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音声通信において無線基地局を結ぶコア・ネットワークの仕組み

前回は、携帯電話端末と無線基地局を無線でつなぐ4つの工夫とCDMAについてまとめた。ここでは、音声通信において無線基地局を結ぶコア・ネットワークの仕組みについて解説する。

1 無線基地局が結ぶコア・ネットワーク

コア・ネットワークとは、交換機同士を結ぶネットワークのことである。携帯電話網は携帯電話端末と無線基地局との間は電波で接続しているが、そこから先は光ファイバーなどの有線で結ぶネットワークがある。その構成は以下の通り。

  1. 携帯電話端末
  2. 無線基地局
  3. 移動通信制御局(無線ネットワーク制御装置と加入者交換機)
  4. 中継交換機
  5. (着信側の)移動通信制御局
  6. 無線基地局
  7. 携帯電話端末

また、固定電話など異なる通信事業者間のネットワークを相互接続する際は、関門交換機ゲートウェイ)いう交換機を経由してつなぐ。A社の関門交換機とB社の関門交換機をつなぐ部分をPOI(Point Of Interface、相互接続点)という。

 

2 携帯電話がつながるまでの4つの処理

携帯電話端末間の発信着信動作の流れは、以下の4つの処理を経る。

  1. 無線パスの設定:携帯電話端末と加入者交換機との間で実施する電波による通信路(パス)を作る作業
  2. 位置登録エリアの確認:通信したい携帯電話端末の現在地を知るために、ホームメモリーを使って確認する処理
  3. 接続:相手の携帯電話端末までの通信路を完成させる作業
  4. 切断:それまで使った通信路などを解放し、通信の記録を行う処理

 

3 交換機と情報をやりとりする無線パスを作る

各段階の処理内容を詳しく見ていく。無線パスの設定はさらに以下の4つの過程に分けられる。

  1. 発信:携帯電話端末から無線ネットワーク制御装置との間の無線チャネルを確立。多くの端末がいつでもアクセスできるパケット通信型の共通チャネルを使用
  2. サービス要求:携帯電話網に対してどのようなサービスをしてほしいか要求
  3. 端末認証、暗号化種別指定:正しい端末か確認
  4. 呼設定要求(QoS、接続先番号):発信側と着信側の端末を通信状態にするための信号

 

4 相手の位置を確認し一斉に呼び出ししてつなぐ

位置登録エリアの確認はさらに以下の2つの過程に分けられる。

  1. 着信情報問合せ(接続先番号):着信側の交換機への着信処理依頼
  2. 応答(ローミング番号):発信側の加入者交換機へ返送

接続はさらに以下の5つの過程に分けられる。

  1. 回線接続:着信側の加入者交換機まで回線を接続
  2. 一斉呼出し(ページング):自分が管理する位置登録エリア全体にメッセージ送信
  3. 応答:加入者交換機へ応答
  4. 端末認証、暗号化種別指定
  5. 呼設定

 

5 契約電話会社を確認してからホームメモリーに問い合わせ

以上の流れの中で特に重要なことは、位置登録、ローミング番号を使った着信、一斉呼出し(ページング)である。

第一に、ホームメモリーから位置情報を取得することである。以前述べたように、すべての携帯電話端末は現在いる場所(エリア)をホームメモリーというしくみで管理している。ホームメモリーは複数台あり、相手先の電話番号を担当するホームメモリーに問い合わせて相手のエリアを確認するのである。

 

6 携帯電話ならではの「ローミング番号」で回線をつなぐ

第二に、ローミング(roaming)番号による着信である。ローミング番号は、携帯電話の着信処理のために一時的に割り当てられる、通常の電話番号と同じ形式の番号である。ローミング番号を使うことで、固定電話網の着信処理と同じ方法で発信側と着信側の交換機をつなぐ回線を作ることができる(回線接続要求信号の活用)。

回線接続要求信号とは、着信側の交換機までの通信回線を作ってもらうための信号である。この信号はIAM(Initial Address Message)ともいい、後述する共通線信号網というネットワークを使って相手の交換機まで送られる。

ローミング番号を使う理由は、携帯電話の電話番号からでは相手の位置がわからないからである。ローミングという用語は本来、携帯電話端末が自分の属する携帯電話事業者のサービスエリアから、海外など異なる携帯電話事業者のサービスエリアに移動することである(国際ローミングについては後述)。

 

7 一時的な番号「TMSI」で端末を一斉呼出し

第三に、一斉呼出し(ページング)である。ページングの仕組みは、着信側の交換機がローミング番号から端末ID(TMSI)を検索し、位置登録エリアに対してTMSIで一斉呼出しをかけ、該当する端末が応答するというものである。

この一斉呼出しで使う番号には、TMSI(Temporary Mobile Subscriber Identity)という番号を使う。TMSIは携帯電話端末が位置登録するたびに一時的に割り当てられる端末IDである。個々の携帯電話端末を識別するための固有な番号のIMSI(International Mobile Subscriber Identity)よりも半分程度と短いのが特徴である。

TMSIを使う方法は、IMSIが無線区間で傍受されて悪用されるのを防ぐことにも役立っている。また、着信側の加入者交換機は、自分が割り当てたローミング番号と電話番号の対応表を持っている。さらに、自分の位置登録エリアにいる携帯電話端末の電話番号と端末ID(TMSI)のデータもVLR(Visitor Location Register、加入者交換機が持つデータベース)に持っている。

なお、IMSI(International Mobile Subscriber Identity)は携帯電話端末を識別するための全世界で唯一無二な番号で、「国番号+オペレータ識別番号+オペレータ内番号」から成り立っている。第3世代の携帯電話端末の中に入っているUIM(User Identity Module)にはこのIMSIのほか、携帯電話番号が書き込まれてある。UIMカードは一般的にSIM(Subscriber Identity Module)カードと呼ばれる。

 

8 固定電話と携帯電話をつなぐ

異なる携帯電話事業者のユーザーに電話をかけたときは、相互接続している関門交換機(ゲートウェイ)へ交換機間の通信回線を作るために回線接続要求信号(IAM信号)を送ることで処理する。

携帯電話端末から固定電話に着信するときの流れは、無線パスの設定まではこれまでと同じである。接続の際は固定電話は電話番号で着信する場所がわかるため、すぐに回線接続処理に入る。

反対に固定電話から携帯電話端末に着信するときは、接続先の携帯電話事業者の網と相互接続している関門交換機までいったん回線を接続することで処理する。

 

9 移動通信制御局は無線基地局を従えた親分

ここからは、このような複雑な処理を実行するために重要な項目を6つに分けて説明する。すなわち、移動通信制御局、ホームメモリー、ハンドオーバー、音声コーデック、回線交換チャネル、共通線信号である。

第一に、移動通信制御局は、無線ネットワーク制御装置(RNC)と加入者交換機で構成されている。加入者交換機は無線ネットワーク制御装置を介して、複数の無線基地局と接続している。無線ネットワーク制御装置は、携帯電話端末と無線基地局との間の無線回線を監視したり、携帯電話端末との間に音声通信用の無線チャネルを割り当てたりするなど、無線関係の制御を行う装置である。

また、加入者交換機は携帯電話端末から送られてきたダイヤル情報を分析したり、ネットワーク内で必要に応じて中継交換機を経由し、相手端末までの最適な接続経路(パス)を決定するルーティング処理も実行する。このように、無線ネットワーク制御装置と加入者交換機を抱える移動通信制御局は、あたかも何人もの子分(無線基地局)を従えた親分のような位置づけだといえる。

 

10 すべての携帯電話端末の場所を知っているホームメモリー 

第二に、ホームメモリーは厳密にはHLR(Home Location Register)といい、すべての携帯電話端末のユーザー登録情報や現在地を覚えているデータベース(メモリー)で、交換機と制御情報をやりとりできる装置である。

どの交換機も目的とする番号の携帯電話端末を呼び出したい場合は、いったんこのHLRに問い合わせて、着信すべき携帯電話端末の現在地を確認する必要がある。そのためHLRにはあらかじめ最新の位置情報が登録されている必要がある。その流れは以下の7つの過程を経る。

  1. 報知情報:一番近くの無線基地局から位置登録に必要なエリア情報を含む信号を受信する
  2. 位置登録要求:位置登録エリアと違った場合にのみIMSIを送る
  3. 識別情報:IMSIは無線基地局経由で加入者交換機に届く
  4. 認証情報の読み込み:IMSIを参照してHLRから認証情報を読み込む
  5. 端末認証
  6. 位置登録情報:HLRに登録。VLR内の端末情報管理(端末ID=TMSI割り当て)
  7. 端末情報ダウンロード:HLRからVLRにダウンロードして持つ

HLRは携帯電話端末の番号グループに対応させて、複数の場所に分散設置されており、かつ高度な冗長構成をとっている。また、HLRは複数のセル(無線基地局の通信範囲)で構成されている。そのため、ある携帯電話端末が発信した場合に、その端末へのサービス提供に必要なデータは発信したエリアの加入者交換機のVLRを見ればわかるため、わざわざHLRまで見に行く必要はない(VLRの意義)。一方、ある携帯電話端末へ着信する場合は、まずHLRへ位置登録エリアを確認しにいくという手順をとっている。

HLRには、基本的に通信経路(パス)の設定に必要な情報を登録してある。例えば、電話番号、IMSI、認証情報、契約サービスの内容、位置登録エリアの番号、位置登録エリアの交換機番号などである。なお、携帯電話事業者はそれぞれ独自のHLRを持っている。

 

11 移動しても途切れないソフト・ハンドオーバー

第三に、ハンドオーバーとは、通信する無線基地局を次々と切換える技術である。ハンドオーバーの原理は、携帯電話端末が移動しながら通信品質の良い(近くにある)無線基地局へ切替えていくことである。

ソフト・ハンドオーバーとは、複数の無線基地局と同時に通信しながら切り替えていく方法である。いったん同時通信の状態にしてから片方を切断するため、携帯電話端末が移動しても通信は途切れることなく継続できる。同時通信せずに新しい通信回線を設定することによって切り替える方法(ハード・ハンドオーバー)に比べ、通信が切れにくい。

 

12 無線ネットワーク制御装置が無線基地局を切り替える

ハンドオーバーには大きく分けて2つのレベルがある。それは同じ無線ネットワーク制御装置(RNC)のもとで無線基地局を切り替えるハンドオーバーと、RNCが切り替わるハンドオーバーである。ここでは前者について説明する。その過程は以下の4つである。

  1. 携帯電話端末から、無線基地局1の受信レベルが限界近くまで低くなり、無線基地局2の受信レベルが高くなったと通知
  2. RNCが携帯電話端末と無線基地局2に接続するように通知する
  3. 携帯電話端末は、無線基地局1と2と同時接続の状態
  4. RNCが無線基地局1の回線を切断し、ハンドオーバーを完了

 

13 移動距離が長くてもハンドオーバーできる理由

RNCが切り替わる場合、RNC1が内部に持つ情報を使って確認し、加入者交換機1と2を経由する回線を使ってRNC2に通知することでハンドオーバーをすることができる。

 

14 変更範囲を最小限にする「アンカー・ポイント」

アンカー・ポイント(Anchor Point)とは、たとえRNCが切り替わっても通信経路として変わらず使い続ける場所のことで、錨を下ろして動かさない所という意味である。アンカー・ポイントを変えないことにより、ハンドオーバーを実現するために加入者交換機の機能を追加しなくて済む。

このほか、同じ無線基地局のセル内(セクタ間)で移動した場合のハンドオーバーもある。このように、ハンドオーバーにも種類があり、セクタ間、無線基地局セル間、RNC間の切替がある。それぞれの切替で制御が必要な範囲は、無線基地局のセル内、RNCの複数無線基地局内、複数のRNC間となる。

なお、ハンドオーバーの処理には、RNCが携帯電話端末を指定するための番号(ID)として、先に説明したTMSIよりも簡単なRNTI(Radio Network Temporary Identity)という番号を一時的に割り当てて使っている。

 

15 音声をデジタル情報に変える音声コーデックのしくみ

第四に、音声コーデックとは、アナログの音声をデジタル・データに変換する機能や装置のことである。この変換は音声の符号化(Coding)/復号化(Decoding)と呼ぶ。携帯電話では、無線電波の周波数帯域を有効に使うためにも、できるだけ低い通信速度のデジタル信号に変換する必要がある。

少ない情報量で良好に音声通信をするには、音声符号化技術は極めて重要である。第3世代携帯電話のW-CDMA方式では、音声符号化技術にAMR(Adaptive Multiple Rate)方式を用いる。これは符号化速度を変えられる方式で、具体的には4.75k〜12.2kbpsまでの8段階で速度を変えられる。固定電話で利用するPCM(Pulse Code Modulation)方式のコーデックが64kbpsで固定であるのと比べ、低速な上に速度が可変である。

AMR方式の符号化アルゴリズムとしては、CELP(Code Excited Linear Prediction)と呼ぶアルゴリズムを使っている。CELPは米AT&T社が開発したアルゴリズムで、CELPの応用技術VSELP(Vector Sum Excited Linear Prediction)は第2世代の米国方式や日本のPDC方式でも使用されてきた。

CELPの原理は、音声データをブロックに分割した後、特徴を抽出して音量や波形を分類する。符号化装置は様々な波形を記録した辞書を持っており、送信しようとする波形に最も似た波形のパターン(番号)を波形情報の代わりに相手に伝送する。音声品質の良さはこの辞書の良さにかかっているのである。

音声コーデックのビットレート(通信速度)は、同じ携帯電話事業者のユーザー同士の通話であれば、低ビットレート情報のまま相手の携帯電話端末まで届く。しかし、固定電話や異なる携帯電話事業者のユーザーと通話する際は、無線部分は低ビットレート、コア・ネットワークは64kbpsに変換する。

なお、64kbps PCM音声信号とは、音声をデジタル符号化する場合の最も基本的な形式である。アナログ音声の波形を8kHz周期で(125マイクロ秒ごとに)サンプリング(量子化)し、各サンプル値を8ビットに符号化(256レベルに分類)することで8kHz×8ビット=64kbpsの情報を作成する。

 

16 音声を伝送する回線交換チャネル

第五に、回線交換は携帯電話の音声を伝送する方式で、一定の伝送速度を持つ通信に使う交換方式である。ユーザーごとに情報を通す通信経路(パス)を作るため、音声やビデオのようにリアルタイム性(実時間性)が必要な通信に向いている。これに対し、パケット交換は情報をパケット(小包)と呼ばれる単位で包み、一つひとつのパケットごとに伝送する交換方式である。データ通信サービスに向いている。

交換機の役目は、通信情報、制御情報を必要に応じて様々な宛先に振り分ける(交換する)ことである。複数の交換機が宛先を見ながら通信経路(パス)を確保して接続し、その上に先程述べた64kbpsのPCM信号にした音声情報を流す。交換機の種類には、加入者交換機、中継交換機、関門交換機などがある。交換機の階層構成は、複数の階層構造にした方が、交換機同士を結ぶ伝送路の数を少なくできる。

なお、これらの交換機間では、以前は統一的に光ファイバー上でATM(Asynchronous Transfer Mode、非同期転送モード)という伝送方式で送っていた。現在はデータ通信などパケット交換型のトラフィックが増えたため、データ通信は携帯電話網状に作った専用のIP(Internet Protocol)網を使って伝送している。

 

17 共通線信号で制御情報をやりとりする

第六に、共通線信号とは、これまでに述べてきたような交換機間でやりとりされる信号のことである。共通線信号方式は1本の共通回線で、すべての制御信号をパケット多重して伝送するものである。以前の電話網は、まず始めに通話用のパスを作ってからそのパス自身を使っていろいろな制御信号をやりとりする個別線信号方式という方法を使っていた。これに対して、サービスの融通性、拡張性を確保するために開発されたのが、共通線信号方式である。

以前から固定電話網では、国際標準になっているNo.7共通線信号方式(Signaling System No.7)と呼ぶ規格を使ってきたため、携帯電話網でも同じ信号方式を使っている。また、第3世代携帯電話網の信号網の構成は、音声とデータの両方の交換機が共通線信号網に接続してあり、各種の制御信号をやりとりしている。

 

最後に

音声通信における無線基地局を結ぶコア・ネットワークのしくみについてまとめた。

コア・ネットワークの基本構成は、携帯電話端末、無線基地局、移動通信制御局、中継交換機、(着信側の)移動通信制御局、無線基地局、携帯電話端末の6つである。携帯電話端末間の発信着信動作の流れは、無線パスの設定、位置登録エリアの確認、接続、切断という4つの過程を経る。これらの過程では、位置登録、ローミング番号を使った着信、一斉呼出し(ページング)といった重要な手続きが行われている。このような複雑な処理は、移動通信制御局、ホームメモリー、ハンドオーバー、音声コーデック、回線交換チャネル、共通線信号といったしくみによって実行されている。

次回は、電波で高速にデータを送るといったデータ通信における無線部分の工夫について解説する。

携帯電話はなぜつながるのか 第2版 知っておきたいモバイル音声&データ通信の基礎知識


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