなら細胞そのものは よく反応し お互い同士でシグナルを 伝え合うからです。今でも このように 材料の中で細胞は 同調し合い脈打っています。とても興奮させられる事が 起きています。

最後に この分野で働く我々に取って とても夢のある科学分野であり 大なり小なり患者にインパクトを 与える可能性のあるこの分野で 働けるという事を 本当に光栄に思います。その為にも 皆様にも感謝を述べたいと思います。ありがとうございます(拍手)

 

最後に

幹細胞はあらゆる組織に分化できる。組織はそれぞれ異なる再生能力がある。生体内で骨を再生して移植する「生体バイオリアクター」アプローチ。骨再生量はゲルの注入量次第で調節できる。細胞は心臓に移植されると死んでしまうことが多い。適切な細胞を囲む方法が必要。細胞再生にはまだまだ夢がある

和訳してくださったReiko O Bovee 氏、レビューしてくださった Eriko T 氏に感謝する(2013年6月)。

ここまできた人工骨・関節―バイオマテリアルから再生医工学へ


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