前回は、先物・オプション・スワップ取引の合成と組み合わせ デリバティブについてまとめた。ここでは、シンプルなオプション・プレミアム計算法 ブラック=ショールズ式について解説する。
オプション・プレミアムの考え方
オプション・プレミアムの計算の基本的な考え方は「宝くじ」の価格を決める話に似ている。宝くじの価格は、そのくじを一枚持っているときに平均的に得られる利益(期待利益)を反映して決まる。例えば、ゼロから999までの1000通りの数字が書かれた宝くじが1000枚あり、その中から抽選で当たり番号が1つだけ選ばれて賞金3000万円が当たるとする。他のくじはすべて外れになる。この宝くじが1枚いくらだったら買うか、を考えることと同じなのだ。
オプション・プレミアムも、オプション取引を行い、コールあるいはプット・オプションを買うと、そのオプションが行使される状況になれば差益を得る。これは宝くじに当たったのと同じことである。つまり、オプション・プレミアムはオプションを持っているときの期待利益を反映して決まるのだ。期待利益を計算するためには確率分布を書く必要があり、その形に応じてオプション・プレミアムの計算結果は異なる。ただし、将来の株価の予想はとても難しいため(本質は収益のバラツキとリスクを小さくすること ポートフォリオ理論参照)、宝くじよりもオプション・プレミアムの計算は本質的におおざっぱにならざるを得ない。
原始演算法で計算する
原始演算法とは、四則演算だけでオプション・プレミアムを計算する方法である。損益図(株価・損益)と確率分布を書いて、それぞれの利益ごとに予想確率を掛けて、それを合計するものである。
ボラティリティは標準偏差のこと
ボラティリティとは、株価や円相場や金利などの変動についての確率分布のバラツキを示す標準偏差である。ボラティリティとオプション・プレミアムは比例関係にあり、ボラティリティが小さいときにはオプション・プレミアムは安くなり、ボラティリティが大きいときにはオプション・プレミアムは高くなる。
また、コール・オプションの場合には、他の条件などが同じなら権利行使価格とオプション・プレミアムは反比例する。権利行使価格が安くなるほどオプション・プレミアムは高くなり、権利行使価格が高くなるほどオプション・プレミアムは安くなる。一方、プット・オプションの場合には、権利行使価格とオプション・プレミアムは比例する。なお、厳密にはオプション・プレミアムの計算においては、現在価値に評価し直す必要がある。
オプションの擬似コピー
ブラック=ショールズ式とは、確率微分方程式を利用したオプション・プレミアムの計算方式である。オプション取引が行われてから満期日までの間に、オプションの行使確率が変化していくのに応じて現物取引を繰り返すことで、オプション取引の擬似コピーを行うことである。
基本はサヤ取り
ブラック=ショールズ式は、ある金融資産について擬似的なコピーを作って両者の価値を比較するというサヤ取りの考え方を応用した理論モデルである。理論的には、その一連の取引の価値とオプション取引の価値は同じになる。ただし、現物取引の連続的な売買がどんな確率で行われるかがわからないと、ポートフォリオの価値は計算できない。
そこで、ブラック=ショールズ式では株価の変動はランダムウォークであるとし、いつも半々の確率でランダムに上がったり下がったりしていると考えている。株価変動の枝分かれのスピードに応じて「対数正規分布」を描いている。つまり、ブラック=ショールズ式に、①現在の株価、②権利行使価格、③金利、④満期までの期間、⑤ボラティリティの5つのデータが揃えば計算することができるのだ。①と②と④はオプションの条件、③の金利は一般的な経済データなため、結局⑤のボラティリティさえ決めればオプション・プレミアムの理論値は計算できるのだ。
必勝の方程式か?
ブラック=ショールズ式について必勝の方程式と紹介する本もあるが、それは理論上マーケット・リスクが消えているだけであり、何も売買していないのと同じ状況になっているだけである。
原始演算法との比較
原始演算法とブラック=ショールズ式を比較すると、10%未満の誤差、ほとんどの場合で数%の誤差に収まる。ただし、前提としてブラック=ショールズ式などの理論モデルは、正規分布、対数正規分布、二項分布と呼ばれるような確率分布を使って株価の変動を予想するため、現実の株価や円相場などの過去の確率分布とは形が異なる。つまり、ブラック=ショールズ式などのオプション・プレミアム計算でも、もともと誤差はあり、株価の予想が難しいという本質を隠しているにすぎない。
モンテカルロ・シミュレーション
モンテカルロ・シミュレーションとは、ランダムに株価変動パターンを選んで計算するという作業を繰り返し行って、その計算結果の平均をオプション・プレミアムの理論値とみなす方法である。膨大な数のシミュレーションを行うことから、コンピュータを利用することが必須となる。ノックアウト・オプションなどの複雑なオプション取引のプレミアム計算もできる。ただし、完全にランダムな乱数を選ぶプログラムを作ることができないため、数の選び方に規則性が残ってしまうという欠点もある。
最後に
オプション・プレミアムはオプションを持っているときの期待利益を反映して決まる。原始演算法とは、四則演算だけでオプション・プレミアムを計算する方法。ボラティリティとオプション・プレミアムは比例関係。ブラック=ショールズ式はボラティリティを決めればオプション・プレミアムの理論値は計算できる。そもそも株価の予想が難しいことを忘れてはならない。
次回は、場所、構成、受渡日、受渡確率の違い 金融工学の本質はサヤ取りについてまとめる。
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