decision‐making

ババ・シフ 運転は任せた方が良いこともある

「生死にかかわる決定などでは、選択肢を放棄したほうが最良となる可能性があります」ババは語りかける。ここでは、60万ビューを超える Baba Shiv のTED講演を訳し、意志決定のコントロールを手放したほうがいい場合について理解する。

要約

直感に反する人間の性質が、次第に明らかにされてきました。選択肢が多すぎることが、幸せにつながるとは限らないのです。これは治療の場面にもあてはまります。ババ・シフが彼の行なった興味深い研究を紹介し、選択肢が却って疑いの扉を開くこととなるのはなぜか、特に生死にかかわる決定において、コントロールを手放してしまうことが最良となる場合があることを語ります。

Baba Shiv studies how “liking” and “wanting” shape the choices we make, and what that means in the world of marketing.

 

1 次から次へと決断を求めてくるのが医師

少し重い話になりますが 2007年―今から5年ほど前に 家内が乳がんと診断されました。ステージ IIB でした。いま当時を振り返って一番 苦しかったことは 病院に行くことではありません。もちろん本人がつらいのはわかります。乳がんだと知らされた― ショックでもありません。まだ39歳で 癌の家族歴もなかったのです。この一連の経験でもっとも恐ろしくて 苦しかったのは 決断を次から次へと 求められ続けたことです。乳房切除をすべきか?それとも乳腺腫瘤の摘出か? ステージ IIB なのだから 積極的な治療に委ねるべきなのか? 副作用があっても? それとも そこまで積極的でなくてもいいのか? 次から次へと決断を求めてくるのが 医師なのです。

 

2 助手席に座るよりも運転席に乗るべき?

不思議に思うかもしれません。医師はなぜ こうしたのか? 単純に考えると医者自身が 法的に自分を守りたいためですが 実はそんな単純な話ではありません。彼らは善意の医者であり 何人かとは良い友人になりました。きっと長年受け継がれてきた 古い考え方に従ったまでなのでしょう 「意思決定特に重責を伴う意思決定は 他人の判断に任せずに 自分の意思で決めよ。つまり助手席に座るよりも運転席に乗るべきである」そこで我々は運転席に座らせられ 多くの意思決定を下すことになったのです。同じ経験をされた方もいるでしょうが 何よりも苦しくて恐ろしい経験となりました。そして考えてみました― 決断をすることに関する考え方は 本当に正しいのだろうか? 運転席に乗ることが一番良いのか?主導権を握って 制御するのが良いのか 逆に 状況によっては我々が助手席におさまり 誰かに運転席を任せた方が良い場合もあるのでは? 例えば 信頼できる金融専門家や 信頼できる医者などです。私は「意思決定の仕組み」を研究していますので いくつかの実験を行い 答えを導き出すことにしました。

 

3 お茶を飲み、パズルを解いてもらう実験

早速 ここで研究成果のひとつをご紹介します。皆さんは その実験に参加しているつもりで聞いてください。この実験では皆さんに まず 一杯のお茶を飲んでいただきます。お茶を飲む理由は後で説明します。そしてパズルをいくつか解いてもらいます。パズルの実例も後ほどお見せします。正解数が多ければ多いほど 賞品をもらえる可能性が大きくなります。ところでなぜお茶を飲むのか? 理由は単純明快です。パズルを効果的に解くために 精神が同時に2つの状態にならないといけません。そうでしょう?神経がピンと張り詰めた状態 これにはカフェインが効果的ですし 同時に 心穏やかでなければいけません。苛つかず 心が落ち着いた状態これにはカモミールが最適です。

 

4 グループAは自分で選択し、グループBはランダムに渡す

さて被験者間で何を変えるのかというABテストの デザインを説明します。早速ですが 皆さんを適当に 2つのグループに分けます。ここに架空の線があると想像してください。こちらの皆さんはグループAに こちらの皆さんはグループBにします。グループAの皆さんには 2種類のお茶をお見せして 自分で好きな方を 選んでいただきます。さぁ 選んでみてください。決めましたか?そうだ 私はカフェイン入りのお茶を 私はカモミールを選ぼう 自分で決める― 選択権を持ち運転席に座っているのです。グループBの皆さんここに2種類のお茶がありますが 選んでいただくことはできません。どちらかをお渡しします。どちらか一方のお茶を ランダムにお渡しします。覚えておいてください。もちろん これは非常に極端な例です。なぜなら 実社会では あなたが助手席に座るときにはまず たいてい運転席には信頼をおける人や 専門家がいるはずだからです。これはかなり極端なシナリオです。ここで皆さんにはお茶を飲んでいただきます。お茶を楽しんでください。飲み終るまでもう少し待ちましょう。お茶の成分が効果を発揮するまであと5分ほど待ちましょう。

 

5 助手席にいる方が運転席にいる方よりも多く正解した

さて これから30分かけて15問のパズルを解いてください。ひとつサンプルをご紹介します。どなたか分かりますか?(文字の並び替えクイズ)(観衆:PULPIT ) 素晴らしい! 凄いですね! さて あなたのようにすぐ解る人がいたらどうするか 被験者のレベルに合わせてパズルの難易度を 調整する必要がありました。簡単に解けては無意味ですから。このクイズは実に巧妙にできてて 本能的に TULIP に見えるので 慌てて頭を切り替えたり― しなくてはいけませんね。つまり適切な難易度に設定されています。後に説明しますが簡単に解けては意味がありません。それではサンプル問題をもうひとつ 分かりますか?少し難しいかな?(観客:EMBARK ) 正解! こちらも難しかったでしょう。KAMBAR や MAKER など ひっかけがたくさんあるのです。このような問題15問を 30分間で解いてもらいます。この実験で 注目していることがあります。正解数が多いのは 運転席に乗る場合の 方でしょうか? つまり 飲むお茶を選択できたからこそ成果が上がるのか それともグループBの方が 正解数が多いのでしょうか? 系統的な調査データをもとに 分析した結果 実は助手席にいる方が お茶はランダムに割り当てられたものなのに 運転席にいる方よりも多く正解しました

 

6 運転席にいる人は回答数が少ないうえ集中力を欠いている

もうひとつ分かったことは 運転席にいる方は回答数が少ないうえ 集中力を欠いています。努力が足りず 粘り強さもない。なぜわかるのか? 2つの客観的指標があるのです。ひとつは問題を解くのに かけた解答時間の平均です。グループAの方が平均解答時間が短かったのです。二つ目です。制限時間は30分ありますが 最後まで諦めずがんばるか?あるいは30分より 前に途中棄権するのか? グループAの方が途中棄権する確率が高かったのです。集中力を欠いていることは結果にも現れます。正解数が少ないのです。

 

7 意思決定の後のフィードバックの性質を表す言葉の頭文字「INCA」がかかわる

ではなぜ こんな結果になるのか。どのような状況だとこういう結果に― つまり助手席側の方が運転席側よりも 良い成果を出せるのか?INCA と名付けたもの遭遇する場合に問題となるのです。INCA は 意思決定の後のフィードバックの 性質を表す言葉の頭文字です。今回のパズル実験を思い出してみてください。変化の激しい株式投資や 病気の場合でも同じですが 結果は 直ちに分かりますよね (Immediate) パズルが解けたかどうか すぐ分かります。そして 結果は通常良くない (Negative) パズルの難易度は 意図的に高く設定されていました。これは医療の現場でも同じです。例えば 治療のごく初期には 良い結果も見えず状況や手ごたえは厳しいものです。これは株式市場でも同じです。荒れた株式市場では直ちに否定的な結果が得られます。そして フィードバックは具体的です。 (Concrete) 曖昧ではありません。正解か 不正解か。さらにこの「即時性 (I)」 「ネガティブ (N)」「具体的 (C)」に 「主体感 (Agency)」が加わります。自分の決断には責任が伴います。するとどうなるのか? 選ばなかった選択肢が気になるのです。だから もう一方のお茶を選んでればよかったのに―(笑)

 

8 誰かに運転席を任せ、助手席に座ったほうが良い場合は…

心の迷いが意思決定を乱し 意思決定の自信低下 良い成果への自信低下 問題解決能力の低下につながります。課題解決に身が入らないので 正解数が少なくグループBより劣る結果となります。これは医療分野でも十分に起こりえますね。患者を運転席に座らせた場合 活力に欠け 回復のプロセスを促す 運動や 健康維持の努力に身が入らなくなってしまいます。大切だといわれているのにです。これは良くないですね。ですからINCAに遭遇したら フィードバックが即時でネガティブであり 具体的で 自己責任を感じる時 その場合は―誰かに運転席を任せ 助手席に座ったほうがずっと良いのです。

 

9 我々は医者に運転席を譲り、すべての意思決定を任せた

今日は重苦しい トーンで始まったので 最後は陽気なトーンで締め括りましょう。あれから5年が経過し―正確には5年以上ですが 非常に喜ばしいことに 家内の癌は未だ寛解期に留まっています。治療も順調に進んだわけです。ただし ひとつだけ言ってなかったことがあります。二人で相談した結果家内の初期治療のときから 我々は助手席に座ることを決めました。そのことで得られた心の平安のおかげで 病気の回復に集中できたことが この結果につながったと思います。我々は医者に運転席を譲り すべての意思決定を任せました。ありがとうございました(拍手)

最後に

次から次へと決断を求めてくるのが医師。意志決定をしない助手席にいる人が、それをする運転席にいる人よりも多くパズルを正解した。運転席にいる人は回答数が少ないうえ集中力を欠いていた。それは意思決定の後のフィードバックの性質を表す言葉の頭文字「INCA」がかかわるから。フィードバックが即時でネガティブであり、具体的で自己責任を感じるときは、誰かに運転席を任せよう。

和訳してくださった Masaki Uchihashi 氏、レビューしてくださった Natsuhiko Mizutani 氏に感謝する(2012年5月)。

意思決定理論入門


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