前回は、政府活動の重心は市場の維持・競争促進におくべし 政府金融活動の役割についてまとめた。ここでは、インフラや信用保証の活用 財政投融資の入口と出口の役割とその将来について解説する。
1 はじめに
財政投融資は、郵便貯金・簡易保険・国民年金・厚生年金などを資金源とし、主として大蔵省資金運用部を経由して、公社・公団・地方公共団体に融資する場合と、政府系金融機関を通じて民間部門に融資する場合とがある。ここでは、入口、中間、出口の制度と金利体系を説明した後、入口と出口の評価、問題点、将来像をまとめる。
2 財政投融資の入口、中間、出口
財政投融資制度の定義
財政投融資制度とは、入口部分では郵便貯金・簡易保険・厚生保険・国民年金を主な原資とし、その大部分が大蔵省の資金運用部を通じて(中間部分)、最終的には政府系金融機関や公社・公団を通じて(出口部分)民間に資金提供を行う制度である。
財政投融資の入口部分
財政投融資の原資は主に以下の3つに分けられる。( )内の数字は1997年度末、単位は兆円。
- 郵便貯金資金(223):2012年度末で176.0兆円
- 簡保資金(92):2012年度末で92.5兆円
- 国民年金・厚生年金資金(126):2012年度末で112兆円
財政投融資の中間部分
財政投融資の中間部分は以下の4つから構成される。なお、簡保資金については前述の通り。( )内の数字は1997年度末、単位は兆円。
- 大蔵省資金運用部(392)
- 簡保資金(56)
- 政府保証債・政府保証借入金(24):政府関係機関が発行する債券および借入金について、政府がその元利払いを保証するもの(政府保証)
- 産業投資特別会計(3):基幹産業や貿易振興を目的とする特別会計
財政投融資の出口部分(金融的側面と財政的側面)
財政投融資の出口部分は以下の5つから構成される。( )内の数字は1997年度末、単位は兆円。
- 公庫等(129):住宅金融公庫、国民金融公庫など
- 公社・公団等(121):日本道路交通公団など
- 国の特別会計等(54)
- 地方公共団体(69)
- 国債等(97)
財政投融資の出口の役割は、金融的側面と財政的側面に分類することができる。前者としては、資金運用部による国債の購入、地方公共団体向けの資金運用、政府関係機関からの融資や事業実施機関への資金提供である。後者としては、資源配分機能、景気調整機能の2つが挙げられる。
なお、政府系金融機関は1997年当時2銀行9公庫(日本開発銀行、日本輸出入銀行、中小企業金融公庫、中小企業信用保険公庫、国民金融公庫、北海道東北開発公庫、農林漁業金融公庫、住宅金融公庫、公営企業金融公庫、沖縄振興開発公庫、環境衛生金融公庫)があったが、2013年現在は政策金融機関4つ(日本政策投資銀行、日本政策金融公庫、国際協力銀行、商工組合中央金庫)、特殊法人1つ(沖縄振興開発金融公庫)、独立行政法人2つ(住宅金融支援機構、奄美群島振興開発基金)の7つに統廃合されている。また、出口の主な事業実施機関として、電源開発株式会社、国鉄清算事業団(日本国有鉄道清算事業団)、住宅・都市整備公団、日本道路公団、年金福祉事業団があった。
3 財政投融資の金利体系
財政投融資の入口の金利
財政投融資の原資である郵便貯金の90%を占める定額貯金は、預入6ヶ月後から解約が自由で、半年複利の10年満期の貯金である。金利は利害関係者の拡大による統制困難 財政投融資制度の概観と問題の所在で述べたように、①長短金利が順イールドの場合:民間3年定期預金金利の0.95倍程度の水準、②長短金利が逆イールドの場合:10年もの国債表面金利を0.5程度下回る水準である。
中間部分の大蔵省資金運用部の金利
中間部分の大蔵省資金運用部の金利は、長期市場金利である10年もの国債金利を基準として決められている。
出口の政府系金融機関の金利
出口の政府系金融機関の金利は、民間金融機関の長期プライムレートと同一の金利水準か、それよりも政策的に低い貸出金利で運用されている。
4 財投の入口の評価・問題点・将来像
郵便局の利便性と郵便貯金・簡易保険の範囲の経済性
民間では、預金サービスは銀行、保険サービスは保険会社、小包配送サービスは宅配業者というように、別々の機関によって3つのサービスの提供が行われてきた。一方、郵便局では貯金・保険・郵便という3事業を兼営しており、大蔵省の店舗規制の枠に入ることなく全国に24500以上の郵便局を設置してその利便性を高めてきた。
郵便貯金・年金の自主運用とその責任体制の明確化
大蔵省の「資金運用審議会懇談会による報告書」(1997年11月)では、郵便貯金や年金は2001年から自主運用に移行され、これまでのような資金運用部への預託は廃止されることが提言されている(実施済み)。この結果、これまで以上にその運用責任体制の明確化が求められている。
郵貯の将来像
郵貯の将来像として、以下の4つが挙げられる。いずれも組み合わせたシナリオも可能である。
- 民間金融機関の(預金・投信などの)商品提供のためのインフラとしての郵便局
- コアバンクとして国債・財投債などで資金運用:信用不安時の貯蓄吸収機関
- 民営化
- 零細個人貯蓄機関として効率運用
5 財投の出口機関の評価・問題点・将来像
戦後の経済発展と財政投融資
経済発展のプロセスでは、資金の借り手である企業と資金提供者である金融機関との間で情報の非対称性が大きいので、企業のリスクを軽減させるためには政府(あるいは公的機関)による信用保証などを通じたリスクシェアリングが必要になってくる。また、経済成長過程においては、証券市場が未発達であったり、企業の自己資金(内部留保)が不十分であることが多く、企業に対して政府が必要な長期資金を提供することも重要である。
出口機関による政策金融の歴史的な意味づけ
出口機関による政策金融の歴史的な意味づけとしては、①政府による銀行・金融市場のコントロール、②各種金利の規制、③リスク軽減のための情報生産者としての政府系金融機関、④欧米へのキャッチアップという4つの役割を果たした。
市場の失敗と財政投融資の出口の将来像
今後の財投の役割としては、民間では実施困難な大規模超長期プロジェクトや、民間金融では困難な金融活動に対する資金供給を行い、民間の補完に徹し、その政策コストの公表による対象事業の見直しが必要と思われる。具体的には、①市場メカニズムになじまない政策分野、②マーケットレートでは採算に乗ることが困難だが、国民経済的観点から見て必要なプロジェクトへの融資、③政府系金融機関がプロジェクトに直接融資をすることによる信用リスクの軽減、④政府系金融機関による10年以上の超長期融資などがある。
問題点と改革の方向
以上の4点を実施するに際し、以下の4つの問題点がある。①財投出口機関のダイナミズム(統合廃止民営化など)、②財政投融資の規模の縮小、③情報開示と会計基準、④コスト分析による国民負担の明確化である。
出口対象分野の見直し
出口対象分野の見直しとしては、以下の6点が挙げられる。①住宅・中小企業向けの融資、②インフラ整備の財源としての財投(コスト意識)、③一般会計のつけ回しとしての国鉄・林野の排除、④財投債あるいは財投機関債による資金調達、⑤アメリカに見られる政府信用供与プログラムの民間補完(赤字拡大の抑制)、⑥財投機関の見直しと公務員制度の変更である。
最後に
財政投融資の入口・中間・出口のそれぞれの具体的な資金の流れと、財政投融資の金利体系についてまとめた。財投の入口部分については、民営化など責任体制の明確化が求められる。出口部分については、対象分野の見直しを進め、アメリカなどで行われている費用対効果を厳しく求める形態にしていく必要がある。どんぶり勘定は止めながら、郵便局というインフラを活かしたより賢い使い方をしよう。
次回は、日仏の公的金融への依存度は高い 政府の金融活動の国際比較についてまとめる。
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