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官僚内閣制から議院内閣制にするための改革 公務員制度改革入門

前回は、金融政策と国際金融のトリレンマ 国のお金はどう動くのか—金融入門についてまとめた。ここでは、官僚内閣制から議院内閣制にするための改革 公務員制度改革入門について解説する。

公務員の権限が大きな日本

日本はGDPと同じ約500兆円もの資産を持っているため、公務員一人当たりの権限や活動範囲は非常に大きい。通常、国の資産はGDPの10%くらいである。ここで、市場経済を信じる「上げ潮派」は小さな政府を志向しているが、「財政タカ派(増税派)」は大きな政府を信じるという差が現れる。

 

財務省にゴマをする「財政タカ派」

マスコミや有識者に「財政タカ派」が多いのは、記者クラブ制や御用学者が原因である。マスコミ各社の記者は各省建物の中に常駐して、役人と一緒に生活をしているため悪口や批判を言いにくくなる。また、審議会の学者は各省のお抱え学者と見られ、ある有力経済全国紙の経済学のコーナーは役所側の主張が載せられやすい。例えば、道路公団の民営化で「道路公団は債務超過だ」と主張する者が多かった(実際は資産超過)が、マスコミ・学者・ジャーナリストは間違ってもお咎めなしなのである。

 

「上げ潮派」は多勢に無勢

「上げ潮派」は厳密にいえば日本に中川氏、竹中氏、著者の3人しかいない。郵政民営化という政府のバランスシートのスリム化を進めるうちに「上げ潮派」になったのではないか。

 

増税の前に、嫌がられても歳出カット

「財政タカ派」は埋蔵金を否定していきなり増税を主張するが、「上げ潮派」は経済成長したり、埋蔵金を出したり、資産を圧縮したり、制度改正をした後に増税を言うだけである。つまり、財政再建の手順が違うだけである。

 

「財務省は成長が嫌い?」

「上げ潮」の名前の由来は「ア・ライジング・タイド・リフツ・オール・ボーツ」という、上げ潮になるとすべてのボートを上げる(経済成長)ということである。経済成長が1%上がれば、毎年GDPは5兆円上がる。名目成長率を4%(現在+2%)にすれば税収も2〜3兆円違うから、財政再建ができる。財務省が成長を嫌うのは、税収が増えて歳出を抑える責任を押しつけられるのがいやだからだろう。

 

見えない官僚支配

見えない官僚支配とは、官僚の無謬な失敗(誤りを隠す)や意図的な情報隠蔽のことである。政治学者の飯尾潤氏がいうように、日本は「官僚内閣制」なのである。「議院内閣制」が国民が「国会」を通じて「内閣」も「官僚」も動かすのに対して、「官僚内閣制」は「官僚」が大臣や国会議員に取り入って「内閣」や「国会」をコントロールしているのである。

 

空港外資規制論争のカラクリ

空港外資規制論争の理由は、国交省航空局が審議会で御用学者を集めて意見をまとめさせて議員にも「根回し」をし、福田内閣に法案を上げたからである。内閣は空港の24時間利用や、航空会社が自由に路線設定できる規制緩和方針を打ち出していた。結局は、内閣での反対によって外資規制法案の国会提出は取りやめになった

 

役人の安全保障

そもそも、滑走路や管制塔など安全保障上重要な空港施設は航空法で国の管理下にある。それでも「有事の際の安全保障上、外資が参入していると危ない」と言う国会議員がいたのが「ご説明」の成果である。大臣の指揮下にあるはずの官僚が、大臣の指示に従わずに族議員に勝手な説明をするのだ。国交省の本音は、外資が空港会社の経営に入ると、空港関係施設に天下りができなくなることをおそれているのである。

 

扇大臣にポンチ絵

国交省は、道路や莫大な公共事業を管轄するだけに利権も大きい。しかし、扇千景大臣など、大物とは言い兼ねる議員が続いている。しかも、扇大臣への「ご説明」は絵が多くて文字が少ない紙2、3枚(ポンチ絵)だった。これは、官僚が大臣に上げる情報をコントロールして、省益に都合のいいように進めているのである。

 

キャリアを廃止せよ

こうした「官僚内閣制」を打破するために、第一次安倍政権のときに渡辺喜美行革相と「国家公務員制度改革」に取り組んだ。改革の肝は、年功序列の廃止と天下りの斡旋禁止である。民間企業や独立行政法人への再就職を「人材バンク」で一元管理し、各省庁による個別の「斡旋」は禁じることで、天下りの弊害をなくすのだ(年功序列制の廃止と各省庁による再就職の斡旋禁止 公務員制度改革の肝参照)。

その後、取り組んだのは「キャリア制度の廃止」「内閣人事庁の創設」「国会議員と公務員の接触制限」の3本柱である。それぞれ、終身雇用・年功序列・天下りの保証の廃止、内閣のコントロールを強める、官僚の「ご説明」防止に対応している(内閣一元管理、政官接触、キャリア制、労働基本権が争点 壮絶な国会論戦参照)。

 

部下がまいた怪文書

公務員制度改革に対して官僚は激しく抵抗する。「改革への素朴な疑問」などという怪文書が永田町を飛び交ったが、書いたのは行革事務局の幹部なのは明らかだった。上司である大臣の意向を無視して、族議員と結託するというのが日常茶飯事なのだ。

 

3つの「民営化」

民営化には3つの意味がある。1つ目は、民有・民営という形態をとる「完全民営化」。2つ目は、NTTやJRの初期のように政府が株式を所有し、経営形態だけ民営化にする「特殊会社化」。3つ目は、農林中央金庫のように、政府が根拠法律だけを持つ形である。通常「民営化」といったら1つ目の「完全民営化」だが、霞ヶ関用語としてはこの3つのどれでも「民営化」になるのだ。

 

「に」の挿入

こうした霞ヶ関用語に気をつけて「完全民営化」という言葉を使ったとしても、最終段階として「完全に民営化」と「に」の一文字が入っていた。「完全民営化」ならばそのままの意味だが、「完全に民営化」なら「完全に特殊会社化する」という道も出てきてしまうのである(安倍政権での天下り規制への着手 自民党による公務員制度改革1参照)。

 

大臣には人事権がない

現状では大臣の人事権はとても弱く、事務次官が作った人事リストをただ承認するだけである。官僚たちは、国家公務員法の「人事権は各省大臣にある」という文言を盾に取って、人事権は「内閣の一員たる国務大臣」ではなく「各省の利害を代弁すべき各省大臣」にあるとした。つまりその省だけで人事を決めてしまっていいと都合良く解釈して、「大臣は役人の人事に介入すべきでない」というルールを正当化してきたのである。

 

何度突き返しても

竹中氏は、経済財政担当大臣から「各省大臣」でもある総務省の大臣になった。法律上は人事権が強まったが、事務次官が持ってくる人事リストを何度突き返しても同じ幹部候補のメンバーを担当だけ入れ替えて持ってくるため、手こずったそうだ。だからこそ、内閣人事庁ができるとこうしたことはなくなるのだ。

 

日の丸官僚

今は入省した省庁が「本籍地」だが、これからは内閣人事庁が「本籍地」になって、勤務先の省庁は引越可能な「現住所」にすぎなくなる。省庁間の異動も、本人の適正によって行われるため、省益だけに縛られずに国益を最優先する「日の丸官僚」になるだろう(脱藩官僚の活用と法案作成能力が鍵 「日の丸官僚」の育成手段参照)。

 

最後に

公務員制度改革の肝は、年功序列の廃止と天下りの斡旋禁止。具体的には、キャリア制度の廃止、内閣人事庁の創設、国会議員と公務員の接触制限を行えばいい。公務員制度改革を先行させながら政治改革もやればいい

次回は、税率を上げるのも下げるのも地方の責任でやれ 地方分権入門についてまとめる。

霞が関埋蔵金男が明かす「お国の経済」 (文春新書)


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