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フィル・ハンセン 「震えを受け入れる」

「今を楽しもう」より「制約を楽しもう」ハンセンは静かに語りかける。ここでは、50万ビューを超える Phil Hansen のTED講演を訳し、大好きだった点線画が描けなくなった彼がどう立ち直っていったかを理解する。

要約

フィル・ハンセンは美術学校時代、激しい手の震えに襲われ、大好きだった点描画が描けなくなりました。完全に打ちのめされた彼は、目標を見失います。立ち直るきっかけは神経科の医師のこんな単純なアドバイスでした。「限界を受け入れなさい・・・そして乗り越えなさい。」

Taking a cue from his own artistic journey, Phil Hansen challenges us to spark our creativity by thinking inside the box.

 

1 美術学校に通っていた時に手が震えるようになった

美術学校に通っていた時に 手が震えるようになりました。できるだけ まっすぐ描いたつもりでも こうです。思い返せば 震えが役立つときもありました。ペンキを混ぜるとかポラロイド写真を振るとか でも 当時は何もかも終わったと思いました。芸術家になる夢が断たれたのです。

 

2 震えの原因は点描を極めようと長年極小の点を打ち続けたこと

震えの原因は点描を極めようと 長年 極小の点を打ち続けた結果です。完ぺきな丸だった点は震えのせいで オタマジャクシみたいな形になっていきました。そうならないようにペンを強く握ると 震えがどんどん悪化するので 一層 強く握るようになります。こんな悪循環が続き激痛と関節の症状が出て ものを持てなくなりました。生涯 芸術を志してきたのに 美術学校を退学し芸術から離れました。

 

3 「震えとうまく付き合っては?」

数年たっても芸術が忘れられず 神経科に行くことにしたのですが 治る見込みのない神経障害とわかりました。グチャグチャの線を見て医師が言いました 「震えとうまく付き合っては?」

 

4 震えを受け入れてしまえば制作を続けられるとわかった

だから震えを受け入れて家に帰って鉛筆を持ち 手が震えるにまかせて グニャグニャの線で絵を描きました。私が追求してきたものとは ちょっと違いましたがそれでも最高の気分でした。震えを受け入れてしまえば 制作を続けられるとわかったことも大きかった。求める作品をつくるには 違う方法を探すだけでよかったのです。

 

5 「限界を受け入れても創造力は高まる」

でも点描の断片性 つまり ― 小さな点が集まって イメージができていくのが好きでした。だから 別の方法でイメージの断片化を試みていきました。震えの影響がない方法です。絵の具に足を突っ込んでキャンバス上を歩いたり 角材でできた3次元の建造物に 2次元のイメージをバーナーで焼き付けたりしました。大きな素材で大規模な作品を作ると 手は痛みませんでした。たった一つの技法から離れることで 自分の芸術の枠組みをくつがえす ― 創造力の高め方を手に入れたのです。このとき初めて思いました 「限界を受け入れても創造力は高まる」って。

 

6 普通のハサミすらなくて金ばさみを使っていた

当時は学校を去る直前でした。仕事をして新しい画材がやっと買えると 興奮していました。私は粗末な道具しか持っていなかったので 専門家向けの画材があれば もっと色々な事ができると思ったのです。普通のハサミすらなくて 職場から1丁勝手に持ってくるまで ― 金ばさみを使っていました

 

7 必要なものを買えるようになったら創造性が消えた

学校を出て 職に就き給料をもらうと 画材屋にでかけて 狂ったように画材を買いあさりました。家に帰ると腰をおろして 制作に取りかかろうとしました。既存の枠にとらわれない作品です。ところが何時間たっても何も思い浮かばないのです。次の日も その次の日も同じで 作品が作れなくなってしまったのです。長い間 スランプの暗闇から抜け出せませんでした。わけがわかりません。やっと必要なものを 買えるようになったのに創造性が消えたのです。

 

8 創造性を取り戻したいなら枠の中に戻らなければ

でも 暗闇の中で気づきました。経験した事がないほど選択の幅が広がったせいで 途方に暮れていたのです。その瞬間 自分の震える手を思い出しました。震えを受け入れよう。創造性を取り戻したいなら 枠にとらわれないように努力するのではなく 枠の中に戻らなければ

 

9 限界を超えるためには制約が必要だった

そして こう考えました。制約を課すと創造性は高まるだろうか? 1ドル分の画材だけで作品を作るとしたら? この頃 ― 今もそうですが 夕方はスターバックスで過ごすことが多く カップを余分にくれることを知っていたので 50個もらうことにしました。すぐにくれて驚きました。持っていた鉛筆を使って たった80セントでこの作品を作りました。すべてを理解した瞬間でした。限界を超えるためには まず最初に制約が必要だったのです。

 

10 筆ではなく空手チョップだけで描くとしたら?

私は枠の中で考えることを キャンバスにも応用しました。キャンバスではなく自分の体にしか描けなかったら? 30種類のイメージを一層ずつ重ねて 描いていきました。全部 私の人生に影響を与えたものの絵です。あるいは筆ではなく 空手チョップだけで描くとしたら? (笑) 自分の手を絵の具に漬けて キャンバスを攻撃しました。本気で叩いたので小指の関節にアザができ 2週間も消えませんでした(笑)(拍手)

 

11 「私に電話をして人生が変わった瞬間の話をしてほしい」

あるいは作品の主題を自分以外の誰かに 考えてもらわなければならなかったら? 6日間ウェブカメラの前で暮らしました。床に寝起きしテイクアウトの食事をとりながら みんなに呼びかけました。「私に電話をして ― 人生が変わった瞬間の話をしてほしい」って。みんなの話を回転式のキャンバスに 書いていくと芸術作品になりました(拍手)

 

12 芸術家なのに作品がないという究極の制約

作品を作って展示するのではなく 破壊しなければならないとしたら? これが究極の制約でしょう。芸術家なのに作品がないんです。このアイデアから生まれたのが1年かけて取り組んだ ― 「さよなら アート」です。作品はすべて出来上がったら破壊します。最初は自分で壊していました。例えばジミ・ヘンドリックスのイメージを 7,000本以上のマッチで作りました (笑)。その後 自然に崩壊する作品を加えました。はかなく消える素材を探しました。吐き出した食べ物や (笑) 歩道に描いたチョークの絵 ― 凍らせたワインまでありました。

 

13 初めから存在しないものを作ろうとした

破壊の最後のバージョンでは 初めから存在しないものを作ろうとしました。テーブルにろうそくを並べ火をつけた後 消します。これを一組のろうそくに何度も繰り返し 撮影したビデオを集めて大きな画像にしました。最終的なイメージの全体を実際に見ることはできません。存在する前に破壊されたのです。

 

14 作品を壊して学んだのは「気にしない」こと

「さよなら アート」のシリーズでは 23点の作品を作りました。展示できる物は何も残っていません。私が究極の制約と考えていたものは 実際には究極の自由でした。作品を作るたびに破壊することで 私は中立の状態に戻り 新鮮な気持ちで次の作品に取りかかれます。でも簡単ではありません。制作が軌道に乗らないことや 膨大な時間を費やしたのに イメージの出来がひどいこともあります。でもこのプロセスを熱心に続けると本当にすごいことが起こります。作品を壊して学んだのは 「気にしない」ことです。結果を気にせず失敗を気にせず 欠点も気にしない。そして代わりに発見したのは 結果に左右されず絶え間なく芸術を創造するプロセスです。常に創造できるようになり 次に作るものだけを考え アイデアはどんどん思いつきました。

 

15 震えを受け入れることは自分と世界を変える最も確かな道

アートという夢から離れていた ― 3年間を振り返るとやっていたのは形だけで 夢を追い続けるため他の方法を探すわけでもなく ただ あきらめていました。震えを受け入れていなかったらどうなっていたことか・・・ 震えを受け入れる事は 芸術やテクニックだけの問題ではないからです。それは人生や生きる技術に関係していたのです。私達がしていることはほとんど ― 手段が限られた枠の範囲内で行われるからです。制約の中で 創造性を発揮する術を学ぶことが 私達が自分を変え全体として世界を変える ― 最も確かな道なのです。

 

16 例えば本物の生きたミミズで絵を描く…

限界を創造性の源ととらえることで 私の人生は変わりました。今でも壁にぶち当たったり 創造の過程で途方に暮れ ― 苦しむこともあります。でも プロセスにしたがって 可能性を探ろうとします。たとえば 本物の生きたミミズで絵を描く ― 画びょうでバナナにタトゥーを入れる ― ハンバーガーの脂で絵を描く・・・(笑)

 

17 「今を楽しもう」より「制約を楽しもう」

最近 取り組んでいるのは 私が学んだ創造性を高める習慣を 他の人でもまねできるように翻訳することです。制約の中では 創造性を生かすのが難しいかも知れません。でもマンネリから抜け出し カテゴリーを再検討し 一般に認められた規範を疑う最高の方法でしょう。だから「今を楽しもう」を合い言葉にするより 毎日こう考えるのはどうでしょう 「制約を楽しもう」ありがとう(拍手)

 

最後に

限界を超えるためには制約が必要。創造は制約から生まれる。「何でもできる」は「何にもできない」。制約を楽しもう

TED公式和訳をしてくださった Kazunori Akashi 氏、レビューしてくださった Yuko Yoshida 氏に感謝する(2013年5月)。

ヒトラーの震え 毛沢東の摺り足 神経内科からみた20世紀 (中公新書)


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