前回は、債権債務関係が明確で債権金額が確定しているもの 償却対象債権についてまとめた。ここでは、回収不能見込額を貸借対照表の資産項目から引き落とすこと 直接償却について解説する。
1 形式基準による直接償却
概要(法人税基本通達9-6-1)
直接償却とは、回収不能見込額を貸借対照表の資産項目から引き落とすこと(オフバランス)である。無税償却の1つ。債権は切捨てや債務免除により法律的に消滅し、当該切り捨てられまたは債務免除された金額は貸倒となる。この場合の税務上の取扱については、基本通達9-6-1で以下のように規定されている。
- 会社更生による債権切捨て(1)
- 民事再生による債権切捨て(1)
- 特別清算による債権切捨て(2)
- 内整理による債権切捨て(3)
- 書面による債務免除(4)
主な改正経緯
基本通達9-6-1のような形式基準による直接償却の経緯は、主に以下の3つの過程を経ている。
- 昭和29年の国税庁通達の発遣
- 昭和39年の基本通達の改正
- 昭和44年の新基本通達
会社更生による債権切捨て
会社更生法は、窮境にあるが再建の見込みのある株式会社について、債権者、株主その他利害関係人の利害を調整しつつ、その事業の維持更正を図ることを目的とする法律である(会社更生法1条)。更生手続開始の申立てがあった場合には、裁判所による更生手続開始の決定、管財人の選任、管財人による更正計画案の作成、関係人集会による更正計画案の可決、裁判所による更正計画案の認可の決定、管財人による更正計画の遂行という順で手続が進められていくことになる。
民事再生による債権切捨て
民事再生法とは、経済的に窮境にある債務者の事業または経済生活の再生を目的とするものである。和議法(2000年4月1日廃止)の特徴であった簡素な手続構造を維持しつつ、再建計画の可決要件を緩和する一方で、その履行確保を強化した。
特別清算による債権切捨て
特別清算とは、会社の清算に際して、その遂行に著しい支障をきたすべき事情があると認められるときや会社に債務超過の疑いがあると認められるときに、裁判所が清算人、債権者、株主もしくは監査役の申立てにより、または職権により特別清算開始命令を発することによって開始される手続であり、裁判所の厳重な監督の下で行われる特殊な清算手続である(商法431条以下)。破産法で定める「破産」は債務者の全財産を債権者に平等に配分するが、特別清算は債権者の多数決で分配額を決める。また破産手続きと異なり、債権調査・確定の手続きがなく、原則として従前の清算人がそのまま清算手続きを行なえる。
内整理による債権切捨て
内整理とは、①債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているものと、②行政機関または金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約で、その内容が①に準じるものである。手続の簡素化のために債権者の同意を得て行われる。
書面による債務免除
書面による債務免除とは、①債務者の債務超過の状態が相当期間(2年以上)継続し、②その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、③その債務者に対し債務免除額が書面により明らかにされた場合に認められるものである。
また、債務免除がその債務者に対する贈与と認められる場合には、貸倒とはならない。
2 実質基準による直接償却
概要(法人税基本通達9-6-2)
貸金等につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒として損金経理をすることができる。ただし、当該貸金等について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒として損金経理(法人がその確定した決算において費用又は損失として経理すること)をすることができない。
なお、保証債務は現実にこれを履行した後でなければ貸倒の対象にすることはできない。基本通達9-6-2では以下のように規定されている。
- 債権の全額が回収不能であること
- 担保物が処分済みであること
- 貸倒損失処理の時期
- 償却関係書類の保管
- 保証人、割引手形等の支払人などの調査
- その他の留意事項
主な改正経緯
本通達においては、債権の切捨てなど形式基準に該当しない場合における実質基準による直接償却の取扱が定められている。主な改正経緯は以下の4つ。
- 昭和25年の基本通達の制定
- 昭和39年の改正
- 昭和42年の改正
- 昭和55年の改正
全額回収不能であること
法律上消滅していない貸金等について、事実上回収不能であることを理由として貸倒処理(直接償却)することができるのは、貸金等の全額が回収不能である場合に限られることを基本通達は明示している。
担保物が処分済みであること
実質基準により貸倒処理を行おうとするには、すべての担保物が処分されていることが必要である。したがって、回収不能となった貸金等について、担保物の価値が貸金等の金額に満たないことを理由に、その満たない部分の額を担保物の処分完了前に貸倒損失とし損金に算入することは認められない。
貸倒損失処理の時期
全額回収不能となった債権を貸倒処理することができるのは、そのことが明らかとなった事業年度においてであって、それ以外の時期に貸倒処理することは認められない。
償却関係書類の保管
法人は、帳簿を備え付けてその取引を記録するとともに、その帳簿と取引等に関して作成又は受領した書類を、その事業年度の確定申告書の提出期限から7年間保存しなければならない(5930 帳簿書類等の保存期間及び保存方法)。
保証人、割引手形等の支払人などの調査
保証人や割引手形等の支払人などの人的担保がある場合においても、物的担保の場合と同様に、これらを追及した後でなければ貸倒処理は認められないと解すべきである。
最後に
直接償却には、形式基準によるものと実質基準によるものの2つがある。前者の方法には会社更生・民事再生・特別清算・内整理による債権切捨てと、書面による債務免除の5つがある。後者を行う条件は、債権の全額が回収不能、担保物が処分済み、保証人、割引手形等の支払人などの調査などが挙げられる。よりよい債権処理方法を学ぼう。
次回は、個別評価債権に係る貸倒引当金への繰入れ 貸倒引当金勘定について解説する。