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チップ・キッド 笑い事ではないけど笑える本のデザインの話

「本を表紙で判断するのではなく、本を体現する表紙を作るのです」チップは語りかける。ここでは、120万ビューを超える Chip Kidd のTED講演を訳し、表紙デザインの芸術について理解する。

要約

チップ・キッドは本を表紙では判断しません。本を体現する表紙を作るのです。それもお茶目なユーモアをもって。TED2012で一番可笑しかったこの講演で、彼は表紙デザインの芸術と深い思索を披露しています(チー・パールマンとデビッド・ロックウェルがゲストキュレーターを務めたTED2012のセッション「デザインスタジオ」から)。

Chip Kidd’s book jacket designs spawned a revolution in the art of American book packaging.

 

1 25年間、本のデザインに捧げてきた

ハーイ (笑) これをやったのには2つ理由があります。第一に 視覚的に 良い第一印象を与えたかったこと。でももっと大きいのは レディー・ガガみたいなチャラチャラした マイクを付けさせられたためです (笑) 私は固定マイクに慣れていて あれはスピーチ向きの履きやすい靴だと思います (笑) でもこんなものを頭に取り付けられたら変なことになって 私自身チャラチャラしてしまいます。その点申し訳なく思います。すでに党の方針から逸脱しています (笑)

皆さん 私はこれまでの人生の25年を 本のデザインに捧げてきました。“そう 本です ? あのインクで書いた紙の束 スイッチは付いていません。子どもたちに教えてあげてください” “そう 本です ? あのインクで書いた紙の束 スイッチは付いていません” すべては悪意のない間違いから始まりました。ペニシリンのように (笑)

私が本当になりたかったのは ニューヨークの大手デザイン会社の グラフィックデザイナーでした。1986年の秋に ニューヨークに行き たくさんの面接を受けましたが 採用すると言われたのは 出版社クノッフのアートディレクター助手の 仕事だけでした。私は馬鹿ですが これを蹴るほどの馬鹿ではありませんでした。何をやることになるのか 全然分かっていませんでしたが 実はものすごくラッキーだったのです。私はすぐに自分の仕事が何か理解するようになりました。それはこう問うことです ? “この物語はどう見えるか?” なぜなら それがクノッフだからです。クノッフは物語工場であり それも世界最高のです。

 

2 物語には顔が必要

私達は物語を人々に届けます。物語はどんなものでもあり得ます。事実であるものもあります。しかしすべてに共通しているのは 何かに見える必要があるということです。顔が必要なのです。なぜか? 読者に対し どんな所に入り込むことになるのか。第一印象を与えるためです。ブックデザイナーは内容に形を与えますが 両者のバランスを うまく取るよう努めます。ペンシルベニア州立大学で グラフィックデザインを学ぶ最初の日に 講師のラニー・スミスは教室に入ってくると 黒板にリンゴの絵を描き その下に“リンゴ”と書いてから言いました 「ではレッスン1です。よく聞いて」 絵を隠して「こう言ってもいいし」 それから言葉の方を隠して 「あるいはこう見せてもいい」 「でもこうしてはいけません」と言いました。なぜなら これは見る人をマヌケ扱いすることになるからです (笑) 彼らはもっとちゃんとした扱いを受けるに値します。

私はすぐにこの理論を クノッフで取り組んだ2冊の本で 確かめることになりました。1冊目はキャサリン・ヘプバーンの自伝で もう1冊はマレーネ・ディートリッヒの伝記です。ヘップバーンの本は 会話的に書かれ テーブルの向かいに座って読者に語りかけるようでした。ディートリッヒの本は娘による観察であり 伝記です。ヘップバーンの物語は言葉であり ディートリッヒの物語は絵です。だからこんな風にしました。ご覧のように 純粋な内容と純粋な形が 並んでいます。ご婦人方 喧嘩しないようにお願いします。“ジュラシックパークとは何か?” ここでの物語は何でしょう? 誰かが 古代の琥珀から DNAを抽出することによって 恐竜を再生したのです。天才だ! (笑)

 

3 生き物が命を吹き込まれたところのグラフィック表現

さて 幸運なことに 私が暮らし 働いているニューヨークは 恐竜ならたんとあります (笑) だから 自然史博物館に行って 恐竜の骨を見 お土産ショップで 本を買いました。とくに本のこのページに惹かれました。より具体的に言うなら その右下隅にです。この図を取り フォトスタットコピーにかけ (笑) トレーシングぺーバーを取り出して フォトスタットの上に スコッチテープで留め・・・速すぎるようなら止めてくださいよ (笑) それから製図ペンを取り出し・・・ 若い人たちに説明してあげてくださいね (笑) 恐竜を再構成し始めたのです。自分で何をやろうとしているのか どこへ向かっているのか 分かっていませんでしたが ある時点で止めました。

それ以上やると やり過ぎと思える時点で 結果として得られたのは この生き物が 命を吹き込まれたところのグラフィック表現です。これはまだ制作途中です。それからタイポグラフィを加えました。ごく基本的なもので どこか 公園の看板を思わせます (笑) 会社のみんなが気に入ってくれたので 著者に送りました。その当時から マイケルは最先端でした。“マイケル・クライトンからファックスで返事が・・・” “ワオ! すごくいかした表紙だね” (拍手) ファックスからこれが出てきたときには ホッとしましたよ (笑) マイケルが懐かしいです。案の定 MCAユニバーサルが うちの法務に電話してきて この画像に対する権利を買いたい もしかしたら使うかもしれないからと言いました。実際 彼らは使いました (拍手) すごくワクワクしましたね。ご存じの通り素晴らしい映画でしたから それが1つの文化になり 一大現象になり あらゆるバリエーションが現れるのを見るのは興味深いものでした。

 

4 ブックデザイナーは読者、出版社、著者に対して責任を負っている

しかし最近ネットで こんなのを見つけました。いいえ 私の足じゃありませんよ。それが誰の足であるにせよ 心配せざるを得ません。ある日目を覚まして 「うわっ 昨日の夜はこんなのなかったのに! ひでーっ! すごい酔っ払ってたもんな」 (笑) しかしこれについて考えてみると 私の頭から 私の手へ さらに彼の足へ (笑) 責任重大だよね。私は責任というものを軽く考えてはいません。ブックデザイナーは三者に責任を負っています。読者 出版社 そして何よりも著者に対してです。私はみんなに 著者の本を見て 「すごい これ読まなくっちゃ」と思わせたいのです。

 

5 パンツを脱がすような本のデザイン

デビッド・セダリスは私のお気に入りの作家です。このエッセイ集の表題作は 彼がヌーディスト村に行ったときのことが書かれています。彼がそこに行った理由は 自分の体のイメージに怖れを抱いていて その背後にあるのが何なのか探求しようと思ったからでした。私にとってこれは 文字通りパンツを脱がすような 本のデザインをやれる良い口実になりました。しかし実際取ったときに出てくるのは 予想とは違うものです。もっと深いところのものが出てきます。デビッドはこのデザインがことのほか気に入りました。それというのも 彼はよく本のサイン会をやりますが マジックでこんな風に書けるからです (笑) やあ! (笑)

 

6 オーガステン・バロウズ『ドライ』

オーガステン・バロウズは『ドライ』という回顧録を書き それは彼がリハビリをしていた時の話です。20代のとき 彼はやり手の広告会社幹部で 『マッドメン』にあるような ひどいアルコール依存症でした。自分ではそう思っていませんでしたが 同僚が介入して 「リハビリ受けないんだったら クビになってのたれ死ぬことになるぞ」と言いました。これはタイポグラフィ的に解決することになりましたが やったのはタイポグラフィ入門の逆です。

どういうことかと申しますと タイポグラフィ入門の初日には通常 言葉を選び それが表すもの通りに見えるようにする という課題が与えられます。それがタイポグラフィ入門です。ごく単純な話です。この時はその逆をやったのです。この本は 読者に嘘をつく 絶望的で自棄的な アル中みたいに見せたかったのです。

答えはすごくローテクなものになりました。活字を組み エプソンのプリンタで 水性インクを使って印刷し 壁にテープで留め バケツで水をかけたのです。この通り! 印刷所に送り 印刷所ではインクにグロスをかけたので 本当に流れ出しているように見えました。本が出たばかりの頃 オーガステンが空港の書店で どんな人が自分の本を買うか 物陰から見ていると ある女性が本を取り上げ 目を細めて見たあと レジに持って行って カウンタの男に言ったのです。「これ痛んでるじゃない!」 (笑) カウンタの男は答えました「存じています。届いたときからそうなっていたんです」 (笑) いい仕事だぜ 印刷屋さん。

 

7 本の表紙はエキスのようなもの

本の表紙というのは エキスのようなものです。物語の「俳句」と 言ってもいいでしょう。この手塚治虫による 物語は ブッダの大いなる人生を描いたもので 8巻からなっています。これのいいところは 本棚に全部収めたとき ブッダの1つの年代から次の年代への移り変わりを見ることができることです。これらの解はすべて 本のテキストから導き出されたものですが ブックデザイナーは本を読んだとき 解釈し翻訳する 必要があります。

例えば この物語はすごい謎に満ちています。こんな話です。“16世紀オスマン帝国の宮廷画家の間の策謀と殺人” 私は一連の絵を集め 眺め 分解し 再構成しました。これがそのデザインです。表表紙と背表紙を平らにして見ていますが 本当の物語が 始まるのは これを本に付け 本棚に入れたときです。おや 秘めた恋人たちがいる 引き出してみよう。ああっ! サルタンに見つかってしまった。きっとお怒りに違いない。ハッ! サルタンに危険が迫っている。さあもう 本を取り出して 次に何が起こるのか 見ずにはいられなくなります。Kindleでこれをやってみろって言うんです (笑) この話はさせんでくれ!

 

8 電子書籍で得られるもの、失われるもの

真面目な話 電子書籍で得られるものは たくさんあります。使いやすさ 利便性 携帯性 しかし失われるものもあります。伝統 感覚的な体験 モノのもつ快さ ちょっとした人間味です。ジョン・アップダイクが クノッフから 自分の新しい本が届いたとき 最初にしていたことが何か分かりますか? においを嗅ぐんです。それからラグペーパーに指を走らせ 鋭いインクの臭いと 紙のへりの感触を確かめます。長年にわたり たくさんの本を出した後も 決して飽きることがありませんでした。iPadは大変結構だと思いますが 1つ言わせてもらうと においを嗅いでもどうにもなりませんから (笑) アップルの誰かが今メッセージを送っていることでしょう 「香り発生プラグインを開発すること」 (笑)

 

9 探求へ 作用へ 考察へ そして感触へ

今回最後に取り上げる物語は 並外れた物語です。「青豆」という女性が 1984年の日本で 高速道路の螺旋階段を下りていて 下にたどり着いたとき 突如として彼女は 別な現実に入ったと感じます。元いた現実と微かに違う とても似ているけれど でも違うのです。存在の並行する次元の話ですから 本のカバーと本の関係のようです。これをどう表現できるでしょうか?

ヘップバーンとディートリッヒに立ち戻り ただし今回はそれを1つにまとめました。異なる次元に 異なる紙 カバーは半透明のベラム紙に印刷されていて 形と内容の一部がここにあります。中では それが逆になっていて こうなっています。だからこの本について何も知らなかったとしても 存在の2つの次元にまたがっている 1人の人物について考えざるを得なくなります。もの自体が誘っているのです。探求へ 作用へ 考察へ そして感触へ

 

10 素晴らしい芸術は素晴らしいビジネスになり得る

ニューヨークタイムズのベストセラーリストで 初登場2位になりました。これは私達の出版社にとっても 著者にとっても初めてのことでした。900ページの 奇妙でありながら 有無を言わさぬ本で クライマックスの場面では 小さな人の群れが 眠っている女性の口から現れ シェパード犬を爆発させるのです (笑) そこらのベストセラーとはわけが違うんだよ! 14週間ベストセラーリスト入りし 8刷を数え 今もよく売れています。私達は芸術としての出版を愛していますが それがビジネスであることも理解しています。私達が自分の仕事を正しくやり 少しばかりの幸運があれば 素晴らしい芸術が素晴らしいビジネスになり得るのです。これが私の物語です。

続きがあります。それはどんなものでしょう? ええ そうあり得ますし そうなるでしょうが しかしこのブックデザイナーの 読書魔の ページの隅を折り 行間に書き込みをし インクのにおいを嗅ぐ人間には 物語とはこういう形をしているのです。ありがとうございました (拍手)

 

最後に

物語には顔が必要。ブックデザイナーは読者、出版社、著者に対して責任を負っている。本の表紙はエキスのようなもの。素晴らしい芸術は素晴らしいビジネスになり得る。

和訳してくださった Yasushi Aoki 氏、レビューしてくださった Wataru Narita 氏に感謝する(2012年3月)。

オフィシャル・プレッピー・ハンドブック (P-Vine Books)


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