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公的金融は保証や保険の市場補完に転換せよ 公的金融活動の国際比較

前回は、インフラや信用保証の活用 財政投融資の入口と出口の役割とその将来についてまとめた。ここでは、公的金融は保証や保険の市場補完に転換せよ 公的金融活動の国際比較について解説する。

1 はじめに

ここでは、先進主要各国の政府、特に中央政府が行う金融活動である「公的金融」を比較分析することによって、日本の公的金融改革へ向けた方向性を示す。わが国と比較したときの欧米諸国の公的金融の基本的な特徴は、以下の5つにまとめられる。

  1. アメリカの連邦信用計画では、政府保証・保険などの信用補完またはモーゲージの買い上げのような証券化の業務が中心であり、これらの業務を政府支援企業と呼ばれる民間組織が大きな規模で実施している
  2. イギリスでは、NLFと呼ばれる統合勘定を通じて有償資金による貸付が国営企業、政府機関に対して行われていたが、サッチャー政権以降「小さな政府」を実現する観点から国営企業向けの貸付が大幅に削減され、残る融資活動の大部分も地方自治体向けの貸出が行われているにすぎない
  3. 戦後ドイツでは、ERP、負担調整資金などの特別資金を原資として設立された特殊課題金融機関が中小企業支援、住宅、輸出金融、環境保全などの政策目的を実現するための投融資活動を行ってきた。その資金調達は債券発行によるものもある
  4. フランスでは、暫定資金操作勘定の一環として、社会経済開発資金(FDES)などの財投活動が活発に行われてきたが、現在ではEU統合との関連で事実上廃止されるに至っている
  5. 欧米の政策金融の基本的性格は、①政府系金融機関は多くの場合、債券発行によって資金調達を行っている、②公的金融機関の所有形態は民間所有である場合が少なくない、③超長期の資金を大規模に貸し付けるというケースはむしろまれ、④公的金融の国際比較を行うと、対GDP、対金融仲介総額のいずれでみてもイギリスが最も依存度が低く、次いでドイツ、アメリカの順となっている、⑤最近では財政赤字の削減の観点から公的金融の見直しが徐々に進められている

以下、主要先進国として、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスを取り上げ、これらの諸国の公的金融のしくみと組織の概要について解説する。

 

2 欧米諸国の政府の金融活動

アメリカの公的金融活動

連邦政府と政府関係機関の行う活動

連邦政府が行う金融活動の内容は、大統領が毎年発表する予算教書の中の「連邦信用計画」に報告される。政府はこの連邦信用計画の下、住宅、教育、農業、中小企業、輸出信用など広範な範囲で政策金融を実施している。

連邦政府の行う金融活動の特徴は以下の3つである。第一に、直接融資の比率が著しく小さく、政府保証・保険などの信用補完、またはモーゲージ(担保)の買い上げ(特にMBSの発行)のような証券化の業務が中心となっている。第二に、政府保証・証券化の活動の重点は住宅・都市開発におかれているのに対して、直接融資は農業・農村関連が全体の3分の2を占め、輸出金融、住宅・都市開発が次いでいる。第三に、日本の郵貯のような巨大な貯蓄性資金を財源とするものではなく、政府の直接貸付は全額が租税または公債によってファイナンスされている。

 

アメリカの住宅金融にみる政府保証業務

アメリカのモーゲージ市場が金融市場全体に占めるシェアは著しく大きく、1996年現在で非金融部門がモーゲージ市場から調達した資金の総額は全米新陽市場のほぼ2.5割に達する。モーゲージとは、融資を担保するために不動産等に抵当権を設定する融資方法であり、本来、債務者が債権者に対して返済を人的に約束することを記した契約証書のことである。住宅金融市場は、金融機関が住宅資金の借入人に対してモーゲージ融資を行う第一次市場と、このモーゲージを譲渡可能にして流動化した債権を売買して資金調達する第二次市場から成り立っている。

住宅金融市場に参加するプレーヤーは、伝統的に貯蓄貸付組合、貯蓄銀行が中心だったが、最近では商業銀行、モーゲージ・カンパニーなどが売買のシェアを上昇させている。住宅供給と融資活動そのものは貯蓄投資銀行などの民間業者によって行われており、連邦政府の住宅金融政策はこの民間活動を支援することにより達成される。こうして発行される仕組み債がモーゲージ担保証券(Mortgage Backed Securities:MBS)である。MBSを資本市場で売却することで機関投資家の資金を導入することが可能になり、市場規模を拡大させ、ローン実行機関(オリジネーター)、保障期間、投資家などの間に高度な分業を成立させてきたのだ。

 

政府支援企業の活動

政府抵当金庫、連邦抵当金庫、連邦住宅抵当金庫などの金融機関は政府支援企業(Government-sponsored Enterprises:GSEs)と呼ばれる。本来は民間機関でありながら、法律に基づく特殊法人であるGSEsの活動は、住宅・都市開発、農業経営者などに対する直接融資と、民間住宅や教育の分野に対する保証・再融資などの信用補完に大別され、1996年現在全部で8機関が存在する。

政府支援企業が設立された当初は政府の全額出資であったが、その後見直しが行われ、現在ではGNMA以外はすべて民間所有となっている。また、政府支援企業が発行する債券は明示的な政府保証こそつかないが、デフォルトの危機に陥ったときは財務省からの借入が認められるため、通常は国債に準じる高い格付けが与えられる上に、適格債券としてFRB(連邦準備理事会)の公開市場操作の対象となる。

 

地方債の発行

連邦信用計画には含まれないが、地方自治体が自らの事業活動に対して発行する債券として「事業債」(Revenue Bond)がある。これは特定の公的な事業のみから発生するキャッシュフローを原資に発行される債券であって、発行の裏付けとなる自治体の事業には、通常は電力、浄水、下水回収、廃棄物処理などの公益事業、空港、公共輸送などの交通、高等教育、病院、市民ホールなどの運営がある。

レベニュー・ボンドは税収を担保としないため、住民投票による承認の対象とはならないが、地方債の一種であることから連邦所得税が免税される特典があり、個人投資家にとっては魅力的な公共債となっている。

 

イギリスの公的金融活動

政府の金融活動の概要

イギリスの政府予算は、統合国庫資金勘定(Consolidated Fund Account:CF)と国家貸付資金勘定(National Loans Fund Account:NLF)との二本建てとなっている。このうち、CFは一般会計に相当するものだが、CFは常にバランスする建前となっているため、発生した収支尻は自動的にNLFに計上される。NLFはこのほかに国債の発行・償還、利払いなどの勘定経理を行っている。

イギリスの公的金融は、このようなNLFに基づく融資およびCFに基づく議決融資(Loans from Votes)と公共配当資本(Public Dividend Capital)の投融資からなるが、政府金融活動の大部分はNLFの融資という形態をとっている。NLFの運用対象は、国営企業、政府関係機関、地方公共団体など公共性の高い機関に限られ、しかも有償資金を原則とする。つまり、NLFの融資は日本の財政投融資にほぼ該当する。

1970年代頃までは、NLFによる融資は国営企業と地方への貸付残高が全体のそれぞれ過半を占めていた。しかし、サッチャー政権による国営企業の民営化の推進によって、現在では国営企業向けの貸付は全体の約5%に大幅に縮小し、逆に地方公共団体への貸付シェアが著しく上昇している。

 

イギリスの住宅金融

イギリスでは伝統的に持ち家政策を採用せず、1970年代頃までは低所得者層には地方公共団体が公営住宅を供給する政策を推進してきた。しかし、現在ではこの方針は大きく転換し、特に80年代にはサッチャー首相が「小さな政府」の観点から公営住宅の建設を抑制するとともに「持ち家政策」を掲げて公営住宅の払い下げを強力に推進した。

イギリスの住宅金融市場の特徴は、①モーゲージ市場が活発であり、契約ベースでみたローンの返済期間は通常25年だが、イギリス社会では転職、離婚など人々のモビリティが高いなどの事情から買い換えによる全額繰り上げ償還が多く、実質的な返済期間は7年程度である。②住宅金融組合は、通常、変動金利によるローン提供を行ってきたが、変動幅は市場金利と比べて緩やかになるよう配慮されている。③現在では固定金利でのローンも3〜5割程度になっている。④住宅金融組合のシェアは新規参入によって低下している。

 

ドイツの公的金融活動

公的金融制度の概要

ドイツ連邦予算は一般会計に単一の勘定しか存在しない。連邦政府による投融資は、歳出における資本勘定の中の貸付金等に計上され、予算の一部として統合され国会の議決を受けることとなっている。ドイツには、このような連邦政府が行う投融資のほかに、ERP特別財産と負担調整資金と呼ばれる基金が存在し、これらの原資として設立された政策金融機関である特殊課題金融機関(Kreditinstitute mit Sonderaufgaben)が産業部門への長期資金の供給、中小企業支援、住宅、輸出金融、環境保全などのための投融資を行っている。

特殊課題金融機関は、1994年現在、復興金融公庫(KfW)、ドイツ負担調整銀行、ドイツ建築・土地銀行、バイエルン州復興金融公庫など全体で15機関が存在する。資金長惇は、政府基金のほか、債券発行、民間金融機関からの借入などによっている。

 

ドイツの公的住宅金融

ドイツでは第二次世界大戦によって住宅資産が破壊されたことから、政府は住宅不足に対して低利の公的資金を投入した社会住宅を中心に、住宅建設の促進に力を注いできた。しかし、今日では住宅建設奨励金、財形貯蓄付加金などの間接的な助成を含む、低利の建設資金の融資を基本政策としている。

住宅資金を扱う民間金融機関には、貯蓄銀行(Sparkassen)、建築貯蓄金庫(Bausparkassen)、抵当銀行(Realkreditinstitute)などが存在する。貯蓄銀行は民営機関のものもあるが、大部分が市町村が所有する公法上の金融機関であり、全体として多数の支店網を通じて大衆向けの金融活動を行っている。

 

フランスの公的金融

予算制度と公的金融

フランス政府の予算は「確定資金操作」と「暫定資金操作」の2つに分類される。前者は支出の都度取引が完了し、再び国庫に戻ることがない支出のことで、日本の一般会計に相当すると考えられる。後者は、支出した資金が再び国庫に戻ることを想定した歳出を経理する勘定であり、財政投融資に相当するといえる。

預金供託公庫(C.D.C)は、もともとフランス革命期に政府負債の償還を確実にするために1816年に創設された最も古い歴史を持つ政府機関であるが、現在では日本の政府系金融機関、各種公庫、資金運用部をひとまとめにしたような巨大な金融組織として機能している。このほか特殊金融機関としては、地方自治体金融公庫、フランス不動産銀行など32の機関が存在する。主な活動分野は、中小企業、住宅、インフラ整備、地方自治体などである。

 

フランスの住宅金融制度:預金供託金庫による貸付制度

フランスの住宅金融には、フランス不動産銀行(CFF)、預金供託金庫(CDC)などの政府関係機関によるもの、登録銀行と呼ばれる商業銀行、貯蓄金庫などの民間金融機関によるものという2つの系統がある。フランスでは、CFFやCDCなどの政府系金融機関が「PAP」と呼ばれる低所得層向けの持ち家取得貸付と、「APL」と呼ばれる一定所得以下の世帯に対する住宅手当の支給とを持ち家政策の2本柱として推進してきた。その後、95年からシラク政権の下「金利ゼロ%融資」が創設され、民間金融機関の割合が増えている。

 

3 日本の財政投融資による公的住宅金融

住宅金融の現状と経緯

戦後日本では、住宅ローンは民間金融機関にとって主力の業務ではなかった。欧米諸国では、伝統的に地元の中小金融機関が住宅金融を行ってきたが、日本の地元金融機関の任務は地方で調達した資金をインターバンク市場を通して中央に資金環流させることであった。こうした事情から、民間住宅ローンの供給を任務として公的金融機関(住宅金融公庫)が設置され、長期・低利・固定の資金を提供してきたのである。

70年代になると、民間金融機関は住宅専門会社を設立して住宅ローンを伸長させたが、その後80年代以降は銀行が自ら変動金利型ローンへの積極的な取り組みに転じたことから、銀行の融資額は着実に伸長し、住専の活動は低迷した。バブル崩壊後は、民間金融機関の貸出が伸び悩んだために公庫の貸出が突出したが、基本的には公庫の貸出基準金利が低く、競争上有利に定められているからといえる。

 

最近の問題点

公庫の経営に関連した問題点として、以下の3つが挙げられている。第一に、資金運用部に対する巨額の返済繰延とそれに伴う利息補給、交付金など補給金の計上である。第二に、金利変動に伴う繰上げ返済リスクの問題である。金利上昇局面では逆ざやが発生するが、逆に金利低下局面では債務者の借り換え行動を誘発して早期返済のインセンティブが強まる可能性があるのだ。第三に、公庫による割当財投資金の未消化が恒常化していることだ。公庫の貸出額自体は伸びているが、繰り上げ償還が急増したため運用部からの借入が不要になったからである。

 

4 結論

財投の歴史的使命を考える

日本では、1980年代にすでに住宅数が世帯数を上回り、住宅問題の主要な目的は個々の住宅の質の向上に移っている。本来、個人の住宅ローンなどは毎期確実に資金が入ってくる確率が高いので、民間にとって活動しやすい分野といえる。つまり、政策金融はその歴史的な役割を終えたというべきである。公団は民間が発行する住宅ローン債権を保証・購入し、あるいは二次証券の生成に携わるといった任務に転換するのが望ましい

 

若干の結論

日本の公的住宅金融について、以下の2つのことがいえる。第一に、住宅金融公庫の役割を現在の直接融資から、アメリカのような保証や保険など市場補完の役割に転換することである。第二に、公庫の民営化である。欧米での例をみるように、所有形態としての民営化と事業の公共性とは必ずしも矛盾しないのだ。

 

最後に

公的金融は直接融資から市場補完の役割が求められてきている。アメリカは連邦信用計画や政府支援企業に基づく証券化・保険機能の重視、イギリスは「小さな政府」の方針で地方公共団体への貸付が伸びている、ドイツは民営および債券発行による資金調達に信用を供与している、フランスは公的金融の拡大の見直しが行われている。所有形態としての民営化と事業の公共性は必ずしも矛盾しない

次回は、財政赤字、責任不在、中央集権の強化 財政投融資の行財政面からの考察についてまとめる。

財政投融資の経済分析 (シリーズ・現代経済研究)


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