「今後、公的金融システムに関する分析や政策論議において、本書は間違いなく改革の基本バイブルとなる」竹中平蔵氏は推薦する。ここでは、高橋洋一『財投改革の経済学』を要約し、公的金融改革の理論的支柱となった政策分析を理解する。第1回は、本書の課題と目次。
本書の課題
本書の課題は、財投改革、郵政民営化、政策金融改革の3つの改革は相互補完的な関係になっており、金融自由化後の金融資本市場の市場化の動きと国民のガバナンス(統治)という観点から見ると、必然的なものだということを明らかにすることである。
郵貯シフトの発生
第1に、金融資本市場の市場化が公的金融システムに影響を及ぼしたのは、郵貯シフトの発生である。郵貯の大半を占める定額貯金は、満期10年という長期性を持ちながら、6ヶ月経てば解約自由という流動性を同時に併せ持つ商品である。金利設定が割高だったが、1992年、金利設定が見直された。
財投システムのほころび
第2に、財投システムのほころびである。財投システムでは金利(預託金利と貸出金利)が法定されており、市場金利の変動に対応できなかった。そのため1987年、資金運用部資金法を改正し、預託金利を市場金利に連動するようにした。しかし、預託者(特に公的年金)への預託金利について市場金利への上乗せ(0.2%)が恒常化し、結果として預託者(特に郵貯)への利益移転になった。
また、財投システムが量的に大きくなり過ぎ、長期にわたる国民負担がわかりにくくなっていた。郵貯・財投システムを維持するには利子補給均等財政資金を必要とするが、その維持コストが巨額になることが判明し、財投改革が行われた。
郵政民営化
第3に、郵政民営化である。郵政の特徴は、郵便貯金・簡易保険という金融業務と郵便という非金融業務が一体として行われていることと、郵政3事業の顧客窓口である郵便局ネットワークという貴重な経営資源を有していることである。郵政民営化において、郵便、郵便局ネットワーク、郵便貯金、簡易保険の4分社化が行われたのは、これらの郵政の特色と金融リスク遮断という制約条件をクリアでき、郵政の4機能をそれぞれ自立できるからである。
政策金融改革
第4に、政策金融改革である。公的金融システムを金融理論から見れば、郵貯は受信サイドであり、政策金融機関は与信サイドになる。その意味で、郵政民営化と政策金融改革は同時に行われる必要がある。政策金融の存在自体は否定されるべきではないが、政策金融は民間金融取引に補助金等財政資金を組み合わせることで、再構成ができる。
公的金融に関する先行研究
公的金融システムに関する先行研究では、公的金融が政府による金融活動である点を強調しているが、実際に民間金融と何が異なるのかは明らかにはなっていない。著者は、公的金融の特徴として長期金融であることを挙げている。政府は民間に比べて生存期間が長いため、長期債務を負うことができる。ただし、公的金融は民間金融を阻害しないように、控えめな存在でなければならない。
公的金融の将来像
こうした観点から公的金融の将来像について、入口(郵貯)、中間(財務省)、出口(政策金融機関)と分けて述べると以下のようになる。
公的金融の入口では、郵貯資金による預託という仕組みが適切かどうかという問題である。公的金融の資金調達という観点から見れば、代替する手段としては政府が発行主体となる債券(財投債)がある。政府保証が付された郵貯と比べれば、運営維持コストを含めて国債管理政策の中で財投債による対応のほうが効率的だろう。
公的金融の中間部分では、政府のALMによる諸々のリスク管理が民間並みに行えるかどうかが重要な点である。もし行えないのであれば、個々の財投機関による政府保証債による資金調達を行うほうが合理的である。
公的金融の出口では、政策目的達成とそのための手段の適否という観点から検討が行われるべきである。政策コスト分析によってコスト・ベネフィットを確認し、「政策ベネフィット(民業へのマイナス効果を考慮)>政策コスト>0」という条件が満たされる必要がある。特に長期金融(特に5年以上)において、この条件を満たす分野は一定の範囲で存在するだろう。
また、政策目標達成のためにどのような手段が適切かが重要である。従来の公的金融ではほとんど直接融資形態だったが、金融取引を分解(unbundling)して、民間金融取引をベースにして必要な部分について公的関与を行うことも可能である。具体的には、部分保証、利子補給、証券化などの公的関与を民間金融に組み込めばよい。
目次
- 本書の課題
- 資金の流れの変化
- 「失われた10年」の資金の流れの変化
- 諸改革後の資金の流れの変化
- おわりに
- 郵貯の経済分析
- 郵貯・資金運用部の歴史
- 郵貯シフトはなぜ起きたか
- 財投・郵貯・政策金融改革の経緯・現状
- 財投改革
- 郵政民営化
- 特殊法人改革・政策金融改革
- 財投改革
- 米国の参考例
- 諸外国の財投類似制度
- 将来の財政投融資の姿
- 郵政民営化
- なぜ民営化なのか
- 将来の郵貯の姿
- 将来の簡保・郵便の姿
- 長期シミュレーション(1)
- 長期シミュレーション(2)
- 4分社化のメリット
- 特殊法人改革
- 特殊法人改革の背景
- 失われた90年代の原因:効果のない公的投資
- 公的活動の基準:民間でできるものは官がやってはいけない
- 公会計及び経済分析の現状
- 将来キャッシュ・フロー分析の応用の具体例
- 政策金融改革
- 海外の政策金融
- 将来の政策金融の姿
- 政策金融改革の現状
- 他の政策への影響
- 政府資産負債管理政策
- 国債管理政策
- 財政再建
最後に
財投改革、郵政民営化、政策金融改革の3本柱は、公的金融システム改革の必然だった。公的金融システムの将来像として、入口(郵貯)、中間(財務省)、出口(政策金融機関)のそれぞれから対策を行う必要があった。改革の基本バイブル。
次回は、「失われた10年」と「民の萎縮、官の拡大」 改革後の資金の流れの変化についてまとめる。
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