前回は、ガソリン税はピグー税 国のお金はどう動くのか—財政入門についてまとめた。ここでは、金融政策と国際金融のトリレンマ 国のお金はどう動くのか—金融入門について解説する。
日銀総裁は「誰を」より「何を」が大事
日銀の役割は「物価の安定」である。つまり、誰がやるかは関係なく、何をするかが本質である。具体的には、消費者物価指数(CPI)の上昇率を管理できる人ならば誰でもいいのだ。
まず「目標」の明示を
日銀は行政組織であるから、自分で勝手に目標を決めてはならない。政府が目標を決めて、日銀はそれを守ることが重要である。その目標を達成する方法論について、外部の人が何も言わないというのが日銀の独立性である。これを経済学では、中央銀行は目標の独立性はないが、手段の独立性があるという。
ステューピッドな日銀
バーナンキFRB議長は、プリンストン大学時代に「日銀はステューピッド」とまでは言わないが、「マネタリーポリシーがプア」と言った。これは、何かやる以上は目標をはっきりさせて、その責任をはっきり取れという言い方である。いわゆる、インフレーション・コントロール・ターゲッティング(インフレ・ターゲット)である。
消費者物価指数の上方バイアス
もともと、消費者物価指数統計は上方バイアスという、数字が実際より1%ほど高めに出るという性格がある。消費者物価指数統計は、基準年の時点で耐久消費財に○割支出、レジャーに△割支出、ガソリンに×割支出という割合を先に固定しておき、それぞれのモノの物価統計をその割合に掛けた上で全体を足し算してあげた数字である。そうすると、基準年で安かったモノほどその後は支出の割合は大きくなり、高かったモノは割合が小さくなる。しかし、あくまでも基準年の割合で統計の計算をするため、安かったモノの割合は現時点より小さく、高かったモノの割合は現時点より大きく影響を与えてしまうのである。
下がったことは忘れちゃう
物価とは1年間でどれだけ上がったかの指標である。しかし、世間の感覚だと直前にちょっと上がっただけで「上がった」と騒ぎがちである。一方で、下がったことについては覚えていないことが多い。なお、消費者物価指数を修正するよりも「そういうものだ」と思っていた方が簡単なため、そのままにしている。
白川総裁に世界はびっくり
伊藤隆敏氏のように物価目標を明言していたが、結果として日銀出身の白川方明氏が総裁になった。しかし、白川氏は物価目標についてははっきりと言及していなかったため、就任直後に日本の物価連動国債がマイナスになった。これは市場がデフレ脱却できないと見ている証拠である。
デフレを決める3つの指標
デフレを決める3つの指標は、CPI(消費者物価指数)、ユニット・レイバー・コスト(単位労働コスト=賃金)、GDPデフレーター(消費と関係ないものまで含めたある種の物価統計)である。それぞれマイナスであったらデフレである。ユニット・レイバー・コストとGDPデフレーターは4半期(3ヶ月に1回)しか出ないため、数字が遅れる。そこで、毎月(26日を含む週の金曜日)発表されるCPIを見て経済の動きを押さえるのだ(原油価格が上がったら通貨供給を増やせばいい 個別物価と一般物価参照)。
ニュー・パブリック・マネジメントが世界の常識
ニュー・パブリック・マネジメント(新公共経営)とは、役所が目標をはっきり示し、大臣はその目標を達成すると国民と約束するというものである。20年ほど前から、ニュージーランドで構造改革が行われているときにそうした考え方が出てきた。中央銀行でも物価目標を定義して(特にCPI)、何年で達成するかを約束すればよい。ニュー・パブリック・マネジメントは民間でいうPDCAサイクルを官の世界にも適用したといえる。
「独立性」の2つの意味
独立性には「目標」と「手段」の2つの意味があり、前者は政府が、後者は中央銀行が担えばよい。バーナンキはそうすることで中央銀行のクレディビリティ(信頼、信認)が高まり、金融政策をうまく行うことができると言っている。
プリンストンで門前の小僧
当時のプリンストン大学にはバーナンキ以外にもラルス・スヴェンソンやアラン・ブラインダー、ポール・クルーグマンなどの有名な学者が多くいた。その話している内容を耳学問しているうちに「門前の小僧習わぬ経を読む」でなんとかなってしまった。
為替介入なんて意味がない
外国為替資金特別会計(資産120兆円、負債100兆円)による為替介入はほとんど意味がない。ドルを買って円高を防止しているという論理だが、実際は国際協定上行うことは難しい。そもそも、先進国は外国為替の介入資金など持たず、マクロ経済政策をするのである。
マクドナルドの価格で為替がわかる
為替の決まり方はマクドナルドの価格でわかる(購買力平価)。例えば、日本のマックが100円、アメリカのマックが1ドルだったら、為替的には1ドル=100円である。仮に、日本はインフレがなくてアメリカがインフレになるとすると、アメリカでのマックの値段は上がるため、為替的には円高になる。つまり、インフレ率を同じに合わせておけば、為替はそれほど動かないのだ(物価上昇率を合わせておけば為替相場はあまり変わらない 金融政策と為替参照)。
米国への貢ぎ?
為替介入は米国への貢ぎという人もいる。それは、効果がないのに膨大なお金で介入をするということで、汚い印象を世界に与えかねないからだ。国債を発行して円を調達してドル債を買ったとしても、いつかはドル債を売らなければならないため、結局はほとんど効果がないのである。
国際金融のトリレンマ
国際金融のトリレンマとは、「固定相場制」「独立した金融政策」「自由な資本移動」の3つのうちせいぜい2つしか達成できないことである。もし固定相場制と独立した金融政策を自由にしようとすると、資本移動ができなくなって外資が呼べなくなってしまう。もし自由な資本移動と固定相場制をしようとすると、独立した金融政策(金利操作)ができなくなってしまう。
固定相場制は諦めるしかない
そのため、多くの国が選んでいるのは、金融政策は国内の景気に応じて自由にする(独立した金融政策)ことと、資本移動を制限して外資の参入を阻止しない(自由な資本移動)という2つである。結果的に固定相場制ができないため、変動相場制になっているのだ。
福井前総裁の大チョンボ
日本の物価上昇率が世界と違いすぎるのは、円高圧力や名目成長率の低さによる税収減で迷惑である。福井前日銀総裁にも「デフレ脱却」という目標があったが、5年の任期中に守れなかった。失策・失政だが、それでも責任を取らせられないのだ。
サルでもわかるデフレ脱却政策
デフレ脱却政策はマネーを出せばいい(金融緩和)。反対に、インフレのときにはマネーを吸収すればいい(金融引き締め)。
「金融引き締め」したら勝ちという日銀のDNA
金融引き締めしたら勝ちという日銀の風土がある。財務省は緩めろというため、それに屈しなかったという意味である。金融緩和をするためには、日銀のバランスシートの負債を増やす必要がある。そのためには資産を買う必要があるため、通常日銀が国債を買えばよい。しかし、国債を買うということは財務省を助けることになるため、日銀としてはそれをしたがらないのだ。
財金分離?
「財金分離に反する」というのは「国債を買ったら負け」という意味にすぎない。そもそも世界の中央銀行のオペレーションは国債の売買でやっているため、国債を買うのは財金分離に反するとは全く言えない。むしろ、国債を買うなという方が手段の独立性に反する。
日本は実は高金利
経済に重要なのは実質金利(名目金利—予想インフレ率)である。そのため、インフレ率が上がらないと予想すると、実質金利は名目金利より大きくなる。実質金利が上がると、円高・輸出減・設備投資減で景気が落ち込んでしまうのである。
日銀総裁はサーモスタットのボタン係
日銀総裁はいつか冷暖房スイッチのサーモスタットになるのではないか。専門的には金融調整をしてから効果が出るまでにずれがあるが、国債金利が入札で機械的に決められるようになったように、学問が進歩すれば簡単になると思われる。
日本がミャンマーに?
ハイパーインフレの定義はインフレ率月50%なため、最近ではミャンマーなどの国しかない。インフレ・ターゲットで1〜3%までしか許していなければ、金融引き締めでハイパーインフレになることはない。
バブルは誰にも予測できない
前FRB議長のグリーンスパンは「バブルは崩壊して初めてバブルとわかる」と話している。つまり、バブルは誰にも予想できないということだ。
バブルをつぶした2つの通達
バブルをつぶした2つの通達は、営業特金制度の規制通達と総量規制通達(銀行の不動産向け融資を抑えるもの)である。ただし、証券の売買回転率が変わるのと、総貸出の伸び率に合わせる程度の通達で、それほどまでの効果があるとは予想できなかった。
『バブルへGO!!』
『バブルへGO!!』という映画は、不況にあえぐ2007年から1990年3月に戻って、総量規制の通達を取り消させるというSFコメディである。総量規制を取り消した後で2007年に戻ると、お台場のレインボーブリッジが3本になっているというものだ。バブルがはじけたらすぐに金融緩和するしかないが、当時の日銀は反対に引き締めをするという失策を行ったのである。
量的緩和の失敗
2006年3月の量的緩和の解除も間違いである。間違った理由は、消費者物価指数に上方バイアスがあることを意図的に無視し、0.5程度が続いていたところで「安定的にゼロ以上」と解釈してしまったのだ。しかし、反対したのは中川秀直氏と竹中平蔵氏の2人だけであった。
原油価格の高騰には金融緩和を
原油価格の高騰には金融緩和を行えばよい。海外の物価が上がったときには国内から海外にお金がとられるため、国内の所得が減ってしまう。そのため、国内の所得を埋める分だけ金融緩和を行わなければ、デフレが進み、景気が悪化してしまうのだ。つまり、日本ではコアコアCPI(CPI—生鮮食品価格—エネルギー価格)が大きなプラスになるまでは金融緩和を続ければいいのだ。
コアコアに注目
コアコアCPIの数字は以前はなかった。しかし、コアコアを基準に金融政策を行えば、デフレ脱却と景気回復が達成できる。
円高の原因はサブプライムローン問題ではない
円高の原因はサブプライムローン問題ではなく、他国に比べてマネー伸び率が少ないからである。日本は金利差という短期要因でも円高、インフレ率の差で長期的な円高圧力もあるのだ(世界大恐慌は金本位制によって発生し伝播した 金融政策の理論的根拠参照)。
借り手が王様
資本主義社会では「借り手が王様」といえる。お金を持っている人より、起業家のように借りている人の方が経済を引っ張るからである。だから、金利を上げるとお金を借りにくくなるため、経済成長は落ち込んでしまうのだ。金利を上げて、金利収入のある資産家を優遇してもしかたない。金利を上げろというのは、お金を借りている中小企業を苦しめているのだ。
最後に
金融政策の指標は、①コアコアCPI、②ユニット・レイバー・コスト、③GDPデフレーターの3つ。国際金融のトリレンマとは、固定相場制、独立した金融政策、自由な資本移動のうち、2つしか同時には達成できないというもの。原油価格が上がったら金融緩和をする必要がある。資本主義社会では「借り手が王様」。
次回は、官僚内閣制から議院内閣制にするための改革 公務員制度改革入門についてまとめる。
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