「官僚たちの論理を支える技法、すなわち修辞学を明らかにすることこそ、実のある改革につながるだろう」著者は語りかける。ここでは原英史『官僚のレトリック』を7回にわたって要約し、脱官僚の実現方法について考察する。第1回は、脱官僚とは何か。
「脱官僚」は民主党の専売特許?
「脱官僚」は民主党の専売特許ではなく、40年以上も前から議論されてきた。1962年から64年にかけて活動した第一次臨時行政調査会(会長:佐藤喜一郎三井銀行会長)が、当時の池田勇人内閣に提出した答申をもとに、以下の7つの民主党のマニフェスト2009ができている。
- 内閣の補佐機構を充実し、内閣で予算編成方針の作成などを行う
- 閣議の総合調整機能を効果的に発揮するため、関係閣僚会議を活用する
- 行政の膨張を抑制し、行政事務の中央偏在を正す
- 天下り人事は、公務の公正を阻害するおそれが多いので、規制を加える
- 公務員人事に関して、能力の実証による人事運用を確立し、信賞必罰を徹底する
- 行政機関の内部組織編成は、内閣が機動的に行えるよう、省庁設置法をやめて政令以下で定める
- 労働基本権を原則として認める
また、自民党内でも1990年代以降、官僚主導から政治主導への転換という機運は高まった。小泉内閣以降、安倍政権での天下り規制や福田政権での国家公務員制度改革基本法、そして麻生内閣での内閣人事局法案と、3年連続で関連法案が国会提出された。こうした改革について検証・学習する必要があるだろう。
政治家と官僚の倒錯関係
政治家と官僚の倒錯関係とは、政策の基本的方向は官僚が決め、個別具体の執行プロセスは政治家が行うというものである。本来、立法は国会議員の役割だが、現実には立法のかなりの部分を官僚が担っている。法案の検討・作成は、担当官庁の担当部署の課長以下の担当職員レベルで検討が進む。その後も官僚主導の「審議会」が開かれ、与野党議員への説明や大臣用の答弁資料まで作成しているのである。政治家が現れるのは、個別具体的な補助金交付などの局面である。
「官僚主導」はなぜ正すべきか
「官僚主導」を正すべき理由は、政治家は国民が選挙で選べるが、官僚は選べないからである。政治家が誤った方向に進みそうなときは国民が選挙で正せる。しかし、官僚が主導権を握って暴走したとき、国民に正す手だてはない。そして、最大の問題は「官僚主導」が単なる現象の域を超えて、制度に昇華していることである。
例えば、国家公務員法には「公務員の身分保障」という規定がある。公務員は、特段の事由がない限り免職や降格はできないという制度だ。これによって、抜擢人事が阻害されている。また、「官僚の人事に大臣は介入しない」という慣例上の制度も加わっている。官僚の人事権は本来大臣が持っているにもかかわらず、いざ行使すると騒ぎ立てるのである。
さらに、官僚が退職した後まで「○○省ファミリーの一員」として官僚ネットワークの中で職を保障される天下り慣行も、いわば「公務員の身分保障」を退職後まで延長・補強した制度と見ることができるだろう。
最後に
「脱官僚」の目的は、政治家も官僚も国益のために尽くす、よりよい政府を作ること。決して官僚をおとしめることでも、政治家の権威を高めることでもない。官僚が省益を優先をしなくてもいい制度づくりをしよう。
次回は、つまずきの始まりは天下り人事 司令塔なきゲリラ戦だった民主党についてまとめる。
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