前回は、ガラケー黄金時代はなぜ終わったのか 市場の成熟化とiPhoneについてまとめた。ここでは、キャリア・CP・メーカーともに戦略はある エコシステムの作り方についてまとめる。
1 エコシステムの作り方
土管化するキャリア
現在のような単純なスマホシフトを日本のキャリアが進める限り、待っているのは「土管屋」への道である。水道管やガス管と同じように、なくてはならないが、ユーザーがその存在を意識することはない土管のような存在である。
グーグル アンドロイドに集まる優位性
アンドロイドが登場するまで、モバイルOSに注目が集まることはなかった。しかし、グーグルが無料、オープンソースという破壊的イノベーションを持ち込んだことで、ケータイビジネスの主役に躍り出た。これは、OSのレイヤーでAndroidがデファクト化することによって、キャリアのプラットフォームとしての機能とデバイスとしての機能が低下していくことを表している。
アップル iWorldという理想郷
アップルは、iOSを武器にハードとサービスの垂直統合を図ることで、グーグルと直接競合することはない。iWorldという理想郷に向けて、極めて安定的なモデルを築き上げていると言える。
メーカーで進むOSの切替
従来、携帯電話OSは、ドコモが採用するSymbian、auが採用するBREW、WILLCOMなどが採用するWindows Mobileのほか、Linux系などが存在しており、基本的にすべて利用にはライセンス料がかかった。しかし、2007年にグーグルアンドロイドを無償で提供すると発表したことで、OS市場の様相が一変したのである。
通信業界 vs. インターネット業界
世界的に見ると「キャリアによるケータイの進化が終わりを迎える日本」と「メーカー・通信事業業界主導からインターネット業界主導への転換する海外・世界市場」という2つのトレンドが挙げられる。
2 キャリアの戦略
キャリアに求められる発想の転換
キャリアは通信事業の発想から、独自のサービスを生み出すインターネット事業の発想に転換していかなければならない。そうしなければ、単なる土管屋となってしまうだけである。
ビジネスモデルを再考せよ
仮に土管に徹するのであれば、 将来にわたって差別化できる要素を築き上げていかねばならない。土管屋にならないのであれば、ネットサービスを充実させ、ハードと連携させたアップルのiWorldのような垂直統合の世界を展開する決断と覚悟が必要である。そうすれば、アンドロイドというオープンなOSを取り入れても、メーカー・コンテンツプロバイダー・ユーザーとのWin-Winモデルは構築できるだろう。
全社同じ方向では均衡しかない
市場の均衡理論から考えれば、ユーザーが同じ商品を使っていて、エリアの品質が同じだと仮定すると、3つのキャリアによって市場は3等分される。何らかの大きな差別化を行わなければ、このような結果を招くであろう。
3 コンテンツプロバイダーにもチャンスはある
世界的なエコシステムは未確立
コンテンツプロバイダー(CP)にとっての世界的なエコシステムは、いまだ未確立である。iモード時代はキャリアが9%の課金決済手数料を取るのみで、残りはコンテンツプロバイダーの売上になっていた。しかし、iOSのApp Storeやアンドロイドマーケットでは、売上のうち30%を手数料として差し引いている。その手数料の重みが、月額課金の広がりを阻害しているのだ。アプリ内課金という仕組みもあるが、都度課金のため継続的な売上が発生しにくい。その意味で、iモード時代に培ったモバイル市場のノウハウを活用していけばいいのだ。
4 メーカーはラストチャンスを活かせ
もはやキャリアとのWin-Winはない
2007年の販売奨励金の廃止によって、新しい端末が売れなければ利益を得られないメーカーと、それとは正反対の方向を向いたキャリアの両者がWin-Winの関係を築ける可能性は低くなった。海外でもサブシティ(補助金)と呼ばれる、ポストペイ型の携帯電話への販売奨励金が存在している。しかし、この市場に日本の高機能端末が出て行くのは難しいだろう。現地の人間を幹部にして折衝をするという経営判断ができるとは思えないからだ。
すでにアンドロイドで出遅れた
本来であれば、無料のアンドロイドが出た時点で、優れたハード開発技術を持つ日本メーカーこそが世界に打って出ることができた。しかし、その主導権をキャリアに委ねていたため、アンドロイド搭載端末の開発・発売が周回遅れとなった。
まだある競争優位性
しかし、あくまで高付加価値製品に注力するところに、日本メーカーの競争優位性は残されている。各国のキャリアが求める細かなカスタマイズにおいても、きちんと折衝が行えれば、国内生産でも十分に対応できるだろう。
「ものづくり」から「しかけづくり」へ
グーグルがウェブサービスの広告収入を極大化するための「しかけ」をしたように、アップルが端末とサービスの一体化による垂直統合でユーザーを囲い込む「しかけ」をしたように、ケータイメーカーにも「ものづくり」からプラスαする時期が来ている。そのために、ガラケーがトラフィック収入拡大のためのiモードという「しかけ」をしたことに学べばよいのだ。
最後に
キャリアもコンテンツプロバイダーもメーカーも、独自のサービスを作り出せれば可能性はある。そのためにはどこで損を出し、どこで利益をあげるかといった「しかけづくり」が必要。マーケティング調査の結果は、聞き方と仮説に対する信念があればいくらでも「作り出せる」。自信がない経営者は去れ。
次回は、語学、個性、当事者意識で弱点を克服せよ 日本再起動の可能性についてまとめる。
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