「Duolingoの最も刺激的な点は語学教育に公平さをもたらすビジネスモデルだということです」当時内密のプロジェクトについてルイスは語る。ここでは、120万ビューを超える Luis von Ahn のTED講演を訳し、語学教育をしながら無料で翻訳ができる方法を学ぶ。
要約
CAPTCHAを作り変え、ユーザ入力で本の文字データ化に貢献できるようにした後、ルイス・フォン・アーンは膨大なインターネットユーザの小さな貢献を結集することで何か大きな目的を達成できるようなものが他にないかと考えました。TEDxCMUで彼は、何百万という人に外国語の学習をしてもらいつつ、ウェブの翻訳を素早く正確にタダでやってもらおうという、野心的な新しいプロジェクトDuolingoの紹介をしています。
Luis von Ahn builds systems that combine humans and computers to solve large-scale problems that neither can solve alone.
1 スパム防止の認証システム CAPTCHA
こんな風にゆがんだ文字を読んで フォーム入力をしたことある人? すっごく煩わしいと思った人は? やっぱりみんなそうですよね 考案したのは私です (笑) まあ 考案者の1人ですね。これはCAPTCHAと呼ばれています。これの目的は 入力しているのが 確かに人間で 何百万回もフォームを送信するように作られたプログラムではないと確認するためです。どうしてこれがうまくいくのかというと 目の見える人であれば こんな ゆがんだ文字でも問題なく読み取れますが コンピュータには まだそれができないからです。例えばチケット販売サイトのチケットマスターが ユーザにゆがんだ文字を読ませるのは 一度に何百万枚もチケットを注文する? プログラムをダフ屋に作らせないためです。
2 「WAIT」「RESTART」という不幸
CAPTCHAはネットの至る所で使われ あまりに多く使われているので ランダムに選ばれた文字列が 不運な結果になることがあります。これはヤフーのユーザ登録ページの例ですが ランダムな文字列がたまたま 「W A I T」(待て)という 意味ある単語になっています。ここで傑作なのは ヤフーのヘルプデスクが20分後に受け取ったメッセージです。「どうなってるんでしょう? 20分以上待っても何も起きないんですが?」「どうなってるんでしょう? 20分以上待っても何も起きないんですが?」 この人は待たなきゃいけないと思ったようです。しかしそれも この人ほど不運ではないでしょう。「RESTART」(やり直せ) (笑)。
3 CAPTCHAの進化形 reCAPTCHA
CAPTCHAは 私たちが10年以上前に ここカーネギーメロン大学で開発し 広く使われるようになりました。次に その何年か後に作った CAPTCHAの進化形の話をしましょう。これは reCAPTCHAと呼んでいるもので ここカーネギーメロン大学でやり始めて それをベンチャー企業にしました。そして1年半ほど前に グーグルがその会社を買収しました。
4 人類は毎日50万時間もムダにしている
そのプロジェクトがどう始まったかですが あるすごいことに気づいたのがきっかけでした。CAPTCHAは世界中の人によって 毎日2億回も入力されているのが分かったのです。最初このことを聞いて 自分の研究成果の 影響の大きさに 随分誇らしく思えたのですが それから申し訳ない気持ちになりました。それというのも CAPTCHAの入力には 毎回10秒ほど時間を無駄にすることになりますが これを2億回と掛け合わせると 人類は全体として この煩わしいCAPTCHAへの入力のため 毎日50万時間も無駄にしているわけです。申し訳ない気にもなります。
5 コンピュータでは解けない問題を人間に解かせられないか
ある意味 ウェブの安全に貢献しているCAPTCHAを 単になくしてしまう訳にはいかないのですが この労力を何か人類の役に立つことに 利用できないかと考えました。どういうことかと言うと CAPTCHAに入力する10秒間で 人の脳は実はものすごいことをしています。コンピュータには未だできないことです。その10秒でユーザに何か有益な作業をさせられないか? 言い換えると 現在のコンピュータでは解けない 巨大な問題を10秒分の断片に分割して CAPTCHA入力の際 人間に 解かせられないかと考えたのです。答えはイエスで それが私たちの今していることです。
6 本の電子化にも貢献している
実は CAPTCHAを入力するとき 皆さんは 人間だと証明するだけでなく 本の電子化にも貢献しているのです。その仕掛けを説明しましょう。本の電子化プロジェクトはいろいろあって グーグルもやっていますし インターネット・アーカイブでもやっています。アマゾンも今やキンドルで本を電子化しています。それには まず古い本を取り上げて・・・ こういう形のあるやつですが・・・ あの 見たことありますよね? 本っていうんですけど? (笑) まず本を選んで それをスキャンします。
7 OCRで認識できなかった語を読んでもらう
本のスキャンでは 各ページのデジタル写真を撮ります。すべてのページについて 文字部分を画像にするわけです。次にその画像の中の語を コンピュータで解読する必要があります そのために OCR (光学文字認識) という技術を使います。文字を写真に撮って 写真の中の文字を読み取ろうとするわけです。問題はOCRが完璧ではないということで 特に文字がかすれたり ページが黄色くなっているような古い本では OCRで読めない語がたくさん出てきます。50年以上昔に印刷されたような本では 語の3割はコンピュータで読み取れません。それで私たちがやっているのは コンピュータで認識できなかった語を CAPTCHAの入力をする人に 読んでもらうということです。
8 10回繰り返してすべて一致していたら電子化される
皆さんがCAPTCHAの入力をするときに表示される文字は 電子化中の本で コンピュータが 認識できなかった部分なのです。この頃では 語が1つでなく2つ 出てくるようになっていますが 1つはシステムが本から取ってきたもので コンピュータが読めなかったものを出しています。正解を知らないので ユーザの入力が正しいのか分かりません。それで確認のために もう1つ 正解の分かっている問題を出します。どっちがどっちかは言わず 両方入力してもらいます。正解の分かっている方の問題に 正しい答えが入力されたら 入力しているのは人間で もう一方の入力も 正しいだろうと期待できます。これを違う人で10回ほど繰り返して 入力がすべて一致していたら 本の1語が新たに電子化されるわけです。
9 1日1億語、1年250万冊分電子化されている
それがこのシステムの仕組みです。このシステムを公開したのは3、4年前ですが すでに多くのウェブサイトが 時間を無駄にする古いCAPTCHAから 本を電子化する新しいCAPTCHAに切替えています。だからチケットマスターでチケットを買うときも 皆さんは本の電子化に貢献しているのです。フェイスブックで友達の追加や挨拶をするときも 何かの本の電子化に貢献しているのです。ツイッターをはじめとする35万のサイトがreCAPTCHAを使っています。reCAPTCHAを使っているサイトは非常に多く 1日に電子化される語の数は相当なものになります。1日に1億語 1年では本にして250万冊分にもなります。それがすべて 1度に1語ずつ 人々によるCAPCHA入力だけで行われているのです。
10 誰彼となく侮辱することもある
毎日それほど? 多くの語を扱っているので おかしなことも起こります。今はランダムに選ばれた 2つの単語を繋げて出しているので 余計おかしなことが起きやすくなっています。たとえばある時 「クリスチャン」という語が出ました。これ自体おかしいことは何もありませんが 別のランダムに選ばれた語と組み合わせると まずいことになり得ます。こんな風に (悪しき クリスチャン) さらに不運なことに この文字が表示されたのは たまたま「神の国の大使館」というウェブサイトでした (笑) まずっ (笑)。もう1つまずかった例は 民主党議員ジョン・エドワーズのサイトです (リベラル派のサイトで「くそ リベラル」と表示されている) (笑)。誰彼となく侮辱して回っているわけです。
11 何か面白い遊び方もできる
もちろん侮辱ばかりというわけではありません。ランダムに選んだ2つの語を出しているので 何か面白いものになることもあります。実際これはインターネット上で 大きなミームになっていて 何万という人がこの 「CAPTCHAアート」で遊んでいます。お聞きになったことのある人もいるでしょう。どんなことをするかというと インターネットを使っていて CAPTCHAで何か変なものが出たとします。たとえば 「見えない トースター」とか とりあえず画面コピーを取って それからもちろん CAPTCHAの入力をします。本の電子化にまずは貢献するためです。それからCAPTCHAの画像に 関連する絵を描き加えます。“見えない トースター” (笑) これが遊び方です。こういう作品が何十万とあります。中には可愛らしいのもあります。“それを 握りしめた” (笑) もっと おかしいのもあります。“ラリってる 建国者たち” (笑) 。この 「古生物学的 シャベル」みたいに ラッパーが登場するやつもあります (相棒よう 取ってくれよう そのシャベル) (笑)。
12 7億5千万人が人類の知識のデジタル化に貢献している
次にこの数字は reCAPTCHAについて 私がとても嬉しく思っている点で、reCAPTCHAを通して本の電子化に 多少なりとも貢献している人の数は 7億5千万人に上ります。世界人口の10%以上が 人類の知識のデジタル化に貢献しているのです。このような大規模な数字こそが 私の研究の原動力になっています。こんな疑問を持ったのです。人類が達成した偉業 人々の協力によって為された 歴史的大事業に目を向けてみると、エジプトのピラミッドにしても パナマ運河にしても 月に人を送ることにしても 興味深い共通点があります。いずれも携わった人の数が同じで 不思議なことに どれも10万人によって成し遂げられているのです。その理由は インターネット以前の時代には 10万より多くの人を協調させるのは 資金の有無にかかわらず そもそも不可能だったのです。しかしインターネットのおかげで 人類の知識の電子データ化には 7億5千万もの人が参加しているわけです。私の研究の契機となった疑問は 10万人で月に人を送れるのなら、その千倍の1億人では何ができるだろう ということです。
13 Duolingo という内密のプロジェクト
この疑問から出発して いろんなプロジェクトに取り組みました。中でも特にワクワクしているものについてお話ししましょう。1年半ほど密かに取り組んできて まだ公開していませんが Duolingoという名前で 公開前なのでどうか内密に (笑)みなさん信頼していますから。このプロジェクトが始まったのは 院生のセベリン・ハッカーに ある問いを投げかけたときでした。これがセベリン・ハッカー 私のところの院生です ちなみに聞き間違いじゃなく 本当に「ハッカー」という名字なんです。私は彼に聞きました 「1億人を使って ウェブを無料で 各主要言語に翻訳しようと思ったら どうすればいい?」。
14 ウェブを無料で各主要語に翻訳できないか
この質問にはいろいろ考えるべきことがあります。第一にまず ウェブを翻訳するということ。現在ウェブでは様々な言語が使われていますが 大きな部分を英語が占めています。英語を知らなければ その情報にアクセスはできません。しかし他の言語の部分もたくさんあって その言語を知らなければ それにアクセスすることはできません。だからウェブの全体 少なくともその大部分を 主要なすべての言語に翻訳したい。それが私のやりたいことです。
15 機械翻訳は精度が不十分
コンピュータで翻訳したらいいと思う人もいるかもしれません。機械翻訳でいいのでは? 今や方々で機械翻訳が使われるようになっています。ウェブ全体をそれで訳してしまったら? 問題は 精度が不十分だということです。この先15-20年は駄目でしょう。たくさんの間違いをします。仮に間違っていなかったとしても いつも間違ってばかりいるので 信頼していいのか分かりません。
16 「これは父の石への侮辱でしょうか」
機械で翻訳されたものがどんなものか 例をお見せしましょう。これはあるフォーラムの投稿で JavaScriptについての質問をしています。日本語から英語に機械翻訳されています。読んで頂ければと思いますが この人は最初に 機械翻訳であることを謝っています。次の文は質問の前置きで 何かの説明をしています。JavaScriptの質問だということをお忘れなく (よくヤギ時にインストールするエラーがゲロになります) (笑)。それから質問の最初の部分が来ます (風や竿やドラゴンのようになるのは何回ですか?) (笑)。次は私のお気に入りの部分です (これは父の石への侮辱でしょうか?) (笑)。そして最後が極めつけです (あなたの愚かさを謝ってください ありがとうがいっぱいです) (笑)。機械翻訳は まだ不十分だということです。元の話に戻りましょう。
17 1億人の人にタダでやってもらいたい
ウェブ全体の翻訳をしてくれる人が必要です。さて次の疑問は「別にタダでなくても いいのでは?」ということでしょう。ウェブ全体をプロの翻訳家にお金を払って翻訳してもらえばいい。そうしてもいいかもしれませんが あいにくと ものすごくお金がかかります。たとえば巨大なウェブ全体からすればほんの小さな部分 ウィキペディアの英語版をスペイン語に訳すとしましょう。ウィキペディアにはスペイン語版もありますが 英語版にくらべたらずっと小さく サイズにして20%くらいしかありません。残りの80%をスペイン語に翻訳しようと思ったら 少なくとも5千万ドルはかかります。甚だしく搾取された国にアウトソースした場合でそうなんです。プロの翻訳というのは高くつくのです。それで私たちがやろうとしているのは ウェブの各言語への翻訳を 1億人の人に タダでやってもらうということです。
18 バイリンガルの不足と動機づけの欠如が壁
そうしたときにすぐ直面する 大きな壁が 2つあります。1つはバイリンガルの不足です。インターネット利用者に 翻訳ができるほどのバイリンガルが そもそも1億人もいるのかわかりません。これは大きな問題です。もう1つの問題は動機づけの欠如です。どうすればウェブをタダで翻訳するよう 動機づけられるのか? 通常はお金を出して翻訳してもらいます どうすればタダでやりたくなるのか? ウェブの翻訳を考え始めてすぐ この2つの問題にぶつかりました。それから 2つの問題を同時に解決できる 方法があることに気づきました。一石二鳥の方法があるのです。翻訳を 何億という人がやりたがることに変え それがバイリンガル不足の問題の 解決にもなるということ、それは語学教育です。
19 外国語をタダで学び、同時にウェブの翻訳もする
今日 外国語を学習している人は 12億人以上います。みんな本当に外国語を学びたがっているのです。学校で勉強させられるからというばかりではありません。たとえばアメリカだけでも 外国語学習ソフトに500ドル以上使う人が 5百万人以上います。みんな本当に外国語を習いたがっているのです。それで私たちがこの1年半取り組んできたのは Duolingoというウェブサイトで その基本的な仕組みは みんなが外国語をタダで学び、同時にウェブの翻訳もするということです。つまり実践を通して学ぶわけです。
20 翻訳を実践して学ぶ
初心者に対しては ごく単純な文を提示します。ウェブにはもちろん使える文がふんだんにあります。すごく単純な文と それぞれの単語の意味が提示されます。翻訳しながら 他の人はどう訳しているか見て 外国語を学んでいきます。上達するにつれ より複雑な文が提示されるようになります。しかし実践して学ぶという点はいつも変わりません。
21 本物のコンテンツで学ぶ
この方法の何がすごいかというと 実際非常によく機能するということです。何より みんな本当に外国語を学びたがっています。システム構築が済んで テスト中ですが 本当に外国語を学ぶことができます。優れた外国語学習ソフトを使った場合に劣らず上達し 本当に外国語を身に付けているのです。しかも同様に上達できるだけではありません。はるかに楽しく学べるのです。Duolingoでは本物のコンテンツを使って学ぶからです。作り物の文章で学ぶのではなく 本物のコンテンツで学ぶ方が 本質的に興味深いものですし、本当に外国語を学ぶことができます。
22 複数の初心者の翻訳から良いところを取って組み合わせる
それだけでなく さらに驚くのは このサイトから得られる翻訳は 彼らが初心者であるにもかかわらず プロの翻訳者に劣らず正確だということで 驚くほどです。例をお見せしましょう。これはドイツ語から英語に翻訳された文章です。一番上がドイツ語 真ん中が プロの翻訳家による英訳で 1語につき20セント払っています。一番下がDuolingoユーザによる英訳で 彼らは元々 ドイツ語は全く知りませんでした。ほとんど完璧なことがお分かりになると思います。プロの翻訳家並の翻訳にするため ちょっとした仕掛けをしてあります。複数の初心者の翻訳から良い所を取って 組み合わせているのです。
23 数百万のユーザがいるため早く行える
しかし組み合わせているのにかかわらず このサイトでは翻訳を非常に早く行えます。それでウィキペディアを英語から スペイン語に翻訳するのにかかる時間を 見積もってみました。これは5千万ドルに値する仕事だということを思い出してください。ウィキペディアをスペイン語に訳すには アクティブユーザ10万人なら5週間でできます。アクティブユーザ百万人なら80時間です。これまで私のプロジェクトはどれも数百万のユーザを得ていたので このプロジェクトでも非常に早い翻訳が できるようになると期待しています。
24 語学教育に公平さをもたらすビジネスモデル
Duolingoの最も刺激的な点は 語学教育に公平さをもたらすビジネスモデルだということです。何が問題だったかというと 今までの語学教育のビジネスモデルは 学習者にお金を払わせるということです。つまり ロゼッタストーンに500ドル払うわけです (笑)。それが現在のビジネスモデルです。このモデルが問題なのは 世界の人口の95%は500ドル払うことができないからです。貧しい人たちにはとても不公平な お金持ち向けに特化したモデルです。一方Duolingoでは 学びながら翻訳をして 価値を生み出すので、たとえば どこかに翻訳料を払ってもらうこともでき それが収益を得る方法になります。学習者は学習しながら価値を生んでいるので 授業料は必要ありません。時間で支払っているのですから そして その時間にしても 語学学習にはどの道必要なもので 時間を余計無駄にするわけではない というのが素晴らしいところです。貧しい人の不利にならないフェアなモデルというのが Duolingoの優れたところです。
25 Duolingoの開始をお待ちください
これがDuolingoのアドレスです (拍手)。このサイトは正式公開前ですが ここに来れば 非公開ベータへの参加申し込みができます。3、4週間以内には開始されるでしょう。Duolingoの開始をお待ちください。ここでお話ししているのは私ひとりですが Duolingoの開発は ここに挙げた人をはじめとする優れたチームによって行われています。どうもありがとうございました。
最後に
Duolingoはすでに始まっています。語学教育に、いつまでお金を払いますか?
和訳してくださったYasushi Aoki 氏、レビューしてくださった Akinori Oyama 氏に感謝する(2011年12月)。
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