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省内外根回し、内閣法制局審査、与党審査等の11段階 政府提出法案

前回は、革新を起こす政治家と継続性の番人の官僚 政治主導と官僚主導についてまとめた。ここでは、省内外根回し、内閣法制局審査、与党審査等の11段階 政府提出法案について解説する。

ボトムアップの法案づくり

日本の立法プロセスは大きく分けて「政府提出法案」と「議員提出法案」がある。ここでは前者について説明する。政府(内閣)提出法案の立法プロセスは、以下の11の過程を経る

  1. 各府省課内草稿作成
  2. 府省局内討議
  3. 府省内検討
  4. 審議会
  5. 府省折衝
  6. 内閣法制局審査(下審査)
  7. 与党審査(了承)
  8. 閣議請議
  9. 内閣法制局審査(本審査)
  10. 事務次官等会議
  11. 閣議

行政の組織は、下から室→課→部→局→府・省、庁と、徐々に上長が審議していくボトムアップの構造になっている。そのため、まずは1.各府省課内草稿作成がされ、2.府省局内討議が行われる。

 

省内外での根回し

3.府庁内検討の段階に入ると、4.合議制の諮問機関(審議会)に意見を求める。委員は各界の代表や学識経験者・専門家などにお願いすることが多いが、実際は第三者のお墨付きを得る「箔付け」にすぎない。また、並行して5.関係府省との意見調整も行う(府省折衝)。予算措置が必要な場合は、財務省主計局との調整も行う必要がある。

 

内閣法制局による審査

調整が済むと、その後6.内閣法制局による下審査が行われる。内閣法制局とは、内閣が国会に提出する法律案や条約案などの全てをチェックする行政機関のこと(内閣法制局設置法第3条第1項)で、「行政府における法の番人」とも呼ばれる。実質、この段階ですでに法律案は国会審議において修正する必要もないほど完璧なものに仕上がっている。具体的な審査は以下の5つ。

  1. 新法もしくは法改正がなぜ必要なのかを含め法律案の骨子・要綱の確認
  2. 憲法とその他現行法令との整合性の確認
  3. 立法内容の法的妥当性のチェック、必要性に関する検討
  4. 条文の表現・配列の適否
  5. 用字・用語の誤り

 

内閣法制局の存在意義

内閣法制局の存在意義は、①法施行そのものが滞るのを防止する、②実質的な「内閣の法律顧問」として政権維持・擁護に尽力することである。①は裁判所の判決が下されるのを待つことによる時間ロスをなくすことであり、②は内閣が推進する政策について憲法・法律面で裏付け作業を行ったりしている。法律から法規上の行政命令に至るまで、内閣法制局の審査なくしては政策を実行することもできないという大きな権限を持っているのだ。

 

与党による「事前審査」

7.与党審査とは、閣議決定前に与党の政策審議機関で法律案に関する意見集約を図った上で、機関承認を行うことである。歴史的には、1960年代初めまでは政府提出法案に与党議員が反対意見を述べることもできたが、国会運営に支障をきたすなどの理由によってこうした「事前審査」が行われるようになった。

 

与党審査のプロセス

与党審査のプロセスは以下の3つの段階がある。自民党政権と民主党政権では名称が違う(部会→部門会議、政務調査会審議会→政策調査会役員会、総務会→政調会長)だけで、その役割は同じである。

  1. 部会:常設の部会(内閣、国防、総務、法務、外交、財務金融、文部科学、厚生労働、農林、水産、経済産業、国土交通、環境)、小委員会など、調査会・特別委員会
  2. 政務調査会審議会:政調会長、副会長など
  3. 総務会:総務会長、幹事長、政調会長、総務会メンバー

総務会での機関決定を受けた後は、与党議員に決定内容に関する党議拘束がかかる。なお、民主党政権では、党内プロセスを経た後に政府・民主三役会議にて審議が行われる。

 

事前審査の問題点

事前審査の問題点は、特定の業界団体と結びついた族議員が台頭し、部会ポストを握ることで事前審査のプロセスで強い発言力を持つようになっていったことである。地元有権者や業界団体などのニーズや要望を踏まえて、その要求を政策に反映させたりしていたのだ。しかも、かつての自民党の部会は委員制が導入されていて、限られたメンバーだけで審査・審議を行っていた。また、官僚側にとっても国会審議で法律案が修正されることがなくなるため、効率的な仕組みだった。

 

事前審査がもたらした国会審議の形骸化

与党による事前審査・機関決定による党議拘束によって、国会審議は形骸化した。国会は、政府・与党に野党が論戦を挑むという形式的な国会審議にしかならなくなったのだ。また、日本の事前審査は、政治主導も阻む要因になっている。与党の事前審査と機関決定を経ない限り、内閣は法律案などを閣議決定することができない慣行だからである。

 

民主党は何をしようとしたか

民主党政権は事前審査慣行をなくして、政策決定への内閣への一元化を進めた。具体的には、①民主党政策調査会を廃止し「選挙や国会など議員の政治活動にかかる、極めて政治的な問題」を除き、議員立法は原則禁止とした、②与党議員と官僚の接触が制限され、意見・提案などは各府省副大臣主催の政策会議などで聴取の上、大臣に報告するルールにした、③個々の議員事務所に寄せられていた陳情や要望は、原則として民主党都道府県連に集約し、党本部の幹事長室もしくは組織委員会が一括して受け付ける仕組みに変えた。

 

民主党が抱えた問題点

民主党が抱えた問題点は、法律の理解不足と制度運用への事前準備不足に尽きる。前者は、国会議員約100人を政権入りすると言っていたが、現行の内閣制度では最大72人までしか行えず、法改正が必要だったことである。後者は、野党時代から「政治主導確立法案」などを準備しておき、政権発足もしくは初動運営の段階で国会提出をしなかったからである。結果として、政策調査会の廃止や議員立法の原則禁止によって、取り残された民主党議員はほとんど活動ができなかったのだ。

 

「政策一元化」の破綻へ

鳩山由紀夫内閣総辞職の後を引き継いだ菅直人総理は、政府・与党の連携強化を目的に政策調査会を復活させた。そして、政府と民主党との政策調整を担う政調会長を国務大臣として入閣させた。その結果、政府と民主党のパワーバランスが崩れ、菅総理は党内を掌握できないまま退陣に追い込まれた。

2011年に菅総理から引き継いだ野田佳彦総理は、政調会長と国務大臣の兼任を解いた。これによって民主党政策調査会による事前承認プロセスは、自民党単独政権時代の内閣・与党二元的政策決定システムが、事実上復活したのだ。しかも民主党には、政策形成にかかわる決定の仕組みやルールがほとんど備わっていなかったため、政調会長が一任を宣言して党内議論を打ち切るという不透明な政策決定手続を続けた。改革の方向性や着眼点は間違っていなかったが、その運用に失敗したということである。

 

閣議決定を持って政府案に

与党の事前審査が終了し機関決定されると、8.閣議請議の手続が行われる。内閣官房は各府省より閣議請議案を受付け、内閣法制局に請議書を送付する。それを受け取った内閣法制局は、まず下審査の結果に照らして担当参事官が最終的な法令審査を行う(9.本審査)。

内閣法制局による本審査を経た法律案は、閣議を開催する前に官房長官が10.事務次官等会議を招集し、閣議請議書に則って閣議に法律案を諮ることを全会一致によって確認していた。全会一致で提出された法律案が11.閣議決定されると、正式な政府提出法案となり、その日のうちに総理大臣から衆議院(もしくは参議院)へ上程される。

 

最後に

政府提出法案ができるまでには、各府省課内草稿作成、府省局内討議、府省内検討、審議会、府省折衝、内閣法制局審査(下審査)、与党審査(了承)、閣議請議、内閣法制局審査(本審査)、事務次官等会議、閣議の11段階がある。省内外根回しは長期自民党政権と官僚の効率追求の結果。内閣法制局は「行政府における法の番人」。与党審査によって国会審議が形骸化した。法案プロセスへの理解と制度運用への事前準備が肝

次回は、政策秘書、立法補佐機構 議員立法ができるまでについてまとめる。

ニッポンの変え方おしえます: はじめての立法レッスン


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