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アンバー・ケイス 「誰もがすでにサイボーグ」

「新しい環境に適応するため、外から部品を加えた生命体」じゃあみんなサイボーグじゃない?ケイスは明るく語りかける。ここでは、60万ビューを超えるAmber CaseのTED講演を和訳し、サイボーグ人類学を研究する意義について理解する。

要約

テクノロジーにより、我々は画面を見ながらボタンをクリックする新たな人類へと進化しているとアンバー・ケイスは語ります。コミュニケーションをしたり、記憶、または第2の人生をおくる為に「外部電脳」(携帯電話やコンピューター)に頼る様になりましたが、これらマシーンは我々を接続したり、支配するのでしょうか?サイボーグとなった我々自身の驚くべき本質がケイスにより提示されます。

Amber Case studies the symbiotic interactions between humans and machines — and considers how our values and culture are being shaped by living lives increasingly mediated by high technology.

 

1 サイボーグの定義

私達は皆サイボーグだと、ここにいる皆さんにお知らせします。皆さんが考える様なサイボーグ – ロボコップでもターミネーターでもありません。コンピューターの画面を見たり、携帯電話を使用する時にサイボーグとなります。サイボーグの定義とは何でしょうか?よくある定義では、「新しい環境に 適応するため、外から部品を加えた 生命体」となり、 1960年の宇宙旅行に関する論文から生まれました。宇宙空間とはかなり変わった場所で、そこで人間は生きていけないからです。しかし人間の興味が尽きることは無く、身体にモノを付け足すことで ある日アルプスに登り、 次の日には海の魚になるのです。

 

2 突如として新種が発見された

伝統的な人類学を考えてみましょう。誰かが見知らぬ国に行き、 「ここの人々の魅力的なこと、使う道具の面白いこと、 文化の興味深いこと」と言うのです。その後論文を書き、他の何人かの人類学者により読まれ、異文化に思いを馳せるのです。さて、今何が起きているでしょう。突如として新種が発見されたのです。サイボーグ人類学者である私が突然、「ワォ。いつの間にか人類は新しい種族になっている。なんて興味深い文化なの。この面白い儀式は一体何? 皆がテクノロジーを使って何かをしている。クリックしながら画面をじっと見ている」と言うのです

 

3 物理的でなく精神的な限界を乗り越えるものになった

従来の人類学とは違うこの領域を 私が研究しているのには理由があります。理由というのは、 道具が発明されてから何千年もの間、 道具自身が常に物理的に改良されてきたということです。道具により物理的な限界を乗り越え、より速く、強く打つというもので、 常に限界がありました。しかし今日我々の目の前にあるのは物理的な限界を乗り越える代わりに、精神的な限界を乗り越えるというものです。だからこそ我々はより速く移動することができ、効率的なコミュニケーションを取る事ができるのです。その他にも、我々が常に 持ち歩いている魔法の鞄テクノロジーがあります。入れておきたいものは何でも入れて、それで重くなる事も無く、 何でも取り出す事ができます。コンピューターの中身はどうなっているのか? 全てを印刷したとすると、数トン分もの物質を 常に持ち歩いている事になります。そしてその情報を失ってしまうと 突然何か失ってしまった様に感じるのです。まるで何かが足りない様な感覚ですが、 それを見る事はできず、とても奇妙な感覚です。

 

4 2つの青年期を経験しなければならない

他にも起こっていることに、自分自身の化身があります。好むかどうかに関わらず、それはオンラインに現れており、あなたがそこにいない時、他の人はあなたの化身とやり取りをしているのです。そのため Facebook にある近況の様な あなたの正面玄関を開けっ放しにしておかない様注意しなければなりません。真夜中に訪問を受けたくないのと同様、掲示板に書かれたくもありませんから。そして突然、化身の保守もしなければならなくなりました。アナログの生活と同様に、デジタルの生活でも自分自身を見せなければなりません。起きて、シャワーを浴び、着替えるのと同じ事を デジタルの化身にもさせなければなりません。多くの人、特に未成年は 2つの青年期を 経験しなければなりません。それだけでも厄介な従来通りの青年期を通過するとともに、化身自身の青年期も通過しなければならないのです。オンラインでの行動は 記録されており、通過は 更に厄介なものとなります。テクノロジーを使い始めた人たちは皆、まだオンラインにて未成年なのです。非常に厄介で、このようなことを行うのはとても大変です。

 

5 「時間と空間を曲げればいいのさ」

私がまだ小さかった頃、父は私を座らせて言ったものです 「未来の時間と空間について教えてあげよう」。私は「素敵!」と答えます。ある日父は「2つの点を結ぶ最短距離は?」と尋ねるので 「直線でしょう。昨日言ってたじゃない 凄い考えだと思ったのよ」と言うと、「いやいやいや、他にもっと良い方法があるんだ」と言い、1枚の紙を取り出して AとBの2つを紙に書くと、その2点が接する様に紙を折り曲げたのです。「これが2点の最短距離なのさ」と父は言うと 「えぇー。それってそんなことするの?」と私が言うと 「うん、時間と空間を曲げれば良いのさ。とてつもないエネルギーを 使わないとできないけど」。「それ、やりたい」と私が言うと 「まぁ、やってごらん」と言われました。それから10〜20年間、眠ろうとする時には、「ワームホールを作る最初の人間になって、 もっと色々なものをより速くしたい。それからタイムマシーンも作りたい」と考えていました。未来の自分に向かって テープで録音したメッセージを送ったりしていました。

 

6 テクノロジーは皆が使うから広まる

しかし大学に入り、テクノロジーは 機能するだけでは広まらないと 気がつきました。皆が使うから広まる 人間のためのものです。それで人類学を勉強する様になり 携帯電話に関する論文を書いている時に、 皆がワームホールを持ち歩いていることに気がつきました。自分自身を物理的に移動させるのではなく、精神的に移動させるのです。ボタンをクリックすると、 たちどころに A から B へ繋がります。「これは凄い事を発見した」と思いました。

 

7 時間と空間は圧縮されてきた

つまり、だんだんと 時間と空間は圧縮されてきたのです。世界のあるところでささやいた事を 他の場所にいる人が聞いたりするのです。また、使っているデバイスごとに 別々の時間軸が現れるようになります。ブラウザーのタブごとに違う時間軸にいるのです。そこで外部記憶を掘り返して どこまで来ていたか調べることになります。今やポケットに持ち歩く外部の脳から 古生物学者のように 失われた過去を掘り出すのです。パニックも引き起こす事もあります。あれってどこにあったっけ? 「アイ・ラブ・ルーシー」に出てくる様な情報のベルトコンベアで、 とても追いつく事はできません。

 

8 周囲との距離にも変化が起こった

その結果として、公の場にまでそのようなものを持ち込み、携帯電話を常にチェックしてしまうのです。周囲との距離にも変化が起こりました。皆と常に繋がっているという訳ではないのだけれど、望む時にはいつでも好きな人に繋がる事ができる。携帯電話の連絡先全てを印刷してみると、 部屋はそうとう狭くなってしまうでしょう。今すぐアクセスすることのできる全ての人たちで、言い方を変えると 繋がる事ができる家族や友人の全てということになります。

 

9 外部からの入力がないときに自己が確立される

それには心理的な効果がいくつかあり、心配していることもあります。人々はもう深く考える事をせず、 立ち止まる事もスピードを緩めることもせず、 知り合いが皆いつも同じ部屋にいて 皆の関心を集め 同じ時間を共有しようとすると 古代生物学とパニック構造になります。黙ってそこに居るのではありません。外部からの入力が無い時にこそ、自己が確立され、長期的な 計画を立てる事ができ、自分が一体何者であるのか知る事ができるのです。それを済ませた後で、第2の自分も 表現することができる様になるのです。入ってくるもの全てに対して反応して、あれもこれもしなければ、というのではないのです。これは非常に重要なことで、 あらゆるものが入ってくるなか、 特に常に接続状態になる最近の子どもたちが心配になります。即座にボタンをクリックするという エキサイティングで中毒性のある文化で育った 彼らにそれを正しく扱う事はできないでしょう。

 

10 つながりはとても有機的なもの

しかしそれは世界の終わりではありません。世界そのものも人工デバイスを持っており 我々がやり取りを行う為の 助けとなっているのです。しかし実際それを可視化してみると、我々が持っているつながりというのは、 — これはインターネットのマッピングイメージですが — 人工的なものではなく、とても有機的なものなのです。我々がこのような形で互いと結びつくのは、人類史上初めてのことです。マシンが支配するというのではなく、 他の人と繋がりやすくすることで、我々をより人間らしくしているのです。

 

11 互いに結びつく力は場所を超える

最も優秀な技術が、密かに 豊かな人生を支えるのです。そして、それは テクノロジーというより人間らしくなるのです。一緒になって造りあげていくからです。私のしている研究で重要なのは、 素敵なものごとは やはり人のつながりで – ただ別の方法で結びついているのです。私たちの人間性が豊かになり お互いに結びつく力は場所を超えるようになります。なのでサイボーグ人類学を研究しているのですありがとう。

 

最後に

「アナログとデジタルの2つの青年期を経験しなければならない」という考え方は新鮮に感じた。使いこなせば可能性は2倍だね

和訳してくださった Akira KAKINOHANA 氏、レビューしてくださった Natsuhiko Mizutani 氏に感謝する(2011年1月)。

サイボーグ009 完結編 2012 009 conclusion GOD’S WAR I first (角川文庫)


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