前回は、TPP、ユーロ危機、QE3、中国バブル 世界経済の真相についてまとめた。ここでは、財政赤字、国債暴落、復興増税、産業政策、格付け 国家財政の真相について解説する。
10 日本の資産は世界一。実質の借金は350兆円
借金は「世界一」資産も「世界一」
日本には1000兆円もの借金があるが、650兆円もの資産もある。つまり、実質の借金は350兆円であり、対GDP比で見た場合、世界的に突出して高いわけでもない。しかも、政府は「徴税権」という資産を簿外に持っている。 英国では、債務超過額がGDPの2.5倍にもなったことがあるが、破綻していない。その場合、簿外の徴税権はGDPの2倍ほどあったのだろう。
資産の多さは財務省にとって「不都合な真実」
財務省が資産を減らしたくない理由は、自らの天下り先を失うことになるからである。特殊法人や独立行政法人を解体すれば出資金や貸付金が戻るが、そこに天下りができなくなる。だから借金ばかりを強調するのである。
借金ばかりが強調されるのにはウラがある
借金について話すなら同時に資産の話をしないのはフェアではない。住宅ローンには家という資産がある、と自らに引きつけて考えればわかりやすいだろう。
11 CDSを見れば国債暴落の可能性がわかる
破綻するかどうかは数字を見ればわかる
日本国債がデフォルト(債務不履行)するかどうかは、数字で説明できる。生命保険にたとえれば、死ぬ確率の高い人(高齢者、危険な仕事など)のほうが保険料が高くなる。同様に、デフォルトする危険性も数字で表すことができる。
CDSを見れば、日本国債の信用の高さがわかる
CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)という金融派生商品を見れば、日本国債の信用の高さがわかる。CDSとは、債券を持っている人が一定の契約料(保険料)を払うことで、債務不履行のリスクをカバーする役割を持つ商品である。日本国債の保険料率は0.7%程度と、かなりの低水準である(2013年8月末現在)。つまり、日本国債のデフォルトは140年に1度あるかどうかの確率と見られているのだ。
将来的に10%程度の価格下落は十分あり得る
現在は超低金利であり、歴史的に考えれば金利はいつか上がる。1%程度の上昇は十分あり得ることで、国債価格が10%程度下がることは特別なことではない。先を考えれば貸付部門を強化しておけばいいだけのことである。
12 復興財源には100年国債を発行せよ
震災の2日後には増税の議論
政府は東日本大震災の被害額を16〜25兆円と試算している。回復には数年かかることが予測され、初年度のGDPが0.5%低下するとされている。そんな中、菅元総理と谷垣禎一自民党総裁は、震災のわずか2日後に震災増税についての最初の話し合いを行っている。所得税は25年間2.1%上乗せされ、住民税は10年間1000円/年上乗せされる。企業に対しても「復興特別法人税」として実行税率を5%下げた上で、2012年4月から3年間、税率を2.4%上乗せされる。
100年に1度の損害なら、100年間かけて負担すればいい
「課税の平準化」という理論から考えれば、100年に1度の損害ならば、100年間でその負担を平準化するものである。つまり、100年国債を発行して、100年に負担を分けて償還すればよいのだ。
増税によって復興スピードが遅くなる
増税は復興スピードを遅くする。被災していない地域が活発な経済活動で被災地を支援する必要があるが、それを妨げるからだ。
復興プランは現場に任せ、国は財政面の支援に集中せよ
復興資金を出し惜しみしてはならない。復旧・復興のためのインフラ整備は便益が大きく、ほとんどの場合で得られる便益が費用を上回るからである。その意味で、災害復旧では復興プランは現場に任せ、国は財政面の支援に集中すればよい。
13 日銀による国債引き受けは毎年行われている
100年国債を日銀に買わせれば、すべてうまくいく
100年国債(復興債)を日銀が引き受ければ、すべてうまくいく。日銀がお金を刷ると、世の中に出回るお金の量が増える。お金が増えると経済活動が活発になって被災地には好影響がある。さらに、日銀引き受けでは、国が日銀に支払った利息は、政府への国庫納付金として日銀から国に戻ってくるのである。
毎年行われていることを「禁じ手」と言う不思議
日銀引き受けは「禁じ手」ではなく、毎年行われている。予算書にも記載されており、2011(平成23)年度は12兆円、2012(平成24)年度は17兆円となっている。
「禁じ手」という嘘で、あくまで増税をもくろむ
「禁じ手」という嘘をついたり引き受けの枠を隠す理由は、増税ができなくなるからである。禁じ手といった言葉で相手を黙らせ、問題になったら「聞かれていない」「全部説明する義務はない」などとごまかすのである。
14 成功した「産業政策」は存在しない
官僚が「成長産業」を見極められるだろうか?
「これからはこの産業が伸びる」と断言する官僚がいたら「なぜ官僚を辞めてその業界に行かないのか」と聞いてみたらいい。過去に石油産業、航空機産業、繊維産業などの振興に失敗していることをふまえ、政府はもっと謙虚になった方がいい。産業政策よりも「円を安くしてGDPを増やす」という方法のほうが効果的である。円を安くすると、伸びる産業は勝手に海外進出していくからだ。
「官僚が高成長を支えた」というのはフィクションである
就職・転職の際には、政府が振興しようという産業は避けた方がいい。城山三郎氏の作品の『官僚たちの夏』や『男子の本懐』は読み物としてはおもしろいが、決して真実ではない。産業政策で日本が成長したというのは、官僚が自分たちを持ち上げたいがために言っている話にすぎないのだ。
国の産業振興は天下りの温床をつくるだけ
国の産業振興は天下りの温床をつくるだけである。経済成長に効果が期待できる政策は競争政策や規制緩和であり、知的所有権などの法整備である。
15 格下げは増税の道具
「存在しない国債が格付される」不思議
格付けとは、債券やその発行体について、利息や元本の支払が約束どおりに行われる可能性(信用性)を記号で表したものである。しかし、1つの会社が行う格付けよりも、多数の市場参加者の間でお金の支払が行われて取引されているCDSのほうが、今ではまともである。過去には資金調達が不要で国債発行を見送ったときにも格付けが世界に配信されたことがあった。しかもそのときの釈明のやりとりで、予算書を読まずに財務分析しているというあり得ない回答もあった。
「格付け」より「CDS」のほうが客観性が高い
格付けを信用し、格付けが下がったことをことさらに言い立てる人は、日本の財政状況が悪いと言いたいだけである。2011年1月の格下げの後、当時の経済財政担当大臣の与謝野馨氏は「(消費増税を)早くやれという催促だ」とコメントしている。まさに増税したいがために格下げを利用している典型例である。
また、2008年に起きた金融危機は、サブプライムローン関連の債券を証券化した金融商品に最上級の「AAA」という格付けがついており、それがわずか数日で投資不適格というレベルまで格下げされることが発端である。ここからも、格付会社の意見が当てにならないことは明らかである。
企業は格付け会社にお金を払っている
企業は格付け会社にお金を払っており、その意味で信頼性が高いとはいえない。企業が発行する債券(社債)にもCDSの市場があるので、そのレートを見た方がいいだろう。震災後、東京電力の格付けは多少下がっているが、大きくは変化していない。一方、CDSは政府がサポートすることになるとレートが下がり、政府がサポートしないとなると上昇するなど敏感に変化しているのだ。
最後に
借金の裏には資産があることを想像しよう。CDSを見れば国債暴落の可能性がわかる。復興増税は愚策であり、復興国債の発行がふさわしい。国の産業政策は天下りの温床をつくるだけ。格付けよりもCDSのほうが客観性が高い。就職・転職の際は、政府が振興する産業は避けよう。
次回は、年金、税制、雇用、空洞化、格差 社会保障の真相についてまとめる。
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