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サンドラ・アーモット なぜダイエットは成功しないのか

「ダイエットは成功しないだけでなく、危険です」アーモットは語りかける。ここでは、250万ビューを超える Sandra Aamodt のTED講演を訳し、脳が体重をコントロールする仕組みについて理解する。

要約

アメリカでは少女の80%が10歳になるまでにダイエットを経験しています。神経科学者のサンドラ・アーモットは、ダイエットは成功しないだけでなく、危険である理由を科学的に探究しながら、脳が体重をコントロールする仕組みを、この誠実かつ赤裸々なトークで、自らの経験を通して講義します。彼女はダイエットに煩わされず本能的に生きる方法を提案します。

Sandra Aamodt explores the neuroscience of everyday life, examining new research and its impact on our understanding of ourselves.

 

1 空腹感とカロリーの消費は脳でコントロールされている

3年半前に 私は人生でベストの決断をしました。新年の誓いとして ダイエットをやめ 体重を気にしないことにし 五感で感じながら食事を摂ることにしたのです。今では空腹を感じたら普通に食事をしますが 5キログラムほど体重が減りました。

これは13歳の時の私 最初のダイエットを始めたときです。この写真を今見てみると 思いますが この人 ダイエットなんかより ファッション・アドバイスのほうが必要だった (笑) でも 私は体重を減らすべきと思いましたし 体重が戻ってしまったとき もちろん自分自身を責めました。それから30年間 様々なダイエットをやったり止めたりしました。何をやってみても 落とした体重は元に戻ってしまいました。多くの方がその気持ち分って下さいますね

私は神経科学者として ダイエットがなぜそんなに難しいのか疑問を抱きました。明らかに体重は 食べた量とカロリー消費量で決まります。多くの人が気が付いていないことは 空腹感とカロリーの消費は ほぼ無意識のうちに 脳でコントロールされているということです。脳が陰でいろいろと作用しているのです。それは良いことなのです。意識のある行動というものは ―どう表現したらいいのでしょうか― 少し散漫になり易いのです。映画に夢中になっているときに 呼吸をいちいち気にせずに済みます。夕食で何を食べようかと考えているときに 歩き方を忘れたりしません。

 

2 体重が大きく減ると空腹感が増し、筋肉のエネルギー消費量は減る

脳はどれだけの体重が必要か あなたが意識的に信じていることとは別に 理解しているのです。これをセットポイントといいます。でも誤解を招きやすい言葉です。というのは 4kgから7kg位の幅があるからです。ライフスタイルを変えることによって その範囲で体重を変えることができます。その範囲から出ようといくら努力しても 脳の一部である視床下部が 体重を制御するように働くのです。脳の中で「体重を増やせ」という1ダース以上の化学的な信号と 「体重を落とせ」という1ダース以上の化学的信号があって まるでサーモスタットのように機能し 飢え 活動 代謝といった 体中から発せられる信号に反応し 状況が変化しても体重を一定に保とうとするのです。

サーモスタットと同じですね? 外の天気の変化があっても 家の中の温度を一定に保ちます。冬に窓を開けて 部屋の温度を変えようとしても サーモスタットの設定は変わらないので 暖房が作動し 温度を元に戻そうとします。脳も全く同じように機能し 体重が落ちると 強力な仕組みで 正常と考えられる体重に戻そうとするのです。体重をひどく落とすと 飢餓状態にあると脳は判断し 元の体重が高くあれ低くあれ 脳は同様の反応を示します。あなたが体重を落としたいとかそうでないとか 脳が分ってくれると思いたいところですが そうではないのです。体重が大きく減ると 空腹感が増し 筋肉のエネルギー消費量は減るのです。コロンビア大学のルーディー・ライベル博士が 発見したことは 体重を10%落とした人は 代謝が抑制され エネルギーの消費が250から400カロリー減ることです。これは かなりの量の食べ物に相当します。ですからダイエットで落とした体重を維持するには 同じ体重で元から痩せていた人に比べ 食べる量をこれ程にも少なくし続けなければなりません。

 

3 人間の歴史において飢餓は過食よりも重大な問題

進化論の観点から見ると 体が減量に逆らうのには意味があるのです。食べ物が不足していた時我々の祖先の生存は エネルギーの無駄な消費を抑えることに依存し 食べ物があるときに体重を増やすことによって 次に来たる飢餓に備えていたのです。人間の歴史において 飢餓は過食よりも 重大な問題だったのです。このことが あるとても残念な事実に説明を与えます。セットポイントは上がり得るのですが 滅多なことで下がりません。もしあなたのお母さまが 人生なんて不平等と言ったら まさにこのことを言っているんですね (笑) ダイエットに成功してもセットポイントは下がりません。7年間も体重を抑え続けていたとしても 脳はなおも体重を元に戻そうとするのです。

体重の減少が長期の飢餓によるものであったら これは道理にかなった反応です。ハンバーガー・ショップのドライブスルーがある今の世の中では 多くの人にとってなかなか上手くいかないものです。祖先の時代と 飽食の現代の差が肥満の原因であると オタワ大学の ヨニ・フリードホフ博士は考えており 肥満患者たちを食べ物が少なかった時代に[タイムマシンがあれば それこそ最善の減量法だ] 連れて行きたいとさえ考えています。また 食をとりまく 環境を変えることが 肥満を防ぐ最善の解決方法だと 考えています。残念なことに 一時的な体重増が 恒久的なものになりうるのです。体重が高いまま長い間留まると 通常 数年程度も続けば 脳がそれがあなたの平常体重とみなしてしまうのです。

 

4 子ども達は特にダイエットと過食のサイクルに弱い

心理学者は食の観点から人を2つのグループに分類します。空腹感に反応して食べる人と ダイエットをする多くの人がそうであるように 自制心でコントロールしようとする人 これを直感的グループと自制的グループと呼びましょう。興味深いことに直感的グループの方が 太り過ぎになりにくく 食べ物の事を考えている時間が短いのです。自制的グループは (食べ物の)広告とか特大サイズの食べ物だとか 食べ放題のブッフェとかに弱く食べ過ぎになりやすいのです。ひとスクープのアイスクリームとかいった ちょっとした道楽が 自制的グループには 食べ過ぎにつながりやすいのです。子ども達は特に ダイエットと過食のサイクルに弱いのです。いくつかの長年の研究によると 10代の前半にダイエットを経験した少女達は たとえ標準的な体重から始まっても 5年も経てば 太り過ぎになる確率が3倍に高くなります。またこの分野における研究は何れも 体重増加と 同じ原因によって 摂食障害を起こしやすくなることを示しています。ところで (摂食障害の)別の原因は ― 皆様方ご両親が ― ご家庭でお子さんの 体重について からかうことですから そんなことしては いけませんよ (笑)

 

5 健康的な生活習慣は肥満者にとっても良い

グラフは殆ど全て 家に置いてきましたが これだけはどうしてもお見せしたかったのです。だって私は根っからの数字好きでそうやって生活しているのですから (笑) これは体に良いとされる4つの生活習慣が 死のリスクとどう関係しているか 14年間研究したものです。十分な果物と野菜を摂り 週3回運動し タバコを吸わず 飲酒はほどほどにするという4つの習慣です。まずは標準的な体重の人を 見てみましょう。棒グラフの高さは死に至るリスクを表しており 横軸の 0、1、2、3、4といった数字は その人に当てはまる 先ほどの良き生活習慣の数です。期待通りですが健康的な生活を送っている人の方が 研究中に死に至った人は少なくなります。過剰体重の人の場合 どうなるか見てみましょう。あてはまる良き生活習慣が全くない人は 死のリスクがより高まります。たった1つでも良い習慣があれば リスクを平常のレベルに下げるのです。肥満で良き生活習慣が全くない人は 研究対象となったもっとも健康なグループと比較し リスクが7倍にも高いのです。健康的な生活習慣は肥満者にとっても良いことなのです。実際 4つの良き生活習慣 全てに当てはまるグループは 体重によるリスクの差は殆どありません。健康状態は 生活習慣をコントロールすれば 体重を減量・維持できなくとも 正常に保つことができます。

ダイエットはあてになりません。ダイエットの後5年たてば 大抵の人はまた体重が戻ってしまいます。4割の人は元々の体重以上になってしまいます。そういうことですから ダイエットの結果はたいていの所 長い目で見ると体重が減るどころか 増加になるのがおちです。

 

6 五感を集中し、意識して食べる

ダイエットには問題があるということを 皆さんに分って頂けたなら ではどうしたらいいの?という質問がでますね。私の答えは一言でいえば五感を集中しなさい ということです。瞑想の仕方を学びなさいとか ヨガをしなさいと言っているのではありません。意識して食べることを言っているのです。身体の発する信号を理解し[意識して食べること] 空腹の時にこそ食事を摂りお腹が満たされたらそこでやめるというのは空腹でない時に食べると 体重が一気に増えるからです。どうやったらいいか? まずは食べたいだけ食べてみて 自分の体が丁度良いと感じる量を 考えてみて下さい。他所事に心乱されることなくいつもの食事を摂り 食べ始めと終わりに 身体がどう感じているか考えてみて下さい。それができたら 空腹感だけで 食事を終えるタイミングを決めて下さい。私はこれが分るまでに1年かかりました。でも本当に価値がありました。今では私の人生の中で 最もリラックスして食事しています。食べ物の事を考えないことさえしばしばあります。家にあるチョコレートの事さえ忘れてしまいます。エイリアンが私の頭を支配した感じです。全く変わってしまったのです。

これは言っておかなければなりません。この方法で減量はできないでしょう。空腹でもないのについ食べる人でもなければです。でも医者でさえ 多くの人に有効な 大幅減量の方法など知りません。だから 今や多くの人が 体重を落とそうとするのではなく 肥満予防に注目し始めているのです。現実を考えてみて下さい。ダイエットが上手くいくのなら皆とっくに痩せているでしょう? (笑) どうして同じやり方を続けながらも 自分だけいい結果がでると期待するのでしょう? ダイエットは害が無いように思えますが 実際には 思わぬダメージを与えます。一番悪いのは 人生をおかしくすることです。体重にこだわると 特に年齢の低い子供は 摂食障害を起こすことがあります。アメリカでは 10歳の少女の内 80%が ダイエットをしたことがあると言っています。娘たちの世代は格好良く見せることを 間違った基準で判断しています。ダイエットはよくとも 時間とエネルギーの無駄遣いに終わります。強い意志が- 子どもたちの宿題を手伝ったり 重要な仕事のプロジェクトをこなすのに必要ですが 強い意志には限界があるので 際限なくこれに頼るという戦略は 何か別の事に気持ちが移った時点で 結局失敗することは 目に見えています。

 

7 食欲のままに自然に食べれば良い

最後にもう一つ申し上げます。ダイエットしている少女たちに 空腹なら食べて良いのです と言い 食べることを恐れるのではなく食欲のままに 自然に食べれば良いのだと教えたら 彼女たちは より楽しく健康的な人生が送れるでしょう。そして大人になる頃には 体型もよりスッキリしているかもしれません。私が13歳の時に 誰かがこの事を 教えてくれていたら と思います。ありがとうございました(拍手)

 

最後に

空腹感とカロリーの消費はほぼ無意識のうちに脳でコントロールされている。体重が大きく減ると空腹感が増し、筋肉のエネルギー消費量は減る。人間の歴史において飢餓は過食よりも重大な問題。子ども達は特にダイエットと過食のサイクルに弱い。健康的な生活習慣は肥満者にとっても良い。食欲のままに自然に食べよう

和訳してくださったTomoyuki Suzuki 氏、レビューしてくださった Yuko Yoshida 氏に感謝する(2013年6月)。

最新脳科学で読み解く 脳のしくみ


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