前回は、ギリシャと日本、ジニ係数、公債依存度、東電解体 政治とグラフについてまとめた。ここでは、特殊法人、債務残高、金利上昇、厚生年金基金 官僚とグラフについて解説する。
9 歳出増加の原因は東日本大震災ではなく財務省
予算に関する記事が似たり寄ったりになる理由
予算に関する記事が似たり寄ったりになる理由は、予算書は量が膨大なため、不勉強なマスコミでは閣議後すぐには記事が書けないからだ。マスコミは、事前に財務省から解禁時刻までは報道しないというエンバーゴ(もともとは海運用語)が右上に表示された資料を渡される。その際、財務省官僚からのレクチャーも受け、それをほぼそのまま書き写して解説を書いているのだ。
自民党時代より11兆円も増加した歳出額
民主党時代は自民党時代より11兆円も歳出額が増加している。小泉政権以降の自公政権からリーマンショック時の麻生政権を除いて民主党と比較すると、自民党時代の平均歳出総額は83.6兆円で、民主党時代は平均94.3兆円である。また、国債発行額も同様の比較をすると、自民党時代の平均国際発行額は31.7兆円、民主党時代は44.4兆円と、その差は12.8兆円にもなる。この原因は、税収が落ちていることが大きいのと、予算シーリング(限度)をかけなかったからだ。
消費税増税は膨れ上がった予算のため
財務省は11兆円も膨れ上がった予算をそのままにして、その分を消費税増税10%で賄うという魂胆だ。各省も予算既得権が確保されるので、その話に乗っている。例えば、厚生労働省の年金積立金120兆円は、本来、公的年金が賦課方式なため必要ない。しかし、積立金の取り崩しは問題だと感情に訴えて、マスコミを通して国民を煙に巻いている。
原子力損害賠償支援機構法成立の裏で経産官僚は
原子力損害賠償支援機構法成立の裏で経産官僚は国会審議なしで民主・自民の密室協議を行い、東電を救済した。これは東電グループに多くの天下りが存在しているからである(虜理論と天下り バランスシート思考で考える東電問題参照)。結果として株主や債権者の金融機関を救い、それをサポートした財務省への恩返しとして、ほとんどの金融関係者は消費税増税の応援団となったのだ。
10 民主党は公務員の天下り先の特殊法人をつぶせない
まったく進んでいない公務員宿舎の売却
他の先進国は公務員宿舎などまず持っていない。必要ならば民間に売却して、それを借り上げるのが基本である。財務省が公務員宿舎を売却しないのは、宿舎管理のための公務員がいるからだが、公務員宿舎は一般の民間に比べて安いので、その差額がヤミ手当になっていてやめられないという指摘もある。
日本政府の資産は先進国1位の647兆円
日本政府の資産は先進国1位の647兆円(10年3月末)である。日本の金融資産残高対GDP比は80%前後と、ほとんど減っていない(OECD調査)。各国の金融資産残高対GDP比をみても、突出して大きい。資産の中には、国有財産37兆円、公共用財産145兆円などのほか、現金・有価証券111兆円、貸付金155兆円、運用寄託金121兆円、出資金58兆円と、流動性の高い金融資産が多い。運用寄託金は将来の年金のためにとっておくとしても、貸付金や出資金などは天下り先の特殊法人に流れているのだから、それを民営化すればいい。そうすれば、天下り法人の廃止と国の資産のスリム化が一気にできるのだ。
500億ユーロの資産を売却するイタリアとギリシャ
イタリアとギリシャは500億ユーロの国有資産を売却する。イタリアでは債務残高の2.6%に相当し、ギリシャでは15%に相当する。例えばギリシャでは、国営郵便局、水道会社、電力会社、ガス会社などの民営化・株式売却もあり、使われていない空港や古いオリンピック会場などである。
11 債務を見るなら資産も見よ
「日本が破綻する」は本当か?
「日本が破綻する」という人はしばしばいるが、まずは言葉の定義をしっかりすることが重要である。例えば、「国の破綻とは国債の暴落だ」という人は多いが、国債の暴落とは国債価格が急落することである。2013年9月現在の10年国債の金利は0.8%程度だが、もし5%になれば国債価格は25%以上低下する。しかし、名目成長率が4〜5%になれば、国債金利も4〜5%になるため、当然のことである。しかも、その場合にはGDPも増え、税収も上がっているので、財政問題は改善しているだろう。
官僚の「すり替えテクニック」に騙されるな
官僚は「債務残高」の定義をその場その場で都合よく変える傾向がある。債務は国の普通国債(600兆円)、財投債(129兆円)、交付・出資国債(4兆円)、借入金(56兆円)、政府短期証券(142兆円)、地方・公営企業債・交付税特会借入金(198兆円)という数字がある(かっこ内の数字は09年度末)。
総政府債務残高というときには、国の普通国債、財投債、交付・出資国債、借入金、政府短期証券の合計で931兆円。国と地方の長期債務残高というときには、国の普通国債、交付・出資国債、借入金、地方・公営企業債・交付税特会借入金の合計で、重複分を除いて825兆円などである。最も包括的な債務で考えるほうがよく、07年度のものを見ると、資産は695兆円、負債は978兆円で、その差額は債務超過の283兆円だ。債務超過といえど、国では簿外に課税権があるので破綻ではない。
ネット債務残高対名目GDPが250%だった国とは
かつてのイギリスはネット債務残高対名目GDPが250%だった。近年の日本の水準は60%である。ほめられるものではないが、長期的な視点でうまく経済運営すれば破綻することはないだろう。
財政再建の黄金律
財政再建の黄金律は名目GDP成長率4%である。プライマリー収支(財政収支)対名目GDPが改善していけば、債務残高対名目GDPはあまり大きくならないのだ。家計にたとえれば、収入が増えれば借金が増えても大丈夫ということ。反対に、収入が増えないのに借金が増えてはダメということだ。税金には所得税のような累進構造があるので、名目成長率が高まると税収はそれ以上に増え、プライマリー収支対名目GDPは間違いなく改善する。
12 赤字企業の黒字化で税収は増え、金利の伸びも徐々に止まる
増税なしでプライマリーバランス黒字化は達成可能
名目成長率4%ならば、増税なしで2020年にプライマリーバランスは黒字化する。一方、名目成長率が2〜3%ならば、GDPの2〜4%程度(10〜20兆円)の増税が必要となる。
プライマリーバランスの黒字化に利払い費増は関係ない
たしかに物価が上昇すると長期金利も上昇する。しかし、GDPギャップがあって失業があるうちは、長期金利はすぐには上昇しない。これは1930年代の大恐慌のときもそうで、設備投資はすぐには起こらず、市場にだぶついた資金が使われるために金利が上昇するのは2〜3年後なのだ。
金融機関の関係者の一部や財政当局は金利上昇を心配するが、2〜3年のスパンなら債券から貸出や株式にシフトすればいい。また、景気回復局面では赤字企業が黒字化するので、税収弾性値(名目成長に対する税収増の割合)は大きいのだ。
さらに、プライマリーバランス黒字化のためには利払い費増は関係ない。これを気にするのは、利払い費が増大すると目先の予算編成がやりにくくなることばかりを気にする財務官僚の近視眼的発想である。たしかに最初の2〜3年は金利負担が伸びていくが、だんだんと小さくなり、逆に税収が伸びていく。金利負担の伸びが鈍るのは、借り換え(ロールオーバー)を繰り返していくからだ。
13 97年の消費税増税以降の景気落ち込みの原因はアジア危機とはいえない
アジア経済危機後に急速に回復した韓国
アジア経済危機後の日韓の実質GDP成長率を比べると、震源地の韓国では回復傾向にもかかわらず、隣国の日本は低調傾向である。つまり、アジア経済危機によって日本経済が悪化したというのは正しくない。それよりも1997年4月の消費税増税の影響が大きいのだ。
欧州危機のようにならないための増税というウソ
財務省は欧州危機のようにならないようにするために増税というが、ギリシャの消費税はすでに23%であり、消費税を高くすればいいというものではない。そもそもギリシャは2年に1回破綻する破綻常習国である。これまではドラクマという独自通貨を持っていて、破綻のたびに通貨調整をしてきた。しかし、ユーロを導入してドラクマの調整がなくなった途端、欧州の金融機関が高利のギリシャ国債を買った結果、危機を招いたのだ。欧州危機の教訓は、独自通貨の威力は大きく、それを活用しないと本当に危機になるということだ。
日銀だけがインフレ目標なし
2012年1月25日(日本時間26日)にFRBも「インフレ目標2%」を導入した。これでインフレ目標を設定していないのは日銀だけとなった(2013年1月22日、日銀もインフレ目標2%を設定した)。
例えば、アメリカの個人消費支出の物価指数と日本の消費者物価指数(生鮮食品除く)の対前年比を見ると、日本においてインフレ率0〜2%だったのはわずか1割6分で、0%以下のデフレが8割2分である。また、各国のマネー伸び率と物価上昇率・名目GDP伸び率を見ると、物価上昇率も名目成長率も世界最低であり、日銀の金融政策が非常に悪かったことが明らかにわかる。
14 デフレ下で増税しても財政再建はできない
財務省がマスコミを洗脳するときに使う図
歳出・税収と名目GDPの推移を見ると、歳出は右肩上がりなのに対し、税収は伸びていない。これは名目GDP成長率が1990年以降ほぼゼロだからだ。
デフレ下で増税しても財政再建はできなかった
この20年間で最も税収があったのが、90年度の60.1兆円、97年度は53.9兆円である。その後、消費税を増税したがデフレだったので、その水準を超えられないまま現在に至っている。この事実を忘れてはならない。
15 厚生年金基金の背景には天下り問題がある
AIJ投資顧問事件の背景にある闇
2012年に入って表面化したAIJ投資顧問事件では、年金資金2000億円が失われた。この背景には、厚労省からの厚生年金基金への天下りと、厚生年金基金制度そのものの問題がある。厚生年金基金は特別法人で、厚生年金保険法に基づく厚生労働大臣の許可を得て設立される企業年金(私的年金)である。ただし、純粋な企業年金ではなく、2階部分の厚生年金の多くの部分と3階部分(代行部分)の企業年金部分を合体したものなため、この事件で基金の代行部分まで損が及ぶと公的年金にも穴があくことになってしまうのだ(公的保険の特徴は強制加入、賦課方式、変額年金 年金と医療保険参照)。
総合型の厚生年金基金が減らなかった理由
96年度に1883あった基金は、2010年度には595に減少した。しかし、総合型の厚生年金基金があまり減らなかった(643→495)のは、旧社会保険庁OBらが基金に多数天下っていたからである。
すべては天下り先温存のため
02年4月施行の確定給付企業年金法では、代行部分の国への返上が認められることになった。これを契機に、天下り理事らの少ない単独・連合型は一気に減少していった。しかし、天下り理事らの多い総合型はあまり減少しなかったのだ。これでは「天下り先温存のために総合型を解散させられなかったのではないか」と疑われても仕方ない。
また、基金の予定利率が高すぎた。予定利率とは、それで運用できないと年金支給に支障が出る数字である。いまある基金のうち9割弱が5.5%と高率のままなのである。せめて、00年代のはじめに解散して別のタイプの年金に移行していれば、AIJ投資顧問に任せることはなかっただろう。
最後に
政治家はなかなか公務員の天下り先の特殊法人をつぶせない。債務残高は資産残高との差額のネット債務残高で考えよう。消費税増税なしでも赤字企業の黒字化で税収は増え、金利の伸びも徐々に止まる。厚生年金基金の背景には天下り問題がある。財政再建の黄金律は名目成長率4%。
次回は、デフレ、量的緩和、日銀の打率、通貨供給量 日銀とグラフについてまとめる。
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