前回は、本質は収益のバラツキとリスクを小さくすること ポートフォリオ理論についてまとめた。ここでは、先物・オプション・スワップ取引の合成と組み合わせ デリバティブについて解説する。
取引の5つの条件
デリバティブとは普通の取引から派生した取引という意味である。取引を定義すれば「やりとりする(受け渡す)条件を決めること」で、契約することが本質となる。取引の5つの条件は、①売買の対象、②量、③価格、④受渡の日時、⑤売買の立場である。例えば、株を売るとは、相手との間で株を売る条件を決めるということであり、条件を決めた日が取引日なのだ。
損益図の読み方
こうした普通の取引をデリバティブと区別するときには、現物取引(直物取引、スポット取引)と呼ばれる。価格などの取引条件を決める取引日と受渡日がほぼ同じ(数日以内)取引のことである。現物取引で株を買うと、その後の株価の変動によって利益を得たり損をしたりする。その取引を行った後で、株価の変動がどのように利益や損失を生じさせるのかをみるのが「損益図」である。
デリバティブの種類
デリバティブ(金融派生商品)の定義は曖昧なため、具体的にどのような取引がデリバティブに含まれるのかを理解すればよい。代表的なものは、①先物取引、②オプション取引、③スワップ取引の3つである。
先物取引の考え方
先物取引とは、取引したモノや資産などと代金の受渡日が、取引日よりも将来になるという取引のことである。具体的には、1ヶ月後や3ヶ月後、半年後や1年後などである。いわば「取り消しできない売買予約」である(反対売買が必要)。一定割合の証拠金を用意すれば、少ない資金で取引できて、株価の上昇にも下落にも賭けることができるため投機に使われやすい。一方、現物取引と先物取引を組み合わせることで、マーケット・リスクを抑えることができる。例えば、株を保有したままでそのリスクを回避する方法のヘッジがある。
先物取引の株価
もし現物取引の株価と先物取引の株価が同じならば、配当を考慮しても金利の分だけ先物取引の方が有利である。しかし、多くの場合は金利や配当が考慮されており、先物取引の方が高い値段になっている。ただし、これからもらえる配当は企業業績に依存するため、先物取引の理論上の株価は求められない。反対に、理論上の株価を計算できれば、現実の先物取引の株価との差を利用してサヤ取りを仕掛けることができる。例えば、理論上の株価の方が現実の先物取引の株価よりも安ければ、現物取引でこの株を買い、同時に先物取引でこの株を売ればいいのだ。
オプション取引の考え方
オプション取引とは、株や外貨などについて「一定の条件で売買する権利」を売買するものである。いわば「取り消しできる売買予約」である。ただし、そうした都合のいい権利はタダではない。手付金や前払金とは違う、取引手数料のようなものが必要となるのだ。
オプション取引の4パターン
オプション取引では「買う権利(コール・オプション)」だけでなく「売る権利(プット・オプション)」も売買される。つまり、①コール・オプションの買い(買う権利の買い)、②コール・オプションの売り(買う権利の売り)、③プット・オプションの買い(売る権利の買い)、④プット・オプションの売り(売る権利の売り)の4つの基本パターンがある。
オプション取引には様々な用語がある。例えば、権利行使価格(ストライク・プライス)といった実際の売買価格やオプション・プレミアム(オプション料)といった権利の価格、そしてオプションの満期日(エクスパイアー)といったオプションの買い手がその行使を決める期限などである。
損益図で見るオプション取引
オプション取引は損益図で見るとわかりやすい。その際はまず、オプション取引の損益図を書いて、その次にオプション・プレミアムの支払まで含めた損益図を書くという2段階で考えればよい。重要なのは、オプション・プレミアムを支払うのはオプションの買い手であること、オプションの買い手にとって有利(売り手にとって不利)な状況でこそオプションは行使されることである。
①コール・オプションを買った場合(株を買う権利がある)、オプション・プレミアム分の損失で、株価が上がるほど利益が大きくなる(↗)。②コール・オプションを売った場合(株を売る義務がある)、株価が上がるほど損失は大きくなるが、オプション・プレミアム分の利益を得ることができる(↘)。③プット・オプションを買った場合(株を売る権利がある)、オプション・プレミアム分の損失で、株価が下がるほど利益が大きくなる(↖)。④プット・オプションを売った場合(株を買う義務がある)、株価が下がるほど損失は大きくなるが、オプション・プレミアム分の利益を得ることができる(↙)。
自由に設定できる権利行使価格
オプション取引の魅力の1つは、権利行使価格が自由に設定できる点である。例えば、コール・オプションの場合には権利行使価格が安いほど価値が高く、その分だけオプション・プレミアムも高くなるのだ(計算方法については後述)。
オプション取引の合成
オプション取引のもう1つの魅力は、合成と組み合わせができる点である。オプション取引の基本的な4パターンや権利行使価格などの条件も変えられるため、いろいろな種類の取引ができるのだ。例えば、現物取引の買いとプット・オプションの買いを合成することで、コール・オプションの買いと同じパターンの取引をすることができる。また、コール・オプションの買いとプット・オプションの買いを組み合わせると、株価が安定すると損失が残るが乱高下すれば儲けられるという取引ができる。さらに、権利行使価格の違うコール・オプションの売りとプット・オプションの売りを組み合わせることで、株価が変化しなければ儲けられるという投機も可能になる。このように、権利行使価格や株の取引量(株数)などの条件設定が違うオプションを組み合わせることで、多彩な合成オプション取引を行うことができるのだ。
ノックアウト・オプション
ノックアウト・オプションとは、オプション(権利)の消滅条件がついたオプション取引のことである。オプション取引を行ってから満期日までの間に、一度でも株価がノックアウト・プライスと呼ばれるレートに達すると、オプションが消滅してしまうという条件がつくのだ。消滅する可能性がある分不利な条件のオプションなため、オプション・プレミアムは安くなる。
スワップ取引の考え方
スワップ取引とは、金利や外貨や株や債券など、いろいろな金融資産の収益や元本などを交換する取引のことである。例えば、銀行が住宅ローンにおいて固定金利と変動金利の交換を金利スワップ市場で行うなどである。固定金利を支払い、変動金利を受け取るという取引をしたとして、変動金利が予想以上に上昇すれば儲かるが、変動金利が全く上昇しなければ損をするのだ。こうした金利変動のリスクを変動金利は背負っているのだ。
最後に
取引の本質は契約。取引の5条件は、①売買の対象、②量、③価格、④受渡の日時、⑤売買の立場。代表的なデリバティブは、①先物取引(取り消しできない売買予約)、②オプション取引(取り消しできる売買予約)、③スワップ取引(交換)の3つ。複雑に見える取引もバラせば単純。
次回は、シンプルなオプション・プレミアム計算法 ブラック=ショールズ式の検証についてまとめる。
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