前回は、デフレ、復興増税、TPP、公務員制度改革、道州制 日本の大問題についてまとめた。ここでは、大蔵省の「財テク」規制が株価暴落のきっかけ バブル崩壊と不良債権について解説する。
1 「失われた20年」の引き金となったバブル崩壊
黙っていても就職できたバブル時代
バブル時代には黙っていても就職できたといわれる。バブル景気の時期については諸説あるが、一般には1987年から1990年までとされている。日経平均株価は1万5000円くらいから上昇し、1989年12月29日には歴代最高値の3万8915円を記録している。一方、マクロ経済も名目経済成長率は5〜8%、実質経済成長率は4〜5%、失業率は2〜2.7%程度、インフレ率は0.5〜3.3%と、非常に好調だったのだ。
大蔵省の「財テク」規制が株価暴落のきっかけに
そんなバブル崩壊の引き金となった株価暴落のきっかけは、1989年12月に大蔵省が行った「財テク」規制だった。財テクとは、株式運用で得た含み益をバランスシートに顕在化させることなく、その含み益を元手に新たな株式投資ができるというスキームである。つまり、株式投資で儲かっていてもその事実を公にすることなく、もうけをどんどん株式投資につぎ込める仕組みである。この財テクを規制する通達を出したことをきっかけにして、バブルは崩壊した。
世界的に見れば平均的だった日本のバブル
ただし、世界的に見れば日本のバブルは平均的である。世界銀行のレポートによれば、世界では1970年から2007年の間に、124の不良債権問題による銀行危機が発生している。このレポートによれば、日本のバブル崩壊によってもたらされた銀行危機の財政コストはGDP(国内総生産)の14%、生産損失は18%とされているが、世界各国の銀行危機の平均的な財政コストはGDPの13%、生産損失はGDPの20%なのである。
バブルが崩壊したら、大胆な金融緩和によって物価の下落を食い止めるのが普通である。しかし、日本は反対に金融を引き締め、「失われた20年」と呼ばれる長期デフレ不況をまねいたのである。
2 バブル景気は何が悪いのか?
バブルだった事実は弾けてからようやくわかるもの
全FRB(米連邦準備制度理事会)議長のアラン・グリーンスパン氏は「バブルは崩壊して初めてバブルとわかる」と言ったとされる。ただの好景気とバブルとは、それほど見分けがつかないものなのである。
バブルの方が失業率は低く、国民は幸せ?
バブル景気に対して否定的なイメージを持つ人も多いが、バブル自体は悪とはいえない。バブル時代の方が景気はいいし、雇用も安定している。もちろんバブルが弾ければ、企業が運用損や業績悪化によって苦しみ、雇用は悪化する。しかし、中央銀行が適切な金融緩和政策を実施すれば、1〜2年も経てば解消されるのだ。
「失われた20年」の間、日本の自殺者数は年間3万人と非常に高い水準で推移してきた。バブル景気の頃の自殺者は年間約2万人と1万人も少ない。バブルを必要以上に恐れてデフレ不況に耐えるより、適切な金融政策によって安定的に成長できるほうが望ましいだろう。
3 不良債権処理の遅れがもたらした銀行危機
銀行の安易な貸付がそもそもの火種
不良債権問題が深刻化したそもそもの原因は、バブル時代に多くの銀行が甘い審査のもとで安易な貸付を行っていたことにあるとされている。「地価は上がり続ける」という根拠のない見通しをもとに担保価値を上回る金額を貸し付けたり、抵当権の順位がかなり低い不動産を担保に資金を貸したりする銀行もあったのだ。
大蔵省ですらわからなかった不良債権処理の方法
一方、不良債権が発生した場合への銀行の備えが不十分だったことが問題を深刻化させたともいえる。当時の銀行の監督官庁である大蔵省ですら、不良債権の適切な処理方法を理解していなかったのだ。その理由は、バブルが崩壊するまで、日本の金融機関が本格的な不良債権問題を経験したことは一度もなかったからである。
不良債権をなくすためには「引当」という会計上の処理を行うのが基本である。破綻懸念先や実質破綻先への貸出債権が不良債権化することをあらかじめ想定し、損失の見込額を貸倒引当金として負債計上するというものである。いわば貸出債権に対する保険のようなもので、不良債権になければ引当金は利益として計上することもできるのだ。
適切に処理すれば60兆円もの公的資金投入はいらなかった
大蔵省は1994年2月に「金融機関の不良債権問題についての行政上の指針」という通達を出したが、これには大きな抜け穴があった。経営再建計画が策定されている破綻懸念先や実質破綻先への債権については「引当金は不要である」と言う見解を口頭で伝達したのだ。1998年10月に事実上は端子、特別公的管理という名目で「一時国有化」された長銀などは、この見解を悪用して形式的な再建計画書を作成し、引当金を積まなくて済むようにしたのである。さらに通達では、不良債権の処理については「計画的・段階的処理」との方針を掲げており、銀行が引当を先延ばしする口実となったのである。
監督当局である大蔵省が、引当の先延ばしを容認するような甘い指導をせず、銀行も事前に十分な引当を実施していれば、60兆円もの公的資金投入は必要なかったのである。
4 現在に至るまで続く赤字国債発行
税収が上がらないから赤字が増える
国の借金(債務残高)が増え続けている原因は、税収不足である。日本の一般会計税収は、1990年の約60兆円をピークに減少傾向が続いている(2011年度は約43兆円)。一方、一般歳出は90兆円を超えているのだから、半分以上を赤字国債などの借金で賄わなければならないことは明らかである。つまり、赤字を減らすためには景気を良くすることが不可欠である。
小渕・麻生両政権で赤字国債の発行額が急増!
赤字国債の発行額が急増したのは、小渕恵三政権(1998年7月〜2000年4月)と麻生太郎政権(2008年9月〜2009年9月)の時代である。小渕政権は、総事業規模17兆円に達する緊急経済対策を実施し、国・地方合わせて9兆円規模の大型減税を行った。また、麻生政権は、総額75兆円の大型景気対策を実施し、定額給付金やエコカー減税などが行われた。
そもそも日本の法律では、赤字国債の発行が原則禁止されている。しかし、高度経済成長のひずみで深刻な不況が訪れたことから、1965年に特別法を成立させて戦後初の赤字国債を発行した。その後、赤字国債は景気の変動に応じて発行され、1994年以降は毎年発行されるようになっているのだ。
財政出動に景気浮揚効果はない
赤字国債が近年大きく膨れた原因は、景気を刺激するための大型財政出動であったことがわかる。しかし、財政出動には一時的に景気を刺激する効果はあっても、景気を本格的に上向かせる効果は期待できない。その根拠が、1999年にノーベル経済学賞を受賞したロバート・マンデルとジョン・マーカス・フレミングによる「マンデル・フレミング理論」である。
この理論によれば、日本のように為替制度が変動相場制の国では、財政政策よりも金融政策の方が効果的だとされる。その論理は、以下の5つである。
- 財政出動を行うには国債を発行して市中から資金を集める
- 市中のお金が減るので金利が高くなる
- 変動相場制のもとでは金利が高くなるとその国の通貨が上がる(円高になる)
- 円高になると日本からの輸出が減って輸入が増える
- 民間経済は落ち込み、財政出動効果は相殺される
これに対し、金融政策を行って市中のお金を増やすと金利が下がるので、円安になる。その結果、輸出が増えて輸入が減り、経済は好転するのである。
5 失業率の悪化と貧富の二極化の原因は?
失業率を改善させるのは日銀の仕事
失業率を改善させるために唯一有効なのは、金融緩和政策である。デフレ、復興増税、TPP、公務員制度改革、道州制 日本の大問題でも少し述べたように、雇用と物価との間には明確な逆相関関係が存在する。つまり、日本の失業率が高止まりしている理由は、これまでの日銀による金融緩和が不十分で、デフレから脱却できていないからである。「フィリップス曲線」によれば、インフレ率が2%ならば、日本の失業率は3〜3.5%になる。日本では、失業率を改善させるのは厚生労働省の仕事であるかのように思われがちだが、実は日銀の仕事なのである。
「小泉改革で格差拡大」は事実ではなかった
「小泉改革で格差拡大」は事実ではなく、むしろ格差は縮小していることがわかった。所得格差の大きさは、ジニ係数という指標で見ることができる。ジニ係数は0〜1で示され、数値が0に近いほど所得格差が小さいことを表す。日本のジニ係数は厚労省が3年に1度の周期で発表しているが、最新の2008年調査(2010年発表)は0.3758で、前回調査(2005年)の0.3873よりも改善されていた。
たしかに非正規雇用者数は拡大したが、経済政策によって経済は好調だったので、税や社会保障による所得再分配も進み、結果として格差が是正されたのだ。「経済のパイが大きくなれば、再配分効果によって格差は縮小する」ということである。
最後に
日本のバブルは世界的に見ても平均的。大蔵省の不良債権処理の甘さと、銀行の引当金積立の先延ばし、さらには必要ない金融引き締めが「失われた20年」をつくった。「経済のパイが大きくなれば、再配分効果によって格差は縮小する」金融緩和政策を有効に活用しよう。
次回は、護送船団方式と拙速なゼロ金利解除 政治主導不在と経済無策についてまとめる。
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