前回は、輸入の拡大は生産性と成長率を高める 国際経済と日本の関係についてまとめた。ここでは、経済停滞は政策の失敗によって生じる 金融政策の錯乱と規制強化について解説する。
1 世界金融危機の影響はなぜ日本で大きいのか
日本への直接の金融的影響は大きくないはずなのに
サブプライムローンによる損失は、日本が主要国の中で1番小さいはずである。IMF推計でも、アメリカの損失2.7兆ドル、ヨーロッパ1.2兆ドルに対して、日本は1500億ドルと1桁小さい。しかし、2008年(実績)と2009年(予測)実質GDP成長は、日本がそれぞれマイナス0.7%、マイナス6.0%、アメリカが1.1%、マイナス2.6%、ユーロ圏が0.8%、マイナス4.8%と、日本の成長率のマイナス幅が最も大きい。
貿易を通じた影響は大きい
これは日本がアメリカに依存していることの影響が大きい。日本の輸出に占める国別、品目別のシェア(2006年)によれば、日本の総輸出に占めるアメリカのシェアは22.0%で中国とほぼ同じだが、品目別に見ると大きな差がある。例えば、乗用車ではアメリカのシェアが46.2%であるのに対し、中国は2.2%にすぎない。消費材でもアメリカのシェアは28.8%に対し、中国は12.8%である。さらに、日本の輸出に占める資本財のシェアが22.4%と大きいことも、不況期に日本の輸出が大きく減少する要因である(COMTRADEより)。
さらなる増幅機構
さらに、日本がこれまで、アメリカの豊かな消費者向けの製品を提供してきたことも影響している。レクサスなどの高級車や大型の多目的スポーツ車など、不況になった結果、こうした必需性の低いものから支出が削られてしまった。日本の株式市場の花形は、これらの輸出型の企業である。株価の下落が銀行の自己資本を毀損し、貸し渋りが起こる可能性もある。さらに、企業の年金資産、持ち合い株式の価値を下落させて、利潤を圧縮したのである。
輸出の前の生産の低下と金融引き締め政策
2 なぜ資本市場と銀行の両方が破壊されたのか
資本市場の機能も低下
中小企業の資金調達が困難に
3 企業の利益はなぜ2007年まで復活していたのか
企業の利益率回復はなぜか
経営革新か分配か
4 「大停滞」の犯人は見つかったのか
説得力に欠ける「構造問題」説
労働時間当たりのGDPは低下していない
構造改革の成果は見えない
実質賃金上昇が引き起こす悪循環
5 1970年代に成長率はなぜ低下したのか
1970年代の日本は、それ以前の10%の高度成長から3%の安定成長に低下してしまった。この原因として石油ショックなどが挙げられているが、これだけではこれほどの成長率低下を説明できない。
石油ショック説からの脱却
規制強化と政策の産物か?
6 アメリカはニューエコノミーになっていたのか
データや期間の取り方で異なる生産性上昇率
アメリカの生産性は90年代後半以降高まったが…
7 19世紀の世界経済はなぜデフレになったのか
物価決定のメカニズムをめぐる2説
19世紀デフレと物価決定式の関係
「マネーの伸び<財・サービス供給増」で説明可能
デフレ収束がイギリスで遅れた背景
安定していたデフレ脱却後の経済状況
8 昭和恐慌の教訓は何か
昭和恐慌の教訓として、以下の5つの教訓が挙げられている。
- 昭和恐慌からの脱却には、財政支出の増大が決定的な役割を果たした
- 銀行機能の低下とその回復が昭和恐慌の深化と脱却に大きな影響を与えていた
- 金融緩和は昭和恐慌からの脱却に一定の役割を果たしたが、その後のハイパーインフレにつながった
- 金本位制への復帰は日本経済の体質を強化するために必要なもので、それがむしろ30年代の長期的な成長につながった
- 大恐慌を終わらせたのは第2次世界大戦である
5つの通説の検証
結論から言えば、これらの5つの通説には何ら根拠がない。昭和恐慌前後の主要経済指標を参考に反論していく(藤野正三郎「日本のマネーサプライ」など)
第一に、実質政府支出の対実質GNP比は1931年から33年にかけて1.1ポイント上昇したにすぎず、大恐慌脱出の主要因だったとは考えられない。第二に、銀行貸出は昭和恐慌以前の1926年をピークに減少しており、貸出が伸びたのは回復後の35年以降のことである。第三に、インフレ率は実質GNPと名目GNPの乖離で表されるが、その差は1936年まで一定である。第四に、実質GNPの回復は急速であり、1年や2年で解決できるような構造問題はない。第五に、日本が太平洋戦争を始める4年以上も前に、日本の大恐慌は終わっていた。
9 アメリカの大恐慌を終わらせるのに世界大戦が必要だったか
大恐慌時に何が起きていたか
金本位制からの離脱が回復をもたらした
最後に
金本位制こそが大恐慌の原因。大恐慌を終わらせるために、第2次世界大戦は必要なかった。国内経済のみならず、世界戦争をも左右する金融政策。信用創造を司る中央銀行の責任は重い。
次回は、税金を賢く使い、物価安定と経済成長を実現せよ 政府と中央銀行の役割についてまとめる。
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