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ダンビサ・モヨ 中国は新興経済の期待の星なのか

「世界を良い場所に変えるには、政治・経済協力に対する寛容な心が必要です」ダンビサは語りかける。ここでは、130万ビューを超える Dambisa Moyo のTED講演を訳し、経済成長こそが民主主義の前提条件になることについて理解する。

要約

先進国は資本主義、民主主義、そして万人のための政治的権利という理想にしがみついています。でも新興市場はそんな贅沢を持ち合わせていないことがほとんどです。エコノミストのダンビサ・モヨは力強い講演の中で、欧米諸国が自分たちの栄光に固執し、他の新興国も盲目的に追随するだろうという推測は甘いと指摘します。そして、中国に体現される新しいモデルが台頭しつつあることを解説します。世界を良い場所に変えるには政治・経済協力に対する寛容な心が必要であると説きます。

Dambisa Moyo is an international economist who analyzes the macroeconomy and global affairs.

1 「自由を与えよ。然らずんば死を」

「自由を与えよ 然らずんば死を」バージニア植民地議会議員パトリック・ヘンリーの 1775年の名文句です。彼は数世代の先のアメリカ人から こんなにも共感を得ることになるとは 予想だにしていなかったでしょう。当時 この言葉は イギリスの支配に異議を唱えたものでした。しかし 200年を経てこの名言は 多くの欧米人が信じていることの象徴となりました。つまり自由とは最も慈しむべき価値観で 政治経済における最良の体制は 自由を組み込むことであると 間違っていませんよね? 過去 100年を経て 自由民主主義と民間資本主義の融合により アメリカ合衆国や ヨーロッパ諸国は勢いづき 新しいレベルの経済発展を遂げました。過去100年で アメリカの 平均収入は30倍にも膨れ上がり 数十万の人々が 貧困から脱しました。同時に アメリカ人の創造性やイノベーションが 産業を活性化し これが家電機器などの 発明と製造にも貢献し 冷蔵庫やテレビ 自動車や皆さんのポケットにある携帯電話の普及に繋がります。驚くにはあたりませんが民間資本主義の危機にある現在でさえ オバマ大統領はこのように述べています 「市場が善か悪かという問題でもない。市場ほど富を生み自由を広げる力を持つものはないからです」 つまり 当然のことながら 欧米人に染みついた思い込みとは 全世界が経済発展のモデルとして いずれは民間資本主義と自由民主主義を 採用するであろうというもので 世界は経済的な権利よりも政治的権利を重視し続けるということです。

 

2 現実的に重要なのは、食糧、住居、教育、ヘルスケアを充実させること

しかし 新興市場にいる多くの人々にとって これは見当違いで 1948年に満場一致で 採択された 世界人権宣言がやったことは 先進国と開発途上国間に 表面化していた亀裂や 政治的・経済的権利の間で揺れる イデオロギーの違いを隠すものでした。この亀裂は広がる一方です。現在 新興市場に住む世界人口の9割の人々にとって 欧米諸国が固執する 政治的権利は的外れで 現実的に重要なのは 食糧 住居 教育 ヘルスケアを充実させることです。「自由を与えよ 然らずんば死を」 これは基本的生活が整っていれば良いことです。でも もし1日1ドル以下で生活していたら 毎日 生き延びるため 家族を養うために必死で 民主主義を流布したり 擁護するのに時間を費やす暇はありません。

 

3 もし皆さんが住むところと選挙権どちらかを迫られたら?

この会場にいらっしゃる多くの方々や 世界の皆さんはこんな風にお考えでしょうか 「正直 理解に苦しみます」 なぜなら民間資本主義と自由民主主義は 極めて神聖なものだから。しかし 今日皆さんにお伺いしたいのは 選択を迫られた場合です。もし皆さんが 住むところと 選挙権 どちらかを迫られたら?

 

4 欧米と新興国とで信じていることに不協和が生じている

過去10年間で 私は60を超える国々を訪れることができました。その多くは 新興市場にあり 南アメリカ アジア 私の母国であるアフリカ大陸です。これまで大統領 反体制派 政策立案者 法律家 教員 医師 路上の人々に出逢い 彼らとの対話を通して 私が確信したのは 新興市場にいる多くの人々は 欧米の政治・経済において イデオロギー的に信じていることと その他の国々の人が信じていることの間に 不協和が生じていると感じています。

 

5 彼らがより懸念しているのは政府が民主的に選ばれるか否かではない

さて 誤解しないでいただきたいのは 新興市場の人々が 民主主義を理解していないとか 彼らが理想的に自分の大統領や リーダーを選ぼうとしていないとは言っていません。もちろん そうするでしょう。しかし あらゆる点を考慮すると 彼らが より懸念しているのは どうしたら自分達の生活水準が向上するのか 政府が どのように保障してくれるかであり 政府が民主的に選ばれるか否かではないのです。

 

6 中国は民間資本主義の代わりに国家資本主義を採用している

この問題の真実は とても頭が痛い問いを投げかけています。なぜなら 長きに渡る歴史で 初めて 欧米諸国の政治・経済のイデオロギー体制に 本当の意味でのライバル ― つまり中国に具現化される体制が台頭したからです。中国は民間資本主義の代わりに国家資本主義を採用しています。自由民主主義は採用しておらず民主主義に重きを置きません。さらに 政治的権利より 経済的権利を優先しています。今日 お伝えしたいのは 中国によって具現化された体制とは 新興市場の人々の間で 後に続くべき体制として勢いづいていること。なぜなら 彼らが信じ始めているのは この体制こそが 最も短い期間で人々の生活水準を 最も良い形で 迅速に改善してくれるからです。もし まだお話を続けさせていただけるなら まず皆さんに なぜ中国が この経済的な信条にたどり着いたか ご説明します。

 

7 経済発展により3億人以上もの人々を極度の貧困から救った

最初は中国の経済発展で 過去30年におけるものです。この国は記録的な経済発展により 多くの人々を貧困から救済し 特に3億人以上もの人々を 極度の貧困から救うという 意義ある功績を残しました。経済だけでなく 生活水準も高めたのです。当時は28パーセントの人々しか 中等教育を受けていませんでしたが 今や82パーセントに近づきました。つまり全体として 経済が 著しく改善したということです。

 

8 政治体制を変えることなく収入格差が大幅に是正された

2つ目に 中国では 政治体制を変えることなく 収入格差が大幅に是正されました。今日 アメリカと中国は 世界を牽引する二大経済大国です。両者は非常に異なる 政治・経済体制を有しており アメリカは民間資本主義 中国は広く国家資本主義を採用しています。しかし この2つの国は 所得の均等を測る 国民所得分配係数(ジニ係数)が同じなのです。さらに 気になることは 中国の所得配分の均等性が 近年 改善されていることです。反対にアメリカでは 格差が広がっています。

 

9 中国が手がける道路や港、鉄道の建設は国内にとどまらない

3つ目は新興市場が 中国の驚くべき そして伝説的な インフラ政策に注目していることです。中国が手がける 道路や港 鉄道の建設は 国内にとどまりません。国内に8万5千キロもの 道路ネットワークを建設し この距離はアメリカをしのぎます。アフリカのような場所に目を向けても 中国はケープタウンからカイロまでの 道路舗装を援助していて その距離は1万5千キロに及びます。ニューヨーク・カリフォルニア間の3倍の距離です。この成果は誰が見ても明らかでしょう。当然のことかもしれませんが ピュー研究所が2007年に行った世論調査によると 10カ国のアフリカ市民が回答したのは 「中国人は自分達の暮らしを良くする 素晴らしい業績を成し遂げた」でした。その数は圧倒的で98パーセントにも上ります。

 

10 高齢化の問題にも革新的な解決策をもたらしている

最後に 中国は世界が直面している 高齢化の問題にも革新的な解決策をもたらしています。モガディシュ メキシコシティー ムンバイを旅行すれば 荒廃したインフラや物流システムが 僻地に届けるべき 医療品やヘルスケアの障害となることが 一目瞭然です。しかし 国有企業のネットワークがあるおかげで 中国人は こうした僻地にまでも 自分たちの企業を使って ヘルスケアを届けることができます。

 

11 経済成長こそが民主主義の前提条件

皆さん 当然のことかもしれませんが 世界を見渡すと中国がやっていることを指差して 「素晴らしい。中国が成し遂げていることを 自分達もやりたい。実現可能な体制に見える」と言っています。更に皆さんにお伝えしたいことは 民主主義のスタンスをもって 中国がやっていることは 多くの変革をもたらしているということです。特に 新興市場の人々の間では 不信感が膨らみ 人々は民主主義はもはや 経済成長の必要条件とみなさなくても 良くなったと信じているほどです。事実 台湾 シンガポール チリなどの国々を見渡すと 中国のみならず経済成長こそが 民主主義の前提条件であると 読み解くことができます。最新の研究によると 国民所得の多寡によって 民主主義がどれだけ永らえるか 大きく左右されます。研究で明らかになったのは一人当たりの国民所得が 年間千ドルの場合 その国の民主主義は8年半継続する試算です。一人当たりの国民所得が 年間2千から4千ドルの場合でも 民主主義は33年しか継続しません。一人当たりの国民所得が 年間6千ドルを超える場合のみ 何が起ころうと民主主義が継続し続けるでしょう。

 

12 政府の説明責任を追求できるミドルクラスをまず構築する必要がある

このことが教えてくれるのは 政府の説明責任を追求できるミドルクラスを 先ず構築する必要があることです。でも 更に考えられるのは 世界中に民主主義を 押し付けることは注意が必要であるということです。なぜなら 最終的には 非自由主義的民主主義に陥るリスクが伴い 市民が追い払いたいと願う 独裁主義政権よりもたちが悪いかもしれないのです。

 

13 過去7年間に渡り、年々自由が後退している

反自由主義が のさばる国を見れば その酷い顛末がお分かりでしょう。Freedom Houseは世界の5割が 民主主義国家であるとしていますが その内の7割の実態は 言論や移動の自由が制約され 反自由主義を呈しています。更にFreedom Houseが 昨年 出版した報告書によると 過去7年間に渡り 年々 自由が後退しているというのです。このことが 私のように 自由民主主義を大事に考える者たちに伝えているのは 私たちは もっと持続的な方法を見つけ 持続可能な形の民主主義で 自由主義の方向に進めなければならず それは経済に根差すということです。しかし 専門家によると 2016年までに中国が世界最強の 経済大国に近づくことが 予想されており結果として 欧米社会と他国間の 政治・経済的なイデオロギーの分裂が 広がるそうです。

 

14 欧米諸国は何をすべきか、2つの選択肢を提示する

世界はどんな風に変わっていくのでしょうか? 私が思うに 世界は もっと国家が介入する国家資本主義に変容し 国家による保護主義が広がります。しかし 少し前に指摘したように 政治的権利や個人の権利が 大幅に失われます。私たちに投げかけられる問いは 欧米諸国は何をすべきかです。そこで2つの選択肢を提示させていただきます。欧米諸国は「競争」か「協力」どちらかの道に歩むことができます。もし欧米が中国のモデルを潰しにかかって そのために世界中で 民間資本主義と自由民主主義を 押し付けて回ることは向かい風に ― 立ち向かっているようなものです。でも これも欧米にとっては 自然な流れなのでしょう。なぜなら 民主主義を優先せず 国家資本主義を推し進める 中国モデルのアンチテーゼなのですから。ただし その結果はどうでしょう。もし欧米諸国が競争に走れば 広範囲に及ぶ亀裂が起きるでしょう。もう1つの選択肢は欧米諸国が協力すること。ここでの協力とは 新興国の人々にとって政治・経済システムが 一番上手く運営される 有機的な道を見出す 柔軟性を与えることです。

 

15 競争に勝つためにも、一時的に協力する道を考えてはどうか

会場にいらっしゃる皆さんは 中国に譲歩しているみたいだとか こんなことをしたら欧米諸国が 二番手になると思われているでしょうか。でも 言わせてください。もしアメリカとヨーロッパ諸国が 世界規模の影響力を持ち続けたかったら 競争に勝つためにも 一時的に協力する道を考えてはどうでしょうか。つまり ミドルクラスを生み出すために 更に強固に経済効果に焦点を合わせる 必要があるかもしれませんが ゆくゆくは 彼らが政府の責任説明を監視して 私たちが本当に望む民主主義を作ることができます。

 

16 自分達のビジネスを活性化させて新興国への貿易と投資を充実させるべき

実際問題として 世界中を飛び回って 中国と手を組む国々をだらだらと説得するより 欧米諸国は自分達のビジネスを活性化させて 新興国への貿易と投資を充実させるべきです。中国の問題行動を批判するより 欧米諸国の政治・経済体制が どれだけ優れているかを見せつけるべきではないでしょうか。更に 民主主義を世界に 押し付けるのではなく 欧米諸国は自分達の 歴史書を見直して 今日のような諸体制のモデル構築には 長い歳月が必要であるということを 思い出してみてください。最高裁判事のスティーブン・ブライヤーは アメリカ憲法が施行されてから 170年近く経って ようやくアメリカに平等の権利がもたらされたことを 思い出させてくれます。皆さんの中には 今日でさえ 平等の権利は無いと考える人もいるでしょう。事実 法の下の平等を求めて 戦っている団体もあります。

 

17 私たちの喫緊の課題は地球上の70億人に向けられた問題

最盛期には 欧米のモデルは自明でした。それにより 人々は食べ物に困ることもなく 冷蔵庫も手に入れ 人類を月に送ってしまいました。でも実際のところ 昔は 皆が欧米諸国に 憧れの眼差しを向けて 「あれが欲しい ああなりたい」と言ったとしても 今や すぐそばに新人が舞い降りました。それは国という形で 中国です。新しい世代は中国を見上げてこう言います 「中国がインフラをもたらしてくれる」 「中国が経済成長を後押ししてくれる」 「ありがたい」と。なぜなら結局のところ 私たちの喫緊の課題は 地球上の70億人に向けられた問題で どうやったら繁栄することができるかです。その問題を重視する国にとって その政治・経済モデルを 切り替えてでも 短期間で より良い生活を保障してくれる モデルを選ぶのが合理的です。

 

18 私たち一人一人の心持ちで寛容な心を持つこと

今日 ここにお越しの皆さんに とても個人的なメッセージを お送りしたいと思います。それは私が信ずることで 私たち一人一人の心持ちで 寛容な心を持つことです。世界の人々に繁栄をもたらしたいという 夢と希望に心を開くことです。何億人もの人々のため 貧困を終わらせることは 寛容な心を持つことから始まります。なぜなら 世の中にある体制には良い面と 悪い面があるからです。

 

19 真実を探究する寛容な心が鍵

ご説明しましょう 私自身の歴史についてです。この写真は私ですよ。んーっ(笑)私は1969年にザンビアで生まれ育ちました。私の出生当時 黒人には出生証明書が発行されませんでした。この法律は1973年に やっと変わりました。これはザンビア政府が発行した証書です。これを皆さんにお見せしたのも40年を経て 生まれた時は人間としてすら認められなかった私が 高名なTEDの聴衆の前に立って 自分の見解を話していることを伝えたかったからです。これを考えれば経済を成長させることだって可能ですし 貧困も意義ある形で克服できます。でも これに必要なことは 私たちの これまでの考えや これまで経済成長をもたらした体制や 民主主義 民間資本主義について見直し 貧困を減らして 自由を構築する必要があります。これまでの教科書を破り捨てて 違う選択肢を見つめる必要もあるかもしれません。真実を探究する寛容な心がその鍵になります。そうすれば いつか世界が変わります。今よりずっと良い場所になるでしょう。ありがとうございました(拍手)

 

最後に

「自由を与えよ。然らずんば死を」経済成長こそが民主主義の前提条件。衣食足りて礼節を知る

和訳してくださった Mari Arimitsu 氏、レビューしてくださった Yuko Yoshida 氏に感謝する(2013年11月)。


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