前回は、大蔵省の「財テク」規制が株価暴落のきっかけ バブル崩壊と不良債権についてまとめた。ここでは、護送船団方式と拙速なゼロ金利解除 政治主導不在と経済無策について解説する。
1 消費税増税が国民にもたらしたもの
消費税率を上げても税収が増えるとは限らない
消費税率を上げても税収増になるとは限らない。実際、消費税率が3%から5%に引き上げられた1997年から2003年にかけて、一般会計税収は53.9兆円から43.3兆円まで10兆円以上も減少している。
消費増税の本当の狙いは、財務官僚が私腹を肥やすことにある
消費増税の本当の狙いは、財務官僚の利権を増やすことである。例えば、消費税率が引き上げられれば、軽減税率の問題が俎上に載せられる。そうすると、食料や医薬品、新聞などの団体から軽減税率の適用に関して財務省へ申し入れが多くなり、そこに天下りなどの利権が生まれるのである。
増税する前に”天下り先”を減らせ
増税を否定しているわけではないが、その前にやるべきことがある。例えば、官僚たちの”天下り先”である特殊法人や独立行政法人などへの出資金・補助金をなくし、民営化するだけでも財政収支は大幅に改善される。
2 アジア通貨危機が日本経済に与えた影響
東南アジアや韓国の通貨が大暴落する異常事態に
アジア通貨危機とは、1997年から1998年にかけて、タイをはじめとする東南アジアの国々や韓国を襲った連鎖的かつ急激な通貨の暴落現象である。その発端は1997年7月、ヘッジファンドなどの国債投機筋がタイの通貨・バーツを投げ売りしたことに始まる。バーツが実力に比べて高値で取引されていたことに目をつけて売り浴びせを仕掛け、暴落したところで買い戻して利ざやを稼ごうとしたのである。
アジア通貨危機が起こった原因は、当時、東南アジアのほとんどの国が、自国通貨とドルをペッグする固定相場制を採用していたことにあるとされている。ドグペッグによって通貨が比較的安定していたことに加え、金利を高めに誘導することで外国資本の流入を促し、蓄積された資本をもとに輸出を拡大させるのが、1980年代から1990年代にかけての東南アジアの国々の一般的な成長モデルだったのだ。
アジア通貨危機は日本経済にダメージを与えたのか?
アジア通貨危機は日本経済の悪化の原因の1つではあるが、その本質的な原因は、アジア通貨危機当時の橋本龍太郎政権が緊縮財政に踏み切ったことや、1997年4月に消費税率が3%から5%に引き上げられたことにあるのは疑う余地もない。その理由として、アジア通貨危機で被害を受けた国々は、その後通貨安の恩恵によって輸出が拡大し、経済回復を果たしたが、日本はいまだに経済回復をしていないのである。
日本が今後、通貨危機にさらされる可能性は?
日本が今後、通貨危機にさらされる可能性はそれほど高くない。少なくとも、日本のGDPに占める貿易の割合は2割程度と低いので、貿易依存度が高い韓国のように、通貨が暴落して国家破綻に追い込まれるような危険性は低いだろう。
3 ハゲタカファンドによって日本は不毛の地になったか?
破綻した長銀や「シーガイア」を次々と食い物に?
1998年の日本長期信用銀行(長銀、現・新生銀行)の経営破綻をきっかけに、ハゲタカファンドという言葉がマスコミを賑わした。破綻した長銀は一時国有化され、およそ8兆円もの巨額公的資金を注入して再生を図ったものの復活せず、2000年3月、米投資会社リップルウッド・ホールディングスに売却された。リップルウッドが長銀買収に投じた額はわずか10億円だった。
その後、名称を新生銀行に改め、従来の産業金融から個人向け金融サービスを中心とするビジネスモデルに大転換を図った。新生銀行は2004年に株式再上場を果たし、リップルウッドは保有株の売却によって総額5400億円もの売却益を手にすることになった。
また、リップルウッドは宮崎市の大型リゾート施設「シーガイア」を運営するフェニックスリゾート、レコード会社の日本コロムビア、固定電話会社の日本テレコム(現・ソフトバンクテレコム)などを次々と買収し、株式価値を高めて売却した。
ハゲタカにはハゲタカなりの存在理由がある
「ハゲタカによって日本が不毛の地になる」と批判する者もいたが、逆に日本経済がそうした状況に陥る危機から救ったのである。瀕死の会社を買収のターゲットにするのは、投資家から預かった資金を運用する立場として当然のことである。株式価値が下がっている会社を再生させれば、株式価値が上がったときのリターンが大きくなるからである。しかも、必ず再生できるとは限らないし、その交渉はタフなものとなる。本物のハゲタカが食物連鎖を維持する役割を担っているように、ハゲタカファンドにも経済の生態系にとって存在理由があるのである。
4 護送船団方式の行き詰まりが金融機関の破綻を招いた
過保護な行政指導が「生きる力」を失わせた
護送船団方式とは、日本独自の金融行政のことで、経営体力や競争力のない銀行に合わせて全体の速度をコントロールするものである。経営体力や競争力のない銀行でも潰れることがないが、力がある銀行でも競争に対するモチベーションや革新性が低下してしまうのである。
銀行がつぶれても預金者はまったく困らない
そもそも銀行がつぶれても預金者はまったく困らない。当座預金や利息のつかない普通預金(決済用預金)については、預金保険制度(ペイオフ)によって全額が保護されるし、利息の付く普通預金や定期預金も元本1000万円までとその利息については保護されるからだ。また、破綻銀行の融資業務は別の銀行に事業譲渡されるので、それまで借入をしていた企業が突然資金繰りに困る心配もほとんどない。
5 拙速なゼロ金利解除で頭打ちになった日経平均株価
日銀の意固地な態度が株価に悪影響をもたらした
日銀は2000年8月、当時の森嘉朗政権の猛烈な反対を押し切って、1999年2月から実施されていたゼロ金利政策を解除した。ゼロ金利である状態を早く解消したいという意固地な態度が前面に出た結果である。すでに2000年春頃ITバブルが崩壊し、景気が悪くなっていくことが予想されていたタイミングで、金融引き締めに転じるという失策を行ったのだ。その結果、デフレはますます進行し、日経平均は1万6000円台から、2000年末には1万3000円台まで急落した。このため日銀は、わずか半年後の2001年2月に再びゼロ金利政策を導入したのである。
名目金利と実質金利の違いを理解できなかった日銀総裁
名目金利が通常の金利そのものであるのに対し、実質金利は「名目金利—物価予想値」で計算されるものである。そのため、名目金利がゼロでもデフレが続いている限りゼロよりも高めに推移する。設備投資や消費に直接影響するのは実質金利であるため、この金利を低くするためにも適度なインフレ目標の設定が有効なのである。
6 国民負担が増すばかりの社会保障制度
高齢化が進めば負担が増すのは当たり前
高齢者人口が増えれば、社会保障給付費が膨らむのは当たり前である。1970年度の社会保障給付費総額は3.5兆円で、国民所得がに対する割合は5.77%にすぎなかった。ところが1980年度には24.8兆円、1990年度は47.2兆円、2000年度は78.1兆円となり、2012年度(予算ベース)は過去最大の109.5兆円となった。国民所得額に対する割合は31.34%である。
2012年度の社会保障給付費109.5兆円の内訳は、年金が53.8兆円(49.1%)、医療が35.1兆円(32.1%)、福祉その他が20.6兆円(18.8%)。福祉その他のうち約10兆円は介護費用であり、社会保障給付費のほとんどが高齢者のための支出だと考えていい。また、政府の推計によれば、社会保障給付費は2020年度に135.5兆円、2025年度には151兆円まで膨らむ見通しである。
増税よりも保険料の取り逃しをなくすことが先決
社会保障給付費は本来ならば税金ではなく、保険料によって賄うのが望ましい。保険料方式ならば、受け取れる年金額と支払う年金額との透明性が高いからである。そのためにも、保険料の徴収体制を強化する必要がある。徴税は国税庁、保険料徴収は日本年金機構と役割を分担せず、歳入庁を新設して一括で徴収する制度をつくればよい。
最後に
消費税率を上げても税収が増えるわけではない。アジア通貨危機と日本の長期デフレはあまり関係がない。ハゲタカファンドにも経済の生態系の1つとして役割がある。護送船団方式の行き詰まりが金融機関の破綻を招いた。拙速なゼロ金利解除で日経平均株価は頭打ちとなった。社会保障給付費の負担が増すのは高齢化が進めば当然である。名目金利と実質金利の差を把握せよ。
次回は、霞が関埋蔵金と公務員制度改革の頓挫 かすかな希望と官僚組織の逆襲についてまとめる。
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