前回は、年金制度、負の所得税、消費税の年金財源化 社会保障制度の問題点についてまとめた。ここでは、法人税ゼロ、寄付控除、地方分権の財源 税と地方分権の問題点について解説する。
17 法人税ゼロは大企業優遇?
法人税は二重取り?
法人とは個人の集合体であり、そもそも架空の存在である。その架空の存在から税を取る理由は、個人レベルですべての所得が捕捉できないからである。そのため、常に個人と法人の二重課税の可能性をはらんでいる。今後、ITの普及によって社会保障番号制導入がされれば、法人税は必要なくなる。
具体的には、法人(企業)が稼いだお金はまずそこで働く人の給与として分配される。あとは株主への配当と内部留保である。配当と内部留保も個人が持っている株の株価に反映されるので、個人の資産課税で捕捉できるのである。
大企業優遇は的外れ
「法人税をなくすと大企業優遇だ」と騒ぐ者もいるが、それは全く的外れである。なぜなら、大企業の株主(資本家)の税金が高くなるからである。これまで法人から取っていた税を個人の段階で課すだけである。
多くの国で法人税を下げているのは、ITや法の整備によって、個人資産や個人所得の精度の高い補足が可能になってきたからである。こうした背景を理解せずに、日本も下げろというだけではバランスが悪い。
18 寄付控除って何?
税制は個人が描く社会像で決まる
税制はあるべき社会像に対する価値判断が根底にある。例えば、再配分政策を強化する場合、所得税の累進強化と相続税の税率アップはセットになる。再配分を指向しない場合は、その反対の政策をとる。どちらを指向するかは、最高税率に対する考え方でわかる。
日本は2013年現在50%(所得税40%+住民税10%)だが、自由主義の立場のミルトン・フリードマンなどは、最高税率20%を主張している。社会民主主義の立場からは、60〜70%というものもあるだろう。
相続税は再配分を目指す税制だが、特に高齢化社会となった現在の日本では、高齢者の間で広がった資産格差を次の世代に継承させないという機能と目的を持つと考えられる。相続税を強化し、それを高齢者福祉の財源にすることで、一部で貧困化が進んでいる若年層の負担を軽減させることができる。
寄付控除を導入すれば支払う人が使い道を決められる
寄付控除とは、支払った税金をすべて政府の役人に分配させるのではなく、支払う人がある程度使い道を選べるようにするべきではないか、という考えに基づくものである。例えば、文部科学官僚に文教予算を配らせるのではなく、納税者が自分で大学に寄付をしてその分を税金から控除すれば、文教予算の総額としては同じ結果になる。
ふるさと納税は「住民税の寄付控除」
2008年4月30日に公布された「地方税法等の一部を改正する法律」いわゆるふるさと納税は、住民税の寄付控除を行える、日本で初めての本格的な税額控除を目指したものである。自民党の菅義偉官房長官(2013年7月現在)が言い始めた案で、住民税を納める自治体ぐらいは個人が選んでもいいのではないかという発想によるものである。
「税額控除」のインパクト
税額控除とは、本来納めるべき税金から全額寄付分が控除されるものである。所得控除でなく税額控除によるインパクトは大きい。それは、寄付によって納税者の持ち出しになる金額をなくすことができるからである。
例えば、1000万円の所得のある人がどこかの自治体に100万円寄付するとする。所得控除の場合、所得から100万円が引かれて、所得が900万円になる。もし税率が20%なら、納める所得税は900万円×20%で180万円。本来納めるべき200万円の税金から20万円が控除されるだけである。つまり、100万円を寄付しても税金は20万円安くなるだけで、80万円は持ち出しになるのである。
一方、税額控除の場合、所得ではなく支払うべき税金から100万円が引かれることになる。この場合、本来納めるべき200万円の税金から100万円が控除されることになり、持ち出しになる金額がなくなるのである。
ふるさと納税は住民税での税額控除に限定されたが、本当は所得税でNPO法人や独立行政法人への寄付を税額控除できる仕組みにしたかった。しかし、財務省による抵抗によって頓挫してしまった。
社会の隅々まで役人が仕切ろうとする日本
寄付控除を認めないのは、社会の隅々まで役人が仕切ろうとする姿勢を表している。かつては日本でも、東京大学の安田講堂のように個人の寄付が形として残っていた。欧米では、符号からの何百億円という寄付によって財団が設立され、そこが国策を策定するシンクタンクを運営するなどしている。アメリカでは、こうしたシンクタンクが政府の人材を養成し、プールする役割を担っている。ところが日本ではこうした民間パワーを活用しようとしていないのである。
おカネの使い道は行政サービスを受ける側が決めるべき
政府が一律に同じことをやる場合には、上から下に予算や施策を流すのが効率的だが、現代社会の多様化したニーズに応えるにはこのやり方は不向きである。例えば、教育分野でもおカネの流れを変えて、役所や学校ではなく教育サービスを受ける家庭や子どもたちにおカネを渡して、その子のニーズにあった使い方をしてもらうほうが、はるかに効率がいいだろう。
具体的には、バウチャー制が政策として具体性を持ってきている。バウチャー(voucher)とは領収書・商品券・引換券の意味で、教育や介護などに使途を限定して補助金のように個人に配り、それぞれのニーズに合ったところで使ってもらおうというものである。アメリカ、イギリス、オランダ、チリ、ニュージーランド、スウェーデンなどが既に行っている。
19 増税して景気が良くなることはあるの?
子ども手当の乗数効果
乗数効果とは、政府支出や投資を増やすことで、国民所得を数倍に増やすことができるというものである。2010年1月26日の参議院予算委員会において、菅直人副総理兼財務・経済財政担当相(当時)は、子ども手当の乗数効果を答えられなかった。「子ども手当で1兆円のGDP増加」「子ども手当額は2.5兆円」という条件ならば、単純に1/2.5=0.4と「初年度の乗数は0.4」と答えればよかった。さらに「消費性向(所得のうち何割を消費するか)が0.7」なので、0.7/(1-0.7)=2.3と「教科書では2.3倍になるが、実際にはそれより小さい」と答えればよかった。
「使い道を間違わなければ」の実行は難しい
増税して景気が良くなるためには、政府が「使い道を間違わなければ」という前提が必要である。例えば、政府支出先で雇用を確保するとき、民間雇用を圧迫すると効果が薄れる。また、現実の政府支出乗数も税乗数も、これまでの実証分析によれば理論が期待しているほど高くなく、それを組み合わせて得られる均衡予算乗数(政府支出を増税で賄って予算を均衡させた場合の効果)は1よりはるかに少ないか、場合によってはマイナスになる。
「国民・民間よりも政府・霞ヶ関が賢い」のならば均衡予算乗数は高まるが、そうでなければその効果は期待できないのである。
20 地方分権って何?
ニア・イズ・ザ・ベター
ニア・イズ・ザ・ベターとは、「近いほうがよりいい」という意味で、課題に近いところの人や団体が担うほうが効果が高いという考え方である。明治維新後の急速な欧化政策や戦後の復興などは中央集権でよかったが、社会が多様化している現在は、地方のことは地方でやったほうがいいというものである(復興財源は国債の日銀引き受けと埋蔵金の活用 シンプルな復興政策参照)。
その典型例が、政権交代後に問題が噴き出した八ッ場ダム問題である。そもそも八ッ場ダムの利害関係者は、利根川水系にかかわる関東六都県の人々である。しかし、この計画を推進してきたのは国土交通省であり、中止するというのも国土交通大臣なのである。現場や地域の事情を最もよく知る地元の人々が、自らの判断でダム建設の是非を決めていれば、ここまでもめることもなかったのかもしれない。
現在の日本は、すべての業務を国と地方で分けているが、その割合は地方が6で、国が4である。ところが税収はこの逆で、国が6で、地方が4。このギャップを国から地方への交付金や補助金で埋めているのである。だとしたら、まとめて地方に税源委譲して、地方の実情に沿って仕事をしてもらったほうがいいだろう。
中央の出先機関はパラダイス
国交省をはじめ中央官庁には地方支分部局というものがあり、国家公務員30万人のうち20万人がここにいる。最も有名なのが地方整備局で、河川改修や大規模なダム工事、道路整備などをやっている。八ッ場ダムも関東整備局という地方支分部局がやっている事業である。
中央の出先機関である地方支分部局はパラダイスである。特別会計で予算はたくさんある、地方なので中央の上司の監視はない、地方の首長などからは中央からの人ということで大事にされる、業者も群がる。しかも、わずか数年でまた中央に戻るのだから、まともな行政はできないだろう。八ッ場ダムの事業もこうした構造の中で行われた。
公共事業、やめるべきか続けるべきか、それが問題だ—「八ッ場ダム」を例にでも述べたように、レベニューボンド(事業目的別歳入債券)を発行して地方自らが事業を行えば、利害調整は容易だっただろう。
やはり道州制
関東六都県あるいは人口1000万人以上の自治体となれば、やはり道州制にしたほうが効率がいい。清掃程度ならば3〜5万人、ゴミ処理ならば30〜50万人の単位でできるが、それ以上となると道州になる。
なお、道州に代わる広域行政(自治体の連合)があると反論もあるが、広域行政は誰がトップか責任が曖昧である。さらに、レベニューボンドなども発行しにくく、その都度広域行政をつくる手間を考えれば、道州をつくったほうが便利だろう。
21 地方分権の財源は?
そこで消費税
国と地方の業務と予算のギャップの総額は、およそ20兆円ほどである。その20兆円を埋めるのが消費税である。消費税は、景気にあまり左右されない安定財源である。だから、景気が良くても悪くてもやらなくてはならない日常業務を多く抱える自治体にこそふさわしい税源なのである。税源と同時に人も地方に動かせば問題はない。
具体的には、特別会計の地方移管がよい。例えば、国交省の社会資本整備事業特別会計の中の空港整備勘定(旧・空港整備特別会計)を分割して地方へ委譲すれば、地方航空局等の5000人くらいを地方へ移管できるだろう。また、厚生労働省の労働保険特別会計を分割して地方へ委譲しても、都道府県労働局等の1万人くらいを地方へ移管でき、ハローワークも地方機関との統合で効率化できるだろう。
こういう具体的な話から、政治主導で地方分権を進めていくことが求められているのである。
最後に
法人税ゼロは大企業優遇ではなく、大企業の株主(資本家)の税金が高くなるだけである。寄付控除は支払う人の意思を尊重するという考え方から生まれた。ふるさと納税は、払った住民税の1割までを税額控除できるため、自分で応援する自治体を選ぶことができる。地方分権の財源は消費税にすべきである。道州制は国のあり方を変える。
![]() |