「必要なのはひらめきと、ビジョンと、決断力だけ。ただ良いだけでは足りないのです」Utkoは語りかける。ここでは、70万ビューを超える Jacek Utko のTED講演を訳し、デザインは新聞を救えるという多くの事例を明らかにする。
要約
ジャチェック・ウツコは、東ヨーロッパの新聞をリデザインすることで数多くの賞を受賞するだけでなく、購読数を100%まで回復させたポーランドの新聞デザイナーです。良いデザインは新聞を救うことができるのでしょうか?できるのかもしれません。
Could good design save the newspaper — at least for now? Jacek Utko thinks so — and his lively, engaging designs for European papers prove that it works.
1 新聞を救う術はあるのか?
新聞は今にも絶えそうです。読者は古い情報にお金を払いたがらず、広告主もそれに従っています。それよりも携帯電話やパソコンの方が 新聞の日曜版よりよっぽど手軽です。さらに森林も保存しなくてはならない。これではどんな産業もダメになってしまうでしょう。ですので「新聞を救う術はあるのか?」と質問を変えるべきです。
2 新聞の将来についてのいくつかのシナリオ
新聞の将来についていくつかのシナリオが考えられます。ある人は「無料であるべきだ」と言ったり 「タブロイド版かもっと小さいA4サイズがいい」 「コミュニティごとに発行する地方紙がよい」 「小さなビジネスなどニッチを狙うべき」 しかし無料にならずとても高くなってしまう。「新聞は意見主体であるべきだ」 「ニュースは少なく、見解を多く」 「できれば朝食の時に読みたい」 「後の時間は通勤の車の中でラジオを聞くし」 「会社ではメールチェック、夜はテレビ」 良さそうに聞こえますが、どれも時間稼ぎにしかなりません。長い目で見たら 新聞が生き残るべき実際的な 意味はないと思うからです。
3 「デザインするものなんてないじゃない。つまらない活字だけ」
そこで私達に何ができるのでしょう? (笑) 私はこうしました。20年前、ボニーエというスウェーデンの出版社が 旧ソ連圏で新聞を始めました。数年後には中央と東ヨーロッパに複数の新聞を発行するようになった。それらは経験の浅いスタッフにより運営され レイアウトなど見た目を重んじる文化がなく、かける予算もありません。多くの新聞にはアートディレクターすら居ませんでした。私は新聞のアートディレクターになろうと決めました。それ以前私は建築家で、祖母に一度聞かれたことがあります。お前は何で生計を立てているの? 私は「新聞のデザインをしているんだ」と答えました。「デザインするものなんてないじゃない。つまらない活字だけ」(笑) 彼女は正しかった。私はフラストレーションを貯めていました。
4 シルク・ド・ソレイユのショーを見て発見した
ある日ロンドンに来てシルク・ド・ソレイユのショーを見た時 大発見をしたのです。「こいつらは、気味の悪い」 「しけた”興行”というものを」 「考えられる限り最高の”パフォーマンスアート”に仕立てあげた」 だから「つまらない新聞でも同じ事ができるかもしれない!」と思ったのです。そしてその通りにしました。1つ1つデザインし直したのです。1面が我々の特徴となりました。私が読者と近い距離で対話するための私的なチャンネルでした。
5 私は新聞ではなく、ポスターが作りたかった
ここでチームワークや恊働について話すつもりはありません。私のやり方はとても利己的でした。私はアーティストとして主張がしたかった。私なりの現実の解釈をしたかった。私は新聞ではなく、ポスターが作りたかった。雑誌ですらない、ポスター。我々は文字の見せ方で実験していました。イラストや写真でも。とても楽しかった。それらはすぐに結果をもたらし始めました。ポーランドでは我々の作品は 「カバー・オブ・ザ・イヤー」に3年連続選ばれました。ここにある他の例は ラトビア、リトアニア、エストニア、 中央ヨーロッパの国々からのものです。
6 デザインは読者の体験に責任を持っている
でもそれは1面だけのことではありませんでした。我々の秘密は、新聞全体を ひとつの作品として扱っていた事。まるで楽曲のように 音楽にはリズムや起伏があります。デザインはこれを読者に体感させる責任があるのです。ページをめくりながら読者は様々なことを感じる。私はその体験に責任を持っているんです。我々は見開き2ページを1つのページと捉えました。読者がそのように捉えるからです。
7 1年も経たないうちに世界一素晴らしいデザインの新聞と謳われた
このロシア語の新聞のページは スペイン最大の情報グラフィックス大会で多数受賞しましたが 1番の賞はニュースデザイン協会からのものです。ポーランドでこの新聞をデザインし直して1年も経たないうちに 世界一素晴らしいデザインの新聞と謳われたのです。そして2年後には エストニアの新聞も同じ賞をいただきました。すごくないですか?
8 新聞の購読数がどんどん増えていった
もっとすごいのは、これらの新聞の購読数が どんどん増えていったのです。いくつか例を出すと ロシアでは1年後に11%増、リデザイン3年後には29%増。ポーランドも同様、最初の1年で13%増、3年後には購読数35%増。このグラフで見てお分かりの通り 何年もの停滞期のあと、リデザインするや否や 新聞は成長し始めました。でも1番のヒットはブルガリアでした。これはとてもすごかった。
9 建築における機能と形式の鉄則を、新聞の内容とデザインに応用した
デザインがこれを成し遂げたのでしょうか? デザインはプロセスの一環に過ぎません。我々のとったプロセスは外見を変えるだけではなかった。商品を完全に改良することでした。私は建築における機能と形式の鉄則を 新聞の内容とデザインに応用したのです。その上に戦略をのせました。まず最初に大事なことを考えます。何のためにやるのか?目標はどこにあるのか? そこから内容を調整していきます。その後、大抵2か月後くらいにデザインを始めます。私の上司らは初めはとても驚いていました。ただ原稿を見せるだけでなく、なぜこんな ビジネスみたいな質問をしてくるのだ、と。 でもじきにこれがデザイナーという新たな役割だと気付きました。プロセスの最初から最後まで関わることです。
10 必要なのはひらめきと、ビジョンと、決断力だけ
ここから得られる教訓とはなんでしょう? 最初の教訓は、デザインは商品を変えるだけではなく ワークフローも変えることができる、というより会社の全てを変えてしまえる。会社をひっくりかえすことができる。あなた自身をも変えてしまえる。誰のせいかって?デザイナーです。デザイナーに権限を与えてください (喝采) でも2つ目の教訓の方がより重要です。皆さんも私のように貧しい国に住み 小さな会社のつまらない部署で 働きながら 予算も人材も何も無いところで それでも自分の仕事を最高のレベルに持っていくことができます。誰でもできることです。必要なのはひらめきと、ビジョンと、決断力だけです。そして、ただ「良い」だけでは足りないと 覚えておくことです。ありがとうございました。
最後に
ただ「良い」だけでは足りない。必要なのは、デザインの力。
和訳してくださった Miwa Nakamura 氏、レビューしてくださった Hiroaki Yamane 氏に感謝する(2009年3月)。
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