前回は、護送船団方式と拙速なゼロ金利解除 政治主導不在と経済無策についてまとめた。ここでは、霞が関埋蔵金と公務員制度改革の頓挫 かすかな希望と官僚組織の逆襲について解説する。
1 公務員制度改革はなぜ頓挫してしまったか?
第1次安倍政権が制度改革の最初
国家公務員の人事や採用の見直し、そして天下り斡旋禁止などを骨子とする公務員制度改革が動き出したのは、第1次安倍晋三政権(2006年9月〜2007年9月)の時代である(年功序列制の廃止と各省庁による再就職の斡旋禁止 公務員制度改革の肝参照)。しかし、民主党前政権(2009年9月〜2012年12月)によって完全に骨抜きにされてしまった。政治主導をうたっていた民主党が、政権を取った途端、官僚たちにいいように丸め込まれてしまったことが最大の原因だろう。
政治主導を実現するには公務員制度改革が不可欠
そもそも現在の公務員制度は、明治時代から120年以上も続く古い制度である。その最大の特徴は、官僚の「中立性」を重視していることだ。行政の一貫性は保たれるが、官僚たちが政治家のいうことを聞かなくなる仕組みだということである。この状況を打破するには、大臣にある程度の政治任用権限を与え、民間や学術界などの人材も広く登用する制度に変えていくことが望ましい。
政策を立てれば天下りポストが増える
官僚たちが民意や国益よりも自分たちの利権を重視していることの例の1つが、政策を立てるときに必ずといっていいほど自分たちの天下り先を確保していることである。著者自身、株券等振替制度を実施するための法案づくりをした際に、わざわざ公の機関をつくらなければ法案を採用してもらえなかったのである。
2 道路公団民営化の果ての「高速道路無料化」
日本の高速道路料金が高すぎる理由は?
日本の高速道路料金が高すぎる理由は、以下の3点であった。①国交省からの天下り先として多数のファミリー企業を抱え込み、その非合理な運営やファミリー企業同士の癒着関係によって高コスト体質がもたらされていたこと、②特殊法人であるため、国から多額の補助金を受けていたこと(年間3000億円)、③道路族議員との癒着により、必要性の乏しい道路までもが4公団によって建設され、過分な財政負担をもたらしていた。
2005年10月1日、上下分離方式によって、「下」に当たる道路施設および債務の保有は新設された独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構に、「上」にあたる道路やサービスエリア運営は9つの民営会社に分割された。これによって、年間3000億円の補助金が不要となり、財政負担の軽減をもたらした。
民主党の高速道路無料化はまったくの愚策
民主党は高速道路無料化をうたっていたが、これは利用者目線のサービスを受けられなくするという意味で愚策である。維持管理コストを利用者以外に頼らざるを得なくなるため、コストを負担する国や地方の意向に従うようになるからである。
3 郵政民営化を逆戻りさせた民主党前政権
社長人事で暴かれた前政権の意図
郵政民営化では、民主党前政権によって抜本的な見直しが行われ、小泉政権の目標であった完全民営化は凍結されてしまった。また、2009年10月に辞任した日本郵政の西川善文前社長の後任として、大蔵省の元次官である斎藤次郎氏を起用したことで、官営への逆戻りを意図していることが明らかになった。
民営化しなければ存続すら危ういのが実状
郵政は、民営化をしなければいつ破綻してもおかしくない状況におかれている。それは、橋本龍太郎政権時代の1998年に財政投融資(財投改革)が実施され、郵政に投入される税金が途絶えてしまったからだ(郵便、貯金、保険、窓口という4分社化の経緯と予測 郵政民営化参照)。
4 リーマン・ショックは平成不況を加速させたか?
米投資銀行の破綻が世界を大きく揺るがした
2008年9月15日に起きたリーマンショックは、米国の4大投資銀行の1つであったリーマン・ブラザーズの破綻を端緒とする世界的な金融危機だった。リーマン・ブラザーズの後を追うように、米国ではシティグループやAIG(アメリカン・インターナショナル・グループ)、バンク・オブ・アメリカ、英国ではRBS(ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド)やロイズ・バンキング・グループなどの大手銀行および保険会社が次々と経営破綻に陥り、国有化を余儀なくされた。
その原因は、これらの金融機関が大量保有していたサブプライムローン関連の証券化商品が不良債権化したことに加え、市場からの借入が困難となったことである。
震源地ではないのに日本が大ショックを受けた理由
震源地でないのに日本が大ショックを受けた理由は、日銀の間違った金融引き締め策によるデフレ不況である。2006年3月に、インフレ率がマイナスにもかかわらず日銀が量的緩和解除を実施したせいで、インフレに向かいかけていた日本経済をデフレへと逆戻りさせてしまったのだ。
デフレなのに「インフレだ」と言い張って金融緩和を解除
日銀の量的緩和解除を支持したのは、小泉純一郎政権で内閣府特命担当大臣を務めていた与謝野馨氏だ。2006年のはじめに消費者物価指数(除く生鮮食品)が前年同月比でプラス0.4〜0.5%になっていたからである。しかし、消費者物価指数には「上方バイアス」があり、実態よりも数値が高くなりやすい傾向がある。過去の例では、実態よりも0.5%ほど高めになって、基準が改定されると同時に実態との差がなくなるのだ。
5 バランスシートで暴かれた霞が関埋蔵金
「母屋はお粥、離れですき焼き」の実態が明らかに!
埋蔵金とは、特別会計の余剰金や積立金(資産負債差額)のことである。小泉政権時代の5年間で、実に40兆円もの埋蔵金を吐き出させた。初期の小泉政権で財務相を務めた「塩爺」こと塩川正十郎氏は、この状態を「母屋でお粥をすすっているときに、離れですき焼きを食べている」と揶揄した。
財務官僚の言い逃れを押し切って40兆円を吐き出させる
財務省は、埋蔵金の存在は認めたものの「これは国民のために使う目的で留保したお金ではない」として抵抗した。しかし、小泉政権は「どのように使うかは政治家が決めることだ」として、5年間で40兆円もの埋蔵金を吐き出させることに成功した。霞ヶ関に眠る埋蔵金は、現在でも15兆円程度は存在するはずである。それをどう引き出すかは、今後の政治家たちの手腕にかかっている。
最後に
公務員制度改革は民主党前政権下で骨抜きにされてしまった。高速道路無料化は利用者目線でなくなることから愚策である。郵政民営化は必然にもかかわらず、逆行してしまった。リーマンショックは日本のデフレ不況と直接的には関係ない。埋蔵金はまだ15兆円は存在する。改革の道は長いが、徐々に進んでいる。
次回は、国税庁、金融緩和の不足、新成長戦略 財務省・日銀タッグと無策民主党についてまとめる。
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