「与えることの最も効果的な方法は何だと思いますか?」シンガーは語りかける。ここでは、100万ビューを超える Peter Singer のTED講演を訳し、効果的な利他主義者になる方法について理解する。
要約
もしあなたが物欲無しに生きることができたら、利他主義的になる資質が自然と備わっているかもしれません。では「与えること」の最も効果的な方法は何か、哲学者のピーター・シンガーに聞いてみましょう。彼は驚くべき思考実験を実例に、感情と実用性のバランスを取ることや、あなたが分かち合うものを最大限に活かす方法を教えてくれます。
Sometimes controversial, always practical ethicist Peter Singer stirs public debate about morality, from animal welfare to global poverty.
1 私なら決して見過ごさない…必ず助ける?
皆さんに ご覧いただきたい映像があります。 レポーター: これは中国の何百万の人々を 大きく動揺させました。2才の女の子が トラックに轢かれて 道端で血を流している側を通行人は そのまま過ぎ去ります。生々しすぎる映像です。この事故は カメラが一部始終 記録していました。ドライバーは 女の子を轢いた後― 後輪が女の子の上に乗ったまま 一時停止しました。その後 2分間に3人が2才のワン・ユーの側を通り過ぎます。この人は 重体の子どもの横をよけて通り過ぎます。他の人々は 通りすがりに一瞥します。ワン・ユーの横を― 通り過ぎた人々は 他にもいます。別のトラックは足を轢きました。道路清掃員が行動を 起こすまでこんな様子でした。急いで病院に運ばれましたが手遅れでした。亡くなったのです。皆さんの中で これを見て どの位の方が― 「私なら決して見過ごさない必ず助ける」と― 思われているでしょうか。そう思われた方は 挙手をお願いいたします。
2 本当に重要なのは、亡くなる子どもたちの数を減らせるか
予想通り 大半の方がそうですね。皆さん そうなさると思います。でも ご自分を過信する前に― こちらを ご覧ください。2011年のユニセフ報告書です。5才以下の690万人の子どもが 予防可能な 貧困に起因する病気で命を落としています。ユニセフは これを良いニュースだと言います。なぜなら 1990年の統計でこの数は1,200万人でしたから 人数は着実に減っています。良いことです。でも まだ690万人です。毎日1万9千人が亡くなっています。道端で 無関心に通り過ぎないことを誇れるでしょうか? 彼らが遠くにいるから 仕方ないですか? 私は道徳的に有意な違いはないと考えます。事実 子どもたちは手に届かない所にいて 国籍も人種も違いますが 道徳的には 関係無いと考えます。本当に重要なのは― 亡くなる子どもたちの数を減らせるか? 毎日亡くなっていく1万9千人もの子どもを 少しでも救えるかです。
3 私たちは皆 不要なものにお金を浪費している
私はできると考えます。私たちは皆 不要なものに お金を浪費しています。皆さんのライフスタイル― 新しい車を買ったり 旅行したり 水道の水が 安全に飲めるのに ペットボトルの水を買ったり 考えてみてください。皆さんが不要な物に使うお金を アゲインスト・マラリア基金に 寄付してはいかがでしょう。この基金は― 皆さんが寄付したお金で このような蚊帳を購入して このような子ども達を守ります。もし蚊帳を提供すれば 彼らが確実に使用してその結果 マラリアによって死亡する 子ども達の数を減らせます。こうした予防できる病気で 毎日 1万9千人の子どもが 息絶えています。
4 効果的な利他主義は、感情と理性の両面を捉えること
幸いなことにこのアイディアは 多くの人に浸透しつつあります。結果として こんな動きが広まっています。効果的な利他主義です。感情と理性の両面を捉えるという点で大変重要です。感情とは皆さんが感じることです。子どもに対して 同情することです。しかし 理性で考えることも大変重要です。確実に効果的で 的を絞った方法で援助するため そして それ以上に 論理的に考えることで分かることもあります。人はどこに住んでいようとも私たちと同じ人間で 私たちと同じように苦しみ 私たちと同じように 親は 子どもの死に心を痛め 私たちの生命と健康が 私たちにとって重要であるように それが 同じように これら全ての人々にとって重要であることです。つまり 論理的に考える事は目的達成のための 中立的なツールだけでなく― 私たちが置かれている状況に新たな見方をもたらすと考えます。ですから― 効果的な利他主義観を持っている重要な方々の多くが 哲学や経済 数学といった バックグラウンドを持っているのが納得できます。意外と思われるかもしれません。多くの方が― 「哲学とは 現実とは切り離されているし― 経済は人々を利己的にするし― 数学はオタクしか興味がない」と考えているからです。でも 実際に変革を起こしています。そして 効果的 利他主義を遂行する オタクが実際にいます。ご覧ください。
5 「全ての生命は平等の価値を持つ」
ビル&メリンダ・ゲイツ財団のウェブサイトです 右上に書かれているのが 「全ての生命は平等の価値を持つ」です。これが世界の状況を― 論理的に捉える考え方ではないでしょうか。この考え方によって 歴史上 最も効果的な利他主義者である ゲイツ夫妻とウォーレン・バフェットを生み出しました(拍手)アンドリュー・カーネギー、ジョン・D・ロックフェラーでさえ 彼ら一人一人を上回る額の膨大な寄付は 行っていません。彼らは 慈善活動が効率的に運営されるよう 知性も利用しました。ある試算によるとゲイツ財団は これまで580万人の命を救いました。更に助かったとしても重症になる可能性のある 数百万の人々を 病気から救いました。ゲイツ財団はこれからも 更なる寄付を続けて 多くの命を助けるでしょう。億万長者だったらそんな規模のものが出来ても 自分には無理だと思う方もいるでしょう。では お金が無かったら何ができますか? お金を寄付する際に障害となる 4つの問題について考えましょう。
6 「Giving What We Can」という団体を立ち上げたトビー・オード
人々は自分に一体何が出来るかと気にしています。でも 億万長者である必要はありませんよ。これはトビー・オードです。オックスフォード大学の 哲学専門のリサーチ・フェローです。彼は研究者としてのキャリアを通して どれだけの収入があるかを計算して 結果として効果的な利他主義者になりました。発展途上国の8万人もの盲目の人々を治療するお金を 寄付しても 十分な残金があり 自分の生活水準は適正に保てると計算したのです。トビーはこの情報を広げるため Giving What We Canという団体を立ち上げました。自分の収入を 分かち合いたいという人々を集めて 人生で得る収入の10パーセントを 世界規模の貧困と戦うために 寄付してもらおうと言うものです。トビーはもっと凄いことをやりました。年間1万8千ポンドで生活するという誓いを立てました。300万円足らずです。残りの収入は他の団体に寄付しました。トビーは結婚していますし住宅ローンもあります。
7 高齢の夫婦チャーリー・ブレスラーとダイアナ・ショット
この高齢の夫婦は― チャーリー・ブレスラーとダイアナ・ショット。彼らが出会った頃 二人はベトナム戦争に反対する活動家で 社会正義のために戦っていました。戦争が終結して信念は捨てていませんでしたが 他の人たちと同じように 特別な活動は行っていませんでした。その後 多くの人が定年退職を考えるような年になり 自分たちの信念に立ち返り 節約して 慎ましく生活し お金と時間を世界規模の貧困と戦うために 費やすことを決心しました。
8 「80,000 Hours」を立ち上げたウィル・クラウチ
時間を費やすなんて聞くとこう思うかもしれません。それじゃあ 仕事を辞めて全労力を毎日失われている 1万9千人の命を救うために費やすべきだろうか? 世界に良い影響を与える仕事を どうすれば出来るか 考えた人がいます。ウィル・クラウチです。哲学を専攻する大学院生です。彼は80,000 Hoursというウェブサイトを立ち上げました。これは一般の人が生涯に働く 時間を推定したものですが 最も意味のある効果的な仕事は何かと アドバイスするサイトです。驚かれるかもしれませんが その道の正しい能力と適性がある人には 銀行かファイナンス関係に進むことを検討するよう アドバイスしていることです。なぜでしょう?もし皆さんが多くのお金を稼いだら― 多くのお金を寄付できます。ですからキャリアで成功することは 援助団体に 寄付できることを意味します。例えば 援助団体が発展途上国で働くための 5人のスタッフを雇うとします。その一人一人が あなたが働くのと同じくらい 素晴らしい貢献をするでしょう。つまり 収入の多い職業を選択することで 5倍の貢献が出来るわけです。このアドバイスを実行した若い男性がいます。マット・ウェイガーです。プリンストン大学で哲学と数学を専攻しました。昨年 卒業した際には哲学部の最優秀論文賞を 受賞しました。その後 ニューヨークでファイナンスの職につきました。十分な収入があったので 何十万ドルという大金を有効なチャリティ団体に寄付していますが 生活に困りません。マットは 『あなたが救える命』と題した 私の著書から名前を得た 慈善団体の設立にも 協力してくれています。この団体の目的は 私たちの文化を変えることで 道徳的な生活を送るためには― 嘘や盗み暴力 殺人と言った 禁止事項を守るだけでは不十分で もし十分なお金があればその一部を 必要とする人々に 分け与えようと言う考えを広めています。この団体は様々な人や 異なる世代を繋げます。例えば 大学生のホリー・モーガン 彼女は 僅かばかりの所持金の 10パーセントを寄付しています。右手にいるエイダ・ワンは 貧困に苦しむ人のために働いていましたが 今では 更なる貢献が出来るようイエール大学でMBAを専攻しています。
9 有効性のある慈善団体を選ぶことが重要
多くの方が チャリティは 効果的でないと考えるかもしれません。では 有効性について考えてみましょう。トビー・オードはこの点をとても心配して 幾つかの慈善団体が 他の団体に比べて百倍も千倍も 効果的であることを算出しました。ですから 有効性のある慈善団体を選ぶことが重要です。例えば 盲目の方に盲導犬を寄付するとします。善い行いですよね? 確かに 善いことです― でも 同じお金で 他に何ができるか熟慮すべきです。盲導犬の訓練には4万ドルが必要です。盲導犬が効果的な助けとなるため 盲人の方の訓練も必要です。発展途上国で 伝染性の盲目症を 治療するために必要な金額は 20から50ドルです。ですから計算して 何が効果的か考えてみてください。同じお金で 一人の盲目のアメリカ人に 盲導犬を与えるか もしくは 4百から2千人を 失明から救うかです。何が最善かは明白だと思います。もし有効的な慈善団体に寄付したいとお考えでしたら 良いウェブサイトをご紹介します。GiveWellは 慈善団体の影響調査を行っており 上手く運営されているか審査するだけでなく 数百という慈善団体を評価して 現在3つの団体だけを推奨しています。アゲインスト・マラリア基金がトップです。良い奨励団体を探すのはとても難しそうですが thelifeyoucansave.comとGiving What We Canは 貧困から命を救う以外も網羅した― より幅広い範囲での 効果的な慈善団体を紹介しています。動物を保護する慈善団体についても 同じように検索できるウェブサイトがあります。動物保護についてはずっと懸念しています。毎年 何百億という動物に 人間が与えている 甚大な悪影響です。もし皆さんがこの悪影響を低減する 効果的な慈善団体をお探しでしたら Effective Animal Activismというサイトを訪れてみてください。効果的な利他主義者の中には 生物の存続自体が大事であると考える人がいます。そこで 絶滅のリスクを低減する方法を模索しています。皆さん ご承知のとおり最近 地球の近くを通り過ぎた 小惑星が 絶滅の危機の一例です。研究によって 地球に衝突する 惑星の軌道を予知するだけで無く― 軌道から 逸らすことも可能です。ですから この研究を善いこととし寄付する人がいます。多くの可能性があります。
10 与えることで意義と充足感、確固たる自尊心が手に入る
私の最後の質問です。与えることが 苦痛であると考える人たちがいます。私は否定します。私は大学院生時代から 与えることが喜びです。私の人生を豊かにしてきました。チャーリー・ブレスラーは 利他主義者ではないと言いました。救っているのは 彼自身の人生だと考えているのです。ホリー・モーガンは効果的な利他主義に関わるまで 鬱と戦っていたことを告白しました。今では最高に幸せそうです。効果的な利他主義になることで こんな問題を 克服するのではないでしょうか。シーシュポスの問題です。ティツィアーノが描いた ギリシア神話のシーシュポスですが― 神が彼に課した罰は 大岩を山頂に運び上げることでした。山頂まで あと少しの所で― 岩は 重みに耐えきれなくなり転がり落ち― 麓から また持ち上げなければいけません。この苦行が永遠に 続けられます。消費者のライフスタイルに似ていませんか? お金を得るためにあくせく働いて― そのお金を 浪費しています。購入したもので 満足しますか? でも お金は無くなったのでもっと稼いで また買うため 同じ幸福レベルを維持するため また働きます。終わることが無い快楽のルームランナーみたいです。その上をいくら走り続けても真に満足することは無いでしょう。効果的な利他主義になることで 意義と充足感を手に入れます。自分の人生が 本当に価値があるものだったと言う 自尊心の確固たる基盤を手に入れるでしょう。
11 貢献できる道はたくさんある
最後に皆さんにお話したいことがあります。1ヵ月ほど前この講演を執筆中 ある電子メールを受け取りました。クリス・クロイという見ず知らずの男性からでした。これが彼の写真です。手術後に回復している様子です。なぜ手術を受けたのでしょうか?メールはこんな風に始まります 「先週の火曜日 右の腎臓を匿名で他人に提供しました。これが周りにも影響を与えて 結局4人の患者が腎臓提供を受けました」全米で毎年 約百人の人々が― そして他国で更に多くの人がドナーになっています。これを読んで嬉しかったです。クリスが腎臓提供を行ったのは私の著書に影響されたからだそうです。正直に言いますと私自身も恥ずかしくなりました。私は腎臓が2つありますから。クリスが更に言っていたことは 彼がしたことは たいして素晴らしいことでは無いけれど 彼が腎臓を提供することで 延命できた人の 命の長さを計算すると 5千ドルをアゲインスト・マラリア基金に 募金することと 同等の結果を生み出すということでした。それを聞いて 少しだけ安心しました。私は アゲインスト・マラリア基金や その他の効果的な慈善団体に 5千ドル以上 寄付していますから。皆さんが まだ2つ腎臓があることで ばつが悪いようでしたら 他にも貢献できる道があります。ありがとうございました(拍手)
最後に
効果的な利他主義は、感情と理性の両面を捉えること。私たちは皆 不要なものにお金を浪費している。収入の多い職業を選択することで5倍の貢献ができる。有効性のある慈善団体を選ぶことが重要。与えることで意義と充足感、確固たる自尊心が手に入る。全ての生命は平等の価値を持つ。
和訳してくださった Mari Arimitsu 氏、レビューしてくださった Yuko Yoshida 氏に感謝する(2013年3月)。
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