前回は、金融業は「お金という商品」をレンタルする商売 資金調達の基礎知識についてまとめた。ここでは、借金はお金で時間を買う行為 クレジットカードから闇金融までについて解説する。
13 賢い資金調達
資産運用に借金を活用する
資産運用に借金(資金調達)を活用するというレバレッジ(てこ)を効かせることで、富の蓄積を加速させることができる。例えば、株の信用取引や商品先物取引(10倍が基準)、株価指数先物・オプション取引、外貨証拠金取引などがある。住宅ローンを組んでの不動産投資(マイホーム購入)では、通常5倍程度のレバレッジ(頭金2割)をかけて投資を行う。
不動産を現金に変える資金調達
また、資金調達は固定資産(不動産)を流動化させることもできる。日本人の多くは資産を不動産として保有しているので、「資産家」と呼ばれる人でも現金(金融資産)はあまり保有していない。
反対に、アメリカ社会では子どもに家を残す習慣がなく、不動産は人生を謳歌するための資金調達の道具と考えられている。まず、不動産を保有すると、ローンを返済するよりもそれを担保に金融機関からできるだけ多くの借金をしようと考える。そして、借金したお金で世界中を旅行するなどで老後を楽しみ、自分たち(夫婦)が死んだら不動産を金融機関に渡して借金を清算してもらうのである。
アメリカにはこうした事情があるため、できるだけ多く借金しようとする傾向がある。その結果、サブプライムローン問題などが発生し、金利の上昇で返済不能になってしまう可能性もあるのである。
金利が安いのがよい借金
金利が安いのがよい借金、これが資金調達の法則である。モノやお金の貸借によって、貸し手は「債権」という権利を持ち、借り手は「債務」という義務を負うことになる。しかし、債権や債務は社会的(法的)な約束事なため、所有権(物権)よりもずっと弱い権利である。これが、貸し手は借り主の信用を調査をするが、借り手が貸し主に興味を持たない理由である。
以下に、個人が簡単にできる資金調達をコストの安い順に13個挙げ、具体的に説明する。【 】はジャンル・用途。%は2013年5月現在の目安。
- クレジットカード(一括払い):-0.5%【無担保】
- 先物・オプション取引:0%【投資】
- 銀行預金自動借入(定期預金担保):0.5%【担保】
- 株式信用取引:2.5%【投資】
- 住宅ローン(変動金利):2.5%【担保】
- 住宅ローン(固定金利):3.5%【担保】
- 証券担保金融(国債担保):3.8%【担保】
- オートローン:2〜6%【担保】
- 教育ローン:4〜8%【担保】
- クレジットカード(リボ・分割払い):5〜18%【無担保】
- クレジットカード(キャッシング):5〜18%【無担保】
- 消費者金融:5〜20%【無担保】
- 闇金融:無制限
クレジットカード一括払いはマイナス金利
クレジットカード一括払いがマイナス金利になる理由は、店側がクレジットカード会社に金利分を含めた手数料を支払っているからである。一般に、店側がクレジットカード会社に支払う手数料は3%程度なため、10万円の買い物をカードで支払うと、店には9万7000円、カード会社には3000円が入ることになる。多くのクレジットカード会社はこの手数料(3000円)の一部を利用者にポイントとして還元しており、実質値引きされた金額で買い物をすることができるのだ。
デリバティブと信用取引
先物(将来の株式・商品・外貨など)の価格は、市場に集まる投資家の思惑によって決まる部分が非常に大きいため、証拠金以外の借入分は実質ゼロ金利と考えてよい。資金調達の視点から見ると、先物取引は圧倒的にコストが安いため、プロのトレーダーたちは金融先物や商品先物市場でプレイしている。
信用取引とは
信用取引とは、現金や有価証券を担保に、証券会社が最大3.3倍(委託証拠金率30%)まで株式購入資金を融資してくれる制度である。例えば、100万円の証拠金で最大330万円の株式を購入できるため、証券会社が230万円のお金を貸してくれるのと同じである。
ただし、信用取引では証拠金には利息がつかないが、株式購入代金全体に金利がかかるため、年2.5%のレバレッジを最大までかけた場合、実質金利は3.57%まで上がる。証拠金を株式や債券で代用したり、購入した株式からの配当で相殺することもできるが、値下がりが続くと損失がふくれあがるため注意が必要である。
住宅ローンと不動産担保融資
クレジットカード一括払いを除けば、一般的に資金調達は担保があるほど有利になる。代表的な有担保融資には、①不動産担保融資、②証券担保融資、③自動車担保融資などがあり、後ろに行くほど金利が高くなる傾向がある。
また、資金調達(借金)の目的が担保そのものを購入するためか、担保以外の用途に使うためかで金利が異なる。その典型が不動産担保融資で、マイホームを買うために住宅ローンを組むのか、すでに返済の終わった不動産などを担保にお金を借りるのかで、金融機関の扱いが全く異なる。その理由は、債務者の返済に対するモチベーションが違うと考えられているからである。
前者の場合、購入者はマイホームを所有したいという欲求が高いため、ローンの返済を優先すると考えられる。一方後者の場合、もともと不動産への執着があまりないため、返済に困ると家を手放してしまう可能性が高い。
金融機関としても、担保価値が融資額に満たなくなるというリスクや、担保を競売にかける際のコストをかけたくないため、借り手が返済を続けてくれる可能性の高い前者の金利を優遇するのである。
さらに、日本の住宅ローンのほとんどがリコースローンである。リコースローン(遡及型融資)とは、返済が滞り担保を提供しても債務が返済できない場合、担保以外の個人資産まで債務を遡及させて支払う義務を負うローンである。このローンのため、3.11の東日本大震災の津波によって家が流された人でも、住宅ローンはなくなっていないということが起きたの(日本人の人生で大切な事参照)。
反対に、アメリカの住宅ローンはノンリコースローンである。ノンリコースローン(非遡及型融資)とは、債務は担保以外に遡及せず、担保を金融機関に提供すれば債務は全て無くなり、他の個人資産にまで遡及しないものである。物件の価格下落リスクは金融機関が負うため、その保険が掛かっている分ノンリコースローンの方が金利が高くなる。
日本においてノンリコースローンが普及しない理由は、資産価値の目減りが早い点と、モラルハザード(借金の踏み倒しの増加)への懸念である。
日本にモーゲージローンを
モーゲージローンとは、不動産を担保にした融資のことで、ローンの支払いを保証するために不動産の抵当権(債権が回収できなくなったら競売に出せる権利)を設定するものである。日本では、ファーストモーゲージ(持ち家購入のための住宅ローン)が優遇される一方で、セカンドモーゲージ(不動産を担保とした住宅ローン)は全く見向きもされていない。
しかし、高齢化が進むにつれて、日本でもセカンドモーゲージが重要になってくるだろう。不動産以外に資産のない人たちは、老後の生活に十分な金銭的余裕を得るために自宅を売却するか、自宅を担保に資金調達するほかないからである。
また、持ち家を担保に年金形式で資金を貸し付け、本人が死亡した時点で抵当権を行使し、不動産を売却する「リバースモーゲージ」が信託銀行などを中心に開発されている。これはいわば、保険料を持ち家で「物納」してもらう個人年金保険である。
リバースモーゲージは、三井住友信託銀行や東京スター銀行などが取り扱っており、東京スター銀行では2500件(2005年9月からの累計)実行している。2013年7月にはみずほ銀行が参入することが決まった。ただし、担保物権の値下がりリスクは誰がどこまで負うのか、契約者が長生きしたときのリスクを誰が負うのかなどの問題もある。東京都武蔵野市は「利用者が少ないため廃止」の方針ではあるが、自治体と金融機関の協働で「長生きリスクの解消」に一役を担えそうである。
証券金融で証券担保融資
証券担保融資とは、株式や債券などの有価証券を担保にした資金調達である。2013年5月現在、日本証券金融株式会社の個人融資金利は3.80%、法人融資金利は市中金利ベースでの相談となっている。融資金額は国債が時価の95%、その他金融債などが85%、株式が65%以内である。例えば、個人が時価100万円分の国債を日証金に持っていくと、最大95万円、時価100万円分の上場株式なら最大65万円を年利3.80%で貸してくれるのである。
オートローン
オートローン(自動車担保融資)とは、車を担保にした資金調達で、要は車を買うときの分割払いである。2013年5月現在、年利2〜6%に設定されている。
オートローンは銀行やディーラー(販売店)で扱っているが、そのほとんどが信販会社やクレジットカード会社に丸投げされている。例えば、年利4.5%のオートローンだと「銀行の融資金利2.5%+信販会社の保証料2%」などとなっている。銀行から見れば、信販会社に年利2.5%で融資して顧客の審査や回収を任せており、信販会社から見れば銀行に2.5%を支払って資金調達と顧客開拓を代行してもらっているのである。
担保としての定期預金と生命保険
定期預金を担保にした銀行預金自動借入でも0.5%程度の低金利で資金調達ができる。これだけ低金利である理由は定期預金が銀行にあるからで、0.5%というのはわざわざ銀行の窓口に行って解約する手間を省くための手数料と考えられる。
また、生命保険の契約者貸付でも保険の積立配当金や解約返戻金を担保に、融資を受けることができる。金利はだいたい予定利率+0.5%程度という設定になっている。
無担保融資の世界
一般的に、担保をつけない無担保融資の場合は担保をつけた場合よりも金利が高くなる。無担保融資において最も金利が低いのが教育ローン(日本政策金融公庫だと2.25%)で、最も金利が高いのが消費者金融などのフリーローン(出資法上限の20%まで)である。
こうした教育ローンと消費者金融の中間には、以下の3つのような無担保ローンが存在する。
- 資金の使い道がはっきりしているローン:旅行、結婚、技術・資格など
- 信用力が高い人向けのフリーローン:審査が厳しくなる代わりに年利7〜10%で融資してもらえる。例えばオリックスVIPローンカードの年利4.8〜11.8%など
- 買い物や飲食の支払いのためのローン:リボ払い(年利15%程度)
14 日本国から借りて、税金を返してもらう
国営金融機関が有利な理由
政府系金融機関は、郵便貯金や簡易保険で集めたお金を原資に、利益を度外視して商売する金融機関である。その多くは官僚の天下り先であり、それを確保するために破格の金利条件がとられていることが多い。例えば、住宅金融支援機構では、マイホームを買うときに35年までの超長期ローンを金利2.01%(ゆうちょ銀行の場合)で貸してくれる。
「国の教育ローン」とは
「国の教育ローン」である日本政策金融公庫では、年利2.25%(母子家庭や世帯年収200万円以内だと1.85%)で子ども1人あたり300万円まで教育貸付を行ってくれる。民間の無担保教育ローンの金利が年4〜8%であることを考えると、圧倒的に融資条件がよい。返済期間も最長15年で、子どもが学校を卒業するまで元金の返済を免除してくれる「措置期間」が設けられている。この措置期間を利用して、浮いたお金を投資などに回してインフレリスクを回避することもできる。
国営金融機関の審査基準
日本政策金融公庫から教育ローンを借りるには、近くの支店に行って融資申込書を提出するだけである。その際に、住所確認書類(運転免許証など)、年収証明(源泉徴収票など)、住民票や健康保険証(子どもがいる証明)、学生証(子どもが在学している証明)、高校や大学の合格通知書、入学金・授業料などの費用を証明する書類を一緒に提出する必要がある。
このように提出する書類は多いものの、審査はそれほど厳しくはない。それは「セーフティネット機能を発揮」することが政策金融機関の役割とうたっているからである。
なお、融資を受ける際には保証人が必要だが、(公財)教育資金融資保証基金に年0.5〜1.0%程度の保証料を支払えば連帯保証人を立てる必要はない。
商売を度外視した金融機関
国営金融機関以外にも、格別な金利で融資を提供しているところがある。例えば、ろうきん(労働金庫)では、「営利を目的としない金融機関」を設立理念にうたい、民間よりも常に安い金利を提供している。教育ローンは、最高1000万円まで10年固定金利だと年1.7%(+保証料)で借りることができる。保証料は0.7〜1.2%で、労働組合への加入の有無で変わる。
また、ろうきんでは不動産を担保にした使い道自由のフリーローンも扱っており、変動金利で年2.475%(+保証料0.14〜0.36%)で借りることができる。こうしたセカンドモーゲージ(不動産担保融資)はリスクが高いため、民間金融期間は年利9〜18%で融資を行っている。いかにろうきんが破格の条件であることがわかる。
さらに、東京都民銀行の教育ローンは年利3.15%で500万円まで無担保・保証人不要で借りることができ、最長10年で返済すればよい。
このように見ると「個人が優遇金利で資金調達できるのは住宅ローンだけ」というのは、俗説であることがわかる。
驚くべき法人向け融資の世界
法人向け融資の世界でも国営金融機関が大きな影響を持っている。中小企業の事業主が国から受けられる融資優遇制度には、主に以下の2つの特殊法人がある。
- 日本政策金融公庫(財務省):国民生活事業、中小企業事業、農林水産事業の3つを柱に、危機対応等円滑化業務も行う政策金融機関
- 商工組合中央金庫(経産省):地元の商工会を通じて会員事業主向けの融資を行う
例えば、日本政策金融公庫の普通貸付(特定設備資金)では「年利、20年返済、措置期間2年」という条件で最高7200万円を貸してくれるし、通常の設備資金は返済期間10年、運転資金は返済期間5年でそれぞれ最高4800万円となる。商工組合中央金庫においては、国の政策に沿って行われる特別貸付の融資限度額が7億2000万円である。
それ以外にも、「新規開業資金」「女性、若者/シニア起業家支援資金」、保証人不要の「新創業融資制度」、不況対策の「セーフティネット貸付」など、多様な制度が乱立している。
信用保証会社とは
日本政策金融公庫や商工組合中央金庫の最大のライバルが信用保証協会である。信用保証協会とは、信用保証協会法に基づき、中小企業者の金融円滑化のために設立された公的機関である。銀行の融資に保証協会(国)が保証をつけることで、業績不振で債務超過の融資先であっても新規融資が可能になるのである。
また、各自治体では信用保証を条件に「創業支援」として利子補給制度を導入しているため、さらに低い金利で資金調達を行うことができるのである。
これまで述べてきたように、日本の金融市場は国営金融機関や自治体による低金利融資によって大きく歪められている。もちろんこうした優遇措置の原資は税金である。長期的には民営化によって改善していく必要があるが、利用者としては優遇制度を活用し、支払った税金の一部を還付してもらうのが賢い方法であろう。
15 人生が破綻するとき
「期限の利益」の喪失
期限の利益とは、期限がついていることによって当事者が受ける利益のことである。例えば、100万円のお金を借りてそれを毎月2万円の分割払いで返済するという契約をしている場合、「今すぐ100万円と利息を払え」とか「担保を売り渡すぞ」と言われることがないという意味で利益を受けている。
しかし、貸し手との約束を破って借金を返済しないと、こうした「期限の利益」を喪失してしまうことになる。
マイホームは救済されるべきか
多額の住宅ローンを組んで購入したマイホームは救済されるべきか、という課題がある。結論的には無理な返済計画を立てるくらいだったら早期に競売にかけ、損切りをしたほうがよい。その理由は、日本の住宅(地価)は少子高齢化を背景に下落が続いているため、以下に挙げるゆとりローンによって返済を続けた人のほうが、苦労を強いられているからである。
ゆとりローンとは、住宅金融支援機構(旧・住宅金融公庫)の「ステップアップ・ローン」のことで、当初の5年間を格安金利にすることで若い人でもマイホームが手に入りやすくするものであった。しかし、日本経済が停滞する中で返済が滞る人が多くなり、現在ではほとんど行われていない。
破滅への道
不可抗力であれ、自業自得であれ、借金をどうにも返せなくなるということはあり得る。そうしたときには、まずは債権者(貸し手)のところに行って「もうこれ以上、返済しようがありません。資産を全部売却してできる限り返済し、それでも足りなかったら自己破産しようと思っています」と率直に話をすることである。
最悪なのが、消費者金融や闇金融など高利な借金に手を出すことで、借金で借金を返すという雪だるま式に借金が膨れ上がってしまう結果を招く。
紹介屋と整理屋
一般に、大手消費者金融では、2ヶ月の延滞で債権が支店から本社管理部に移され、さらに6ヶ月延滞が続くと貸し倒れとして損金処理してしまうという。しかし、こうした貸倒償却が終わった不良債権であっても、回収できればそれがまるまる儲けになる。そこで「切り取り屋」などと呼ばれる専門の債権回収業者に低額で売却したり、利益折半で回収を依頼したりする。こうした回収業者は、たいていの場合債務を街金などに一本化させて返済させてしまう。
ここで登場するのが紹介屋である。紹介屋とは、貸してくれるところを紹介する代わりに紹介料をもらう商売で、あちこちから借金をする多重債務者に近づいてくる。紹介された金融会社も高利であるため、当然返済に行き詰まる。そこで出てくる人が整理屋である。
整理屋とは、多重債務者の債務を一本化するなどと持ちかけ、高額の手数料を取ったり返済金を振り込ませる商売である。最近では「弁護士がついている」として電車の広告などによく出ている。たしかに貸金業法(サラ金規制法)以来、貸金業者は債務者が弁護士に債務整理を依頼した時点で本人とは一切接触できなくなった。しかし、整理をしたからといって債務がなくなるわけではなく、借金の「整理」による手数料だけが取られてしまうのである。
クレジットカード詐欺
クレジットカード詐欺とは、クレジットカードで高額商品を購入・換金して借金の返済にあてるとともに、カードの紛失届を警察に提出することで買い物代を保険で支払わらせるというものである。これは犯罪ながら非常によくできた仕組みで、債務者は借金が減り、高利貸しは返済を受けられ、詐欺の実行者は報酬をもらい、詐欺にあった店はクレジットカード会社から支払を受け、クレジットカード会社は保険会社から保険金をもらい、保険会社はこうした詐欺の危険性を宣伝として使うという「誰も損をしない」状態であった。しかし、現在では保険会社の保険料が上がっているため、クレジットカード会社がこうした詐欺を強く監視している。
また、クレジットカード詐欺は債務者1人につき1回しか使えない(クレジットカード会社が警戒するため)という欠陥があったが、養子などの仕組みを使って債務者の名義を変えるという方法が開発された。個人信用情報のデータベースは名前と生年月日を基準に整理されているため、名前を変えるとすべての情報が白紙に戻ってしまうのである。
もちろんこうしたクレジットカード詐欺は犯罪であるため、債務者がこれを行うと自己破産しても免責を認められず、最終的には借金を背負ったまま刑務所に送られることになる。
高利貸しが合法業者に変身するとき
高利貸しが合法業者に変身するときとは、債務者の実家などを抵当権として抑え、合法的に債務を整理することによって行われる。
まず、債務者自身に返済能力がなくても、親に資産がある場合は「実家の土地を担保に入れませんか?そうしたら格安の金利で融資をまとめますよ」として近づく業者が現れる。そして、実家の土地を担保に入れると、法定金利(利息制限法)以下の良心的な条件で借金を肩代わりしてくれる。
しかし、概してこの状態にまでなっている債務者は債務総額が膨れ上がっていることが多い。返済が滞った結果、抵当権を行使されて、対抗する術がなくなってしまうのである。
自己破産という選択
自己破産とは、債務者自身の申立てにより破産手続開始の決定を受けるもので、最低限の資産を残して債務(借金)をゼロにしてもらうことである。自己破産の主なデメリットは以下の2つが挙げられるが、一般に考えられているような破産したことが戸籍や住民票に記載されることはないし、選挙権がなくなることもない。
- 免責後、5〜7年間はクレジットカードを作ったり、金融機関から融資を受けられない
- 10年間は再度自己破産しても、原則免責が許可されない
また、自己破産から免責決定を受けるまでの間は、以下の4つの制限が発生する。
- 会社の役員、弁護士、公認会計士、税理士、司法書士、証券会社外務員、生命保険募集員、損害保険代理人、警備員などにはなれない
- 破産宣告時に所有していた財産の管理所分権を失う
- 旅行や転居に裁判所の許可が必要
- 郵便物が破産管財人に開封される
個人版民事再生
個人版民事再生とは、法人等の民事再生法を個人に適用したもので、住宅ローン以外の借金を払える範囲に減額した上で、住宅ローンについては期限の利益を復活させ、返済期間の延長などを行うものである。この制度を使えば、自宅を競売にかけられることがなくなる。
個人版民事再生は、純債務(住宅ローンと担保付債務を除いた債務総額)が3000万円以下の場合に適用でき、個人事業主を主な対象とする「小規模個人再生」と、サラリーマン(給与所得者)を主な対象とする「給与所得者等再生」の2種類がある。サラリーマンでも小規模個人再生を利用可能である。小規模個人再生の規定は以下の5つがある。前提となるのが、自己破産の場合よりも弁済総額が多くなることである。
- 弁済方法は3ヶ月に1回以上の分割払いであること
- 弁済期間が原則3年、最長で5年であること
- 再生計画による弁済総額は債権総額の20%以上であること
- 弁済総額が破産となった場合の配当金額よりも多くなること
- 弁済総額が債務総額の5分の1(300万円を超える場合は300万円)または100万円のいずれか多い額以上であること
給与所得者等再生にはさらに以下の1つの規定が追加される。なお、給与所得者等再生では生活費の中に住宅ローンの支払は認められない(家賃は算入可能)ため、持ち家の場合は小規模個人再生にするほうがよい。
- 弁済総額が可処分所得の2年分の金額以上であること
法的処理の費用
自己破産の費用は、債務者に資産がない場合とある場合で異なるが、総額で20〜60万円が相場である。資産がない場合は同時廃止(破産宣言と同時に破産手続きが終了する)として2万円程度で済む。資産がある場合は、管財人を選任するとともに20〜50万円の予納金を裁判所に納める必要がある。通常これに加えて弁護士費用(着手金+報酬)が20〜40万円かかる。
一方、個人版民事再生の費用は、総額で40〜70万円が相場である。裁判所へ納める予納金は約1万2000円(東京地裁)と低額だが、再生委員の報酬15万円や弁護士費用30〜50万円を加えるとその程度になる。なお、通常の法人の民事再生では最低でも200万円(債務総額5000万円未満)かかる。
自己破産は、同時廃止なら4ヶ月ほどで手続きが終わり(東京地裁)、民事再生でも6ヶ月以内には結論が出る。どちらも事務的に手続きが進められ、債権者集会に呼び出されたり、裁判官に叱責されることもない。
なお、自己破産や個人版民事再生を希望する人の多くはほとんど資産をもっていないため、弁護士費用も借金で準備することになる。これは弁護士業界のタブーの1つである。
最後に
「日本ほど弱者にやさしい国はない」そう言われる理由がよくわかる。金融に福祉が入り込んでおり、気づかないうちに借金の感覚が麻痺してしまう。一部の金融機関だけがあまりにも優遇されすぎており、安すぎる金利で資金を貸付けている。福祉は社会保障(と一部の税)による再分配によって達成されるべきであり、金融にも共通のルールが必要である。
借金はお金で時間を買う行為である。著者たちが述べるように、借金がハイリスク・ハイリターンの投資戦略である以上、利用にあたっては常に最悪のリスクを想定し、それでも再帰可能な額に留めておくべきであろう。
最も大切なことは、約束を守り、借りたものはきちんと返すことである。家族や友人・知人、仕事仲間や金融機関など、誰に対しても自分自身の信用力を上げていくことが、人生における賢明な戦略である。
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