前回は、麻生政権での政令による改革逆行 自民党による公務員制度改革3についてまとめた。ここでは、二重権力構造の利用は官僚の常套手段 公務員労組にも配慮した鳩山政権について解説する。
マヤカシの「降格」制度
2010年2月、鳩山内閣は霞ヶ関改革にかかわる2つの法案「国家公務員法等改正案」と「政治主導確立法案」を閣議決定し、国会に提出した。まず「国家公務員法等改正案」の柱は、以下の2つである。
- 内閣の人事機能の強化
- 幹部人事の一元管理
- 幹部の人事制度(降格制度)
- 「内閣人事局」の設置
- 天下り規制の改正
これらの制度はほとんどが自民党政権のものだが、特に幹部の人事制度において2つの問題があった。1つは、「次官・局長・部長を同一の職制上の段階とみなす」という案に落ち着いたことである。もう1つは、次官・局長・部長の範囲内での入れ替えは自由にできるが「幹部から外す」ことができないことである。前者は、同一の職制上の段階にもかかわらず、給与は2300万円、1800万円、1500万円と序列は維持されたままである。後者は、次官・局長・部長を課長以下に降格させることができないため、優秀な若手や民間人を幹部に抜擢登用することができないのである。
甘利法案よりも後退した「内閣人事局」
内閣人事局においては、甘利法案よりも後退した。鳩山内閣の法案では「幹部の人事異動の原案作成と調整」という以上に何の権限も持たせていないのである。甘利法案では、例えば、総務省の定員管理の機能(ある部署に何人の人員を配置できるかを決める権限)、人事院の級別定数管理の機能(あるポストの給与水準を決める権限)などが含まれていたが、鳩山内閣の法案にはこうした機能がないのである。
特に、人事院の機能を移管できないと、最終的には人事が調整不能になってしまう。人事院は閣僚の指揮を受けない第三者機関であるため、自民党時代に谷人事院総裁がノーと言い続けたように、いつまでも課題を実現するための人事ができないことになりかねないのである。なお、こうした鳩山内閣の法案には、民主党の支持母体の公務員労組の意向があると考えられる。
重要課題はことごとく先送り
つまずきの始まりは天下り人事 司令塔なきゲリラ戦だった民主党でも述べたように、実質的に天下りを容認し、天下り規制の改正もほとんど実施しなかった。野党時代には「早期退職勧奨の禁止」を主張していたが、法案提出後、10年3月に入って「退職勧奨はやらざるを得ない」と軌道修正を行った。
こうした民主党の迷走の背景には、天下りの根絶に対する躊躇があるのだろう。現行の給与体系と身分保障制度をそのままに、リストラも降格もできない状態のまま単に天下りをなくせば、高齢の公務員たちが役所に滞留することになるからである。これによって人件費は爆発的に膨らみ、マニフェストで掲げた「国家公務員人件費二割削減」など到底実現できない。この問題を解決するためには、給与体系を抜本的に改める必要がある。
「政治主導確立法案」では、国家戦略局の正式設置、行政刷新会議を法律上の組織に格上げ、総理補佐官の増員などの項目が盛り込まれている。しかし、その方法論の議論が尽くされておらず、例えば「事務次官ポストの廃止」などが先送りとなった。
また、国家戦略局についても国家戦略担当大臣が法文上どこにも出てこない。法文上は、担当の大臣は官房長官、その下に官房副長官の兼務する「国家戦略局長」を置くとなっている。法律を改正しているのだから、実質的に「こうしたい」と考えていることがあるならば、その通りに条文に書けばよいのだ。こうした「実質的な権力者」と「形式的な権力者」を分けておくことが、官僚主導の常套手段なのである。
最後に
鳩山政権では官僚と公務員労組への配慮によって脱官僚が風化してしまった。それは、抜擢人事のできない降格制度や権限のない内閣人事局、そして重要課題の先送りに端的に表れている。政党は支持母体を裏切れない。
次回は、官僚を選び、閣議を討論の場とし、人事院と身分保障を廃止せよ 脱官僚の実現法についてまとめる。
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